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果南(カナン)
2024-12-06 23:45:30
7298文字
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さめしし
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寒風とフルーツ
さめしし。ワンドロのお題「リクエスト」「ファミレス」で書きました。がとさんのお店に行った後、らぶらぶでデートに出かけるさめししのお話です。PPP後で、ししががとに出資している設定。さめしし&がとの会話書くのが楽しくて長くなりました。いずれ伊月も一緒に四人で出かけて服買ったり遊んだりしてほしい。
たまにはファミレスでも行かねぇ?、と獅子神が私を誘ってきた。
彼はノートパソコンを、私は外科の英文雑誌を広げて、各々ソファで寛いでいたところだった。ゆったりと脚を伸ばして寄りかかることができるこの場所は、私のお気に入りになっている。
「イチゴフェア、やってるらしいぜ。でかいパフェがあるんだと」
「
……
別に、構わないが。どこのファミレスだ?」
私が問い返すと、獅子神は一瞬、表情を強張らせた。
それで、私には大体の展開が読めた。ファミレスの名前を尋ねただけで言葉に詰まるとは、一つしかない答えを教えてくれているに等しい。
「相変わらず、わかりやすいな。あなたは」
ため息をついて苦笑すると、獅子神もはは、と笑って私の傍に寄ってきた。
「ったく、敵わねえなぁ。オメーにはよ」
「今はあなたも、隠そうという努力をしていなかっただろう」
「ま、そーだけどよ。で、今日この後でも平気か?」
「あぁ。先方の都合か?」
私としては当然の流れで確認したのだが、獅子神は目を丸くして、そこまでわかるのかよ、と小さく唸った。
「
……
ちょうど今日の午後、新店舗に居るンだと。ウチから遠くねぇ所だし、もし寄ってくれるなら挨拶したいって言うからさ」
「わかった。行こう」
私は雑誌を閉じて、上体を起こした。まだ動かない獅子神の頬に手を当て、軽く口づける。
「怒ってねぇのか? オレ、お前に何も言ってなかったのに
……
」
獅子神がおそるおそる言ってきたので、私は首を振った。
「必要ない。あなたの、仕事の話だからな。そして必要ができたから、今こうして私に話したのだろう? それで十分だ」
「そっか
……
」
「それにだな、獅子神」
私は微笑んで、言葉を継ぐ。
「私を連れていくということは
……
当然のことながら、あなたの恋人として紹介してくれるのだろう? 自分達を負かし、金を奪った敵である私が、出資者の恋人として現れる
……
あの男がどんな顔をするのか実に興味深いものだ」
喋っていくうちに思わず、にやりと口の端が持ち上がる。獅子神の顔が軽く引き攣り、ぎこちなく笑みを返してくれた。
ジョイキッチンの新店舗は、ひと目見たところでは典型的なファミリーレストランだった。
貶す意味ではなく、よく見知った雰囲気で身構えなくて済む。懐かしい感じ、と言い換えてもよい。椅子の座り心地も悪くなく、店員もきちんと教育されていて苛々しない。そんな空間がちゃんと演出されていた。
「
……
悪くないな」
窓際の席で、運ばれてきた一番大きなストロベリーパフェを食べながら、私は呟いた。正面で紅茶を飲んでいる獅子神が、頷いて店内を見渡す。
「あぁ、繁盛してるっぽいしな。開店直後の波は落ち着いた後だろうに、大したモンだ」
「そうか」
店の経営の事は門外漢なので、私は相槌だけを返した。いちごも生クリームもたっぷり盛られたパフェを食べ進めながら、獅子神を眺める。彼の眼が、投資家としてのそれになっているのが見応えがあった。普段は滅多に見られない姿で、それだけでも共に来た甲斐があったと思う。
パフェにはミルク入れのような小さな容器が添えられていて、中には追加でかけるいちごソースがたっぷり入っていた。そのいちごソースも味が濃く、香りが良い。気分良く、好きなだけソースをかけながらパフェを楽しんでいると、残りが半分ほどになったところで、件の男が厨房から姿を現した。賭場で相対した時とほぼ同じ格好で、まっすぐにこちらの席へ向かってくる。
「
……
来たな」
獅子神が少し窓際に寄って、ソファ型の椅子の隣を空けた。
「挨拶が遅くなった。すまねぇ」
私達のテーブルの傍に立った牙頭は、まず獅子神に向かって頭を下げた。立てた前髪の房がふわりと揺れ、後ろで束ねた金髪が肩を流れる。
「いや、気にすンなよ。コイツがある程度食べるの、待っててくれたんだろ?」
獅子神が応じながら、座るようにと手で促した。牙頭は小さく笑って、獅子神の隣に腰を下ろす。
「お見通しかよ。つまんねぇな」
「オメーも経営者なんだから、自分の店の客相手ならそれくらいの配慮はするだろ。いくら賭場で戦った相手でもさ」
「ま、そーゆーこったな
……
んで、医者」
和気藹々と語っていた態度から、一転して牙頭が鋭い視線をこちらへ向けた。
「何でオメーが、ここに一緒に来てる?」
「見てわからんのか、マヌケ」
淡々と返して、私はパフェスプーンを持ち直した。先ほどソースをかけたいちごアイスを、大きく掬い取る。
口に入れ、冷たさと甘さを堪能してから、牙頭を見返した。
「下らん威嚇もパフォーマンスも不要だ。どうせ私達が来た時から、防犯用カメラで様子を見ていたのだろう? ならば私達の関係性も既に見えているはずだ。あなたの眼ならば、な」
牙頭はじっと私を睨んでいたが、やがて肩をすくめて、両の手のひらを上に向けた。
「
……
やれやれ、コッチもお見通しかよ。ったく、二人揃って厄介なのがくっつきやがって。お似合いだぜ」
「それは、そっくりそのままお返しするが」
「あ?」
「あなたにも、相方がいるだろう。弁護士の。彼はどうした?」
いちごアイスの層をつつがなく終え、次のスポンジにソースをかけながら問うと、牙頭は合点がいった様子で頷いた。
「あー
……
今日は、仕事は休みのはずだからな。家で寝てるか、菓子でも作ってるんじゃねーか」
「あっ、それってあの漆原ってヤツだろ? アイツも菓子とか作るんだな。だったらちょっと話とか聞いてみてぇなぁ」
獅子神の言い方は呑気で、ただの世間話といった風情だったが、牙頭はさっと顔を青ざめさせた。
「いや呼ばねーぞ! 今日は休みって言っただろ⁉︎ だから無理だ! ぜってー無理だからな‼︎ 伊月のヤツ、せっかく一緒に服買いに行ったってぇのに全く人の言うこと聞かねーから
……
あぁクソっ
……
」
拳に握った手をわなわなと震わせながら、牙頭は何やらぶつぶつと呟き続けている。私と獅子神は呆気にとられて、互いに顔を見合わせた。
「
……
なあ、村雨。これはオレが何か見えてなくて読めてねぇから、わからねーのか?」
「いや、私もわからん」
「休みだから無理、ってどーゆーことだ? 普通は逆だよなぁ」
「世間一般的には、私もそう解釈する。が、彼らにその基準が通用するのかは別問題だな」
本人に訊け、と言外に込めて言ってやると、獅子神は頷いて牙頭の顔を覗きこんだ。
「オイ牙頭、無理なら別にいーんだけどさ。意味わからねえぞ。どうしたんだよ」
「あ、あぁ
……
悪かった、取り乱して」
牙頭は手の甲で額の汗を拭うと、頭を振って深呼吸をした。すぐに落ち着いた表情を取り戻して、獅子神と私を見比べてくる。
「つーか、お医者サマよ。全然驚いてねぇのな。オレが出資を受けてたこと、知ってたのか?」
ちょうど大粒のいちごを掬って口に入れたところだったので、私はとりあえず首を横に振って否定の意を示した。クリームのついたいちごをよく味わって、飲み込んでから返事をする。
「いや、言葉で聞いたのは今が初めてだ。が、ここへ来る事になった時点でわかっていたので」
「ほぅ? 相変わらず嫌味ったらしいな。恋人に秘密にされてたコトくらい、屁でもねぇってか」
口元を歪めて、牙頭がニヤニヤと私を見遣ってくる。安っぽい挑発で大して本気とも思えなかったが、この調子で絡み続けられても面倒なので、軽く叩いておくつもりで私は彼を見返した。
「獅子神の仕事の話であって、私が口を出す事ではないからな。必要があれば今日のように開示してくるだろうし、仮に後ろめたい隠し事が含まれていたとして、私がそれを見抜けないはずが無い。よって心配は全くの無用だ」
「う
……
」
牙頭は無表情で聞いていたが、獅子神のほうが小さく呻いた。誤魔化すように水を飲み、いいから続けろ、というふうに手を振ってくる。
私はため息をついて、言葉を継いだ。
「私達に負けて賭場の口座が空になったところへ、事業で思わぬ出費が相次いだ。資金繰りに奔走している最中に、たまたまビジネスの場で出会った獅子神が、事情を知っているだけに放っておけずに出資を申し出た
……
そんなところだろう?」
「まぁ、そうなンだが
……
テメーから言われると何となくムカつくぜ
……
」
牙頭は苦虫を嚙み潰したかのような顔で、どさりと椅子の背に寄りかかる。獅子神はバツが悪そうに、指先でポリポリと頬を掻いていた。
私はスプーンの先を器の底へ差し入れ、残っていた生クリームとスポンジ生地を掬った。溜まっていたいちごソースも一緒に乗ってきたので、垂れ落ちてしまわないように急いで口に入れる。ふわりと軽い生クリームとスポンジの食感を濃厚ないちごソースが追いかけてきて、甘さが口いっぱいに広がった。ほどよい酸味が付随しており、その具合も申し分ない。
「
……
ちゃんと、食ってくれてンだな」
まだ多少顔をしかめたまま、牙頭がぽつりと言った。
「当然だろう。いちごフェアだというから来たのだし、このパフェは美味しい。注文したものを敢えて食べない理由はどこにも無い」
「テメーがデカいパフェとか食ってンのが、そもそも意外すぎるンだがな。そんなキャラだったかよ、医者?」
「甘ぇよ、牙頭。村雨はめちゃくちゃ食うからな? しかも冷蔵庫から勝手にハムの塊出して持っていくし、ケーキのイチゴは先に食い尽くすし
……
油断も隙もねえぞ」
獅子神が可笑しそうに口を挟んできたので、私はじろりと彼を睨んだ。
「今、ここで言うことでもないだろう。それにハムは私以外の奴らも食べたのだし、イチゴは二個残っていた、食い尽くしてはいない」
「これから使うモンを先に食うのが問題なんだよ。ハムもわざわざすり替えまでしやがってさ」
「すり替えに適した物を置いていた、真経津が悪い」
「人のせいにすンな、どー見ても主犯はお前だったろーが」
「
……
あなたは、私より彼らを庇うのか。愛は何処へ行った」
「そういう問題じゃねーだろ⁉︎」
獅子神が顔を赤くする。隣で牙頭がぶっと噴き出した。
「あー
……
テメーらが仲いいのはわかったから。ここで痴話喧嘩すンなよな。聞いてるコッチが照れるわ」
「痴話喧嘩じゃねーよ!」
「いや、どう見てもそうだろ。ま、面白いモンも見れたし、邪魔者はさっさと退散するとして
……
」
くつくつと笑いながら、牙頭が立ち上がろうとする。が、ふと何かに気づいたように動作を止め、私と獅子神を順に見渡した。
「
……
せっかくだから、訊いとくか。テメーらのリクエスト」
「は?」
獅子神がマヌケな声を出す。私は黙ったままで、器の底に残っていたいちごソースを口に入れた。
「何だよ、リクエストって」
「決まってンだろ。オレの店への、だよ。こんなモンあったら食いにくるけどな、ってヤツ、一つくらいあンだろ? テメーら唸るほど金持ってやがるんだし、どうせ舌も肥えてるだろうが。なかなか聞けねぇ富裕層の御意見、オレの店の為に役立ていきやがれ」
相変わらずの粗野な口調だったが、その眼には真剣な光が宿っていた。やはり見かけによらず勤勉で、己の道に真摯な男らしい。まあ、そうでなくてはこの年でこれだけのレストランチェーンを築き上げることなど出来なかっただろう。
テーブル越しに、獅子神と視線を合わせる。だいたい同じ感想を抱いたらしく、リクエストを述べることに異存はないようだった。
軽く頷くと、獅子神が先に口を開いた。
「んー
……
オレはやっぱ、低糖質で高タンパク質のやつかな。量はそんなに要らねぇけど、良いタンパク質だと嬉しい。オメーも相当鍛えてるみたいだから、まぁ分かるだろ?」
「そうだな」
「料理の見た目は普通っぽいか、ちょっと華やかなくらいがいいかもな。同行者に気ィ使わせなくて済むし、女子にもウケるだろうし
……
ま、その辺はオメーのほうが得意だよな」
「当たり前だろ。経営者ナメんなよ。ま、サンキューな」
存外素直に笑って、牙頭は獅子神に礼を述べた。それから私の方へ視線を向けてくる。
明るい唐茶色の瞳は依然として鋭く光っていたが、試合で目にしたような荒んだモノは感じられなかった。これなら獅子神が投資を決意したのも頷けるし、また食べに来てもいいだろうと思える。
なので、遠慮なく言わせてもらうことにした。
「春になったら、またいちごのフェアをしろ。露地物をうまく使って違った趣旨のデザートが食べられるなら、来てやらんこともない
……
まあ、今回のパフェも美味かったが。特にソースが良い」
「
……
珍しいよな、オメーがちゃんと褒めるの」
獅子神が目を丸くして茶々を入れてきたが、とりあえず無視しておいた。
「その次は、桃だな。秋は梨でも栗でも柿でも、何でもあるだろう。そして冬は蜜柑に、いちごだ。それぞれどんなデザートが出てくるのか、楽しみにしていよう」
蜜柑、と言った時だけ、牙頭の瞼が僅かにぴくりと動いた。理由はわからないが、何か拘るところがあるのだろう。相方の彼に関わることなのかもしれない。
随分と、人間らしい反応をするようになったものだ。
「あれ、果物ばかりじゃねーか。肉はいいのかよ、先生」
からかうような調子で、獅子神が尋ねてくる。私は肩をすくめてみせてから言い返した。
「ファミレスに高級な肉を期待しても仕方がないだろう? お門違いというものだ」
「
……
オイ、医者。言いてぇコトは分かるが、言い方ってモンがあるだろ」
「そ、そうだぞ村雨。安くても良質な肉をいかに上手く仕入れて調理するかってのが、チェーン店企業の努力っていうか、腕の見せ所っていうか
……
」
牙頭が分かりやすく額に青筋を立て、獅子神が慌ててフォローに入る。投資家として卒の無い行動なのは褒めてやりたいところだが、残念なのは私の意図を汲めていない事だった。
「獅子神」
名を呼んで、テーブル越しに腕を伸ばす。なめらかな額の中央を、ぴしりと指先で弾いた。
「いてっ⁉︎ 何すンだよ!」
「肉はあなたに焼いてもらうから、それで十分ということだ。そんなこともわからんのか、マヌケ」
獅子神はぽかんと口を開けて、私を見つめた。頬がみるみるうちに赤くなっていく。
隣で呆れたように首を振った牙頭が、今度こそ椅子から立ち上がった。
「あー
……
何つーか、ご馳走サマ? いや、良いモン見たぜ。お幸せにな、お二人さん」
「私への礼は無いのか」
「あぁすまねぇ。もちろん感謝してるぜ、テメーにもな。ま、気が向いたらまた食いに来てくれや。神父にもよろしくな」
牙頭はにっと唇の端を吊り上げて笑うと、ひらひらと片手を振って、厨房の方へ歩いていった。
彼の姿が見えなくなってから、私達はまた顔を見合わせた。獅子神の視線が、窺うように私の上を彷徨う。
「怒って
……
は、ないんだよな?」
「そうだな。パフェは美味かった」
「
……
肉、買って帰るか?」
「もちろん、それも異論は無い。が、あなたは他にまだ言いたいことがあるのでは?」
私が畳み掛けると、獅子神は顎を引いて、少し目元を赤らめた。
薄青色の瞳が私から逸れ、窓の外に向けられる。冬曇りの午後の空は灰色だが明るく、穏やかな光で金の髪が美しく輝いた。
「
……
服、さ。買いに行きてぇな、って思って」
しばらく待って、ようやく彼の発した言葉が、それだった。
「服? あなたのか?」
「違ぇよ。牙頭のヤツが言ってただろ。漆原と服買いに行った、て。あれ、いいなぁって思ってさ」
獅子神はテーブルの向こうから身を乗り出してくると、やや上目遣いで私を見つめてきた。
「オレもさ、お前の服とか選んでみてえな。気に入ってる店に、似合いそうなのがあるンだよ。だから、これから行ってみねぇ?」
期待に満ちた瞳が、甘く誘うように私を捉える。
滅多にない、彼からのアプローチだった。心臓が容易に跳ね、顔の毛細血管が一気に開きかける。
逸る気持ちを何とか抑えながら、私は手を伸ばす。テーブルの上に置かれていた獅子神の左手に重ねて、囁いた。
「好きな相手に服を贈る、その意味を知っているのか? あなたは?」
獅子神は楽しそうに笑った。
「ンなの、今さらだろ。まぁ、たまにはそーしてみたいって気はあるけどさ
……
ていうか、オメーもオレに贈ってくれてもいーんだぜ?」
「
……
なるほど。では、それも前向きに検討するとしよう」
私は頷くと、獅子神の手の甲を撫でてからコートを掴んだ。袖を通しながら、立ち上がる。
「まずは、あなたのリクエストを聞くとしようか。どんな服を私に着てほしいのか、大変楽しみだ」
「おう。頼むぜ、先生」
獅子神も水を飲み干して、立ち上がった。コートは小脇に抱え、伝票を持って先にレジへ向かう。
私は厨房のほうを窺い、牙頭が出てこないのを確かめてから、獅子神の後を追った。
賭場では敵として戦ったが、彼や彼の相棒に個人として恨みがあるわけではない。全員五体満足で生き延びたし、彼らはもう賭場を去ったと聞く。ならば、私が余計な感情を抱く必要はないのだ。
それに、牙頭と獅子神には共通の話題がある。体を鍛えること、食と調理への関心、経営者と投資家として経済界で戦う立場。うまくいけば、獅子神は友人を増やすことになるかもしれない。それはそれで喜ばしいことだろう。
「どうした、村雨? なんか、顔にやけてねぇか?」
会計を済ませた獅子神の隣に並ぶと、彼が首を傾げた。
「何でもない。ただ、嬉しいだけだ」
「ふーん
……
ま、いっか」
手で押すタイプの店の扉を開けてくれながら、獅子神が甘やかに笑いかけてくる。何にも代え難い、その笑顔。私だけの、愛おしい恋人の。
熱くなった頬で、寒風を受ける。獅子神の車に乗り込んでも、まだ私の頬は火照ったままだった。
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