三毛田
2025-08-25 22:37:04
1077文字
Public 1000字4
 

95 095. ぬるい水溜まりの淵

95日目
それよりも高い水温

……
「不機嫌だな」
「ぬるい」
「じゃんけんに負けたのは、丹恒だ。いつもみたいに、断ればよかっただろ」
 バッシャンバッシャンと、勢いよく水面を叩く尻尾。
 お風呂に誘ったらオーケーしてくれたはいいものの、お湯の温度をどれくらいにするかで揉めて。
 最終的にじゃんけん。珍しく丹恒が負けた。
……お前と、もう少し一緒にいたい。そう思うのは駄目なことなのか」
「はいはい」
 突然のデレに内心狂喜乱舞であることを悟られぬよう、誤魔化すように丹恒の髪をグシャグシャにする。
「間違えて踏んだ水溜りよりもぬるい」
「はいはい。奥に詰めてください」
 ぐいっと押すとすんなり動いてくれた。可愛い。
「今日も丹恒は、可愛いな」
 心の中で思っていたことがそのまま口から出ると、彼はキッと俺を睨みつけてくる。
 それでも可愛いだけ。
「穹、今はくっつくな。暑い」
「ぐへぇ」
 抱き着くと、ぐいぐいと顎を押される。
 まあ、暑いのなら仕方ない諦めよう。
 でも、尻尾は離れがたいのか、そっと裏に絡みついてきて。
 そんなところも愛しい。
「なんだ」
 愛しさが募り、尻尾を見つめていると、まだまだ不機嫌そうな声を向けてくる。
「丹恒の事、すごく好きだなって思ったんだ」
……俺も、穹が好き、だ」
 ボソボソと告げた後、お湯の中へと消えていってしまう。
「た、丹恒!?」
 溺れないとわかっているけれど、ちょっと焦ってしまって。
 俺の声を聞いて、すぐに浮き上がってきてくれた。
「大丈夫だ。だが、こうして自分の気持ちを素直に告げるのは、その……恥ずかしい」
「まあ、丹恒はそうだろうな」
「お前には、羞恥心はないのか」
「丹恒に対しては、ないな」
 腕に絡みついた尻尾を優しく撫でると、そっと離れていってしまう。
 どうやら、俺の腕に絡みついていたことに気づいて、離れていったようだ。
 うーん、残念。
「お前、もう少し主張しろ、嫌なら嫌だと言ってくれ」
「嫌じゃないから、何も言わなかったんだって。丹恒に拘束されるのは、嫌じゃないんだ」
 そう。丹恒相手だから、嫌じゃない。
 むしろ、もっと拘束というか、束縛して欲しい。
 でも、それを告げたら彼は引く。確実に引く。
 それがわかっているから、口にしない。出来ない。
「意味を、解っているのか」
「好きな人に束縛されたいって思うのは、悪いことか?」
 逆に問いかければ、黙ってしまう。
 必死に答えを探しているようで、とても可愛い。
「キスしても?」
「お前の、好きにしろ」
 と、目をつぶって。