kizahane
2018-07-07 23:04:05
1397文字
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裏切りの清算、一握りの友情

前世編のツァイア視点 シーセにトリプルスパイであることを問い詰められた場面

 向けた銃口。狙いは額に。間合いは有利。場の支配権は此方側。
 けれども引き金は引かない。引けない。
 存分に悪役ぶってやる心積もりだった。それなのに、苦しそうな顔をされて全く仕方ないな、と。好意の滲む苦笑を、浮かべてしまった。
 最初からお前は裏切り者だったんだろう。彼はそう言った。二人きりで話をしようと場を設けて、目を見据えてそう言った。真実に気が付いた、賢い少年。皆の前で吊し上げることをしなかった、優しい少年。その通りだご明察、それを暴くのがどういうことかは分かっているだろうと銃口を向けられて、泣きそうに悲しそうに苦しそうなに歪んだその顔は、笑えるほど幼い頃の面影のままだった。
 最初からずっと裏切っていた。けれどもこれ以上、この子を苦しめたくないなと、そんなことを思ってしまった。本当なら、自分の主になる筈だった人。強がりはうんと上手になった彼を支える、そんな未来が訪れていたなら、それはきっと、悪くない人生だっただろう。訪れることはないからこそ、それは綺麗に見えた。
「シーセ。君と僕は、似ているけど似てないね」
ツァイア」
 そんなに不安そうな声を出さなくてもいいよ、と。銃を下ろして、反対の手をひらりと揺らした。争う意思はない。
 自分は裏切り者だ。彼は嘘つきだ。自分だって嘘つきだ。彼だって裏切り者だ。彼の裏切りは、自分が唆してのことだった。手を引かなければ、彼は裏切られるだけで裏切らなかった。彼は、そういう人間だ。
 互いにもう、互いの嘘を、知っている。
 何故だか似たような嘘を吐いてしまったから、似たような嘘が見抜けてしまった。
「僕は。希望を見ているふりをしながら、絶望を見ている。君は。絶望を見ているふりをしながら、希望を見ている。どんなに誤魔化したって、僕らは違う。違うんだね」
 互いになろうとしたわけではない。誰かと自分を見比べて、選んで来た道ではない。ただ結果として、偶然として。日向と日陰に、向かい合う。
 日向に立っているふりをした。日陰に立っているふりをした。
「君は、君の希望を追うべきだよ。それでいいんだ」
 君は日の光を追うべきだ。君は此方側に来るべきじゃない。そう、首を横に振る。なおいっそう、彼の目は泣きそうに歪んだ。
「僕は、選べなかった道だけど」
 道を違えた、と表現するのは、少し違うように思う。最初から、立っている道が違っただけだ。何処かで別れたわけではないし、だからこれも、別れではない。
 隣の道に、呼び掛ける。手を振る。名前を呼ぶ。その距離が縮まることはない。
 けれどまだ、この声が届かなくなることもない。
「嘘がばれちゃったのにね。僕今ちょっと嬉しいんだ」
 君は僕を見付けてくれた。僕は、どうやら此処にいるらしい。
 見失いかけた立ち位置を確かめる。裏切り者の、己の居場所。何を成したかったのか。何を切り捨てて、何はこの手に残っているのかも、もう確かめようとしなかった。どうせもう何も残っていないのだと、そう思ってしまったほうが身軽だった。
 けれどもどうやら、まだこの手には何か残っていたらしい。友情だとか絆だとか、言葉にしたら陳腐な類いの、小さな小さな宝物。握りしめて、死地に行くには丁度良い。
「君が気付いてくれて良かった」
 悪いようにはしないから。そう微笑みかけて、彼と二人きりの場を後にした。