織音
2025-08-24 15:49:25
1016文字
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青想序曲

10月11日以降に頒布予定同人誌『青想序曲』の書き下ろし作品サンプル。作業が半分以上終わったので投下。
※執筆中につき完成品と異なる場合があります。

『人間と、構造体を分かつものとは何か。』

 人間の心臓は一分間につき約六十回拍動している。
 人間にとって鼓動とは呼吸と同義であり、生命維持に欠かせないもの。人間を生かす最も基礎的なリズムが心臓の拍動である。
 では、構造体はどうだろう?
 構造体は呼吸を必要としない。酸素を送り届ける細胞が存在せず、その機械の体には冷却を必要とする精密な各種モジュールや機構が存在している。恐らくその冷却の役割を担っているのが構造体の体を巡る循環液なのだろうが、それを送り届けているのが構造体の『心臓』である。
 この心臓を模したパーツのことはよく知らない。普段目にすることのないパーツである上に……目にしないことを祈るしかないが、そもそも構造体の内部構造は複雑だ。装甲の上からでも、その拍動を感じることはできるのだろうか。
 そういえばその鼓動を確かめるように触れたことはなかったなと、目の前で息づくひとりの構造体を眺めながら思う。
――指揮官」
 普段は手袋に覆われ、隠れている跡になったばかりの傷が彩る人間の手と、メンテナンスされ表面の傷が綺麗に埋められた機械の手が重なる。
 互いという存在で心の隙間を埋め合うように。深くは触れず、体温と触れた輪郭で互いを確かめるだけ。ただ、それだけの夜。
 ――リーが超刻機体に換装し、このような……『恋人』と呼ばれるような関係になってから時折行なっていることだった。
 彼の意識海に前触れなく現れては消える『予感』という名の別世界の投影。それに酷く心を擦り減らしてはこの世界にありもしない虚構を恐れ、一人で抱えきれないそれを「あんな結末にならないように」とその腕で抱き続けている。
 そうやって苦しみを見慣れた無表情の奥に隠して一人晦冥を彷徨うのを、どうにか助けたかった。ありもしない虚構に押し潰されて壊れてしまう前に、手を差し伸べたかった。あのコンステリアの砂浜で、そう約束したから。
『貴方に、触れさせてくれませんか』
 まだ意識の奥に残る繊翳を吐き出すように、静かな息が落ちた。
『貴方の体温に触れられたのなら、これが現実だと……きっと安心できるような気がするんです』



なんの問題も無ければ(作業が間に合えば)二十数話入った200頁超えの本ができる予定です。
サンプル出す時期がパニオンリーと被っていてややこしいのですが、10月11日以降に頒布予定です。よろしくお願いします。