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アルマジロ
2025-08-25 12:53:40
2151文字
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夕暮れ通りを一緒にかえろう
学パロのレザヘク。男子高校生が駄弁ってるだけの短い話です。
高校三年生になった、といっても俺の日常はすぐに変わるものでもない。
なんなら小学生の頃から変わっていない。幼馴染と一緒に学校に行って、授業が終われば幼馴染と一緒に家に帰る。その繰り返し。
このルーチンの中で時間は勝手に過ぎていって、そのまま何処へでも流してくれればいいのに、そろそろ自分で舵を取らないといけないらしい。人の気も知らないで輝きやがる西日が、今日は妙に憎たらしかった。
通い慣れた通学路を、二人並んでとぼとぼと歩く。住宅地の道路には俺とレザラの長い影が伸びていて、進行方向で揺れるそれが嫌でも目に入った。
普段なら帰ったら何しようだの、どっちの家に行くかだの話していればあっという間に家に着くのに、今日はやたらと帰り道が長く感じる。俺たちの口から出るのは談笑ではなく、重たい溜息ばかりだった。
俺とレザラの顔を暗くさせる要因、それは鞄の中に詰め込まれた一枚のプリントだ。『進路希望調査』の六文字が、頭の中で重石のように鎮座している。同じ重みに苦しむレザラが唸り声を上げた。
「将来の事なんて聞かれても分からないよねぇ
……
」
「だよな
……
こちとら明日の小テストで手一杯だっつの」
「げ、忘れてた
……
」
隣を歩くレザラが苦々しい顔をする。案の定こいつは小テストのことを忘れてたらしい。とりあえず帰った後の二人のスケジュールにテスト勉強を詰め込んでおく。
「でも本当に何を書けばいいのか分からないんだ
……
」
「やりたいこともねぇしな
……
働いてもいいんだが、大学行けって先生言うだろな
……
」
「どっちにしろ色々考えないといけないのかぁ
……
」
本日何度目か分からない溜息を吐いて、レザラががっくりと肩を落とす。俺もレザラも将来の事を何も考えずにここまで来たから、いざこうして選択を迫られると壁にぶち当たったような気分になる。
というより、考えたくないんだ。先の難しいことなんか。将来の夢もないしやりたい事もないのに、どういう基準で何を選べと言うんだろう。
「ねぇ、いっそ思い切って海外に飛び出しちゃうってのは? 進路としてはありだろ?」
にやりと笑顔を浮かべながら、レザラが突拍子もないことを抜かす。
こいつのふざけた発言には苦労させられてばかりだが、今はその奇抜さがありがたい。緊張が解れて思わず笑みが零れた。
「ははは! そりゃいいな、海外のどこにするよ?」
「メキシコとかどうだい? タコス食べてみたいな」
今思い付いただろっていう薄っぺらい提案に乗っかる。メキシコってどの辺りだっけ。暑かったりすんのかな。知ってる奴が誰もいない外国で、二人でタコスを喰う光景を想像してみる。案外悪くない。
飯に左右される俺たちの安い将来を語り合えば、ようやくいつもの賑やかな帰り道が戻ってきたと実感する。現実逃避に過ぎないことは分かっていた。分かっていても今までそれを続けてきたんだし、これからもそうしたかった。
「あ! でも一個あるよ! 将来の希望!」
数歩先に進んだレザラが、はっとしたように振り返る。
空想のメキシコ旅行から突然現実に引き戻されて、ギクリと心臓が縮み上がった。
「ヘクトールと一緒のとこに行きたい!」
こちらに向かって笑いかけるレザラの顔は、橙色の夕日を浴びて輝いていた。
相変わらずふわふわした、けれど気持ちは痛いほど分かるその言葉に笑いと呆れが混ざった声が出た。
じわじわと安堵と取り越し苦労の怒りが込み上げてくる。良い顔で笑いやがって、この野郎。置いていかれるかと思っただろうが。
「お前それ進路じゃねぇだろ! 俺に丸投げしやがって!」
「でも本当に将来の希望だし」
「じゃあ俺だってレザラと同じ所って書くぞ」
「うわぁ投げ返された!」
じゃれるように小突きあえば、時間なんて瞬く間に通り過ぎると知っている。あぁ良かった。今日もいつもの一日だった。
こんな日常がいつまでも続いてほしい。俺の望みなんてそれだけなんだ。それ以外の望みを言えとか言われても困る。
帰宅する道すがら、不意にレザラが足を止めた。
どうしたのかと振り返る。西日が眩しくて思わず目を細めた。
「
……
ねぇ、もしも本当にどうにもならなかったらさ」
レザラがらしくもない真剣な声で切り出す。
俯いた上に逆光になっていて、表情がよく分からない。
続きを待つ間、世界から音が消えたかのようだった。黙って立ち尽くしていると、ゆっくりと顔を上げたレザラと目が合う。薄っすらと笑みを浮かべながら、落ち着いた声で続けた。
「その時は、今度こそ一緒に死のうね」
夕日を背にしたレザラが真っ直ぐ俺を見つめる。顔が陰になっている中で、その瞳だけが妙に輝いて見えた。動物のような、縦長の瞳孔をしていた。
その瞳に不思議と惹きつけられて、何も言えなかった。ただ見つめ返すことしかできない空白の時間の中、ようやく戸惑いの声が漏れる。
「
……
え?」
時間が動き出したかのように風が吹いた。ざぁと木々を揺らして吹き付ける風に、咄嗟に腕で顔を覆う。
狭い視界の中、あるはずもない猫のような耳が、レザラの頭上に見えた気がした。
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