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kizahane
2016-06-02 20:23:56
2447文字
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【シュガキュー】紫陽花のカップケーキ
セーレがお客様をお迎えする準備をしてるお話
今日も心の神様のお庭は、彼の心と同じように、朗らかで暖かい日差しで満ちていました。
爽やかな快晴によく映える、お庭の真ん中にどどんと置かれた、装飾の細やかな、雲のように真っ白な長机。お城がとてもとても似合いそうなこの机の両脇に、ずらりと椅子を並べてお茶会をしたら、それはそれは格好いいに違いない。立食パーティーなんかもいいかもしれない、なんて、大勢の人で賑わうこの庭の光景を想像したりしてみたりして。
けれども、だけどもまずは。小さな丸テーブルで、二人か三人か、それとも四人で。小さな机をぐるっと囲んで、たまに話が弾みすぎて身を乗り出したりしてしまいながら、ゆっくりお話をしてみたい。
そう思って庭の主は、せっせと自分の庭に椅子と机を並べるのです。その二本の腕で運ぶのです。
わっせわっせと働いて、もしも彼の知り合いが此処に顔を覗かせてくれたなら「神様ってなんだっけ」と呆れられそうなことなどお構いなしに、楽しく勤労に励んでいたその時に。カコン、という音がして。はてこれはなんの音だったっけ、ときょとんとして。音のした方向をきょろきょろ探して。
ぴこん、と閃いた庭の主がいそいそ小走りで駆け寄ったのは、お庭の片隅の、やっぱりこれも、机と椅子とお揃いの、雲のように真っ白な小さなポスト。
取り出したのは一通の封筒、その中からは一枚のカード。
「『紫陽花のカップケーキ』、かぁ」
掲げ持って、特に意味もなく日の光に透かして見たりして。足元が不注意のまま、庭に三つ置かれた金色の台座のもとに。まるでガラス玉のペンダントトップのように、金の輪っかにぽこんと填め込まれた真ん丸の青空のもとに。宇宙の中の水玉のようなそれに背を預けて、ぽにょん、と揺れた青空の中にするんと入って、包み込まれて。そのままころんと頭を下にしてみたり、膝を抱えてぐるんと方向転換してみたり。
その青空は、お気に入りのハンモックのようなものでした。黄昏れてみたい気分の時は夕焼けの空、愛しい人に想いを馳せてみたいときは満点の星空。その神様は、どこか懐かしい匂いのする空に抱かれて、ゆっくり考え事をするのが好きでした。
「紫陽花の庭を見ながらお茶がしたいって、誰かが言ってた気がするなぁ」
ぽつりと呟いていた言葉が、びっくりするほど自分でもしっくりして。よしこれだ、と思い立って。うんしょと青空を飛び出せば、真ん丸がぷるぷる揺れて、面白くって可愛らしくて、二、三回指で突いてぷるぷるさせてから、庭の主は自分の庭の真ん中に立ちました。
大きく息を吸って。ゆっくり目を閉じて。深呼吸にあわせてしっかりばっちり両手も開いて。瞼の裏に思い描く、あの子が見たいと言った紫陽花の庭。あの子が大好きな大切な誰かと見たいと言った、きっと見られた、紫陽花の庭。
「そーれっ!」
掛け声と一緒に、ぱーん、と勢いよく両手を合わせて。それからそうっと、それからそうっと、両目を開ければ。
紫陽花ってこんなに色んな色があったんだ、なんて目を輝かせてしまうほど。色取り取りに咲き誇る、よひらの花。
やったやったとはしゃいで手を叩いて、長机の周りを走り回って、どの席からでも素敵な光景が見られることをチェックして。自分の仕事に満足してふふんと胸を張って。
けれどもそれから、神様は思いました。紫陽花のお庭なら、雨音が聞こえた方が素敵なんじゃないだろうか、と。
ぱちんと指を鳴らして、ぽすんと腕の中に落ちてきた、両手で抱えられる大きさの噴水をおっとっとと抱きかかえて。えっさほいさと、あのお気に入りの青空ハンモックの、金のフレームのその上へ。噴水に着いた飾りの石を、かこん、と一つ押し込めば、湧き出る一筋の水がぐるりと。鳥が翼を広げるように、ドレスの裾が翻るように。ぐるりと一週回って、回った分だけ広がって。360度広がる水のカーテンの裾に引っ込めそびれた手をくすぐられて、冷たっ、と声を上げて、それからどこまでも抜けるような青空を見上げて。
輪っかの中の青空に、やんわり染み込む水の玉。さぁ、と優しい音をさせて、紫陽花を濡らす水の雫。
いい音だと思いっきり伸びをして両手を広げても、その手が雨に濡れることはないのです。美味しいお菓子を並べる予定の白い机が、雨に打たれることもないのです。
何故なら噴水は、外に広がる物だから。何故なら此処は、噴水の真下だから。見上げた快晴に、噴水の影が映ることはないけども。
そして神様は、うんとうんと伸びをして、ご満悦に鼻歌を歌って。視線を降ろして辺りを見回して、そして気が付きました。
「
…
あれっ、このお庭の入り口ってどこだっけ?」
そう此処はお庭の真ん中で、真ん中だから濡れないのです。そして入り口とは、外側にあると相場が決まっているものなので。
わぁどうしようと声を上げた神様は、あわあわしながら、そうだ招待状に傘をお持ちくださいって書かなくちゃ、とおろおろしながら、大慌てで傘立ての準備をするのでした。
お菓子の案内を届けてくれた真っ白ポストに手紙を入れて、お願いしますとぺこりとお辞儀をして。後日お庭に届いたのは、アイシングで紫陽花の花が一杯に描かれた色取り取りのカップケーキ。
真ん丸の机の真ん中に、真ん丸の台を一つ置いて、その上にも一つ小さい真ん丸の台を置いて。段々に積み上げたカップケーキの周りに、ごめんねちょっと分けてねと、摘み取ってきた紫陽花の葉を並べれば。
白いテーブルの真ん中に、こんもり丸い、甘い甘い紫陽花の花。
流れる雨音を伴奏に、お気に入りの歌を口ずさみながら神様は、お客様が来てくれるのをわくわくそわそわ、どきどきしながら待っていました。
そしてお庭の片隅の、ぽつんと佇む木の扉。雨に濡れてますます濃い色に染まった、古めかしい焦げ茶の扉。
がちゃり、と開く音がして、お庭のどの紫陽花にも負けない、大きな大きな笑顔の花が咲きました。
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