幸せを運ぶ兎

MHRウ教×ハ♀。
相思相愛。ウ視点。

バニーの日関連のお話。
見慣れない頭装備を着けたハ♀を見かけたウ。

緋色ひいろの斜陽の中、ゆらゆらと揺れる、鈍色にびいろをした長い兎耳が印象的な小さな帽子。

それを、どこか楽しげに、被ると言うより頭に乗せ、桜の下の縁台えんだいに座っているのは、想いを通わせ合えた愛しいキミ。可愛いお口をいっぱいに開いて、うさ団子を頬張っている。

愛くるしいその笑顔は、里の花や毛氈もうせんの色彩も霞むほど、在りし日の頃と同じ。

逢魔時おうまがときの忍び寄るこの時間、不思議と妙に人恋しく、寂しくなることがある。

今日の俺は特にそうだったようで、吸い寄せられるように駆け寄ってから「ばあっ」と、おどけたように両手を広げ、キミの正面に立った。

キミはどんぐりまなこをぱちぱちともまたたかせ、幸せそうに微笑んでくれて──嬉しかった。

「お疲れ様、愛弟子! ふふふ、かぁわいい。珍しい帽子を着けてるね?」
「ふふっ。ウツシ教官、お疲れ様です。これはロンディーネさんから頂きました、遠方のとても貴重な装備だとか」

ごくん、とうさ団子を飲み込みながら微笑むキミの瞳からは、不思議と『待ちくたびれました』と言わんばかりの光を感じられた。

今の姿にも、その笑顔にも、この胸は甘く疼いてキミへの想いで満たされていく。

「お隣、いいかい?」
「ふふ、もちろん。聞かなくてもいいのに」

ぷう、と小さく息を吐いたキミの隣にゆったりと腰掛けながら「ありがとう」と呟きつつ、俺はおもむろに、隣で揺れている可愛い兎耳へと手を伸ばす。

ふわりと、きめ細やかな手触りの、滑らかな毛並み。

可愛いキミの笑顔と調和した夢のような光景を前に、目尻は自然ととろけて、鎖帷子くさりかたびらに覆われた口元からは「んふふっ」と 笑声しょうせいこぼれた。

「お耳、ふわふわだね? とっても似合うよ、可愛い愛弟子ウサギさん」
……ウサギさんって、実はそこまで寂しがり屋さんじゃないらしいですよ?」
「えー、そうなの? それは俺が寂しいなぁ」
「ふふ……全くもう」

小さく息を吐いた後、キミははにかみながら、ほんの少しだけ俺の方に身をよじり、上目に俺を見上げてくれて。

「ま、愛弟子ウサギは、例外かも……ですよ?」
「──ッ!?」

愛弟子ウサギさんの表情に、まだまだ素直になりきれない言葉選びに、そんな中でも一生懸命俺を求めてくれることに、たまらない愛おしさが募る。

心が、心臓がぶるっと震えて、頬が、胸が、全身が、炎に焦がされたように熱くなった。

「ッ、もう、反則だッ……!」

胸の奥にしまいきれなかった言葉を溢れさせながら、いつの間にか、俺は両手でキミを抱きしめていた。

腕の中で「あっ」と声がしたが、気にならない。近くにいる里のみんなの視線さえ、何も気にならない。

可愛い兎耳が俺の鼻をくすぐって、また笑声が溢れそうになる。
俺は鎖帷子に覆われたままの唇を、ゆっくりキミの耳元に近付けた。

……ねえ、愛弟子ウサギさん。今日はこのまま一緒に、俺のおうちに来てくれないかい?」

低く囁き尋ねた俺の腕の中で、可愛いキミは小動物のようにぶるっと震えた。
嫌悪や恐怖からの震えではないことは、キミの甘い呼吸が示していて、密かにほっと胸を撫で下ろす。

ゆらりと、正面から愛しいキミを見つめ直した。

頬を赤く上気させた可愛い愛弟子ウサギさんは「ぜひ」と、高くも消え入りそうな、吐息混じりの声で答えながら、首を縦に振ってくれて。

素直にとても嬉しくて、けれど同時に何故か、少しだけ心配になって、俺は、またキミを両手で抱きしめた。

密着するキミの、とく、とくと一定の速度で鼓動する心臓の音が、体温と混じり合う。

俺の中の寂寥せきりょうを押し流すような、その・・全てが、とても心地良い。

「んふふふ。俺の可愛い愛弟子ウサギさん、捕まえちゃった」
「もう……! 心配しなくても、私、逃げませんよ?」
「ほんと? ……夜になっても、かい?」
「! あ……あなたなら、良いです」

また、ぷう、と小さくキミの吐息が聞こえた。さながら、ウサギさんの鳴き声。

途端にこの胸はきゅんと締めつけられて、全身がますます熱くなって、キミを包み込む両腕に、不意に力を込めてしまった。

「──可愛過ぎるから、今夜は、ずーっと捕まえたままにしちゃうよ?」
「だ、だから、逃げませんってば」
「ふふっ……嬉しい。ありがとう、愛弟子……

再び頷いてくれたキミの顔を見つめ直せば、その瞳には、斜陽に遣わされた寂しさに追われる、まるで狼のような俺が映っている。
理性を取り戻さなければと、苦笑しそうになってしまった。
 
斜陽を宿して緋色に染まったこの瞳は、愛しいキミを捉えて離さない。

今夜は特に、放せそうもない。

俺の大切な、愛しい愛弟子。

今日は可愛いウサギさんのキミと、夜明けまで一緒に踊ることができるだろう。

俺は幸せ者だ、俺は──独りじゃない。

だから、もう寂しくない。

可愛い兎耳付きの帽子を着けたキミを、俺は改めて、強く抱きしめた。



@acadine