ゆうり
2025-08-28 22:08:37
4509文字
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しあわせのかたち。

※一瞬だけジェラール様が女体化するので苦手な方は回避お願いします。
自分も不得意癖なのでおまけ程度です。
ジェラール様がヘクターの幸せを思い込みで勝手に決めてしまったりぐるぐるする話です。

ジェラールが先程魔女のほこらで不注意で被ってしまったあの液体が原因だということは分かっているがまさか時差でこんな事が起こるなんて。
しかし女の身体になってしまった自分がどうこうよりも、この身体にヘクターが欲を覚えてしまったらどうしようという不安のが上回った。
そんな事は当たり前だろうと思う、男性として女性に欲情するのは本能的に仕方の無い事、と言ったような内容をいつだか本で読んだ記憶もある。
女性の身体が男性の滾った欲を癒すのだと。
だがこうなってしまった事は自分だけではどうにもならない。
この身体になってしまったのであれば同行している唯一の女性であるテレーズに助けを求めるべきか。
しかしこの部屋に訪れるのは同室の相手であるヘクターの可能性が高い。
「どうしよう……。」
ままならない状況にジェラールの口から出るのはどうにもならない状況についてだけ。
焦る頭で考えて女性の身体として目立つであろう胸は大したことが無かったので身体の線が見えにくい服装で無ければ分からないのではないかという事に思い当たり、ジェラールは着替えとして持ってきていた第二皇子期から着ている衣装に急いで着替える事にした。


万が一という事もありえると胸元を布を巻いて簡易的に隠し、ケープを羽織った所で扉を叩く音がした。
「ジェラール様、ヘクターです。入っても大丈夫でしょうか?」
帰ってくると分かってはいても今の状況を鑑みると緊張を覚えてしまう。
本来であればこの声を聞くだけで安心できるのに。
とりあえず今隠せるだけの最低限の努力は出来たはずとジェラールは扉を開けに行く事にする。
「お疲れ様、ヘクター。偵察ありがとう。」
扉を開き、そう声をかけると怪訝としたヘクターの顔が見える。
見た目は誤魔化したはずなのに!と思うが女性の身体になると言うことは変化するのは見た目だけではない、身体の内部の機能も変わる事に思い立った。
今のジェラールの声はいつもより遥かに高くよくよく考えれば自分のものとは思えないものだ。
まるでヘクターとの情事の際に感極まった時にあげるような
そこまで思い当たってジェラールは自分が早速隠しきれなかった事を思い知る。
「あ、あああの、これは!!」
さっきのでですか?」
そう言うとヘクターはジェラールを部屋の奥に入れ後ろ手に扉を閉めた。
もちろん魔女の所にはヘクターも同行していたので事情はわかっている。
それでも知られたくなかったのに!!
身体が変わってしまった事で情緒も不安定になったのかジェラールの大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ出し、ヘクターは驚く。
「どうしたんですか!?どこか痛い所でも?」
「ううん、それは、大丈夫うぅ、で、でも!」
今の自分に触れてほしくない、もしこの身体のジェラールである事がヘクターが悦ばせたりする事になってしまったら!!
ヘクターは何を思ってか触れて来る事はない。
この手で触れてもらえることが何よりも幸せなのに、この腕で抱きしめて貰える事が涙が出るほど嬉しいのに、今それを得ようとする事は自分にとって絶望を覚える事になるかもしれない。
それでもヘクターはその後の言葉を紡げずに泣きじゃくるジェラールの側から離れる事はなかった。



落ち着きましたか?」
ジェラールのしゃくり上げる声も静かになったところでヘクターから声がかかる。
訳の分からない不安に我を忘れて泣きじゃくるなんて小さな子供の頃以来の事だ。
それに付き合わせたヘクターにも申し訳ないと思う。
「ごめん、ヘクター、ありがとう。」
いつもより高い目線のヘクターの目を見てジェラールがそう伝えると良かったですと笑顔を見せてくれる。
その笑顔に胸が高鳴るのは本当の自分の心なのか、身体に準じた本能的なものなのか。
ジェラールは何よりも自分の事が分からなくなっていた。
「ジェラール様、大丈夫、オレからは触れませんから。」
「え?」
触れてくれるなというような事は言っていなかったはずなのに。そう考えていた事もヘクターには筒抜けのようだ。
「見ていれば何となく分かりますよ、もうそれなりの仲でしょ?そう思っているのは良いですか?」
「もちろん、でもでも
今の自分を好きにならないで、この身体に欲を覚えないで、だなんて。自分勝手すぎる。
皇帝としての職務にあたることで得た自信や自己肯定感というものとはまた違う、ヘクターの隣に真に立つべきなのは身分と立場と何より同性という事でしがらみが多い自分などでは無く、彼に似合いの血を繋げる事の出来る異性であるべきだとの考えを未だにジェラールは捨てられないからだ。
自分が元々この身体を当たり前に持っていたら、愛しい人と交わる事に何の支障も無かったかもしれないのに。
そんな葛藤から思わず口から零れ落ちてしまう。
「もし、この身体がほんとうだったら、こんな思いにならなかったのかな。」
その瞬間近くにいる人の空気が変わったと感じた。
自らは触れないと断言してくれていたのでジェラールに触れる事はないが先程優しく話しかけてくれていた時とは違う表情。怒っているわけではない、無表情に近いようなそんな顔。
「どういう意味で言ってます?」
「え?」
「アンタが元々女だったら?」
要するにそういう話になると思う。そこでこくりと頷くとヘクターはそれを跳ね飛ばすかのように笑った。
「アンタが女だったらこんなに近づく事もなかったです。アンタを毛嫌いする事もなかった。何の後悔もなく、ただ、皇族と傭兵という立場が崩れること無く月日が重なるだけ。もしかしたらアバロンは滅亡して、オレも仕える人を喪ってどこかに旅立ってたかもしれませんね。」
ヘクターが言っている事はもしもでしかない話だ。
でもジェラールが切り出した事ももしも、でしかない。
現実はジェラールは男で、それなのに兄とは違い武力を持たずヘクターに嫌われていて、父の後を継いで七英雄の1人を倒して皇帝の座を継いだ。
ヘクターからは帝国に攻め込んできたゴブリンを退治した後に謝罪を受けたが、もしジェラールが女であったらそもそも嫌われる事も無かったかもしれない。
ゴブリンによって王都も壊滅し、帝国も滅びの道を辿ったかもしれない。
ただ別の性別で別の立場で生きて、ヘクターの人生とは何も関係することなくその生を終えたのかも
ジェラールはヘクターに言われた可能性の世界を反芻している間に視界が滲んできてしまった。
ヘクターと関係しなかった可能性の世界を思い浮かべると涙が溢れてくるのだ。
「そんなのそんなのやだ!」
いつもならこんな時にはヘクターはジェラールの涙を指や唇で受け止めてくれるが今はそれが望めない。
要するにそういう事なのだ。
それでもヘクターはそんな自分を愛おしそうに見守ってくれる。
それは男であるジェラールの姿を見て、そんなジェラールを愛してくれる人だからこそ見せてくれる姿なのだ。
「っ、ごめ、ごめんねヘクター!私は酷い事をしている!君にとって女性のが、女性の私の方が良いと勝手に思い込んで、君を遠ざけて!」
こんなに自分だけを、自分だからこそ愛してくれる人に不安を持つなんて。
「本当はアンタに貴方に触れたいです。でも今はやめときます。
多分身体と心にズレがあって今の貴方はいつも通りではないんだと思います。」
素人判断ですけどね、とヘクターは苦笑いする。
「食事はこちらに後で届けます。明日の状況見て動きが変えられるように他の面子とも後で話し合っておきますのでジェラール様はここで休んでください。もしかしたら時間薬という事も考えられます。」
こうしてジェラールの為に整然とした動きを取ってくれるヘクターがいるのは、いつものジェラールがいるからなのだ。
優しくしてくれるのも、愛してくれるのも。
「オレは男性のジェラール様がオレの事愛してくれて受け入れてくれるから、アンタを抱きたいって思うんです。アンタの覚悟と愛情をオレも受け入れたいから。」
ヘクターを愛せるのは、ヘクターが愛してくれるのはこの身体では無いから、一刻も早く元に戻りたいとジェラールは願うのだった。




窓から薄く差し込む朝日でジェラールは目が覚めた。
「んんぅおはよへくた……?」
同室であるはずのヘクターが隣の寝台にはいなかった。
昨夜夕食を運んでくれたあとは結局こちらには戻らなかったという事か。それなら何処へ?
と考えた矢先コン、とカーテンの隙間から朝日が射し込む出窓から音がした。
カーテンを開くと今日の晴れた空と混じるような髪色の男が居た。
「おはようございます、ジェラール様。」
その足元を見ると太い木の枝がある。まさかこの木の上で寝たのだろうか。
「同室はやめといた方がいいかと思ってここなら何かあっても対応できるでしょう?」
「だからってジェイムズたちの所に入れてもらうとか。」
「あんな状態のアンタを放って?」
ヘクターの優しさはこういうところだと思う。本当にさり気ない、素っ気ないようなものなのに心が温かくなる。
ジェラールが感慨に耽っているとヘクターがじい、とジェラールの姿を一瞥する。
「あのもう触れてもいいですか?」
「え?」
「オレのジェラール様に戻ってます。」
「えぇ!?」
女性化しても申し訳程度の胸しか無かったので見た目では変化に気が付かなかった。
自分の声の変化は注意して聴かないと案外分からないものだなと思う。
それよりも一晩中外に居させてしまったヘクターを部屋に招かねばならない。
いくら気候が落ち着いているとはいえ夜にもなれば冷える。
「ヘクター、まだ少し予定の時間には早いし休むといい。私のせいですまない。」
そう言って伸ばした手をヘクターに取られるが支えきれずに少し後ろに倒れ込んでしまった。
「ジェラール様!っと!」
「ご、ごめん、ありがとう。」
ヘクターが素早く窓から進入し、倒れかかった身体を支えてくれたお陰でジェラールは事なきを得た。
「昨日の変化から戻った事で体幹も狂っているかもしれませんね。もし違和感あるようなら少し出発を遅らせてもジェラール様?」
昨日触れたくても触れられなかったヘクターに咄嗟に抱き寄せられた事でジェラールは固まってしまった。たった半日程度の事なのに、万が一もう触れる事が出来ないかもと思ったから?
身体が戻って、ヘクターに触れる事が出来て嬉しいのに緊張してしまう。
そんな複雑な心境のジェラールを見越したのかヘクターはジェラールの髪を優しく梳いてくれる。
「昨日は色々大変でしたね。でも今日はいつものジェラール様だ。」
あんなに酷い事を思っていたのに、ヘクターは深く触れずに笑ってくれる。
その優しさが身体に染み込んで涙腺が刺激されてしまった。
でももう、この腕の中に飛び込める、ヘクターに触れられる。それだけで幸せだと感じる。
ジェラールにとっての幸せがヘクターだって同じなのだ。