アカ
2024-12-20 10:29:33
5627文字
Public ヴァンアニ
 

愛おしい我が子

ヴァンが父親になる話。自分の出自も含めてヴァンって悩みそうだよねって想像から湧いた話です。

アニエスが子どもを身ごもった。嬉しいことだ。
だが、ヴァンの心は不安な気持ちで一杯だった。
魔王の因子を受け継いでしまう可能性だってある。
そして何より自分がいい父親になれるか分から
ない。だって、自分は捨てられて育ってきたから。

そんな不安を抱きながら、数日が経った。
「ヴァンさん、話しませんか?」
アニエスにそう言われて屋上に出た。
「いい風
アニエスと屋上から景色を眺めていたヴァンだった
がアニエスが寒そうにしていたので、上着を貸す
ことにした。
「ほらよ。あんまりここにいると風邪を引く。
話なら、中で聞くからよ。」
「ふふありがとうございます。」
中に入ろうとしたら、アニエスに声をかけられた。
「ヴァンさん、なにか悩んでないですか?」
アニエスにそう言われたときにヴァンは悩んでいる
ことを話そうと思ったが、無事に子どもを産んで
欲しいといった思いからウソを言うことにした。
「ねーよ。今はアニエスが無事に子どもを
産んでくれることだけを願っている。」
だが、アニエスはヴァンの手を優しく包み込んで
言ってきた。
ヴァンさん覚えていますか?」
なにを?」
「ヴァンさんにプロポーズされたときのことを。」
忘れるわけねーよ。」

アニエスにはトリオンタワーの展望台でプロポーズ
した。自分でもどうかと思うが、付き合う過程を
飛ばしてプロポーズ。散々悩んだ。ある程度
付き合ってからプロポーズした方がいいとか。
だが、アニエスの想いは恋を通り越して愛になって
いる。それなのに付き合うという行為は何となく
違う気がして、ヴァンはプロポーズすることに
した。それが正しいことか分からなかったので、
アーロンたちに相談したが。
「いいんじゃねーか?」
「お前なこっちは真剣にー。」
「まぁ聞けよ。意識してねーかも知れねーが
付き合っているレベルのいちゃつきぷりだったし、
やっと覚悟を決めたかって感じなんだよ。」
マジ?」
周りを見ると全部頷いていた。そんな甘えた
つもりはないと思っていたヴァンだったが、
フェリの言葉にトドメを刺された。
「はい!すごい甘えっぷりだったかと!
アレが大人の関係ってものでしょうか?」
「うーん。大人の関係っていうより
「大きな犬がじゃれっているって
感じだったわね。」
「ぶわっはは!!大きな犬だってよ!」
「笑うな!!」
アーロンたちに散々揶揄らわれて拗ねていたヴァン
だったが、ベルガルドに肩をポンと叩かれて
励まされた。
「ありがとうございます、師父。」
励ましてくれるのは師父だけだー。
そう言おうとした。だがー。
「ヴァンよ、いつ式をあげる?」
「アンタもそっち側かよ!?」
「では式場をお探しします。」
「リゼット!お前も乗るんじゃねぇ!!」

そんなやり取りをしたあとにヴァンはプロポーズの
準備をすることにした。1人でこっそりやる
つもりだったが、リゼットたちにバレて気が付いた
ら手伝って貰っていたが。プロポーズの手順は
こうだ。アニエスを買い物という名目で連れ出した
後に最終的にトリオンタワーで休みたいといい、
展望台まで行く。そこでプロポーズ。我ながら完璧
な計画だ。アーロンの監修付きだったが。

夜の町を探索しながら歩いた。そのたびに
アニエスの横顔を見ながら、ヴァンはいつ
言おうかと悩んでいた。
あのヴァンさん?どうかしましたか?」
「あー.そのなんだ.よく似合っているぞ、
その服。かわいいお前に合っている。」
「あ、ありがとうございます。」
出かける前にリゼット、ジュディスに呼び出された
後に出てきたアニエスは普段とは違った服装に身を
纏っていた。白いワンピースに黒いタイツ。
上から羽織っているのは上品なコート。
そして、何より髪型が違った。いつもはお団子に
している髪を下ろし、髪の毛を外側に入れ込んだ
外巻きにしており、その髪型が今の上品な
アニエスに似合っていた。その姿にビックリした
ヴァンはしばらく言葉を発せなくなっていたが
なんとか持ち直し、出かけることにした。
買い物を済ませているアニエスに何度も
「かわいい」、「似合っている」ー。
そう言おうとし、その度にタイミングを逃し、
先ほどやっと言えた。恥ずかしそうにし、でも
嬉しそうにしているアニエスを見ながら
ヴァンは「なんて愛おしいんだ」と思い、
平穏を装いながら言った。
「ちょっと寄りたい場所があってな
よかったら寄っていいか?」

トリオンタワーの展望台で外を眺めた。
「やっぱり何度きてもいいですね。」
そうか。」
アニエスが楽しそうに笑っているのを見て、ここを
選んだことは間違いではなかったと考えながら
ポケットに入っている箱を触った。その中には
アニエスのために選んだ指輪が入っていた。
その箱を触りながら、結婚指輪を選んだときの
出来事をヴァンは思い出していた。

「アニエス様の指輪のサイズはー。」
さらりとアニエスの指輪のサイズを把握している
リゼットにヴァンは思わず突っ込んでしまった。
「いや、なんで把握してんだよ。」
「この前ー。ヴァン様がプロポーズをすると
お話しされた際に必要だと思い、独自に
動いていました。」
さすがリゼットというべきだろうか。ヴァンの次の
様子を先回りしていた。
「指輪のサイズもわかったし、あとは種類ね!
知り合いに宝石店の店主がいるの。
連絡してみるわ。」
そうジュディスは連絡をしようとしていたが
ヴァンは悪いと思い、断った。だがー。
「は?あたしがやりたいからやるんだけど。
それともアンタのために全部やっているって
思っている?」
「ま、そういうこった。こっちは好きで
やってんだ。好きに介入させて貰うぜ。」
たっく。お節介過ぎだろ。」
「だれかさんのせいで、こんなお節介な性格に
なっちまったんだよ。責任は取れよ?」
仕方ない。ここまで言われたなら、協力して
貰おう。それに、誰かに気にかけて貰うという
行為は悪くない。そう思ったヴァンはアーロンたち
と協力して指輪を探すことにした。まずは
ジュディスの知り合いである宝石店の店主に
会った。
「話は伺っております。なんでもプロポーズ
するとか。」
まぁな。」
「では、こちらはどうでしょう。」
そう言って店主が差し出してきた指輪は、
なんていうかー。派手だった。
「うーむ。」
「では、こちらは?」
アニエスに似合う気がしねーな。」
「そうですか。ではー。」
そんなやり取りをして2時間は経った。
「いつまで悩んでだよ、オッサン
飽きてきたんだが。」
わかっている。悩み過ぎなことなのは。さっさと
決めて買えばいい。だが、アニエスの喜び姿が
見たくて。どうしても決まらない。眉を曲げて
真剣に悩んでいたら店主はフフッという声を
出して笑った。
「あーすまねぇ。時間をかけ過ぎだよな。」
「いえ、アニエス様は幸せものだなと思った
だけですから。これだけ真剣に悩んでいると
言うことは、それだけ大事な相手なのでしょう。」
まぁな。」
恥ずかしかったが、そこは誤魔化してはいけないと
思い、ヴァンは素直に答えた。
「どうぞ時間をかけてお選び下さい。
今日は貸し切りですので。」
ジュディスを驚いた顔で見るとイタズラが
成功したような顔をしていた。
「アンタのことだから、きっと迷うって思った
のよね。ま、そういうことだから、納得するまで
選びなさい。」
ジュディスに感謝しながら数時間かけて、
やっと見つけた。その宝石は淡く儚いピンク色を
しており、アニエスにピッタリだとヴァンは
思った。
「ふむ。」
なんか問題があるのか?」
ヴァンは不安になり、店主に聞いたが店主は
首を振り、嬉しそうに微笑みながら言った。
「この宝石の石言葉は、『無限の愛』ー。」

そのやり取りを思い出しながら、ヴァンは
アニエスにプロポーズしようとし、勇気を
出して声を掛けた。
「アニエス。」
「どうかしましたか?」
「好きだ、愛している。」
「え
アニエスは驚いた顔をしていた。断られる可能性
だってある。だが、今更引けないと思ったヴァンは
考えてきた言葉を紡いだ。
「お前が俺の幸せを願ってくれているようにー。
俺も願っている。俺以外の奴の方がお前を幸せに
してくれるかも知れねぇ。だが、お前を俺が幸せに
したい。我儘で身勝手な願いだ。
そんな俺でもー。」
そう言うとヴァンは指輪を取り出し、アニエスに
差し出した。
「一緒に幸せになってくれないか?」
そう言うとアニエスはポロポロと涙を溢し始めた。
「わ、わりぃ!!今の言葉、取り消した方が
いいか!?」
「取り消さないで下さい!」
キッと睨むアニエスにヴァンはどうすることも
出来ず、謝るしかなかった。
「スイマセン。」
「ずるいですこんなの。一緒に幸せになるに
決まってます!!」
そう言うとアニエスはヴァンに抱き付いてきた。
あたふたしたヴァンだったが、おずおずとした
手付きでアニエスを抱きしめ返した。
そのなんだこれからよろしく頼む。」
「はいッ!」

そんなやり取りをして、結婚した。
忘れるはずがない。
「あのとき約束しましたよね。お互い隠し事は
しないって。悩んでいたら、相談して
お互い支え合って行こうって。」
「そうだったな。なぁ、アニエス。
俺はいい父親になれると思うか?」
「ヴァンさん。」
アニエスは優しく微笑みながら言ってくれた。
「はい。ヴァンさんなら、きっといい父親に
なれるって思います。」
アニエスならそう答えるとヴァンは信じていた。
だが、不安は消えず、ヴァンは今抱えている
不安を口にした。
「アニエスと結婚して家族ってものを
手に入れることができた。」
アニエスと結婚して、ロイと家族になって。
アニエスとは色々な場所に行った。その度に
アニエスと結婚してよかったと思えた。
けど、俺は父親ってものがわからない。
お義父さんー。いや、こう言うと怒られるから
ロイさんって呼ぶが。」
ヴァンは今だにロイにお義父さんと呼ぶことが
許されてない。そう呼ぶ度にロイが「キミに
お義父さんと呼ばれる義理はない!」と言われ、
勝負を挑まれるからである。
「まったくお父さんったら。」
アニエスは恥ずかしそうな顔をして、ヴァンの話を
聞いていた。
「それだけ愛されているってことだろ。
俺はそういった記憶がない。ロイさんの背中を
見て父親という存在が身近に感じられている
今さえも。だからー。子どもを愛せる自信がない。
家族としてうまく接する自信がない。」
不安気に揺れているヴァンの瞳を見ながら、
アニエスはしっかりと言った。
「大丈夫ですよ、ヴァンさんなら。父親に愛された
記憶がないって言いましたよね?」
「ああ。」
だから、不安で仕方ない。子どもを愛せるかー。
愛せない可能性だって多いにある。
「愛された記憶がないってことは、きっと
寂しいことがたくさんあったって思うんです。
傷付いたからこそ、子どもに同じ思いは絶対に
させないー。だから、ヴァンさんはいい父親に
なれます。」
そうアニエスがヴァンの瞳を見ながら、ハッキリと
言ってくれた途端に胸のつっかえが消えた気が
した。
ダメダメな父親になるかも知れないぜ。」
「そんなことありません。それに私がいるから
大丈夫。1人じゃなくて、2人ならきっと
乗り越えられますよ。」
アニエス。」
アニエスのその顔と言葉を聞いているうちに
大丈夫だとヴァンは思えてきた。アニエスは
いつもそうだ。不安で仕方ない自分を支えて
くれる。その姿に何度励まされたか。
手を握ってくれるか?お前に手を握って
もらえると不安が吹き飛ぶ気がする。」
「もちろんです。」
そう言うとアニエスはヴァンの手を優しく握って
くれた。ヴァンはアニエス手を握り返すと
無限の勇気が湧いてくる気がした。

そして、ついに迎えたお産の日。ヴァンは
アニエスが子どもを産む際に立ち会うことにした。
アニエスの力になりたくて。苦しそうにしている
アニエスの手を必死に握って。そして、無事に
産まれた。元気に泣いている赤子の声を聞いて
ヴァンは安心した。
「よく頑張りましたね!元気な女の子です!」
看護師にそう言われ、アニエスは嬉しそうに
赤子を抱いた。
「ふふっかわいい。産まれてきてくれて
ありがとう。」
「アニエス、よく頑張ったな!」
「ヴァンさんも。」
「俺はなにもー。」
「私が苦しんでいるときにずっと手を握って、
声をかけてくれたでしょ?それだけで私、勇気が
湧いてきたんです。だから、ありがとう
ございます。ヴァンさん。」
アニエスの力になりたくて立ち会いを申し出た
ヴァンだったが、アニエスの力になっていたことが
わかり、立ち会いをしてよかったと心から思えた。
看護師に何かを言われ、アニエスは頷いていた。
「ヴァンさんも抱っこしてみます?」
「え?」
こんな小さい子を?だが、我が子だ。そう思った
ヴァンは抱っこすることにした。看護師に赤子の
抱き方をレクチャーしてもらい、ヴァンは
おそろおそろ抱っこした。赤子を抱っこした
ヴァンがまず思ったのは小さい。たが、重い。
それが命の重さだと考えると震えそうになる。
うまく育ててられるだろうかー。そう思っていた
ヴァンだったが、赤子が小さな力でヴァンを
触ってきた。そのときに思った。なんて愛おしい
のだと。いい父親になれるかはまだわからない。
だが、我が子を心から愛せる。
そうヴァンは思った。