とはり
2025-08-30 05:48:05
4454文字
Public ハデ少
 

【ハデ少】出口をさがして

※ハチ番出口パロ※

8️⃣番出口に迷い込んだハーデイ

もう会えないはずのないひとが通路の先で手を振ってる異変(パロ)、好きです

書きたいところだけ書いたのでルール説明省いてた不親切設計な上、時代背景めちゃくちゃ

1~2ツイートほどでサビだけ書いて終わろうと思ったけど、少ない字数に詰め込んだ呟きで終わらさずに書いた方が楽しそうだな~と思ってたら書いてた というか、私が見たいもの(視えたもの)を伝えようと思ったら要約するより書く方が手っ取り早いと思った 楽しかった
タイトル変えるかも 変えないかも

自分の中でハーデイから少年への矢印の形が固定化されていることもあってか、「愛おしい」という表現を使わずに書き切れてしまった

ハーデイを痛めつけてばかりで申し訳なくなってきた
もっとあまあまなハデ少書きたいのになぁ






『異変を見逃さないこと』
『異変を見つけたら、すぐに引き返すこと』
『異変が見つからなかったら、引き返さないこと』
『8番出口から外に出ること』

 何度も何度も通りすぎた注意書きと順調に増えていく数字を横目にすぐ傍の角を曲がる。短い通路を大股で数歩進んでまた直角に体を捻る。そうすると真っ直ぐに伸びた通路が再度現れた。もう見飽きた光景を見る度に飽きもせず溜め息をついてしまう。
 『断罪の死神』としての任務中だったのだが、気づけばここに迷い込んでいた。
 床も壁も天井も四角に区切られた白いタイルが敷き詰められた通路。左の壁にはカラフルなイラストが描かれたポスターが並んでおり、右側には通気口と鉛色の扉が間隔を空けて並んでいる。もちろんこの扉は押しても引いても開かない。ドアプレートに書かれている記号は私の知らないものだ。異国の文字のようで、どうやら異世界に閉じ込められてしまったらしかった。こんなところで油を売っている場合ではないのに、この世界はなかなか私を解放してくれない。
 天井に等間隔に並ぶ蛍光灯の無機質な白い光がこの空間を不気味に浮かび上がらせて、更に苛立ちを募らせる。
 通路を進むと、馴染みのない洋服を来た男とすれ違う。何度か話しかけてみたもののこちらのことなど見えていないように黙々と通路を逆方向に歩いていく男に、この男も異世界のパーツのひとつで背景と同じなのだと悟った。無表情で通りすぎていくこの男の顔が不自然に歪んでいた時は『異変』として通路を戻らねばならなかった。
 行くも戻るも同じ景色。異変があれば引き返す、異変がなければそのまま進む。正解すれば通路直前にある出口を示す数字が増えていく。間違えればまた0からやり直し。うんざりだ。
 今回の通路には異変はなさそうだと突き当たりを曲がろうとした時、頬に冷たいものが触れた。指先で拭うとただの水のようだったが、それを確かめる視界に白い光がちらちらと落ちてくる。顔を上げると、はらはらと雪が舞っている。頭の上は相変わらずのっぺりとした壁が覆っている。
「異変だ」
 振り返って目に入った景色に私は驚いた。通ってきた通路がいつの間にか雪に覆われていたのだ。足を踏み出すと新雪を踏む時の柔らかな感触が伝わる。うすら寒さを覚えると同時に、夢のように遥か遠くへぼやけていた雪の町の記憶が、じくじくと膿むような痛みを伴いながら鮮明さを取り戻していく。戻るごとに肌を刺す冷気が強くなっていくようで、この通路を引き返した先にはあの町の風景が広がっているのではないかと思わせた。
 私と少年が出会い、そして別れたあの町に。あの頃の町に戻ってしまうのではないかと、戻れてしまうのではないかと、そう錯覚させて足を運ぶ速度が増していく。その先にあるのが恐怖なのか期待なのか、思考はめちゃくちゃなまま雪降る通路を引き返していく。
 角を曲がると、まるでスイッチが切り替わったかのように寒さも雪も跡形もなく消え去った。視線の先にはひとつ増えた数字が黄色いプレートを背景に黒く浮き上がっていた。
 心がひどく重たくなる。誰が私にこんな仕打ちを強いているのだろう。期待だけが膨らんで後には何もない。心の深い部分に根付く思い出をほじくり返してずたずたに叩きのめしてくる。
 こんな場所、一刻も早く抜け出してやる。白と黒の境界に沈みそうになる体を、憎しみにも似た強い感情で奮い立たせて進む。
 次の通路は異変なく中間までやってきた。左右と天井と床と、振り返ってもう一度確認するが異変は見当たらない。ならば引き返さずにこのまま進むのが正解だ。
 そうして突き当たりの角に差し掛かった時。
 ──ハーデイ。
 柔らかな声が聞こえて振り返る。誰もいない。けれど、声が。
「異変……
 くるりと体の向きを変えて引き返す。脳に染み込んで忘れるはずもない声だが、こんな場所で聞こえるわけがない。私をその名前で呼ぶ人は世界中にたった一人で、その彼はとうにこの世にはいないのだから。
 引き返しきった後の角を曲がって数字を確認する。
「ゼロ……?」
 目の前の数字は異変はなかったと、お前の判断は間違いだったと告げている。確かに聞こえたあの声は、私の幻聴だったのだと、残酷な真実を突きつけられる。
 黒い楕円が大口を開けて私を嘲笑っているようにも思えて、体の底から怒りが込み上げてくる。強く握りすぎて震える拳を自身の額に当てて、天を仰いだ。
 怒りの矛先は趣味の悪い仕掛けを施す運命ではなく、いつまでも過去に囚われて続けている己自身だった。少し懐かしい記憶を刺激されただけで、存在しない声が聞こえてしまうほど腑抜けた部分が自分にあったとは。『断罪の死神』とあろう存在が聞いて呆れる。
 無情な数字の隣で私はただ乾いた笑いを吐き出すことしかできなかった。

 もう一度やり直して、残す通路はあと一つというところまで戻ってきた。あれから私の心を揺さぶるような怪奇現象はなく、淡々と異変探しに没頭するうちに冷淡な死神の平常心を取り戻していった。
 残り一つ。ようやくゴールが見えてきて気が逸るがここでまた失敗するわけにはいかない。改めて気を引き締めて角を曲がって最後の直線と対峙した。
 通路の奥には黒い靄が立ち上っていて、それは人影のように揺らめいていた。今まで通ってきた通路では見たことのなかったものだ。
 ──異変だ、引き返そう。
 冬の冷気にあてられたように冴えた思考とそれに付随する体は即座に踵を返すが、ふと視界の端に桜色が横切ったような気がして思わず足を止める。
 もう一度通路の先へ目を凝らすと、ぼやけていた黒い影の正体が次第にくっきりとしてきて、私は息を呑んだ。
「しょう、ねん……
 その異変はひどく懐かしい形をしていた。
 馴染み深い黒の装束を纏った体の上で、春の色をした髪がゆらゆらと揺れている。新緑の風に吹かれる花のような姿に、氷刃で背中を刺されたかの如く鋭い痛みを感じて動けなくなる。
 引き返さなければ。これは異変だ。
 懸命に訴える脳内の警鐘に体は抗い続ける。足が一歩も来た方向へ動かない。視線は色彩に奪われて、ひとつも目を逸らせない。遠い昔に春と引き換えに喪った『半死神の少年』が目の先にいる。
「こんにちは。ハーデイ」
 通路の奥から懐かしい声が真っ直ぐはっきりと届いて、私が強固に纏ったはずの心の装甲をたやすく砕いていく。
 これは私がさっき辛酸を嘗めさせられた自ら生成した幻覚と同じ類いかもしれない。ならば彼は異変ではない……
「どうして、こんなところに」
「ハーデイに見せたいものがあるんだ」
 手招く動きに合わせて体がひとりでに引き寄せられる。少年と会話が成立していることに身が震えるほどの興奮を覚えている。近づくごとに少年の輪郭、目鼻立ちがくっきりと記憶の中のそれと合致していく。夢でも見ているのだろうか。夢なら一体どこからが夢なのだろう。
「わざわざこんなところまで?」
「ハーデイこそ、今までどこにいたんだよ。探したんだからな」
「それは、すまなかった」
 浮かれて会話を続けようとしてしまう。まるであの頃のまま時が続いているようで、背景が人工的なタイルでなければここが冬の町だったと錯覚しきってしまっていただろう。積もりに積もった話は挙げ出すとキリがない。君がいなくなった後の春の話、君のいない冬の話。たくさんあったはずなのに、今はどれも上手く言葉にはできなかった。
「それで、見せたいものとは?」
「あぁ、この先で見つけたんだ」
 少年は通路の先にある角の向こう側を指す。その先に進むことは目の前の彼が異変でないことを認めることになる。それでもいいかと思えてしまう。もしかしたらここに異変はなくて、この先に出口があるのかもしれないのだから。
「君が見つけたのか?」
「そうだよ」
「どうやって」
「後でゆっくり話すよ。まずは見てくれ」
 私を導くように少年が奥へと歩いていく。ついていきたい、けれど片隅に残ったわずかな理性が裾を引っ張ってくる。
「何を、見せてくれる?」
「春だよ」
 ぴしゃりと冷や水を浴びせられたようだった。目の前の少年はこの先に春があって、それを私に見せてくれるという。
 そんなことはあり得ない。私が一番それを知っている。
「異変、なのか」
 呪詛のように重く吐き出した言葉に少年が振り返って首を傾げる。その些細な仕草すら私の記憶と寸分違わないのが忌々しい。本当に悪趣味なものを顕現させる空間だ。
「少年。すまないが、先に行っていてくれないか」
 きょとんと見つめ返してくるライラック色の視線が辛くてわずかに目を逸らした。君という異変に出会ってから悪意というものを一切感じないことが余計に心を痛めつけてくる。いっそ悪意があってくれたなら、撥ね除けることもできたのに。あるのはただただ穏やかで甘美な誘惑だけだ。
「私にはまだ、やることがある」
 喉の奥に引っ掛かりながらも押し出した言葉はひどく掠れていた。
 その言葉に少年はこくりと頷いた。随分とあっさり引き下がって、それが少し寂しいだなんて。馬鹿げている。
「分かった。先に行ってる」
 言って少年は私に背を向けて通路の先へと歩きだす。もう二度とその姿を見ることはできないだろう。追いかけたくてたまらなくなる。この先にあるという春を君の隣で見てみたい。けれど、それはできない。私たちの未来はあの日に綺麗に別たれてしまった。他でもない自分自身の手で砕いた夢物語だ。
 粉々になった破片がやすりのように心に細かな傷を作っていつの間にか血みどろだ。彼と約束した永遠を止血剤にしていたつもりだったが、ただ塩を塗り込んでいただけかもしれなかった。瘡蓋にはならずにどくどくと血を流し続けて、少しのきっかけで噴き出してくる。
 しかし、この痛みごと生きていくと決めた。あの時からその気持ちは変わっていない。
 覚悟が鈍らないうちに後退りながら少年の背中と距離を空けていく。それなのに。
「待ってるな」
 角を曲がる少年が蕾がひらくようにはにかむから、膝から力が抜けそうになる。体が崩れ落ちてしまう前に逆方向へ駆け出した。ここで立ち止まったら私はおそらく彼の背中に引きずり込まれてしまう。
 彼は本当に異変だったのだろうか。己の弱さがそう問いかける。彼は異変という真実であって、本物ではない。分かっている。分かっているはずなのに。
 あの角の先で永遠に来ない私を待ち続ける彼の姿が脳裏に浮かんで、苛むように刺してくる痛みごと振り切るように速度を上げた。引き返した通路の突き当たりを抜けてもう戻れないその先まで振り返らずに駆け抜けた。
 顔を上げる。まだ白と黒で区切られた壁の中だ。眩暈がして、格子状に走る黒線がぐにゃりと歪む。

 この先に、出口は、あるのだろうか。