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くこ
2025-08-26 20:31:10
5425文字
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双子×拓海(ハンドラ)おわり
ようやくスタートラインといったご様子
001クリア推奨 わたしは……001に囚われているので……
「今馬、過子、そこに直れ」
今日こそ、しっかりと説教する。
澄野は決意し、美しい双子をソファへ座らせる。ベッドではないのは、今までの反省を活かしてのことである。
おとなしく、ちょこんと並んで座る2人は、愛玩動物のように可愛らしい。すでにその絵面で怯みかけている澄野であるが、しかし、年長者として、きちんと指導してやらなくてはならない。
「もう何度目かわからないが
……
もう一度言うぞ。いいか。付き合ってる人としか、そういうことをしてはいけません」
「そういうことって、どういうこと?」
こてん、と首をかしげる過子は、その仕草だけで、同年代の男を何人も籠絡できるだろう。かく言う澄野だって、可愛いと思わないわけではない。ぐぅ、と痛む心臓を押さえながら、澄野が声を絞り上げる。
「だから
……
その
……
必要以上に体を近づけたり、顔を近づけたりすることだ!」
今馬からも何か言え、と横に視線を向けるが、いつぞやと同じく、そっぽを向いて目を合わせてくれない。なぜだ。なぜなんだ、九十九今馬。あの頃のおまえは、どこへ行ってしまったのだ。
諦めて過子へと視線を戻すと、潤んだ瞳とかち合った。その直後、ななめ45°、目を伏せた過子は、まるで薄幸の美少女だ。
「澄野先輩は
……
自分のことが、キライなの
……
?」
「えっ」
そんなわけない、と言いかけて、さすがにこれは言質を取られると口をつぐむ。過子が内心で舌打ちをしたかどうかは、彼女のみが知る。
キライではない。そんなわけはない。だから困っているのだ。キライであれば、もっと話は単純だった。
澄野は、頭の中でぐるぐると考える。
正直に言って、自分のこの指摘が正しいのかどうかも、よくわからなくなってきている。自分の気持ちがわからない
――
わけではないが、それでも確実に、単純接触効果はある。
まして、カルアとはもう何日も会えていない。それに
――
記憶は確かにそこにあるのに、薄布一枚を隔てているような、靄を感じるのだ。カルアと離れ離れになったのは、たった数週間程度の前のことなのに。そのはず、なのに。まるで遠い昔の記憶のようにも感じる。激動の日々が、そうさせているのかもしれない。
沈黙の帳が降りる。
助けを求めて、今馬を見る。視線を受け止めた彼は、短く息をついた。
「何か勘違いをしているみたいっすけど
……
澄野先輩。自分たちは、澄野先輩をオトしにいってるんすよ」
「えっ」
「もう忘れちゃったんすか? 鶏っすね。そしてこうも言ったっす、自分らはお坊ちゃんたちのように甘くない、って」
「えっ
……
」
甘くない、とまで断言はしていなくなかったか。
今馬の説明で満足げに頷く過子に、反論をする気力が湧かない。
非常にありがたいことである。
他人に好意を寄せてもらえるなんてことは、とても。
でも、自分は、カルアを守ると誓った。それは、ここで戦い、侵校生を撃退することで、果たされる。はずである。
――
彼女を守ることと、彼女に操立てることは、別問題なのだろうか。
考えてはいけない、方向である気がする。
過子の指が、するりと澄野の手に絡められた。
「澄野先輩」
正面に座っていたはずの過子は、澄野の左に座っていた。表現が正確ではない。正面に立っていた澄野は、過子の華麗な身のこなしによって、双子の間に座らされていた。まるで手品だ。
女の子の、いい匂いがする。カルアは
――
カルアは、どのような香りをまとっていただろうか。チョコレートのような、甘い匂いだったろうか。否、もっと清涼な、そう、消毒液のような
――
頭痛がして、澄野が片目を細める。
「澄野先輩」
過子よりも低い声が、右側から掛けられる。今馬が、過子と線対称になるように、横に座っていた。おんなじように、指を絡められる。
ゆっくりと、撫でられる。親指で、親指を。続いて、人差し指を。順繰り、1本1本丁寧に、優しく、触られる。臍の下あたり、ぞくりとした。
少し遅れて、今馬の動きを見た過子が、同様に指をなぞる。無意識に喉が鳴った。
澄野の肩に、過子のやわらかな頬が乗る。
「自分
……
本気だよ。澄野先輩のこと、自分が幸せにしたい。誰かと幸せになるのを見ているだけじゃなくて、自分が、澄野先輩を、幸せにしたい」
熱のこもった瞳で見上げられては、どうしていいか、わからなくなってしまう。
だって、ここにはカルアが居ない。
熱さを与えてくるのは、まぎれもなく、目の前の存在だけなのだ。
「自分も、ね
……
きっと、澄野先輩以外は、許さないっすよ。過子を渡すのは」
だから、過子がまっとうに恋人を作れるチャンスは、ここにしか無い。
そんなのは、幼子の言い分だ。未来なんて、誰にもわからない。ぜったいにそうだと決めていたって、状況や環境で、どうとでも変わってしまう。だから、今馬の言うことは、宣言に近い。「どうあっても、そうする、と、決めている」という、「変えない」ことの意思表示だ。
澄野の瞳が揺らいだのを、今馬はけして見逃さないだろう。
口を開くが、声は出ない。正確には、言葉が出ない。何を言えばいいのか。そもそも、何かを言うべきなのか。
ここで最後の一押しをされたら、自分は、きっぱりと決断できるのか。
喉が渇く。
塩素の、においがする。
「澄野先輩」
たっくん、と呼ぶ声音は、霧藤と同じものだった。
――
ほんとうに?
視界が、ぐにゃりと歪む。
カルアは、外の世界が好きだった。十年以上もそれを聞かされてきた
――
思い出せるエピソードが、いつも同じだったとしても。
「澄野先輩」
繰り返す。
左右から名を呼ばれ、記憶を反芻する。
刻まれた記憶を。
「あ」
澄野が顔を上げた。
ぱちくり、おもむろに瞬きをする。
正面には、誰もいないベッドがある。誰も居ない、机と椅子がある。
双子は、両隣にいる。
質量を感じる。
「
……
いいよ、澄野先輩、ぜんぶ自分が受け止めてあげるから」
澄野の肩に乗せていた頬をずらし、過子が頭を寄せる。ふわり、また、甘い香りがした。
今馬は顔こそ近づけていなかったが、指をいじるのをやめ、手を繋いだままにしている。指の合間、柔らかに手のひらを握られて、どこか、ほっとする。
過子は、澄野の知らない何かを、知っているのだろうか。だからそんなに、まるで聖母のように、受け止めるだなんて言えるのだろうか。それとも、それが、愛のなせるわざ、というものなのだろうか。澄野自身ですらよくわかっていないことを、わからないままで、受け止めるだなんて、出来るのだろうか。
足を組み、その膝に頬杖をついている今馬の姿は、ここ最近よく見る。目線を合わせてくれる機会が、格段に減った。元々、あまり合わせてくれない方ではあったが。
澄野の視線に気が付いて、今馬が目を細める。
ゆっくりと、赤紫の瞳が澄野を見た。
「澄野先輩に頼られるのは、悪い気はしないっすけどね
……
自分が助けられる範囲にも、限度はあるんすよ」
そんなにもすがるように見ていただろうかと、澄野が顔を赤くする。年下に翻弄され、年下を頼っている。それは、リーダーとして、いいのだろうか。
しっかし澄野先輩もクソ真面目っすねぇ、と、今馬が繋いだ手を持ち上げた。
「澄野先輩が過子レベルに言い寄られるなんて、今後の人生であり得ないっすよ。もっと役得と割り切ればいいんじゃないっすかね?」
実際にそのような心構えで過子と接することを、この兄は許さなさそうであるが、言い分には一理ある。考えすぎなのかもしれない、と思ったことは、事実、何度もある。
「今なら自分もセットで付いてくるんすから、お買い得どころの話じゃないっすよ」
にこりと妖艶に笑う今馬は、とてもではないが中学生に見えない。それは得なのだろうか
……
半眼になる澄野を見て、今馬は一転、屈託なく笑った。オレはそっちの笑顔の方がいいなあ。
ぐい、と、左の腕を引かれて、そちらを振り向く。過子が頬を膨らませていた。
「お兄ちゃんばっかり、ずるい」
名前で呼び合うことを始めていた双子は、時たま、失念する。と言っても、故意であることの方が多い。たとえば過子が、兄に甘えるときに、よく使う。仕方ないなぁと言うように笑う今馬は、いつも嬉しそうなので、特に問題は無いのだろう。
「ずるいと言われても
……
」
澄野は1人しかいない。それは確実に言える。だから、同時に2人を相手にすることなど、出来ない
――
「こうすればいいんじゃないかな」
「さっすがド天才妹ちゃん、名案っすね!」
「は!?」
過子が左膝に乗り、それを見た今馬が大変楽しそうに同じことをする。今馬は悪ノリをしているだけな気がする、いや、ぜったいにそうだ。楽しそうに笑いやがって、その笑顔自体はとてもいいことだが、2人分の体重を抱えることになった澄野は、そうも言っていられない。
どかそうとして腰へ伸ばした手を、双子に同時に捕まえられる。さすが、息が合う。感心している場合ではない。
賢い双子の名案だけあって、たしかに、澄野の視界には2人が同時に映っている。彼らから受け取る視線も、2倍。思わず顔を背けようとしたが、くいと顎を持ち上げられ、それを阻まれる。慣れた手つきは、今馬のものだ。条件反射でこわばる体に気付かれて、微笑まれる。
たぶん、とっくに、わかっているのだ。澄野も、双子も。
だから、あとはもう、どう折り合いをつけるかでしかない。
わかっている。
「──夢を、見るんだ」
ゆっくりと2人を見た澄野を、双子も見つめ返す。
今馬の指が、顎から移動する。指の背が優しく頬をこすり、離れた。
「同じ夢を見るんだ。毎回、まったくおなじ、夢を」
1周目、とでも言えばよいのだろうか。タイムリープをする前に見た夢と、まったく同じ夢を、まったく同じタイミングで、見ている。
不思議ではない。1日目に戻って来る前と、同じような出来事を経験することは、他にもあった。
でも。ぬぐえぬ違和感があるのは、きっと、勘付いてしまっているからだ。
断片的に脳へ差し込まれる、事実の符合。
体験していないのに、妙にリアルに残っている感触。
そのなかで示される、真実。
「だからって──、だから、って、はいそうですか、って、言えるわけじゃない」
たとえ、カルアがどこにもいないのだと、突きつけられたとしたって。
これらすべてが幻であったと、偽物であったと、目の前に叩きつけられたとしたって。
軽々と手放せるわけではない。
「でも」
同じくらいに、彼らと時間を共にした記憶が、ある。
澄野を兄のように慕う双子も、厄師寺を親のように慕う双子も、現在以上に熱を帯びた目で澄野を見る双子も、お互いをかけがえなく思い、想い、すれ違いながら連れ添った双子も。
異血は、影響し合う。
タイムリープした澄野に呼応して、特防隊も侵校生も、力が強まっていた。そして、力だけではなく、記憶、あるいは情報と言い換えてもいい、それらも共鳴しているふしがあった。
過子の予知は、戻る前より、明らかに発動回数が多い。卵が先か鶏が先か、わからないが、明確に、何かが違う。時間のパラドクスなのだろうか、澄野には、難しいことはわからないけれど。
「おまえたちが、大切なのは、確かだ」
それだけは、確かに言える。
今馬には以前にも言ったことがある。どうすれば大切に出来るのか、あのときも、今も、ずっと考えてはいるが、最善など誰にもわからない。だから澄野は、今現在の感情でもって、素直にそれを伝えるしかない。
双子が、どこまで断片的な記憶を受け取っているのかも、わからない。なんとなく、近くにいるほど、影響が強まる気がしているので、ほとんど同じ情報を受け取っているのではないかと推測している。「それらが集約されているから、なおさら」澄野への執着につながっているのではないか、とも。
最初に動いたのは、今馬だった。
「童貞の澄野先輩には、ここらが限界なのかもしれないっすね。どうっすか、過子。及第点すか?」
「
……
」
目線だけで、今馬が促す。過子は沈黙していた。まっすぐに澄野を見たままである。
はあ、と、溜息をついた。今馬もたまにやる。やっぱり似てるんだな、と思った。
「
……
わかったよ。
……
でも。ずっとそれで許すわけじゃ、ないから」
けして鋭い眼光というわけではないはずなのに、背筋が冷える。澄野は思わず、「はい」と答えた。
「少しずつ調教していくのも、上位者の責任、だもんね?」
「そうそう。ただでさえ可愛くて完璧な妹ちゃんが、この上さらに忍耐力まで身につけたら、ド最強っすよ」
「
……
がまん、できてるもん」
過子基準ではな、というツッコミを口に出さなかったのは、自分で自分を褒めるべきだろう。自分の膝の上で会話する双子を眺めながら、澄野は思う。
見た目よりずっと、好奇心が旺盛で我慢の出来ない少女は、それでも、今までずっと様々な現実に耐えてきたのであろうことを、知っている。会話の端々で読み取れる昔の様子は、筆舌に尽くしがたい。
双子からそれぞれ掴まれていた手を持ち上げ、彼らの頭をそっと撫でた。
「お手柔らかに、頼むよ」
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