幸希(ユキ)
2025-08-30 21:18:00
2211文字
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後悔と覚悟

とある曲を聞いて、胸に去来した思いの話。

個人的な話を含むので分かりにくい部分もあると思います。半目で読み流してください。

“もう伝えられない感謝と謝罪”

耳に残るそのメロディーに視界がじんわり滲む。目頭に溜まるそれをこぼしてなるものかと空を見上げた。

「主。」
何?」

声のする方は振り向かずに返事をする。その刀が横にトン、と座る音が聞こえた。

「何しゆう?」
「空見てる。」

こいつのこういうとこが好きであり嫌いだ。1人になりたいと思ってても1人にしてはくれない。

「ほいたら聞き方を変えようかえ。」

グッ、と引き寄せられ、私の額は陸奥守の胸元に収まっていた。

「どういて泣きゆう。」

淡々と、けれど案じている事を示唆する声音で尋ねてくる。こういう時は隠すだけ無駄だという事も、よく知っている。

「今日、フェス行ったじゃん。」
「おん。」
「その中の曲でさ、亡き人に向けた曲があったじゃん。あれ聞いたら、じいちゃんの事思い出したの。」
「指物師やったっちゅうじいやんか。」

審神者になる前に亡くした祖父。見送ってもう何年になるだろうか。

「私、じいちゃんの事本当に知らないばっかりで、もっと話をすればよかった、なんていまだに思うの。でも、どれだけ後悔してもじいちゃんは帰って来ない。もう声も聞けない。写真で姿は見れても、それは会いたいじいちゃん本人じゃない。」
……。」
「会いたいよ。生きてて欲しかった。死期が変わればいいとも思う。でも、それを変えたらそれはじいちゃんの人生じゃないし、そこは置いていかれる側が呑み込んでいかなきゃならない事だから、乗り越えるしかない。」
「そうじゃな。」
それに、」
「それに?」

ゆるゆる頭を撫でていた手が止まる。

「みんなだってこんな思いしてる。とんでもない事させてる。なのにみんなにやるなって言っておいて、自分は願うって、おかしいじゃん。むっちゃんだってそうでしょ。」



歴史を守る事。自分としては人の生き様と死に様を守る事だと思っている。終わりがあるからこその生だ。死に様という幕が下りるから、生き様というストーリーが輝く。どちらも欠けてはならない。だから、これは私が呑み込まなきゃならない、1人で乗り越えなきゃいけない。我が儘を理由に泣いてる姿は見せたくなかった。


それがわしらの役目じゃ。心があるき、惑う事も乱れる事もある。けんど、人が生きた証を、愛した人間の足跡を愚弄されるがは許せん。死を厭うても、逃れる事は出来ん。やったら、その終わりに至るまでの道を全うさせる。何度でも、何千回でも。」
……。」
「それにの、生かす事は出来んでも、死を変える事は出来んでも、悼む事や弔いの心を向ける事は出来る。それは、罪やない。“生きてて欲しかった”と願うのは、誰もが思う事じゃ。思っても行動に移さんなら、それは誰にも咎められるような事にはならん。」

溢すまいと目に留めていた涙が落ちた。一粒落ちればもう止められない。あっという間に頬が濡れた。

「主は必要以上に重くして背負おうとするのがいかんにゃあ。」

仕方のない子だと言わんばかりに手のひらで涙が拭われる。

「後悔しゆうがやろ?」
「うん。」
「知りたかったんじゃな。」
「知らないだらけが悲しい。」
「会いたいんじゃな。」
「もう1回、名前を呼んで欲しかった。」
「変えたいかえ?」
「やだ。それはじいちゃんの人生を踏みにじる。そんなの、絶対嫌だ。」


後悔は消えない。きっと何度でも思い出しては後悔する。ああしたかったこうしたかったと駄々をこねるだろう。でも、今までを変えたくはない。何があっても絶対に。あそこまで生き抜いた祖父の人生は、歴史は、祖父だけのものだ。私であっても変えるなんて許さない。


「ならそれでえい。忘れんければ、それでえいよ。」
……むっちゃんてさ、私の行動に突っ込む事はあっても、考えや発言はあんまり否定しないよね。」
「何を見て、何を感じて、何を思うかは誰にも分からん。誰かが決めるような事でもないし、そこは自由じゃろ?まぁ、おまさんは筋の通らん事が嫌いやき、ろくでもない事は早々に自分でも却下するけんど。」
「するねぇ。」
「考えるだけやったら、それは別に咎めるようなもんやない。発言も訂正がまだ利く。けんど行動に移してしもうたら取り返しは利かん。主が道を踏み外す前に止めるのが臣下の役目。やき、おまさんの考えや意思までは止めんし否定もせんよ。過ぎたものは流石に口は出すけだ。」

いたずらに笑う陸奥守。泣いた事でさっきまで胸の中に重くのし掛かっていた黒々とした思いは霧散していた。

「まだ気は晴れんなが?」
「すっきりしてるから大丈夫。」
「1人で泣こうとするのも、弱りゆうのを隠すのもそろそろやめとうせ。まだ甘えられんがか?」
「信用してるからこそ見せたくない時もあんの。むっちゃんだって龍馬関係で見せてくれない部分あるくせに。」
「それはそれじゃ。」
「うわ、ずっるぅ。」

軽口を叩きながらもう一度空を見上げる。後悔も覚悟も全部抱えて、なりたい自分になるために私はこれからも生きていく。迷おうが駄々をこねようが、過去を変える気などさらさらないのだ。

(いつかそっちに行ったら、また話せるかな。聞けなかった事、教えてよね。)

滲みそうになるそれを押し止めるために目を閉じ、息を吸う。瞼の裏に、久しぶりに祖父の微笑みが浮かんだ気がした。