kizahane
2017-03-25 22:53:34
4121文字
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トカゲの魔物は魔法使い

手直し一切無しです、発掘品
Lapis-vinculumの後日談、蜥蜴亜人のニールくんがまだ喋れないぐらい小さかった頃のハロウィンの話

よく似た双子の語る仮装の由来やお菓子の意味を、あまり似ていない双子の膝の上で首を傾げて聞いていたちびっ子は、その日魔物から魔法使いになった。
「男の子だから魔女じゃないよねー」
「とは言え、それはローブというよりスカートじゃないのか?」
「足と尻尾隠すのどうやったらいいか考えてたらこうなっちゃった
まあ、こう如何にも仮装、という格好をしていれば多少見えたところでさほど問題は無いだろう」
可愛い可愛いと頻りに繰り返しながら何時もに増して表情を綻ばせているリシィスが、それは正直衣装を仕立てた人間としても思ってはいた、と気恥ずかしそうに項垂れる。
指摘した張本人であるアビスが、ケチを付けたかった訳ではないのだどうか気にしないでくれ、と申し訳なさそうに眉をハの字にしながらフォローの言葉を口にする。
だがどんなにもっともらしく理屈を並べられるより、理由を説明されるより、確かにとても可愛いな、という同意の呟きを一つ貰う方がリシィスはずっと嬉しそうだ、と小さな魔法使いはマントの紐を直して貰いながら思っていた。
難しい話はさっぱり、ちっとも分からないが、大事な人が喜んでいることははっきりと分かる、そういう年頃だった。
「にしても、お前らがこういうイベントごとに詳しいとはなー」
「現在の流行りには疎いぞ。由来を調べるのが専門分野なだけだ」
「堅物な歴史学者が誰よりお祭りごとに詳しいってのがアンバランスで面白い、ってだけだよ」
「誰よりその繋がりに実感を持っていそうな奴が言うか?」
仕上げの帽子をしっかり形を整えてから片割れに手渡したイオンが、ただ冗談を言って笑いたいだけさ、と悪戯っぽく笑って目一杯背伸びをしても低いところにある頭をぽんと撫でる。
たかだか二十数年の人生の中で調べられることしか知らない自分たちよりうんと色んな事に詳しいクセに、とアシェスも似たような笑みを浮かべ返す。
さあ最後にこれを持って、とリシィスに差し出された、旗のような飾りの付いた杖を受け取った魔法使いは、精一杯キリッとした顔を作ってぐっと其れを掲げた。
「よーし完成だよー!」
「似合ってるぞ格好いいじゃん!」
「まさかこんなに立派な仮装になるとはな」
「愛のなせる技、か?」
口々に褒められて、照れて帽子を深く被り直そうとした魔法使いは、そのまま前にずり落ちた帽子を上手く戻せなくなって直ぐに涙目になった。
直して貰って、それから直ぐに、行っておいでとあまり似ていないほうの双子に促されて隣の部屋に走っていって、言い付け通りに杖を翳して、魔法で出てきたお菓子に目を輝かせた。
「リシィも上手いこと考えるなぁ。あ、袋あけようか」
一個直ぐに食べたいよね、と微笑みかけながら飴玉の詰まった袋を一度返すように提案したレフィックが、さあ最初の味は何だろうかとマジシャンのような手付きで一つ目を取り出す。
向こう側の透けて見える琥珀色を大きく開けた口の中に放り込んで貰って、飴玉に負けないぐらいに新米魔法使いの目も真ん丸になった。
「美味しい?のはよかったんだけどごりごり凄い音してるね
嗚呼噛み砕いちゃったのか流石人間の子供とは生まれ付きの顎の丈夫さが違う、と微笑ましさと恐怖の間で、目線を合わせるために床に膝をついたままだったレフィックがそのままで頭を抱える。
二つ目を下さいとあんぐり口を開けた魔法使いが友達の元気が無いことに気が付いて、痛いのが何処かに飛んでいくあの魔法を、今なら自分も使えるんじゃないか、と期待を込めて杖の先でぺちぺちとおでこを叩いてみた。
元気になったよありがとう、他のみんなにも魔法を掛けてあげて、と手を振られて、自信を付けた魔法使いはもう一つ隣の部屋に駆け込んでぐるぐると杖を回した。
「ウヒヒかーいーなァ!チラッと見えてる尻尾ふりふりしちゃってんぞかーいーなァ!」
「えーっと、こっちの籠が食べられるハーブで、こっちの籠が食べられるお花なんだけど、気に入って貰えるかな」
「害が無いことは確定としても、花の茎部分が旨いかどうかは疑問だがな」
ばっ、とマントとローブを捲り上げて相方に怒られたアクヴィが、ちゃんと隠しとかないとなーと鼻歌交じりに言いながらぴっしり着付けをただし、美しい皺の入れ方に拘って満足げににたりと笑う。
どうしてそういったんは何か悪戯をしないと親切が出来なんだろう、と溜息をついたクリフォトが、母親譲りの知識を総動員して集めてきた山盛りのバスケット二つを照れ臭そうにおずおずと差し出す。
草食動物の味覚など分かるわけがないからな、とすっぱり切り捨てた発言をしたアンサズが、だが我が子を見守るような穏やかな眼差しを称えた目を細める。
張り切って魔法を使おうと杖を回した回数よりもずっと多く、ずっとずっと多くのご馳走を目の前にして、大魔法使いはただのちびっ子に戻ってぴょこぴょことその場で飛び跳ねた。
仮面の友達に差し出された花をはむりと咥えて、飴玉と同じぐらいにステキな甘さに両方のほっぺたを押さえてぐるぐるとその場で回って、折角整えて貰ったマントの裾を踏ん付けて転んだ。
「いーよいーよ、オニーチャンが何回だって直してやんよ?」
さっきの直し方が悪かったんじゃ」
「有り得るな」
あんまりな誤解だと憤慨する声をバッグに、間違いなく、問題なく、茎まで葉まで美味しかった花をごっくんと飲み込んで、もう一本むしゃりと咥えて、怖い物なしの天才魔法使いは隣の隣のそれからもう一つ隣の、数えていたら分からなくなった作業部屋に威勢よく飛び込んだ。
ずびし、と突き付けた杖を見ても貰えなくて、何も起こらなくて、帽子はやっぱり走った拍子にずり落ちてしまって、急に魔法の使えなくなってしまったちびっ子は、泣き出しそうな声で友達を呼んだ。
おいトカゲ、るあってなんだよ、略した上に言えてねぇだろ」
作業の手を止めさせるんじゃねぇよ、とうんざり振り返ったウォルカが、一体何のようだと乱暴にしゃがみ込んで泣き顔を覗き込み、暫く困った顔をしたあとで、ふと気が付いて杖の先の旗に書かれた文字を読む。
親代わりの神様が、此で魔法が使えるようになるよ、と授けてくれた魔法の文字になんという言葉が書いてあるのか、まだ卵から孵って間もない魔物の子には読めなかった。
お菓子を、まで音読したウォルカがぐっと残りの言葉を飲み込んで、分かった分かったと繰り返してとんがり帽子の角度を直して、ごそごそとテーブルの上を漁る。
「チョコとか食わせていいのか?いやわかんねぇなら止めとけ、一番シンプルなのどれだ、これか?」
上半身人に化けてたって元は草食ってるトカゲだもんな、などとぶつくさ言っていたちょっと怖い友達にビスケットを貰って、ちょびっと魔力を取り戻した今日だけの魔法使いはぎゅーっと目を瞑って涙を引っ込めた。
がぶり、とかじりついたビスケットが砕けて半分ぐらい床に落ちてしまって、拾い集めて貰いながらまた涙が溢れて来そうになりながら、何時か床一面にご馳走を並べられる伝説の魔法使いになるんだと魔法の杖をぎゅっとぎゅっと握りしめた。



「あれねぇ、お菓子を貰う魔法が使えるようになったんだって素直に信じてて、自分の力不足のせいで効かない人もいたんだと思ってたんだよ。思ってたんだけど実はすっごい単純なギミックが仕込まれててね」
「分かりました、杖の先に『お菓子を下さい』って書いた紙が付いてたんでしょう!?」
「大正解!」
語尾にハートマークまで付いてたんだようちの神様ってばお茶目でしょう、と影でこっそり重ねた修行が無意味だったことを今は知っている元魔法使いは手を叩いて笑った。
思い出話に付き合ってくれる友達が目を輝かせてくれるのが本当に、とても、嬉しくて仕方が無いぐらいステキでキラキラした思い出なのだ。
共感して貰えることが嬉しかった。
「でねー、だからね、八百屋の娘さん、今日のご飯にカボチャパイをリクエストしていいですか?」
「え、何時も生野菜ばっかりじゃないですか。調理してなくていいって」
「うん、そうなんだけど、その後みんなでパーティーしたとこまで懐かしみたいなーって」
「じゃあ、偶には繋がりで巣穴から出てきません?」
「いや別に引き籠もってないよ!?此処を守るのが神様との約束だから此処にいるだけだよ!?」
くすくす笑って、散々笑ってから、ええ勿論知ってます、と掌を返した友達が、じゃあ早速準備を始めなきゃとスカートの裾をマントのように翻して駆けだして、入り口でぴたりと止まってぐるりと振り返る。
「ニールさーん!」
「なにー?」
「ニールさんは大人で、私はまだ子供ですよねー?」
「子供扱いされると嫌なお年頃なんじゃないのー?」
「だからー、お菓子用意してくれないと悪戯しちゃいますからねー!準備か覚悟かどっちかしておいてくださいねー!」
今日は例外です、と宣戦布告をして言い逃げとばかりに走り去ったのは魔女見習いだろうか、それとも小悪魔見習いだろうか。
ぽかん、としながら見送って、どうにか攻撃をかいくぐる作戦を考えつつ、対戦相手の言葉を順番に反芻して、それから少し、寂しくなった。
偶には、って僕じゃなくて、神様こそ一緒にパーティーお呼ばれしてくれてもいいんじゃないかなぁ」
「お土産持ってきてくれたら、それを囲んで此処で二人でやってもいいよ」
「ん!?」
今何か、耳元で笑った人がいはしなかったか、ときょろきょろした拍子に尻尾の先を中途半端なところに起きっぱなしだった椅子の脚にぶつけて、体を丸めて蹲る。
爪先をぶつけるぐらいの不意打ちを食らうし、何せトカゲの仲間は尻尾が切れてしまったりすると恐ろしいことを聞いてしまったので、尻尾が痛いとお腹が痛いぐらいに泣きたくなる。
「もー、お菓子貰ってくるから悪戯しないで下さいよー
それにどうせなら三人がいいです、と愚痴った元魔法使い現聖獣の両耳で、懐かしい別々の声で考えとく、の声がして、慌てて振り返ったら今度は机の角に角をぶつけた。