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てま
2025-08-23 23:14:42
1451文字
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「ドライブ」「寝言」
24/9/21お題
真夜中のシブヤを白のプロボックスがビルの合間を縫うように走っている。しずかな車内では途切れ途切れのカーラジオが、普段どおりの女の声であすの雨の予報を告げていた。狭い路地から一本、ハンドルを切ってプロボックスは大通りの交差点へと進入する。と、ちょうど赤信号と重なってここで運転席の男から舌打ちが洩れた。信号待ちの列へと並んだプロボックスの真後ろに着けたのは青のスカイラインだった。くたびれた営業車をまるで煽るような車間距離から照らしているスカイラインのヘッドライトを、ルームミラー越しに見て男は再度舌打ちをした。
冴えない夜だった。
職場に直帰とあすの直行の連絡を入れ、今夜は早々に自宅マンションへ向かおうと慣れた路地を走らせていた男は出先の路地裏で顔見知りを拾った──拾わざるを得なかった。身ぐるみ剥がれ全裸一歩手前の男が、プロボックスを運転する自分に気付き猛然と追い縋ってきたのだから、致し方がなかったのが正直なところだった。
助かったぜ、とだけ言って助手席に乗り込んだ男は狭いだの臭いだの文句を言うだけ言って──律義にシートベルトだけは着用して──そのまますぐさま眠り込んでしまった。呼びかけても揺すっても、顔見知りはもうウンともスンとも言わなかった。それで、帰宅するにも出来ず今更会社へ帰る訳にもいかずにこうして今、男は宛てのない深夜のドライブをしているのだった。
「
……
はあ」
まったくいい身分だよなと、赤信号を睨みながらため息混じりに男が呟く。助手席の男は半裸のまま、それは気持ちよさそうに惰眠を貪っていた。
「俺も早く帰って寝たいよ、あしたも早いのに。いや、もうきょうか
……
」
直行直帰で多少は融通を利かせたものの、このままではいったいいつになったらこのドライブから解放されるのか分からない。
(
……
いっそどこかの公園に放り出してもいいか?)
そんなことを考えながら青に変わった信号を確認し、アクセルを踏み込むと男は交差点を通過する。スカイラインを撒くように再度狭い路地へと入り込み、やがて街灯のほとんどない雑居ビル群の裏へと迷い込んだ。
「しまったな、あっちも一通か」
思わず洩れた独り言にため息が重なった。今夜は本当に、ついていない。
「どうしよう、一旦家には帰りたいんだが
……
風呂に入って飯も食べたいのに」
あすが休みであるのならまだ諦めもつくがしかし、直行での客先訪問が決まっている。食料はコンビニでどうにかなるにしても、せめて営業職として最低限の身だしなみは確保したい。
「ホテル
……
にしたって、社用車で外泊したくないし
……
」
こんな時間に入ることのできる部屋といえば当然限られている。途方に暮れた男がいよいよハンドルへ突っ伏したその時、助手席から声がした。
「たのしいじゃねぇか」
「
……
は?」
楽しい。何が?
そう思って顔を上げた男が隣を見ると、顔見知りはなんとも満足そうな笑顔で眠っていた──寝言だ。
「
……
はは」
楽しいってなんだよ、人の気も知らないで。
こっちはきょうもあすも仕事仕事で、家に帰りたいのに帰れないで、早く眠りたいのに真夜中過ぎて今なおこの有り様で。
なのに、こんな無責任な寝言ひとつで、どういうわけか男は気持ちが軽くなった気がした。たまにはこんなふうに、どうにもくだらない夜があってもいい。
とうとう観念した男はプロボックスのエンジンを切って、そのまま仮眠を取るべくシートのリクライニングを倒した。
おわり
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