平行軌道の阿吽でじゅーぶん/リョ桃
ったく、どれだけ身の程知らずなーんだかね。
竜崎先生にケンカ売ってきたオッサンを牽制するために瞬発的に打ったボールは、少し左方向から伸びる全く同じ軌道と、きれいに平行線を描いた。誰が打ったかなんて、見なくても瞭然。わかりきってるよ。
――やっぱ、ここはそーなるよね、桃先輩?
にやり、横目で視線をやれば、オレとまるきりおんなじコト考えたんだろーね。不敵な視線が、頷き代わり。オレたち、どうもこーゆートコではいわゆる、“阿吽の呼吸”、ってヤツらしいんで? 名刺代わりの平行線を、ま、挨拶程度にくれといてやるよ、そこのオッサン。うろたえるそいつと違って余裕しゃくしゃくの竜崎先生の啖呵が、なんか、チラッとだけど見たことある極道もの?の姐御とかそーゆーのみたいな風格で、スカッと爽快だね。さすが、
ウチの顧問。やるじゃん、口笛が自然と出てきちゃうのも、ほら、また阿吽。なんかまるでさ、この顧問にかかれば、オレと桃先輩って、やっぱそーゆーのでチラッと見た、なんだっけ、“威勢のいい若い衆”、とかゆーヤツみたいになっちゃうんだよね。ほらほら、そこのビビり散らしてるオッサン、オレたち
“荒くれ者の若い衆”を従えた
“竜崎の姐御”に、生半可な覚悟で剥けも在りもしない牙剥こうとしたくせにさ、覚悟がちぃーっとも、てーんでさっぱり、まだまだすぎるでしょ。だよね、桃先輩?
『コレが本来の阿吽の呼吸というものじゃ』
前に、先生がオレと桃先輩の
付け焼き刃に対してたしなめてきた言葉を、こういうとき思い出す。けどさ、思うんだよね。オレと桃先輩って、なぁんか全然性格違う(とオレは思ってるけど)のにさ、ヘンに、波長だけは合う、っていうの? 先輩のチャリの後ろに乗るのなんかオレだけでじゅーぶんだし、バスのせっまい座席でもまあ隣でいっかって思えるし気付けば肩借りて寝てた程度には気は許せてるみたいだし、電車に乗っても、自然と、隣に収まっちゃうっていうか。なぁんでかな、どうもおんなじシート、座ろうとしちゃうんだよね。それも、座るとこの左右に関してだけは、モメたことなんかいっちどもないんだ。今打った平行線と、まるっきりおんなじ。まる~っきりおんなじとこに向かって、けど、示し合わせたことなんかいっちどもないのに、ぶつからないようにきれいに左右にだけはきちんと分かれて進んでさ。不思議だよね。阿吽の呼吸? あれは今思えば、予言だったのかもしれないね、
…なぁんてね。
…ま。今回みたいな要らない阿吽は、出す機会、たまにでさえないほうがいいけどね。 桃先輩ととっさにおんなじコトするのは悪い気しないけどさ、オレの
“陣地”をウロチョロされると、ボール、ぶつけたくなっちゃうから。牽制だけで済ませてやったのは、ヤツらとおんなじコトなんかして手を汚すのなんて、ばかばかしいし。そんな価値さえ、ないからだし。桃先輩もそれは同じなんでしょ? 横目を向けるタイミングがほら、ああ、やっぱり阿吽で返ってくる。ま、それは悪くはないかな。だからって、アイツら許す気なんざみじんもないけどね。
こんなヤツらなんか、平行軌道の阿吽でじゅーぶん。同じ終着点に向けてぶつける価値も無いね。
――桃先輩とは、平行軌道の阿吽でじゅーぶん。だって、そしたら必要なときだけいつでも、アンタ、オレの隣に収まってくるんでしょ? おんなじコートをうろつくときでも棲み分けできるからボールぶつけなくて済むし、
…それぞれコートに立ってるときも、おんなじ
ほうだけ見て、居られるから。
オレたちは、平行軌道の阿吽で、じゅーぶんすぎるでしょ。だよね、桃先輩? 訊かなくても分かりきってるから訊いたことはないけどさ、答えが、きこえてくるみたいで不思議だよね。こういうの、阿吽以外に、なんて言うんだろね。
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