kizahane
2016-06-29 20:20:59
3537文字
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【シュガキュー・番外編】夏野菜を使ったポタジエスイーツ※スイーツ出てきません

セーレが野菜を育ててみたくなった話 芽も出てません 自創作からゲスト登場あり

 かこん、と一つ音をさせてポストに届いたカードを見て、神様は目を真ん丸にしました。
「お野菜ってお庭で作れるの!?」
 神様は、野菜というのは、どこか遠い、自然の豊かな、建物のない広いところに、ででーんと一面の畑を作って育てる物だと思っていたので。それはもう、とてもとてもびっくりしました。
 だってこんな、確かに建物は少ないけども、お花も咲いているけども、自然じゃなくて不自然というか、きっちり手入れされたお庭なんて人工物のようなものだし、見渡す限りに緑が広がっていたりしないし。
 だってだって。こんなところで。
「作れないよね?作れるの?作れるの!?すっごいね!!」
 神様は信じられない気持ちで一杯でしたが、頭は柔らかかったので、さっくり、お庭でもお野菜は育てられる、という衝撃の新事実を受け入れました。そして一つ賢くなった神様は、こう思いました。
 僕もお庭でお野菜作ってみたい、と。

 神様は、お花を育てたことがありません。
 何故なら、お花はそこに「ある」ものだったからです。
 だからこのお庭の花壇には色取り取りに色んなお花が咲き誇っているし、薔薇の生け垣が紫陽花に変わったりもするのです。だってそこに「ある」ものだから。
 ですが神様は、野菜は「育つ」ものだと思っていました。
 「ある」のではなくて、「育つ」「育てる」ものだと。
 だって、「ある」ところをあんまり見たことが無かったのです。それよりずっと、「育て方を変えたら例年より豊作になりました」とか、「新たに土地を開墾して新たな作物を」とか、そういう、「育てる」話を聞いたことの方がずっと多かったのです。
 だから神様のお庭に、野菜が「ある」ことにはなりません。なんとびっくり花壇の隅っこにお菓子にするのに丁度良いお野菜が、なんてことにはできませんでした。

 神様は昔人間でした。
 それが何百年前なのか、何千年前なのか、神様にはちっともわかりません。だって昔のことは覚えていないのです。
 家族の顔も分かりません。友達の名前も分かりません。いたのかどうかも分かりません。
 でも神様は、自分は人間を好きだから、大好きだから、きっと人間の友達がいたのだろうなぁと思っています。
 大切な人が、沢山沢山、いたんだろうなぁ、と。
 そして神様は知っています。顔も名前も忘れてしまった人達には、もう会えないことを。
 神様は自分がとても長生きだと知っています。
 だから知っています。
 もう誰も、生きては居ないと。

 さて、神様には、農業の知識がありません。なにせお花だって育てたことがありません。
 当然一人では何にも出来ないので、野菜を育てるためにまず取りかかったのは魔方陣を書くことでした。一人で何にも出来ないなら、誰かの力を借りればいいのです。
「全然思い出せないけど確か居たはずお野菜作りに詳しい人、だーれだっ!」
 そーれっ、と両手を振り上げて、辺りがまばゆい光りに包まれて。
 魔方陣があったところに、立っていたのは一人の男性。たてがみのような髪をした、逞しい、がっしりした体つきの、背も高い一人の男性でした。
 それは神様の記憶の欠片です。思い出せない誰かの思い出が、ほんの少し力を持ったもの。
 フェイク、と神様は呼んでいました。
「えーっと、お名前お名前なにがいいかなアズ?」
 その男性は、神様が首を傾げるのに三秒ぐらい遅れて、ゆーっくり首を傾げました。どうやらこのフェイクの元になった人はのんびりした人だったらしい、と神様はくすくす笑います。断片になってもそうなんだから、きっとよっぽどだったんだなと口元を隠しながら笑いました。
「じゃあフェイク・アズ。お野菜を作りたいんだけど、どうしたらいいかな?」
場所は?」
「んとね、この辺が空いてるよ!足りる?」
「何を作るんだ」
「えっなんだろな、夏野菜?でお菓子を作りたいんだけど
「お菓子か。食べるのか」
「うん、僕食べる」
「じゃあ狭くていい」
「こんな狭くていいの?あっちの丸いテーブルのが大きいよ?」
「食べきれない」
「そっかぁ」
 アズが爪先で四隅にちょちょんと印を付けた範囲は、お布団よりももっと狭くて、あんまりにも自分が持っていた野菜作りのイメージと違うので、神様はびっくりしました。しましたが、なにせ詳しくないので、詳しい人にお任せすることにしてこくこく頷きました。
「農具は」
「あっえっとねぇ、多分小屋開けたら入ってると思う」
 僕が開けても入ってないから開けて開けて、と神様はアズを小屋に連れて行きます。アズは神様よりずっと背も高くて脚も長くて歩幅も広いはずなのに、しゃかしゃか動いてはくれなかったので、神様はうんしょうんしょと一生懸命アズの腰の辺りを押すことになりました。のったくったとしか動いてくれないのです。ちょっと疲れました。
 そしてアズが開けてくれた小屋の中には色々、色々入っていましたが、神様は思いました。
 僕スコップしか分かんないや、と。

 神様には何が何だか分かりませんでしたが、囲いを作ったり、土を引っ繰り返したり、土に何か混ぜたり、土で形を作ったり、土に棒を立てたり、棒に網を掛けたり、種を蒔いたり、苗を植えたりしました。
 アズは、のんびりやさんで、のっそりもったり動くのですが、なのになんだかてきぱきしていて、無言でてきぱき働いていて。神様が周りをちょこちょこしながら、どうしよどうしよとおたおたしながら覗き込むと、じゃあ、これ、やれ、とちゃんと神様でも出来ることを指示してくれて。僕にも出来た、と振り返ると何かが終わっているのです。何かが。さっきとは違うことをやっているので、きっと終わったんだな、と辛うじて分かる程度の何かが。
 試しに、何をしているの、と聞いてみたら、畑を作っている、と言われました。
 ちょっと楽しそうでした。ちょっとキリッとしていました。
 アズは口下手さんだなぁ、と神様は思いました。楽しんでくれてるならいいや、一生懸命お手伝いしよう、と思いました。
 そうして出来上がった小さな小さな畑の前で、二人はとても満足げでした。
 アズは自分の仕事に満足しているようでした。鼻でも掻いてしまったのか、顔にも土を付けながら、誇らしげに胸をはっていました
 神様は、アズがなにをしてくれたのか、どうやって畑が出来たのか、何を植えたのかもよく分かっていませんでしたが、アズが満足できるいい仕事をさせてあげられたことに、主として誇らしげでした。
「できた」
「ありがとう!わーい!で、この後どうしたらいいの?」
「夜が来て、朝が来て、夜が来たら、勝手に育つ」
「ん?僕詳しくないけど、育て方って色々あるんじゃないの?なにがあるのか知らないけど、えーっとえーっと」
「お前、できないだろう」
 だって、と淡々とアズに言われて、神様はうぐっと言葉に詰まりました。育て方云々、収穫方法云々、と聞いたことはあるので、色々あるのは分かるのです。でも何が普通のやりかたで、何が特別なやりかたなのかも分かりません。
 たったのひとつだって分かりません。
「で、できない
「ならお前がすることはない。夜が来て、朝が来て、夜が来たら、勝手に育つ」
 いいか、とアズはもう一度言いました。同じことを、言い聞かせるように。ぽんぽん、と神様の頭に手を置いて、目を細めて言いました。
 偶に雨を降らせてやれ、偶にでいい、最近晴ればっかりでつまらないなと思ったら降らせてやれ、とも。
 ねぇ、と神様は言いかけました。君は誰だったっけ、と。
 フェイクはフェイクです。本物ではないのです。
 本物の事なんて、ちっとも、全然、知っているわけがないのです。
 聞かれたって困るのです。
 神様は、困らせることも出来ませんでした。
 ねぇ、と言ったところで、アズは消えました。現れたときと同じように辺りをまばゆい光りが包んで、収まったときには消えていました。
 畑を作りたいから、と呼んだフェイクで。畑はできたから、もう、お終いでした。
 口を噤んだ神様は、自分の頭を触りながら、なにが育つのかも分からない畑を見下ろしました。
 なにを植えてくれたのか、分かるときが楽しみでした。とてもとても、楽しみでした。
 それからうんと、伸びをして。青い空を見上げました。
「収穫の仕方、誰かに教えて貰わなきゃなぁ。それぐらいなら他のお庭の子も知ってるかな?」
 今度はフェイクじゃなくて、お友達を呼ぼう、とうきうき予定を立てながら。
 神様は、今日もにこにこ笑います。