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さとうみず
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【シャとアム】波間の光
cca生存if。地球で暮らすふたり。
金色に乗った麦わら帽子が風に揺れる。
雲ひとつない空、太陽は容赦なく地上を焼いている。受け取った熱をそのまま反射するアスファルトから陽炎が上がり、一向に到着しない目的地にうんざりした。暑い、と事あるごとに言っていたら余計に暑くなった気がしてやめた。伸びる白い線に沿うように歩き続ける。
暑いだろうから、とハーフパンツを穿いてきたことに後悔した。むき出しの肌がじりじりと焼かれる。まるで低温のグリルのようだ。頭から流れる汗のぬるさに辟易した。なんとなくキャップを被ってきて助かった。
「低温でじっくり焼かれている心地だな」
クソ、同じことを言いやがる。
前を歩いていたシャアは振り返った。
この男も汗だくのはずだが、爽やかさを感じるのは麦わら帽子のせいだ。
赤いアロハシャツ、白いパンツ、ビーチサンダル、サングラス、そして麦わら帽子。
派手な男だからだろうか、腹が立つことに何を着ても似合う。
「
……
お前が海に行きたいなどと言うから」
「せっかく地球にいるんだ」
「呆れた。あなたは重罪犯なんだぞ」
「そんな私を匿っている君もだろう? それにこんな辺鄙なところ誰も来ないと言ったのは君だ」
痛いところを突く。
海岸に不時着してから隠れるように海沿いの街に住んでいる。
前世で徳を積んだおかげか、俺もシャアもひどい怪我もなく打ち身だけで済んだ。神がもしいるとすれば、贖罪のために生きながらえさせたのかもしれない。
ボロボロの鉄くずになったνガンダムは誰かに見つかる前にふたりで海の底に沈めた。この瞬間、俺も共犯になった。
シャアはトートバッグからペットボトルを出して水を飲んだ。
「コロニーでは味わえないな。陽射しの強さも、水の美味さも」
シャアからボトルを受け取って同意した。
「地球温暖化が進んでいるのさ。俺が地球に住んでいた時はここまで暑くなかった」
シャアは黙って歩き出した。
「君はこれで良かったと言うのか」
トンネルに入り幾分か涼しくなってほっとした。シャアの背中が強張っている。
何を聞きたいのだ、この男は。
地球を守ったこと? シャアを殺さなかったこと? 貴様を連邦に突き出さないこと? 今ふたりで隠れ住んでいること?
この男は聞きたいことをぼかして、相手に答えを委ねる癖がある。面倒くさい。
良かったも何も、この結末を選んだのは俺だ。
地球を核なんかで汚したくはなかったし、何よりまだ人間を信じたかった。だから命をかけて戦った。
トンネルの中を風が通り抜ける。汗で濡れた肌が気化熱で冷やされて心地良い。シャアは振り返って俺の答えを窺っている。
「良かったよ」
良くはないけど、とシャアに分からないレベルで言外に含ませる。でも後悔はない。
眉を歪ませて立ち止まるシャアを追い越してトンネルを抜けた。灼熱の光が降り注いだが、目の前には輝く海原が広がっていた。きらきらと波が寄せる美しさと磯の香りに目を細めた。
家を出てからここまで、頭に浮かぶだけの文句を言ったが、すべて吹き飛んだ。
また見られるとは思わなかった。一年戦争の時以来だった。
「あなたと一緒に海を見られたから」
我ながら恥ずかしいことを言うと思った。
振り返るとちょうどトンネルから出たシャアが同じく海を見ていた。笑ってサングラスを外させると、空と同じ色の瞳が眩しさに細められた。風にそよぐ金髪も同じく輝いている。
人をたくさん殺した男なのに青空が似合う。
「あなたが守ろうとして、壊そうとしたものだよ」
汗がこめかみを流れた。
死を覚悟したのに生きている。それはシャアも同じだ。
「俺はあなたを許すことはできない」
でも、と続ける。これ以上続けたくないが言うべきだと思った。
神妙な顔で言葉の続きを待つ男に、ニュータイプなら読み取れと毎回思う。
シャアは投げ捨てた命を拾ってから、罪悪感と希死念慮に苛まれ続けている。わざと飄々と振る舞うのは自分を騙すためだ。昏い思惟が流れ込む度に苛立ち、同時に哀れだと思う。遠い昔、赤い彗星に憧れた自分が馬鹿みたいだ。
この男に優しくしたい訳ではない。海風が前髪を掬っていく。
「選択が結果的に間違っていたとしても、今ここにいるのは嘘じゃない。これは俺のエゴだ」
この男がこれ以上罪を重ねるのを止められて良かった。
俺の憧れだった男。目の前の情けない男。
――
それでも見捨てられない男。
死に損ない同士が傷を舐め合っていると指摘されても否定はできない。
目を見開いたシャアは「偽善だ」と口を歪めた。
「何でも良いだろう? 俺も重罪犯なんだからな」
前を向いて歩き出すと、続いてシャアの歩き出す音が聞こえた。シャアの思惟は揺らいでいた。信じたかった人の中にはシャア、お前も入っているんだ。
不安になるな。騙すなら自分だけでなく俺も騙し通せ。
砂浜に降りる階段はもう少し歩いた先にある。トンネルを出てから何も遮るものがなくて暑い。浜辺を堤防越しに見ながら黙々と歩いた。さざ波の音が心地良い。
そう言えば聞いていなかった。後ろを歩く男に声をかけた。
「で、海に来た感想は?」
念願の海だろう、あなたの。
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