アカ
2024-11-29 18:24:58
4719文字
Public ヴァンアニ
 

踏み出す選択

ヴァンがアニエスちゃんを救うって選択をする一歩を踏み出すまでの流れを想像して書きました。頑張れ!ヴァン!

ー結局は変われないのだ。人というものは。
根っこに染み付いた性格なんかは特に。
自分はそうだ。そう思ってヴァンは
自分の気持ちに蓋をした。

「買い物、本当に頼んでいいのかしら?」
「ああ、任せてくれ。」
「ねぇううん、なんでもないわ。
いってらっしゃい。」
ポーレットはそう言って見送ってくれた。
ありがたいことだ。自分の調子が
変なことに気が付いていながら、ポーレットは
深く踏み込まなかった。

アニエスがいなくなってから、ヴァンが
したことはー。何もしなかった。
いや、出来なかったと言った方が正しいだろう。
アニエスを迎えに行こうと一歩を踏み出そうと
したら、もう1人の自分が囁いてきた。
『お前に何が出来る?行ったところで何も
出来ないだろうよ!お前にアニエスを
止める権利はあると思っているのか?』
否定しようとしたが、アニエスを迎えに行く理由も
ハッキリと言えないヴァンは一歩を踏み出すのを
やめてしまった。踏み出さなくてはいけないのに
その一歩を踏み出すのがとてつもなく怖い。
そうして悩んでいるうちにヴァンは一歩も
動けなくなっていた。

重い気持ちのままポーレットに頼まれた買い物を
済まし、車に乗り込もうとしたヴァンは
視線を感じ、視線を感じた先を見ると
アーロンがいた。
よぉ。」
アーロンの視線は鋭く、今にも殺しそうな
勢いだった。殴られるのを覚悟で
アーロンに話しかけた。
ここで話すのもなんだし、別の場所で
話さねーか?」

ヴァンがアーロンを連れ出したのは路地裏。
ここならば、騒ぎにならないと判断しての
ことだった。その気遣いもアーロンを
イライラさせたが。
で?なんか用か?」
そんなヴァンの様子にアーロンは耐えきれなく
なり、胸ぐらを掴んでいた。
「なんかだと?なにを腑抜けていやがる?」
。」
「なんでアニエスをさっさと迎えに
行かねーんだよ!?俺らに一言も相談しないで
決めたことを怒った上でさっさと迎えに
行きやがれ!なにを尻込みしてやがる!?」
アーロンにそう言われてもヴァンの答えは
変わらなかった。なぜなら、「自分に出来る
ことはない」という考えに支配されてしまって
いたから。
よかったんだよ、これで。俺が迎えに
行ったところで何になる?変わらねーだろ。」
「ッッ!!」
アーロンはヴァンを殴ろうと拳を振り上げたが
やがて手を離し、怒りが消えない目でヴァンを
睨み付けた。
やめた。今のオメーは殴る価値もねーよ。」
そう言ってアーロンはヴァンの元から去っていき、
ヴァンは暫くその場から動けなかった。
「ヴァンさん?」
見知った声がしたので、振り返るとフェリがいた。
フェリ。もしかして、さっきのやり取り
全部聞いていたのか?」
「えーっとはい。すいません
アーロンさんの様子がおかしくて付いて行って
全部聞いちゃいました。」
わりぃな。情けない場所を見せちまって。」
「いえヴァンさん。少しお話ししませんか?」

フェリに言われてきた場所は解決事務所の屋上。
屋上を見ながら、フェリは嬉しそうにした。
何だかここでみんなと話していたのが
遠い昔の気がします。」
確かにそうだ。本来いるはずの人物もおらず、
解決事務所のメンバーも揃ってない。
昔のことのようだ。
アーロンさん、あんなこと言って
いましたけどヴァンさんのこと、嫌って
いったんじゃないと思います。」
わかっている。」
アーロンのことだ。ウジウジと悩み、
動けなくなっている自分の背中を
蹴るつもりで言ってきたのだろう。
だが、アーロンに強く言われても
ヴァンは動けなかった。アーロンの
言う通り、アニエスをすぐに迎えに
行くべきだ。だが、ヴァンはその度に
「アニエスを迎えに行く権利が自分に
あるのか?」という疑問が浮き、
結局一歩が踏み出せなかった。
一歩を踏み出したいのに踏み出せない。
ヴァンはそのことに何度も悔しい思いをし、
自己嫌悪した。
わたし、わかるんです。
ヴァンさんの気持ちが。」
「え?」
「一歩を踏み出すって、すごい勇気が
いることですから。」
「お前さんでも、一歩を踏み出すことが
勇気がいるのか?」
フェリはそんなのと無縁だと思っていた。
いつも敵に果敢に挑んでいたから。
フェリは恥ずかしそうに笑いながら言った。
「はい、実はそうなんです。アイーダさんを
探すって決めたときも中々決断出来ません
でしたし。」
そうだったのか。ヴァンは驚いた顔でフェリを
見つめた。
「もし、決断を間違えて失敗したら?
取り返しのつかないことになったら?
そう思ったら、中々動けなかったんです。」
一緒だ、今の自分と。
「でもー。それ以上に怖かったことがあります。」
フェリの答えに自分が求めている答えが
ある気がして、ヴァンは黙って聞くことにした。
「後悔したくないんです。アイーダさんを
探さないって選択をしていたら、わたしは
一生後悔していたって思っているから。」
後悔か。」
自分で青春を手放すと選択をしたことは
今でも消えない後悔となっている。
「はい、だから後悔しない選択をして
ほしいんです。ヴァンさんには。」
そう言ってフェリは笑った。
参ったぜ。まさか俺の背中を押すために
話したのか?」
「えへへ実はそうなんです。あのとき、
わたしの手を取ってくれたヴァンさんに
勇気を出してほしくて。多分、アーロンさんも
同じ気持ちだと思います。」
俺はそこまで大した人間じゃー。」
「いえ、ヴァンさんはすごい人です。
どうしたらいいか迷っていたわたしの手を
取って。進むべき道を示してくれて。
そんなヴァンさんだからこそ、わたしは
ううん、わたしたちはヴァンさんを
信じられるんです。」
「フェリ。」
本当に参ったな。背中を見せなくてはと思って
いたのに、どうやらいつの間にか超えられて
いたらしい。
「だから信じて待っています。ヴァンさんなら、
最善の道を選択してくれるって。アーロンさん
から伝言です。『覚悟を決めやがったら、
トリオンタワーの屋上に来い』だそうです。」
そう言うとフェリは礼儀正しくお辞儀をし、
屋上から去っていった。

フェリから伝言を受け取ってもヴァンは
動けなかった。こんなにみんなに背中を押して
もらっているのに。自分はまだ動けないのか。
『できればヴァンさんにも一歩、踏み出して
欲しいです。』
ヴァンはそこにいないはずなのにアニエスが
いるかのようにバッと顔を上げ、名前を呼んだ。
アニエス?」
『私に対してはともかくやっぱりどこか、
踏み出せてないですよね?』
だれもいないのにヴァンは、そこにアニエスが
いるかのように話した。
ああ、今も踏み出せてない。なぁ、アニエス。
俺はどうしたら、いい?」
不安なんか顔に出さずに、大人として
接してきた。だが、今は迷子の子犬の
ような顔をし、アニエスに答えを聞いて
いた。当然答えは帰ってこなかった。
ヴァンは今にも泣き出しそうになり、
必死になって耐えた。
「ヴァン?」
泣き出しそうにしていたら、ユメがそばにきた。
ユメ坊。どうかしたのか?」
ヴァンはいつものように取り繕った。
だが、ヴァンが我慢しているのをわかったのか
ユメはヴァンの頭を優しく撫でた。
ユメ?」
「ん〜?なんかね、ヴァン。今にも
泣き出しそうだったから。」
情けない。ユメに励まされ、フェリたちには
背中を押してもらって。こんなにも
周りに支えて貰っているのに。
まだ動けないのか。自分は。
大丈夫だ、ユメ坊。ありがとな。」
ヴァンがそう言っても、ユメは頭を撫でるのを
やめなかった。
「でも、まだ泣きそうな顔しているよ。
大丈夫だよ、ヴァン。きっとアニエスちゃん、
帰ってくるから。」
ユメ坊。お前アニエスのこと
「うん、覚えているよ。実はね、ユメね
アニエスちゃんがいなくなるとき、
トリオンタワーにいたんだ。」
そうか。」
ユメはメアに憑依されたことがある。
もしかしたら、それが関係してアニエスの異変に
気が付いていたとしても変なことではない。
「きっと大丈夫だよ。だってヴァンが
なんとかしてくれるもんね!」
わりぃが俺じゃアニエスは救えねーよ。」
「なんで?」
「なんでってアニエスは俺が迎えに
きてくれるのをー。」
きっと望んでない。アニエスを振った自分が
アニエスを迎えに行く権利なんかない。
だが、ユメは首を振った。
「アニエスちゃん、ヴァンが迎えに
きてくれたらうれしいって思う。」
どうして、そう思うんだ?」
「だってアニエスちゃん、ヴァンがそばに
いると、いつも笑っていたよ。」
だとしても、俺に権利はー。」
「ユメには難しいことはわからないけど、
大事なのはヴァンがどうしたいかってこと
だと思う。」
「俺がどうしたいか。」
「うん!だって自分の気持ちに
ウソついていたら、つらいもん。」
今までずっと嘘をついて逃げてきた。
それが自分を守る方法だったから。
でもー。アニエスに出会って。
こんな自分でも生きていいんだってそう思えて。
でも、アニエスを取りこぼしてしまって。
失ってから気が付いた。いつもそこにいた存在が
大事で、絶対に失いたくない存在だったことに。
我儘になってもいいのか?」
ヴァンはまるで子どもに戻ったかのように
迷った瞳をしていた。
「いいって思う!だってヴァン、今まで
ずっと我慢して頑張っていたもん。」
そうか、ありがとうな。ユメ。」
そう言ってユメを撫でるヴァンの顔は穏やかに
なっていた。

ユメが去ってからヴァンは屋上から空を見上げ
ながら、考えていた。今の自分がやりたいことを。
ー今までずっとアニエスを迎えに行く資格は
自分にはないと思っていた。だが、ユメは言って
くれた。我儘になってもいいと。それならば、
アニエスの事情なんか知るもんか。自分は
アニエスに側にいて欲しい。嫌がっていたと
しても、迎えに行ってやる。そう思ったヴァンは
車に乗り込み、トリオンタワーの屋上に行くことに
した。

トリオンタワーの屋上にはアーロンたちが
待っていた。アーロンはヴァンに近付くと
言ってきた。
一発殴らせろや。」
いいぜ。」
アーロンならすると思っていたヴァンは、
それを止めようとするフェリを制止し、
黙って殴られた。
「いってーな。」
これでチャラにしてやる。」
この痛みは自分が目を背けていたことに対する
痛みなのだろう。ならば、黙って受け入れると
しよう。
俺はアニエスを迎えに行きたい。例えそれが
自己満でアニエスが望んでないとしてもだ。
だからー。力を貸して欲しい。」
そう言うと、ヴァンは頭を下げてお願いしていた。
どうか頭を上げて下さい。ヴァンさん。」
そうフェリが言うと、ヴァンの手を包み込んで
くれた。
「アニエスさんを迎えに行きたい気持ちは
みんな一緒です。迎えに行きましょう!
みんなで!」
ヴァンが顔を上げると、みんなが頷いていた。
あのときアニエスが選択したようにみんなも
選択したのだ。アニエスを迎えに行くと
いう選択を。待っててくれ、アニエス。
今、迎えに行く。もう自分は逃げないし、
迷わない。ヴァンはそう思うと仕舞った蓋を開け、
一歩を踏み出した。