香坂
2025-08-24 20:10:02
2151文字
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🍀にあげるプリンを選ぶ🌱の話

2024/10/28にXで公開した話の修正ver.です。
季節は秋です

 撮影が終わって帰り支度をしている途中、スマホを見ると環くんからメッセージの通知が入っていた。かなりの数の通知に何事かと開けてみれば、その内容に思わず笑みが漏れた。

「みて」
「俺ちょー頑張った」
「いおりんには平均点でいばらないでくださいって言われた」

 続いて王様プリンのスタンプが連打されて、送られてきた写真は各教科のテスト用紙。点数はどれも70点代で、自分が記憶している前回の点数に比べれば大幅に上がっていた。

「環くん、頑張ってたからなあ」

 一緒の仕事の時でも、楽屋でずっと単語帳をめくっていたり、寮のリビングで一織くんと一緒にノートと参考書を広げていたのを見かけては、微笑ましい気持ちになっていた。その成果が出たことと、こうやって報告してくれることに胸が弾む。「前回の56点や43点から大きな進歩を遂げているよ!忙しかったのに偉いね」と打ち込んで、いつもより多めにスタンプを追加する。ちょうど学校が終わった頃らしくすぐに既読がついた。確か今日これからの仕事はなかったはずだから、今帰れば寮で会えるかもしれない。
 せっかくだから、彼にご褒美の王様プリンを買っていこうとコンビニに寄ることにした。

「こんなにたくさんあるのか

 寮から近いコンビニに入る。スイーツの並ぶ冷蔵庫に立ち寄る機会があまりないから知らなかったけれど、今の季節に合わせて色々と種類が出ているみたいだ。普段彼が食べている普通の王様プリンの横に、焼き芋、栗、かぼちゃと、全体的に黄色みの強い種類のプリンがずらりと並んでいる。

「やっぱり定番かな?でも、せっかくだから秋限定のものとか」

 定番に飽きる、ということは彼に限ってないだろうけど、せっかくだから冒険してみようと栗味に手を伸ばした。
 そういえば、今日は三月さんが栗ご飯を作ってくれるそうだから、栗だと被ってしまう。それなら甘そうな蜜のかかっている焼き芋の味の方が、環くんの好みかもしれない。どの味なら喜んでもらえるのだろうか。頭の中の環くんはどれも美味しそうに食べてくれるから、冷蔵庫の前で僕の手がゆらゆらと所在なさげに揺れる。

「そーちゃん?」
「わっ!?」

 考え込んでいると、後ろから声をかけられて思わず大きめの声が出た。勢いよく振り返ると制服姿の環くんが立っていた。

「環くんお疲れさま。偶然だね」
「そーちゃん入ってくとこ見かけたから。買うん?」

 少し戸惑ってしまった僕を気にした風もなく、プリンを指差してくる。

「これは僕の分じゃなくて、君の分だよ。テストお疲れさまってことで」
「まじ?やった!どれにすんの」
「それが期間限定がこんなに出ているなんて知らなくて、どれを買おうか迷っていたんだ」
やっぱさ、平均点だから2個はだめなん?」

 嬉しそうに輝いていた目がほんの少し暗く沈む。甘いものを摂りすぎないように、いつもプリンの数を厳しく設定している僕だけれども、今日に限ってはそんな理由を忘れるくらいにプリン選びに没頭していたみたいだ。

「70点台同じ仕事量の一織くんと、同じくらいの点数を取って欲しい気持ちはあるんだけれど」
「えー、いつもより頑張ったのに」
「環くんならもっとできるはずだよ。ほら、こことかケアレスミスじゃないか。解き終わった後に見直せば防げるミスだよ」
「もー!終わったばっかなのに、んな細かい話すんなって。そんなにダメだったん?」

 しまった。そんなつもりはなかったのに、環くんの表情がどんどん曇っていく。

「ご、ごめんね!その、今日はなんというか君はどの味なら喜んでくれるかな、美味しそうに食べてくれるかなって考えて込んで迷っていたんだ」

 慌てて本音を伝えると、途端に王様プリンの蓋を開ける直前のような緩んだ顔になった。

ふーん、あんがと」
「まだ何もしていないけど?あ、そうだ、環くんが好きなものを選んだらいいよ。どれでも買ってあげる」

 これなら確実に喜んでもらえるはず。我ながらいいアイディアだな、と思ったけれど、環くんは不満そうに口を尖らせる。

「だめ、それじゃ意味ねー。そーちゃんが選んで」
「ええ味は変わらないと思うけど」
「じゃ俺もあんたの分選ぶから、交換しよ」
「丸ごと一つは食べ切れないよ」
「そしたら俺が全部食べる。かぼちゃとか、野菜だしあんた食えそー」
「結局二つ食べる気じゃないか」
「バレた?」

 イタズラがバレた時のような顔をして、かぼちゃ味の王様プリンを差し出してくる環くんの瞳の中には、もう暗い色は残っていなかった。
 気づけばお互いに食べるものを選び合うことになってしまったけれど、たまにはこんな日があってもいいかな。

「なら、環くんのは焼き芋味にしようかな」
「なんかタレ?みたいなのかかっててうまそー」
「きっと甘みが強いだろうから、気に入ってくれると嬉しいな」
「そーちゃんが選んでくれたんだから、ぜってえうまいって」

 そのまま帰宅して、夕飯の後一緒に食べたプリンは、やっぱり僕には少し甘かった。でも環くんが二つとも美味しそうに食べてくれたおかげが、不思議と胸焼けはしなかった。
 

Fin