こばと
2025-08-26 06:51:05
1596文字
Public ヒュミゲ
 

ヒュミゲを目撃してしまうタキ

タイトルそのままの不憫なタキのお話
タキ視点の短いSS
ふんわりR15くらいですが、CP要素は薄いです

 トレジャーハンターという仕事柄、昼夜問わずお宝を探し求めて飛び回るタキは、夜中に寮を出て明け方に戻ってくることも少なくはない。
 つまり、ほかの寮生たちが寝静まった丑三つ時もタキにとっては活動時間なのだ。それもあって、しんと静まり返った寮の廊下を歩くときにそっと気配を消すのが、すっかり癖になっていた。
 そんなタキだからこそ、思わぬ場面に遭遇することが稀にある。
 それは誰かにとっては聞かれたくない密談だったり、また別の誰かにとっては隠しておきたい涙や、知られなくない秘密だったりするのだが。余計な詮索をしない性格と口の堅さ故か、こういったトップシークレットがなぜかタキの元へはよく集まって来る。
 しかし今、そんな嬉しくない引き寄せ体質をタキは心の底から恨んだ。
(おいおい、マジかよ……
 現在の時刻は午前二時。日帰りの予定で入れていた仕事だったが思いのほか手間取ってしまい、ミーティアへ戻るのがこんな時間になってしまった。
 とは言え、まだ二時だ。マニや書記生辺りならぐっすり夢の中だろうが、この時間帯なら酒好きの面子が明日を顧みず深酒をしていたり、新メニューの試作に夢中なアムルの姿を見かけることもよくあることで。
 だから、わずかに開いた談話室の扉から暗い廊下に漏れ出る明かりに気づいて、自然と足が向いてしまったのだ。
 けれど扉のすぐ近くまでやって来て気づいた、この特別寮で聞くことになるとは想像すらしていなかった艶っぽい声。思わず息をのんで耳を澄ませてしまったタキの胸に、真っ先に浮かんだのは「書記生ではない」という安堵。
 そしてそのあと芽生えた「じゃあ、誰と誰なんだよ」という当たり前の疑問に、脳内をすごいスピードであらゆる可能性と今後の選択肢が駆け巡った。
 こんなにも高速で思考と選択を行う瞬間なんて、冒険中に雪崩に巻き込まれたとか、盗賊のキャンプに迷い込んだとき以来かもしれない。
 そうして数秒ののち、研ぎ澄まされた聴覚が拾い上げた答えに、タキは心の中だけで盛大に舌打ちして毒づいた。
(クソ、最っ悪だ……
 わずかに漏れ聞こえるのは、微かな衣擦れの音と、押し殺したような吐息交じりの喘ぎ声。それから、愉悦と慈愛を滲ませた甘ったるい囁き。
「んっ……ふ、ぅ……ん、っぁ、はぁっ」
……そう、そのまま……っん、いい、こ……ッ」
 思わずタキが天を仰いだのは、後者の声に心当たりしかないからだ。もちろんここはミーティアの特別寮内にある談話室の前なのだから、よく見知った人物しかいないわけだが。よりにもよってタキが遭遇したのが、自国の王子様の艶ごとなのだから最悪である。
 今日は厄日だと痛むこめかみを押さえつつ、気づかれる前にさっさとここから退散しようとタキが踵を返したところで、更なる追い打ちをかけるようにヒューゴの相手と見られる人物が口を開いた。
……ぁっ、ヒュー……も、はや、くっ……
 返す踵も思わずぴたりと固まってしまったのは、ヒューゴの幼馴染でありタキにとっても昔馴染みと言えるミゲルの声が聞こえてきたから。もちろんそれは普段耳にするときの声色とはガラリと雰囲気を変えているのだが、声質自体が変わるわけでもない。
 何よりヒューゴのことを「ヒュー」だなんて愛称で呼ぶ人間は、タキの中でたった一人しか存在しなかった。
(つーかお前ら、部屋でヤれ! 部屋で!)
 確かに二人のうちの一人がヒューゴだと分かった時点で、お相手の候補は自然と絞られていた。当然あの仏頂面の幼馴染の顔も過ったものの、どちらにせよ相手が誰であろうとこの場に居合わせてしまったことは、タキの最大の不幸だと言えるだろう。
 明日、いや太陽が昇った数時間後の今日から、どんな顔をして二人に会えばいいんだと頭を抱えながら、今度こそタキはそっと忍び足でその場を離れるのだった。