てま
2025-08-23 23:23:12
3257文字
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「初○○」

22/12/31お題。個人的なお題は「初詣で」



 違法な賭場に盆も正月もあるもんかと思ってたが、どうやら大晦日の夜と元日ばかりは店終いらしい。店の隅で雑魚寝させてもらうつもりがガタイのいいおっさんに追い出されちまって、けっきょくこうして乾風吹きすさぶ公園で俺は今夜も野宿ってワケだ。さっきまでそこそこ人通りがあって賑やかだった街ん中もそろそろみんな寝静まりそうって具合だった。
「や〜〜〜、マ〜ジ寒ぃな……
 とは言っても今夜は一張羅のコートがあるだけマシかも知れねえ。勝って負けて引き分けたとこで追い出されたから所持金ゼロだが借金もゼロだ。(なおトーゼンだがこの場合の借金ってのは乱数と幻太郎の分は含まない)パンイチで野宿だと凍え死ぬかも知れねえが、服がありゃ二晩ぐれぇならどーにかなる。賭場に来る前に乱数と幻太郎の様子をチラッと打診した感じだと、なんか二人ともショーの準備だのプロットの締切りだの何だのって忙しそーにしてたから、俺がちょっくら賭場で儲けてあいつらにメシの差し入れでもしてやろーかと(あわよくば恩売っとこーかなと)思ったんだけどな〜〜〜。
 出来るだけ風が当たらないように、遊具の影にうずくまって寒さを凌いでたらすぐ近くの草むらがカサカサ音を立てて、顔見知りの野良猫がひょいと寄ってきた。こいつ、ホントに警戒心ねーな。撫でさせてくれんのは嬉しいけど悪ぃな、今日は何も持ってねーよ。
「つーかいっそ俺がお前から恵んでもらいたいくらいだぜ」
 ゆうべから何も食ってねぇからひもじいぜ。腹減ると余計に寒く感じるんだよな。お前も食ってねぇのか? そっか。
「お互いツラいな〜〜!!」
 冬場はうめえ草もねぇし、野良猫お前を焼いて食うワケにもいかねぇし。仕方ねぇからもーちょいしたら神社にでも行くか。
 神社のお賽銭のおこぼれを拾うなら明け方前、三時前後が狙い目だぜ。人がたくさん来るような神社だと遠くから投げ入れようとしてスカった小銭が案外落ちてるし、夜が明けちまったらカンヌシサンとかが拾っちまうしな。
 野良猫で暖を取りつつ、寝入らねぇように時々スクワットとかしながら頃合いを待つ。神社、どこ行こっかなぁ。


 けっきょく、八幡さまとお稲荷さまで迷って八幡さまにした。お隣さんだしどっちも行きゃイイのかも知れねぇが、あの赤い鳥居が並んでんの見てるとナゼか幻太郎の顔思い出すんだよな。あいつのスピーカーが何となく似てっからか、金返せって言われてるみてぇな気になるよーな、そーでもねぇよーな。
 夜明けにはまだもーちょいあるこの時間、境内は暗くて静かだった。スマホの充電だけはきっちりさせてもらってっから(充電切れで連絡付かねぇと乱数に怒られる)、俺はさっそくライト点けて賽銭箱のまわりを探索し始めた。五円、五円、十円、一円、シケてんな! もっとイイ額の小銭は落ちてねえのかよ。五円、十円、五円……
「ヒィ!?」
「ああ!?」
 いきなり背後から妙な声が聞こえて思わず振り返った。そのままスマホのライトを声の方に向けると、地味なコート姿の男が顔の前に手を広げて、眩しいのか俺のライトを遮っていた。
「あ、悪ぃ」
 てっきりカンヌシサンかと思っちまった。いや、俺はまだ小銭拾っただけだからな。顔に向けていたライトを下ろしてやると、男は俺から一歩後ずさって怯えたような声をあげた。
「え、あ、ど、泥棒!?」
「ハァ!? まだドロボーじゃねえよ!?」
 まだ手に持ってるだけだよ盗ってねえ!?
「おいてめぇ、人聞き悪ぃコト言ってんじゃねえ!?」
「え、何ですか強盗!?」
「馬鹿野郎違ぇ!!」
 力任せに肩に掴み掛かると、男はもう一度悲鳴を上げた。
「ひぇえお助け……!!」
「おま、うるせぇ黙れ!! ……って」
 ガタガタ震えてるコート男。なんかどっかで聞いたコトあるよーな声と思ったらお前、
「お前、シンジュクのクソリーマンじゃねぇか!?」
「あひぃ、イエッわわわわわたくしはそのような者ではございませんんんッッ」
「だからァ、麻天狼のクソリーマンだろてめぇは!?」
「アヒャアア!? ですのでッ、リーマンはリーマンですが、ぅぐ、断じてクソではありませぇッ……え?」
 まさかこんなところで鉢合わせるなんて思ってもみなかったから驚いた。向こうも同じだったみてぇで、俺が顔見知りだと分かると途端に脱力して、リーマンはその場にへなへなとうずくまった。
「な、何だよ……おどかすな……お、俺はてっきり、ハァ、……運悪く強盗とバッティングしたのかと……
「悪ぃ悪ぃ! 賭場でスって所持金ゼロだからよ、ちょ〜〜っとそこらに散らばってたお賽銭失敬しよーとしてただけじゃねぇか!」
…………強盗じゃなくても窃盗犯じゃないか……はぁあ……
 リーマンはどうにかよろよろ立ち上がって盛大な溜め息をついた。
「びっくりした……びっくりして怯えて損した……
「つーかてめぇはマジこんなトコで何してんだよ。家追い出されたのか?」
「違うよ。仕事を納めて家に帰る途中にタクシーがエンストして、仕方なく降りたら次が捉まらなくて。で、少しでも歩いて家に向かいながら流しのタクシーを探しつつ、ついでに初詣でももう済ませちゃおうかなって思ったら、こうだよ」
 いかにもげんなりって顔で肩を竦めてリーマンが言った。
「んだよ、こんな時間まで仕事とか? 社畜ってタイヘンダナー!」
「そういうお前は素寒貧なんだろ、そっちも大変だなー」
 お互い全然、相手が大変だなんて思ってねーって声でバレバレよ。
……でもまぁ」
 リーマンが俺を見て、突然俺の腕を掴んだ。
「おい何すんだよ」
「手。持ってるんだろう、お賽銭。ちゃんとほら、返しなさい」
「は!? 拾ったモンは俺のモンだろ!?」
「駄目だ。見逃すわけないだろ」
「さっきまであんな怯えてたクセにエラソーにすんじゃねぇ! 俺の! 飯代!!」
 まだ四十一円しかねぇけども〜〜ちょっと拾えばおにぎり代くらいには!
「だ〜〜〜め!! お賽銭は神社のものじゃなくて、神様の物なんだよ。ほら、元旦から犯罪は駄目だ。仮に窃盗じゃないにしても立派な遺失物横領だよ。ここはお前の家じゃないんだから」
 ……確かにド正論で「横領は駄目」って言われたらまぁ、そうだよな……と納得せざるを得なかった。賽銭箱の上で手を広げるとチャリンチャリンチャリン……と音がした。グッバイ、俺の拾った四十一円。俺のおにぎり。オロロン。
「ほら、ちゃんと返したんだからさっさと手ぇ離せよ」
……ああ」
 俺の手首を掴んでいた手が離れる。と、思いついたようにリーマンが言った。
「お前、どうせ晩飯食べてないんだろ? 俺も食いっぱぐれてるんだ。ラーメンくらいならおごってやるから、一緒に行くか?」
「え? 何でだよ?」
 乱数とかなら二つ返事でチャーハンもつけてくれって言うところだが、こいつにイキナリそんなこと言われるなんて思ってもねぇからつい聞き返した。
「あんたにおごってもらうよーな理由がねぇだろ」
「そりゃあまぁ、理由も義理もないけど。強いて言うなら、年始の一発目くらいは良い事してもいいかなって。ただの自己満足だよ、お前が腹空かせて野宿してるって思ったら俺のせいでもなんでもない筈なのに今夜寝付けなさそうだし」
「あっそ」
 ま、でもタダメシ食えるって言われて遠慮する俺じゃねー。
「そんじゃ遠慮なく乗っからせてもらうぜ。後から『やっぱ折半』とか言われても無理だからな」
「はいはい」
 コートのリーマンは首に巻いた襟巻きへ口元をうずめて、ゆるい息を吐いたようだった。白い靄がのぼって、そろそろ明け方直前の寒気が来るのに気付いた。
「じゃ、きちんとお参りだけして、とりあえず行こうか」
「おう」
 賽銭箱の前で間をあけて並んで、本殿に向かって手を合わせた。おかしな元日になったが、長い人生のうちの一回くらいはこんなのも案外悪くねぇ。



おわり