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望月 鏡翠
2025-08-26 13:51:06
920文字
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日課
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#1823 「亡弟」「月界」「少年」
#毎日最低800文字のSSを書く
その死には、嫌な噂と人々の思惑が付き纏っていた。
若き王位継承者候補の死というのは、それだけで意味が生まれてしまうものだ。仮に何もなかったとして、噂が経つのは避けられなかったことだろう。
暗殺ではないかとも囁かれた。不調もない健康な王子の突然の死となれば、無理からぬことである。だとすれば、誰がやったのかというのが、問題だった。
さらには、葬式の前に遺体が消えたことも、人々の想像を掻き立てた。もちろん遺体の盗難などあってはならないことで、国は緘口令を敷いたが、隠し通せるようなものではなく、話は秘密裏に少しずつ広まっていった。遺体が確認できなくなったことで生存説も囁かれた。
とても美しい少年だったので、死後に良からぬことに用いたものがいたのではないか、そんな噂もたった。
空の棺を埋葬し、葬式は仰々しく執り行われた。
人の噂も三ヶ月。話が落ち着いた頃である。
亡弟は帰ってきた。
ある夜、兄は死んで見送ったはずの弟が、窓辺に佇むのを見た。整然と変わらぬ、冴え冴えとした凍りつき目の覚めるような美貌である。
彼の死についての真実がそのときようやく全て明らかになった。
暗殺も遺体の盗難も、生存説も、一部分だけは当たっていた。
彼はその美しさゆえに、人ならざるものに連れ去られた。最初は魂だけを。しかし人に肉体が必要であることを知り、慌てて回収していったのだ。
それは月に住まう者たちだった。夜空を眺める彼の姿に恋をして自分たちだけのものにしようと試みたのだ。目論見は成功した。
彼らは月の光と共に舞い降りて、魂だけを抜き取った。そのあと、無事に肉体も手に入れた。生まれ変わった彼は、もはや老いることはない。永遠の月の国の主となったのだ。
月界の王たる亡弟は、兄の国を奪うために故郷に戻ってきたのだ。自分の国を得ても満足しなかった。
生前の彼は兄のことを強く意識していた。実力で王の座を手に入れたいと思ってた。戦うことなく、故郷で国を手に入れることもなかったという後悔は今を逃せば永遠に抱えることになる。
そのまま静かに月で生きることをよしとしなかったのだ。
ゆえに彼は、兄の前に立っていた。
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