kizahane
2016-11-23 23:38:16
2368文字
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シノビガミセッション「怨霊の腕輪」 導入


 六大流派の一つ、斜歯忍軍。八咫重工業を活動母体とするかの流派は忍びの世の工業化に余念がなく、肉体の大半が機械化されたサイボーグすら所有する。
 そんな斜歯忍軍から下された任務は、宝物殿から盗み出された「怨霊の腕輪」の奪還。おおよそ斜歯には似つかわしくない怨霊という言葉の響きだが、斜歯はあらゆる忍法や妖術の普遍化や一般化、一子相伝の技術をプログラムに変換し、誰もが扱える形にする研究を行っている。おおよそ、その資料として保管していたものだろう。
 いずれにせよ、それの由来など、雇われた忍者に関係はない。余計な詮索をせず指示にしたがったほうが利口な世界だ。勿論、皆が皆そう物分かりのいい優等生ではないのだが。
 しかしながら、呼び出された施設の外観は、多くの忍者にとって意外なものだっただろう。厳かな空気漂う、静かな神社。鉄の壁と送電線のよく似合う斜歯忍軍らしからぬ、木組みの建築物。
 一行は出迎えの案内人に従い、なにかに見られているような緊張感と、なにかに守られているような安心感の同居する、独特な静寂に包まれた廊下を進む。そうしてその場には似つかわしくないが似つかわしい、自動扉やコントロールパネルが増えるにつれ、嗚呼確かに斜歯だと一つ肩の力を抜くことだろう。
 幾つもの廊下を渡り、幾つもの角を曲がり、案内人が自分は此処までと一行に一礼して隠し通路に去っていく。
 案内人が最後の仕事としてロックを解除した扉の先で、一人の少女が、長い黒髪を翻した。振り返る彼女の、努めて表情を抑えた顔には、深い憂いが満ちていた。
「来て、しまわれたのですね」
 その悲しみを噛み締めるように、彼女は言う。それから、深々と一行に頭を下げた。
「お初にお目にかかります。御釘衆、須川三言。皆様を宝物殿へお連れいたします」
 くるりと踵を返し、背筋を伸ばして歩く少女に一行が続く。更に幾つもの扉をくぐり、辿り着いた部屋で此方です、と少女が空の台座を示した。
 怨霊の腕輪、とは、その名の通りの代物だ。それが怨霊を封じるための物だったのか、 怨霊を宿すための物だったのか今となって分からないが、触れただけで害をなす程の強い呪詛を放つものであることは間違いがない。それを、勇敢なのか無謀なのか、何者かが盗み出したのだという。取り戻せ、というのが今回の指令だ。
 ですが、と少女は重く口を開いた。
「わたしは再三、その必要はないと訴えてきました。わたしは星見の力を持つもの。未来を、運命を見るもの。怨霊の腕輪は、じきに此処に戻ります。そして我ら御釘衆の流儀は、歴史の流れに干渉しないこと。皆様の手で怨霊の腕輪を此処に戻すことを、よしとはできません。取り戻すのではなく、戻るときを待つべきなのです」
 それがあるべき運命なのですから、と、少女は毅然と述べる。だが凛としたその顔は、苦々しく、憎々しく、歪む。
「皆様に恨みはありません。ですが、皆様が此処にいることは、わたしの言葉が受け入れられなかった証明口惜しく思います」
 項垂れた少女が、両の手を強く握る。それから再び顔を上げ、一行を真っ直ぐに見た。
「繰り返しになりますが。わたしは、この依頼は無意味なものであると考えています。そして、皆様にはなんの恨みもありません。怨霊の腕輪は所持することすら危険な代物無意味なことの為に、皆様を危険にさらしたくはないのです。ですから、お伝え致します」
 そう言って少女は、懐から一枚の札を取り出す。怨霊の腕輪の力を抑えるための、特殊な護符。それは、有事の際に安全に怨霊の腕輪を移送するため、一枚だけ作られたものだという。
「わたしはこの存在を皆様に明かす必要があるのと同時に、皆様にこれをお渡しするわけにもいきません。隠せば皆様を危険に晒すことになりますが、渡せば、無意味な任務に協力するのと同じこと。わたしは、常に此処に詰めています。札はわたしが所持しています。渡してくれと言われて、簡単にお渡しする訳にはいきませんが腕ずくでも、と考えるなら、容易いことでしょう」
 一行は、忍びであり、戦意を感じ取ることには常人より遙かに長けている。そして今、少女には、一行と争う意思はない。戦え、という意味ではないのだと、一行は理解することができる。例え腕尽くでも、という意思を示せと言っているのだと。そこまでの覚悟があるのなら、折れてもいいと。
 一行は、忍びであり。なのだから、敏感に、遮蔽物があろうと、それを察する。それが侵入者のものであることを、理解する。
 瞬時に、共に此処に通された他の忍びを窺う。それは目配せでもあり、現れた侵入者に合わせ、この機に乗じて刃を抜く者がいないかの警戒でもある。少なくとも、この場で反旗を翻す者はいなかった。
 辺りに、緊張感が満ちる。
 破ったのは、他でもない、壁越しの侵入者の気配だ。それは、此方に向かうのではなく、遠ざかる。分が悪い、と判断したのだろう。
 忍び達が、空間を切り裂くような鋭さを持った警戒心を沈める。ほっと胸を撫で下ろした少女が、一行に言葉を掛けた。
「皆様をお迎えするために、セキュリティのレベルを下げていたんです。そうしなければ、皆様が五体満足で此処に辿り着くことはできませんから。皆様がお帰りになれば、元のセキュリティレベルに戻します。どうぞ、ご心配なく。仮に侵入者が再びやってこようと、皆様がお帰りになったほうが安全です。この場はお引き取りを。どうぞ、お気を付けてお帰りください。間違っても、みだりに物や壁に触れたりしませんように
 間違えばどうなるかは今申し上げた通りです、と、僅かばかり少女らしい悪戯っぽさを覗かせた少女が、ぺこりと頭を下げて一行が立ち去るのを見送った。