ぽんすけ
2025-08-27 00:29:07
3676文字
Public ハヴィマイ
 

独り占め禁止!

マイクちゃん愛され生誕祭!

マイクは浮ついた気持ちでエレベーターから降りて自分のデスクに向かった。
理由の一つは今日がマイクの誕生日だからである。
そしてもう一つの理由――こちらの方がマイクのそわそわに与える影響は大きい――は上司であり、恋人でもあるハーヴィーから今日は期待しておけ、と言われていたからである。
昨晩ハーヴィーの家で午前0時を迎え、一番に誕生日おめでとうを言ってもらっただけでも嬉しかった。
昨日は仕事の後に色々と盛り上がってしまいハーヴィーの家に泊まらせてもらった。
詳細を思い出すとマイクが羞恥で床を転がりそうなので一旦考えないようにする。
今朝はハーヴィーの方が早朝からジェシカに呼び出しを受けていたため、マイクだけが遅れての出勤となった。
出勤時間が同じであればレイの車で一緒に送ってもらえるのだけれど、流石に昨晩の無理が祟って今日のマイクに早起きは難しかった。
午前中の仕事をある程度片付けた頃になってもハーヴィーからの呼び出しはなく、書類を渡すついでに会いに行こうかな、なんて考えていると通路の向こうからベンジャミンが歩いてくるのが見えた。
彼がこのフロアにいるのは珍しい。
「やあベンジャミン」
「マイク、君この前PCを新しくして欲しいって言ってただろう?」
「え、あ、うん」
確かにこの前ベンジャミンに会った時にそう言った覚えはある。
バッサリと切り捨てられたこともバッチリ覚えている。
それなのに、ベンジャミンの手にあるのはどう見ても最新型のラップトップだった。
「ちょうど一台コイツが余っててね」
「ありがとう」
使うだろ?と尋ねられるとついつい頷いてしまう。
予算も在庫も管理をきっちりしているベンジャミンにしては珍しいこともあるものだな、と思いながら彼が手際よくPCの初期設定をしていくのを眺める。
今使用しているPCからのデータの移行なども含め予想よりも時間がかかってしまい、ベンジャミンが去っていく頃には昼前になっていた。
今度彼に何か差し入れを買わなきゃな、と思いつつ昼食に出ることにする。
ついでにハーヴィーのオフィスに行ってあわよくば彼を誘おう、と思っていると途中でドナに呼び止められてしまった。
「ドナ、ハーヴィーいる?」
「ハーヴィーなら会議中よ。それよりマイク、これからランチかしら?一緒にどう?」
「行く!」
ハーヴィーが不在であることは悲しかったものの、ドナとのランチは嬉しかった。
彼女オススメのお店は大抵美味しいし、マイクが普段行かないような系統の店も多いので選択肢が広がって楽しい。
大喜びでドナについていったマイクは、彼女に連れていかれた店にジェシカ、カトリーナ、レイチェルの姿を見つけて目を丸くした。
しかもどうやらドナは彼女達と約束していた様子だった。
「え、え?ドナ?」
「ほらマイク、今日は特別に女子会に招待してあげるわ」
お行儀良くするのよ、とウインクされて困惑しつつも同じテーブルにつく。
最初こそ緊張したマイクも、彼女達の楽しいお喋りを聞くうちに次第に打ち解けていく。
ハーヴィーといると映画の話をすることが多いので、女子会の次々変わる話題――ファッション、俳優、オススメのスイーツ、カフェ、服、ムカつく上司部下エトセトラ――は新鮮で面白かった。
普段は成人男性と可愛いお菓子の組み合わせに気が引けて遠慮するお洒落スイーツまで堪能して、ついでに山と盛られたアイスにこれでもかとカラースプレーをかけたやつ――何やら小洒落た名前がついていたがちゃんと見ていなかった――もお腹に収めたマイクは午後も頑張るぞと気合を入れてオフィスに戻った。
因みにランチはジェシカの奢りだったのでお財布もハッピーである。
楽しい時間を過ごして気分が上向いたマイクではあったけれど、気がかりなのは本日未だにハーヴィーに会えていないことである。
処理速度が爆上がりした新PCに感謝しながらいつも以上の速さで仕事をこなしていく。
ハーヴィーが必要になるであろう資料をまとめ、優先順位に沿って並べておく。
これがひと段落したら今度こそハーヴィーに会いに行こう、そう決めていたマイクはちょうど小腹が空いてくる頃になって手を止めるとぱっとオフィスチェアから立ち上がった。
印刷しておいた書類の束を抱えてハーヴィーのオフィスに向かう。
手ぶらでも良かったものの、少し先の案件まで見越して資料をまとめたのであわよくばハーヴィーに褒めて欲しかった。
飼い主に褒めてもらおうとフリスビーを咥えて駆け寄る犬の如く上司のオフィスに走り寄ったマイクは、ガラス越しにそこが空っぽであることに気づいて足を鈍らせた。
「あらマイク、どうしたの?」
垂れた尻尾の幻覚が見えるわよ、と揶揄うのは秘書のデスクにいるドナだ。
「ハーヴィーは?」
「あなたのボスはさっき出張に出たわ。ジェシカに言われてね」
「そっか……
出張なら仕方ない、しょんぼりしつつ、持っていても仕方ないので書類をハーヴィーのデスクに置いておく。
昨晩ハーヴィーは出張があるとは言っていなかったから、きっと急な用事なのだろう。
もしかして今日は会えないのでは。
折角の誕生日だったのにな、と肩を落としていると休憩室から出てきた誰かとぶつかりそうになる。
「おっと、マイク!ちょうど良かった」
「ルイス」
お気に入りのカップ片手に立っていたのはルイスだった。
何か面倒ごとを頼まれるのでは、と固まったマイクだが、続く言葉に拍子抜けしてしまう。
「これから泥風呂に行くんだが、ちょうどキャンペーン中でな。一緒に来い」
「ええ、いや、僕はまだ仕事が」
「後で構わん」
いつになく押しの強いルイスに引きずられるようにして連れていかれる。
正直ルイスとのお喋りは嫌いではないし、泥風呂だって最初は抵抗があったものの気持ち良かったので行くこと自体は良いのだ。
ただ、ハーヴィーがオフィスに戻った時にここにいないことが気がかりだっただけで。
そんなマイクの胸の内を知ってか知らずかルイスはご機嫌で、まあ終わってからまたオフィスに戻れば良いかと思い直す。
ルイスは気難しいし、アソシエイト達からは嫌厭されがちだが尊敬すべき点は確かにあるし、マイク自身彼と過ごすのは楽しかった。
幾度もハーヴィーを泥風呂に誘っては断られているから、せめてマイクは付き合ってあげたかったのもある。
なんだかんだでルイスと泥風呂を目一杯堪能したマイクは、すっかり暗くなった空を見上げてそろそろ事務所に帰るか、とスマホを取り出した。
タクシーを呼ぼうと思ったからである。
今日はちっともハーヴィーと会えなかったし、皆に連れ出され仕事の進み具合は最高とは言えないから、暫く残業していればハーヴィーも戻って来てくれるだろう。
実動時間が少ないながら山積みになっていないのはベンジャミンが新調してくれたPCと、それから偶然か今日は周りからの頼まれごとが少なめだったおかげだ。
上手くいけばハーヴィーとディナーに行ける時間に終わるだろう。
「マイク、俺じゃなくてスマホに夢中か?」
「え?」
ここにいるはずのない人の声が聞こえてマイクは吃驚して顔を上げた。
タキシード姿で高級車に凭れて立っているのはハーヴィーだった。
花束片手に悪戯っぽく笑っているのが最高に決まっていて、マイクの心臓の鼓動が大きく跳ねる。
「ハーヴィー!どうしてここに?出張は?」
「終わった、本当は朝から君を連れて出張って名目で出かけようとしてたんだが」
「だが?」
「皆に君の誕生日を独占するなと怒られてな」
ハーヴィーにそう言われて、マイクは漸く朝からの一連の出来事が事務所の皆によるお祝いだったのだと思い至った。
なんだか擽ったくて口角が緩んでしまう。
「恋人が人気者で何よりだが、俺としては計画を台無しにされて面白くない。抵抗したらジェシカにくだらない出張を言いつけられたんだ」
代わりに明日は休みをもらったぞ、と微笑むハーヴィーは面白くない、と言いながらも嬉しそうだ。
「君の着替えも持ってきた、ディナーに行こう」
タイは結べるか?と揶揄うように聞かれ、いつだったか彼にボウタイを結んでもらったことを思い出す。
「結べるけど、ハーヴィーに結ばせてあげる」
「生意気だな」
「誕生日だし」
ドレスコードからいってそれなりのランクのお店に行くのだろう。
マイクはそわそわしながら助手席に乗り込んだ。
仕事の時はレイに運転してもらってばかりだけれど、こうして運転するハーヴィーはとても様になっていて、マイクはそれを見るのが大好きだった。
「それで?どこに連れて行ってくれるの?」
「期待してろと言っただろ。日中君を構えなかったからな、とびきりオススメの店に連れてってやる」
忙しいハーヴィーがきちんと約束を覚えていてくれたことが嬉しくて。
「期待は、夜もしていいやつ?」
「勿論」
追加で聞いてしまったのを後悔することになるのは数時間後のことである。