マエバ・セイボスキー
2025-08-26 23:14:23
6243文字
Public パーバソ
 

GOSIPPS!

芸能パロです。
俳優パ×個人事業主バ
各SNSを盛大にバズらせまくるハリウッドセレブ特大ゴシップのはなし

母国では考えられないようなぎらつく陽射しが、周囲のもの全てを照らしだそうとしている。
バーソロミューのその溶けた太陽の滴る肌は、まるでたっぷりのバターを纏ったパンケーキのようだった。
あまくて美味しいパンケーキは、誰もの心を惹き付ける。
カフェ中の視線を独り占めしている男は、ゆったりと長い脚を組み替え、グラスを傾けた。
普段アイスティは飲まない。けれどここのカフェに関しては、コーヒーよりもずっといける。
仕事で一ヶ月、母国から遠く離れたこの地で生活をすることになっていた。
焼けつく陽射し、騒がしく明るい人々、賑々しい観光客、ビーチ、並び立つ椰子、
ここは、アメリカ、カリフォルニア州ロサンゼルス。
バーソロミューは自社の新しいコレクションの準備でやってきていた。
会社は、元は小さなレンタルボートショップだったがバーソロミューには商才とカリスマがあった。
小さなレンタルボート屋は瞬く間に事業を拡大し、オリジナルのマリンスポーツ用品を作るようになり、
センス良く実用的なそれがダイバーの間で流行した。
おかげで、現在はある程度の知名度となり、忙しい毎日を過ごしている。
マリン用品だけではなくジュエリーのブランドを立ち上げたばかりで、今回の滞在はその広告のためだった。
幸い熱心なファンが、頼まずとも勝手に宣伝をしてくれているのでひとまず焦ってはいない。
勿論、入念な下準備を欠かすつもりはないものの、現時点では何もせずとも話題になっているので御の字だ。
バーソロミューは、仕事の一環として手に入れたゴシップ雑誌をめくった。
セレブのファッション、私生活、恋愛から犯罪まで、まさしく余計なお世話のゴシップが満載だ。
こういうところにさりげなく自社製品が写ると良いのだ。パパラッチの激写、つまり私物だ。
ファンがこぞって『お揃い』にしようと躍起になる。
バーソロミューの長い指は、とあるインタビュー記事のページで止まった。
同郷の俳優の記事だ。
やんごとない生まれの爵位持ち、芸能界デビューするまえに社交界デビューをしている超のつくセレブリティ。
二十代半ばでモデルとしてデビューした理由は、有名である方がチャリティーに寄付があつまると思ったから。
一般人からは想像も出来ないような本物のノブレスオブリージュ。
そして、ラグビー選手のような巨体をソファに沈ませ、
暴力的なほどに逞しい身体とギャップで眩暈がするほどに品の良い穏やかな微笑み。
彼のブレイクは、ストリーミングメディアオリジナルの、英国貴族の愛憎劇を描いたドラマで青年貴族の役が見事にハマったことだ。
途中退場とはなったものの多くの女性を恋に落とし、その生き様は多くの男達の憧れとなった。
今ではハンサムな英国人俳優ランキングには、かならず食い込む人気者だ。
そんな彼は、バーソロミューの商品をいたく気に入ってくれており、日常でも撮影でも、常にどこかしらに着用してくれている。
写真の中央でさりげなく煌めくタイピンはまだ未発売の新商品だ。大変良いお客様である。
今回のコレクションでも、モデルとして出て貰うことが内定していた。
夕暮れのビーチに立つ彼は、きっととても魅力的だろう。衣装はカジュアルに、彼の場合無駄に着飾らない方が素敵だ。
メインに据える予定なのは、スクエアにカットしたブルーガーネットのペンダントとシンプルなキヘイのブレスレット。
けれどしっかり地金を使って重たくノーブルな雰囲気に……彼ならきっと完璧に着こなしてくれるはずだ。
勿論、ごてごてと着飾ったとしても、それはそれでゴージャスできっと素晴らしい出来になるのだろうけれど。
「失礼」
広告プランに思いを馳せていたバーソロミューは、声をかけられては、とした。
視界に影がかかっている。
周囲がざわめきに波立ち、空気が騒がしい。
バーソロミューは、一度ゆっくり瞬きをしてからサングラスを押し下げた。上目に、声の主を見上げる。
「ご一緒しても?」
立っていたのは、大きな男。涼しげなエルクベージュのスポーツコート、インナーはシンプルなTシャツ。
ベルトにジーンズ。それらを際立たせる、極上の微笑み。
「勿論、構わないよ」
バーソロミューは、慣れた笑みを浮かべ、向かいの椅子を示した。
テーブルの下に入りきらない長い脚が、つま先が触れあうかどうかの位置でゆったりと交差する。
「食事に誘いにきたのだけれど」
彼の手首に、きらりと自社製品が光る。ソレも発売前のものだ。
「予定を確認するよ、いつかな」
指先で、スマートフォンの縁を撫でる。その意味深な仕草に、彼は笑みを深めた。
「今夜は空いていますか?」
バーソロミューは、テーブルの上にある男の手から視線を外し、背もたれに寄りかかった。
サングラスを外して、わざとらしくため息をつく。
「急だね」
ここに仕事で来ていることを君も知っているはずだが、と嫌みったらしく言うのも意に介さず目の前の完璧な紳士、
パーシヴァルは微笑んでいる。雑誌の中と、同じ顔で。
「ええ勿論、ですが私のスケジュールが埋まっていることもまた、貴方はご存知でしょう」
やっと今夜空いたのです、と。
押しつけがましいその言葉に、バーソロミューは再び深くため息を吐いた。
「頼んだ覚えはないけれど」
「それは私も同じだ」
にこり、と笑顔が絡み合う。
別に、ふたりは仲が悪いわけではない。というよりもむしろ、よすぎる、と言える。
やがてサーブされてきたアイスティに口を付け、パーシヴァルはそれでと向き直った。
見つめてくるアイスブルーの瞳が美しい。顔が良い。非常に。
「そういえばキミ、パパラッチはどうしたんだい」
いつも数メートル間隔で引きつれているパパラッチがいない。
いったいどうしたことかと言うと、パーシヴァルはちらりと周囲を見回した。
「大切な話があるから、邪魔をしないでほしいと丁重に『お願い』したらわかってもらえたんだ」
「そう……
彼はただのセレブリティではない。
権力も財力も知力も備えている。逮捕を恐れていてはパパラッチはできないというが、しっかり引くべき所は理解しているのだろう。
誰だって生活は大事である。
「バーソロミュー」
ひたりと視線が絡む。
誤魔化されてはくれないらしい。
「どうして逃げるんだい?」
「逃げてなんていないよ、こうして君の前にいるじゃないか」
「スケジュールを確認したけれど、どうにも私の撮影予定と貴方の予定が組み合わない、わざとだね?」
パーシヴァルも、バーソロミューの仕事の関係でやってきている。
そしてふたりはいわゆる、お付き合い、をしている。
バーソロミューはパーシヴァルのことが好きだし、一緒にいると幸せだ。
そして幸いなことに、パーシヴァルもそうであるらしい。
ここへ来る直前「この仕事が終わったら私の故郷へ一緒に来て欲しい」と誘われていた。
そこから察せられることなど、一つしかない。
バーソロミューはその答えから逃げているのだった。
「バーソロミュー」
パーシヴァルはため息をつく。
呆れたような、困りはてたと言うような、まるで聞き分けのない幼児に言い聞かせるときの顔だ。
バーソロミューは、らしくもなくひどく寄る辺ない心地になった。
グラスの中で、からりと氷が音を立てる。
「私がなにか貴方を傷つけたのならそう言って欲しい、至らず不甲斐ないがまだ私には貴方の気持ち全てを察することはできない」
当然だ。全部察して、なんてそんな面倒な彼女のようなコトをおもってはいない。
けれど、今のこの態度はそうだと思われても仕方がなかった。
「けれどね、君」
「私が故郷に誘ったからでしょうか」
「え」
「あのときから様子がおかしい」
「えー、と」
察しが良いのも困りものだ。
「バーソロミュー……
はあ、と首を振る。
グラスが汗をかき、テーブルに水たまりを作っていた。
バーソロミューは、本当にらしくもなく、視線をうつむける。
「口にして、バーソロミュー、教えてくれないか」
バーソロミューがこんな風な、情けないような責められているような気持ちになるのには理由がある。
明らかに逃げている自覚があるからだ。
必要な時に逃げられるのは良いことだ。無理して事故を起こすよりもずっと良い。
けれど、今のこの逃げが良いものでないことは、明確だった。
パーシヴァルは、なにも悪いことをしていないのだから。ただただ、バーソロミューが怯んでいるだけだ。
だからこそ、その卑怯さを見透かされ呆れられているようで、パーシヴァルのため息ひとつで情けなく心がしぼむ。
美しい男が、凜々しい眉を顰めバーソロミューに落胆をしている、それはひどく悲しい現実だった。
「教えて?」
テーブルの上でそっと手が重なる。手のひらはひんやりとしていた。
「無理強いはしない、私が急ぎすぎているならそう言って欲しい」
「パーシヴァル……
そうなのだろうか、付き合ってもう3年経つ。
パーシヴァルはその華やかな職業や出自からは想像出来ないほどに堅実で誠実だった。
多分、バーソロミューの人生で彼以上の男が現れることなどないだろう。
相容れない部分もあるが、根っこのところがお互いに真面目で息がしやすい。
身体の相性も……最高だった。彼はマメで、我慢強く、根気があった。満足しない夜はない。
バーソロミューが怯んでいるのは、ひとえに、自分が彼のコミュニティに入り込むことだけだ。
身分が違う。階級だけの話ではない。こればかりは、取り巻く環境が違いすぎる。
お付き合いだけならば問題は無い。
伴侶として、家族になるというのは、互いの後ろにある親族というコミュニティを重ね合うことだ。
バーソロミューの両親はとっくに他界していて、親族といえば関わりの薄い遠縁の叔父くらいだから紹介をする日は来ないとおもっているが、
だからこそ明らかに貴族階級にいる男の親族関係に入っていくのに、有り体に言えばビビっている。
パーシヴァルは間違いなくバーソロミューを蔑ろにするようなことはないし、
万が一バーソロミューを阻害するような親族がいるのだとすればそちらを省いてくるだろう。
彼はこうみえて非常に我が強い。
そんなことを頭では理解しているのに、どうしても尻込みしてしまう。本当にらしくないのだ。
「パーシヴァル、私は……
視線がテーブルの上を彷徨う。
白い大きな手が、逃がさないとでも言うようにバーソロミューの手を握りしめていた。
「バーソロミュー……わかりました」
「ん?」
ぎゅ、と手に力がこもったかと思えば、するりと離れていく。
それに微かな寂しさを覚えたことは考えないようにして、なにやらごそごそとポケットを探っているパーシヴァルに首を傾げた。
「なんだい?」
「本当はね、本当は、貴方が私の故郷に来てくれた時にしようと思っていたんだ」
「うん?」
「貴方が、ロマンチストで意外と可愛らしい夢を持っていることを知っているから」
「う」
ばれている。
自分でも、もしかしてテンプレみたいなこと好きなのかも知れないな、と思い始めていたところだった。
薔薇の花束を持って帰宅するとか、長期出張のあと空港でお迎えしてキスするとか、
仕事の後に会社の前まで迎えにきてくれて助手席にブーケが置いてあるとか、そういロマンス小説かな、みたいな待遇を満更でもなく享受してしまっている。
もはやパーシヴァルがそういうことをするから喜んでいるのか、元から実はこういう扱いをされたかったのかも分からなくなっていた。
男として、などというのは古い考えだろうが、それでもそんな少女じみた趣味があるとは思いたくはなかった。
けれど、こう慣らされてしまっては、今更否定はできない。
パーシヴァルは、ぐるぐると羞恥に考えを巡らすバーソロミューのことなど気づきもせず、ポケットから小さな箱を取り出した。
「けれど、機を逃す方がもっと良くない」
「き?」
「結婚しましょう」
……は」
ぱかり。置かれた小さな箱の中には、煌めくブルーの石がはめ込まれた金色の指輪。
「どうか、Yesと」
ふたたび手をとられ、愛おしげに撫でられる。
ぽかんとして見つめると、パーシヴァルは緊張の眼差しでこちらを見つめていた。
緊張している。バーソロミューごときに。女性であれば誰もが夢にみるような完璧な男が。
完璧、いや、そうでもない。
実は我が儘だし、我が強いし、なんでも出来てなんでも持っている傲慢さがあって、好き嫌い無く食べるというわりに、
ビーツが入っていると一瞬だけフォークが止まる。手先もあまり器用じゃないし、掃除を任せれば角に埃が溜まっていたりする、
欠点だらけで、その全ても愛おしい。
包まれた手が少しだけ震え、汗を掻いていた。
「パーシヴァル」
「はい」
「仕事が押している、今夜夕食は出来ない、出来れば前倒しで仕事を片付ける」
「え?は、はあ」
「そして、君の故郷へ行こう」
「!」
「Yesだよ、私の素敵な婚約者さん」
「バート!!」
もうだめだ、負けだ。
覚悟を決めて、彼の家族の一員になるしかない。くよくようだうだしていても無駄だ。
この頑固な男にここまで言わせてしまった。
一筋縄で諦めるわけはないし、そもそも、バーソロミューも彼を愛している(愛している!)のに、どうやって断れというのか。
やった!!と立ち上がるパーシヴァルの周囲から、わーっと歓声が沸き立った。
割れそうな拍手に、ここが真っ昼間のカフェだったことを思いだす。
「ああ、素晴らしい、なんて良い日だろう、ありがとうバーソロミュー」
「こちらこそ」
「こんなことなら彼らを遠ざけるんじゃなかったな」
「ああ、パパラッチくんたち?んー、あ、君良かったら写真撮らないかい?」
顔を真っ赤にして一番近くで拍手していた女性に声をかける。
若い女性ならインスタかなにかやっているだろう。
彼女は、真っ赤な顔をさらに赤くしてスマホを掲げた。
「ありがとう、あとでタグ付けしてくれる?名前はわかる?そう、よかった。じゃあパーシヴァル指輪を」
「あっは、はい!」
太い指が震えながら指輪を摘まむ。
バーソロミューは自分の濃い色の肌にそっと指輪が差し込まれるのを、微かに唇を噛んでみつめた。
周囲は、空気を読んでしんとしてくれている。
パーシヴァルの震える指が、バーソロミューの薬指にしっかりと指輪をはめた。
「ああ、受けてくれて、ありがとう」
「こちらこそ、逃げ回って悪かったね」
ぎゅ、と手を握る。指輪のついた手を陽射しにかざす。きらきらと目映い。
まるで自分の手ではないようだ。
「さて、」
バーソロミューはパーシヴァルの腰を抱いて、くるりと周囲を見回した。
「諸君、お付き合いありがとう!御礼にここの支払いは私がしよう、騒がせて悪かったね!」
「ありがとう」
パーシヴァルはまるで王族のような貫禄で、にっこりと笑み周囲に礼を述べた。
こうして、ふたりのセンセーショナルなプロポーズが公開され、撮影をした彼女の写真は瞬く間にバズったし、
こっそり動画を撮っていたリテラシーのない投稿も、大いに世間を賑わせた。
バーソロミューの新コレクションの売れ行きも、想定の倍以上となったことは言うまでも無い。