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果南(カナン)
2024-12-13 23:05:03
4410文字
Public
さめしし
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夢にみたミライ
さめしし。ワンドロのお題「雪」「クリスマス」で書きました。あにさめ一家公認の、つきあってるさめししで、一家のクリスマスパーティーからの帰り道です。11/15のお題で書いたお話(
https://privatter.net/p/11265831
)の、その後の続きになります。
クリスマスパーティーは大変盛り上がり、楽しく幕を閉じた。
あなたたちはもう寝る時間でしょ、と一希さんの奥さんが子供たちを急き立てなかったら、まだまだあの調子で続いていたに違いない。子供たちが一緒のイベントだと分かりやすく終わりを作れるものなのだということを、オレはこの歳まで生きてきて初めて知った。きちんとオレにもお礼を言ってくれて寝支度を始める子供たちに、挨拶を返して皆で片付けを始める。真経津や叶が相手だと絶対にこうはいかない(天堂は先に帰ることもあるので、一応除外だ。睡眠不足はお肌の大敵らしい)ので、その流れに何とも感心してしまったのだった。
『それはあなた、基準が間違っているぞ』
テーブルの上の食器を一緒にキッチンへ運びながら、呆れたように村雨が言った。
『いや
……
まあ、そうだろうけどよ』
『分かっているのなら、それでいいが』
そう言って村雨のついたため息は、思ったより大きなものだった。
今日のような流れが当然の世界で育ってきたのなら、そりゃ真経津たちの振舞いがルーズなものに映るのもわかる。が、それでもつるんで楽しく遊んでいるのだから、結局のところ村雨もアイツらのことが好きなのだ。そういうところは可愛いと思う。
何だ、と睨まれたので、何でもねぇよ、と返して、一希さんから台拭きを借りた。大きなテーブルを綺麗に拭きあげるのは、気持ちがよかった。
続けてオレは洗い物も手伝おうとしたのだが、後でやるからいいわよ、と一希さんの奥さんはさらりと笑って躱した。人んちの台所はそれぞれのやり方があるから、遠慮されるのはまあ自然な流れだ。それでオレも引き下がって、帰り支度を始めた。村雨は慣れたもので、もうコートを着込んで一希さんと何やら話し込んでいた。
一希さんはタクシーを呼んでくれようとしたのだが、来る前から降り始めた雪がいつの間にか積もっていて、空車が全然つかまらない。幸い電車が止まるほどではなかったので、ならばそれで帰ればいいだろうと、最後に丁寧に挨拶をしてオレ達は一希さんの家を辞した。御夫婦に何度もお礼を言われ、笑顔で見送られながら。
「
……
疲れたか?」
駅までの道を歩きながら、村雨がオレに問いかけてきた。
「いや、全然。普通に楽しかったぜ。一希さんの奥さん、料理上手だよなぁ」
「あなたの料理が、いちばん美味しい」
「別に僻んだり、無理して言ってるワケじゃねぇって。でも、ありがとな」
実際、本当に楽しかったのだ。あっという間に時間が過ぎて、余計なことを考えるヒマもなかった。
一希さんの奥さんが腕によりをかけて作ってくれた、フライドチキンやグラタン、フルーツサラダといった料理の数々は、いかにもホームパーティーの定番だろうと思えるメニューで、しかも手間をかけ、工夫が凝らされているとわかるものだった。美味かったし、その心遣いに胸が熱くなって、オレはいつもより多めの量をすいすいと平らげてしまった。食事の後は皆でゲームに興じたのだが、トランプにウノ、ボードゲームと続く中で、さすがに村雨も家族相手には手加減しているのがよくわかって、日頃の姿とのあまりのギャップに、オレは口元がにやけてしまうのを抑えるのに必死だった(もちろん村雨にはバレていて、後で背中を小突かれた)。
そして、子供たちに依頼されてオレが作っていったクリスマスケーキは、一家から惜しみない拍手喝采を浴びた。ホールの半分ずつが生クリームとチョコクリームで飾られたケーキは、思った以上にインパクトがあったらしく、子供たちは歓声を上げて、それぞれ自分が好きな側のクリームに飛びついた。大きく切り分けられたケーキはあっという間に皆の胃の中へ消えていったし、子供たちからは来年も絶対作ってね!と念を押され、一希さんからも奥さんからも手厚くお礼の言葉を頂いた。そこまでみんなに喜ばれたら、オレだって嬉しくないワケがない。じわりと目元が熱くなり、こぼれかけた水滴を抑えようと頬を歪めたのを、村雨が目ざとく気づいてテーブルの下で手を握ってくれた。
つまり、オレが事前に心配していたようなこと
——
オレが家族の雰囲気にうまく混ざれなくてシラケさせちまうんじゃないかとか、ケーキが御期待に添えていなくてがっかりさせちまったらどうしようとか
——
は一切、起こらなかったのだ。オレは拍子抜けするほどリラックスして、一希さん家のクリスマスパーティーを満喫したと言っていい。
「だから、言っただろう。変に卑屈にならず、堂々と来てくれればいいと」
やれやれといった口調で、村雨が言ってくる。でもその口元はやわらかく綻んでいて、安心して上機嫌でいるのはオレから見ても一目瞭然だった。
「そーだな。オメーの言う通りだったわ」
「ようやくわかったか、マヌケ」
「はいはい。いいだろ、楽しかったんだから」
ふん、と鼻を鳴らした村雨だったが、次の瞬間、急に上体をふらつかせた。数歩たたらを踏んで、何とか体勢を立て直す。足元の雪の滑りやすくなった部分を、不用心に踏んでしまったらしかった。
「気をつけろよ」
自分にも言い聞かせるつもりで口にして、オレは改めて辺りの地面を見渡した。アスファルトの上に今も積もっていく雪は、あちこちで溶けかけて泥混じりになったり、逆に踏み固められたりしている。夜になって一段と気温が下がってきたし、見た目で分からなくても凍っている部分もあるだろう。最寄りの駅までもう少し距離があるはずで、慎重に進んだほうが良さそうだった。
「
……
まだ止みそうにないな」
白い雪が舞う夜空を見上げて、村雨が呟く。続けて何かを言おうとして、くしゅん、とわりと大きなくしゃみをした。さらに、もう一つ。
形の良い鼻の頭も、左側だけ見えている耳たぶも、いつになく赤くなっている。カシミアのマフラーをきっちり巻き、丈の長いコートを着込んでいても、やはり寒いものは寒いらしい。
「大丈夫か? やっぱ、タクシー探すか?」
「いや、先ほども無理だったし、この雪では改善は望めないだろう。電車でいい」
「でもよ、オメー明日も仕事だろ。風邪でも引いたら」
「乗ってしまえば暖かいだろう。さっさと行くぞ」
そう言って村雨は、足を早めて歩き出す。あまり足元の雪を顧みていない動きだったので、オレは慌てて追いついてコートに包まれた腕を掴んだ。
「焦るなって。滑ってコケたりしたら、元も子もねぇだろ」
左手をたぐり寄せて、捕まえる。手袋をはめているのは分かっていたが、構わずにオレのコートのポケットに突っ込んだ。
ぎゅっと握ると、握り返してくれる。
目が合うと、くすりと村雨は笑った。
「まったく、あなたは
……
愛おしいな」
「じゃあ、ちゃんとオレの言うこと聞いてくれよ。オメーを心配してるんだぞ」
「わかった。そうしよう」
村雨が素直に頷いたので、オレも微笑んだ。
「よし。じゃ行くぞ」
凍っていそうな雪を避け、なるべくぬかるんでいない場所を選んで、慎重に歩いていく。村雨もオレに合わせて、ちゃんと地面を見て歩を進めていた。
ポケットの中で握っている手の指を、手袋越しにそっと撫でる。いつもオレより体温の低い指はきっとまだ冷たいに違いなく、薄い皮の手袋をすぐにでも脱がせて、直に温めてやりたい衝動に駆られた。指先を包み、手の甲をさすって、しっかりとオレの体温を伝えてやりたい。そうして、その先で同じ熱に染まることを、きっとオレは待ち望んでしまっている。
「獅子神」
オレの思考を読んだのかどうなのか、村雨が指先で手の甲を撫で返してきた。いつもと違う皮手袋で手の筋を辿られる感触に、ぞわっとした震えが背筋を走る。
「
……
コラ。歩くのに集中しろよ」
何とか誤魔化そうと思って睨んでやると、村雨はにやりと口端を持ち上げた。
「先に仕掛けてきたのは、あなただと思ったが」
「そーゆーつもりじゃ
……
まぁ、ちょっとはあったけど。でも、今じゃねぇから」
「では、帰ってからだな。楽しみにしていよう」
くつくつと村雨が笑うと、顔の周りに白い息が舞った。
黒髪にも、上等そうな濃紺のコートにも、あちこちにふんわりとした綿雪がついている。なかなか見られない姿で、何となく微笑ましかった。
でも、やっぱり寒そうで。
「帰ったらさ。ロシアンティー、作ってやろうか」
ふと思いついて、提案してみた。村雨が一瞬考える顔になり、すぐにあぁ、と思い至る。
「紅茶にいちごジャムを入れるのだったか。確か、何かの酒も入っていたな」
「本当は、ジャムは別添えで口に含みながら飲むんだけどな。酒は、ウォッカな。ロシアだから。イチゴジャムは既製品になっちまうけど、体はあったまりそうだろ?」
「既製品で十分だ。今あなたの家にあるいちごは、ケーキ作りのために仕入れたものだろう? あれを潰してしまうのは勿体ない。それよりも、私のためのクリスマスケーキに使ってほしい」
「
……
お前、それ覚えてたんだな」
「当然だ。私のぶんも、今日のケーキと同じように二色のクリームにしてくれ」
「へーへー。先生の仰せのままに」
肩を竦めてみせると、村雨はムッとしたように唇を尖らせた。そこに素早くキスをして、ポケットの中で繋いだままの手をぎゅっと握る。
「冗談だって。ちゃんと作るぜ。お前、楽しみにしてたもんな」
「
……
わかっているなら、いい」
「他にのせてほしいモンあったら、早めに考えとけよ。ほら、帰ろうぜ」
村雨はまだ拗ねている雰囲気を漂わせていたが、手を離すことはなく、一緒に歩き出してくれた。
ちょっと意地悪してしまったかもしれない。でも、どうか許してほしい。
今日のオレは、わりと浮かれてしまっているから。
だって、初めてだったんだ。家族でのクリスマスパーティーなんて。
そこからこうして、一緒に歩いて帰るのも。
雪に彩られるお前を、穏やかに眺めるのも。
少しずつ、雪が強くなってきた。村雨が纏う白い結晶が、肩にも髪にも増えていく。
空いている左手を伸ばして、邪魔になりそうな前髪の雪を払ってやると、深紅の瞳がくるりとオレを捉えた。
「ありがとう、獅子神
……
今日は、とても嬉しかった」
皮手袋の右手がオレの手を掴み、艶のあるくちびるが綺麗に笑みを刻む。寒風のためか赤くなった頬を、二人ぶんの白い息が撫でていった。
「いや、オレの方こそサンキューな。楽しかったぜ、ホントに」
「愛している。今までも、これからも」
「
……
ん、オレも」
ポケットの中で、村雨の左手を握りなおす。手袋越しに、薬指のつけ根をつまんで撫でた。
嬉しそうに目を細めて、村雨が笑みを大きくする。そのままオレの左手を引き寄せて、雪に濡れた薬指に優しく口づけてくれた。
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