つくも軌
2025-08-23 23:11:49
5696文字
Public 神×晴
 

【神晴概念SS】俯瞰楽土(※生前幼少捏造贄ネタ)

幻覚しかない(最重要)。川に飛び込んで生贄になってしまった世界線の諏方明神と勝千代の話。
※この話は「7歳でいなくなった家系図上の兄弟」と「(わざと)川に落ちた弟立てる系勝千代」と「諏訪明神と長い付き合いの武田家(が滅亡後関係者各位を祟ったかのような滅ぼしっぷり)」に萌えてる人によるただの神晴いちゃらぶ妄想です。実際の武田家と諏訪家の因縁その他とは一切関係ありません

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はるか昔、其処(底)には神が住んでいた。
やがて神は人々を住まわす使命のために、祖国を譲り、深く、深くに沈んでいった。

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冷え込む山間の夜を越え、勝千代はゆっくりと目を覚ます。家の外ではパキパキと弾ける音がして、まるで、すべてを凍らせてしまうかの如く、強い寒波に晒される。

……さむい)
ぶるりと震える体を両手で包み込み、敷布の中で丸くなる。こういう日には、決まってすぐに熱が出る。浮ついた思考が曖昧になり、頭を締められる感覚がする。……そうなる前に、さっさと眠ってしまわないと。
敷布にくるまり、自身の体温を分け与えた布切れに包まれながら、勝千代はしっかりと目を瞑る。
ひとつ。ふたつ。みっつ。……

────バキン、

すると、遠くの方から、何かが割れる音がする。
それは、凍った大池に足を踏み入れたような音であり、びくりと肩を震わせれば、更にミシミシと地が唸る。

────バキン、バキ、ミシミシ、ビシ。

その音は、だんだんと勝千代のいる館の方へと近づいてくる。雪解けに割れる氷塊のように。木々の間を駆け抜けながら。
───何かが、何かがやってくる。

本能的な恐怖に勝千代は思わず息を飲むと、震える体を抑えながら、敷布にすっぽりと頭まで隠してしまう。
(なにもいませぬ、なにもいませぬ)
壁を突き抜ける〝何か〟の気配に縋るように懇願するも、大きな風音は〝雄叫び〟の如くごおごおと唸り、やがて大きな〝陣〟となる。これほど荒れた気象であれば家臣の一人でも起きてきてほしいものだが、祈りも虚しく、強大な風の大軍はやがて勝千代の枕元を〝びゅう〟と踏んづけ横切っていく。

(────────ぁ)

瞬間、耳をつんざくような爆音から、ぶくぶくと冷たい水中へと変わる。
〝塗り替えられた〟世界に放り出された勝千代は呆然と水面を見上げていると、背後から近づいた長い肢体に、するすると全身を絡まれてしまう。

『探したぞ。我が身に堕ちた愛し児よ。そなたを贄に喰ろうてやる』

見れば、真っ暗な水中に、蒼い『焔』が浮いている。

────蛇だ。

焔に見えたふたつの光は丸い蛇のまなこであり、獲物を怯ます大きな頭が、じっとりと勝千代を見下ろしている。

……な、ぜ)

聡明な勝千代にとって、それが〝まやかし〟だと結論づけること自体は容易いことである。
しかして『そう』だと認識してしまえば、この扱いはどうにも納得がいかない。

「なぜ、ですか……

思わず、自然とそれを口にしてしまえば、蛇腹の締め付けは更にミシミシと胴を絞り、ひ弱な全身が螺旋にがる。
「────っ、あ……っ!」
はらわたがねじれ、ギリギリと厭な音がする。勝千代はたまらず、ごぼりとあぶくを吐き出すと、真っ白くされる思考の中で、それでも「なぜか」と訴える。

「どうして、ですか……っかみ、さま、……何ゆえ、……勝千代を、喰らうの、ですか」
へび〟は幼な子の問答に、さも当たり前だと胴を絞める。
────いたい。くるしい。
搾られた苦痛が耳の外に発される中で、無常の焔がぐにゃりと揺れる。
どうやら、嗤っているらしい。
『痛いか、痛いか、贄の童よ。我が身に触れた罰は痛いか?』
勝千代は何も答えないが、蛇体は気にせず口を開いて、ガパリと目の前に迫ってくる。

……ああ、もう、終わりか。
そう思った。そんな時。

─────バキン、バキン
と、何かが迫る音がする。
それは、何かが生まれるような、分厚い氷塊を〝走る〟音。

…………思い出した。
それは、諏訪に伝わりし〝御神渡り〟であり、冬を迎えて諏訪湖に〝道〟ができた時、
神は氷上を駆け抜ける。

しかし……それは有り得ない。
祖先が流れた、境界の韮崎の一帯なら兎も角、父と共に移り住んだ甲府の山中の館内で、それらが〝聴こえてくるはずがない〟。

勝千代は恐怖に怯えつつも、迫りくる大蛇と軍神の足音に、ついに抵抗を諦める。
“水神が穢れを喰らいに現れ、御名方が此処までやってきたのだ。幼く無力な自身の腕では、────武田に、出来ることはない”

真っ暗になった視界の中で、勝千代は最後に手を握る。そこに、『誰か』の感触があったわけではないのだが。
『バキン』と、終ぞ大きな韻が踏まれてやいばが真上にやってきた時、感覚のない意識はやがて水中に溶けていった。





『────、……っ』

川のせせらぎが聴こえる中で、勝千代はゆっくりと目を覚ます。
そこは、初雪の如く曇った空の下にあり、四肢は水辺に浮いている。どうやら蛇の体内にいるわけではなさそうだ。

『気が付いたか。童よ』

────そして、目の前には大きなかみではなく、美しい若武者が、白き長髪をゆらりと水面に垂らしながら、勝千代の上に覆い被さっている。
突然のことに、勝千代はパチクリと目を開くと、〝若武者かれ〟は薄く微笑んでみせる。
『どうやら、間に合ったようだな。全く、あのお方は手が早い』
「あなたは……
『そなたらが〝諏訪明神〟と称すもの。又の名を……

────建御名方神タケミナカタノカミ

勝千代は、ドキリ、と胸が高鳴るのを感じる。
土着としては水神として現れる諏訪の神だが、とある伝承が入り混じることにより源氏が崇める神の一柱へとのしあがった。いわば物語の英雄だ。

「う、そ……
『ふふ。突然の使命に、それは驚いた事であろう。しかして是はすべて真(まこと)よ。
そなたを贄から逃がす為に、荒業であるが、土地に根付く〝武田〟の縁を借りることで馳せ参じた』
……だから、そんなおすがたに?」
『うむ。……我が身は『無』にて姿があらず。言うなれば、川辺を覗く、童に似せた映し鏡よ』
そう言って〝御名方〟は勝千代のことを優しく抱き上げ、目を合わせると、あの時に見た躑躅つつじの色が幼子の姿を映し出す。
その身姿、まるで理想をまといし王であり、赤き甲冑に包まれた手足と鬼の如き二本角。ひざ下まで覆う白き毛波の法性兜は、さながら獅子のようである。

『さてと、童よ。これからそなたは恐ろしき蛇に喰われる為の、〝代わり〟の贄を立てねばならぬ』
…………、それは」
『さすがにそなたも知っておろう。蛇とは境界に棲む神であり、その者が神体を穢すとなれば、末代まで喰らうのだ。……童よ。つかぬ事を聞くが、この頃そなたは川辺で何かしたか?』
…………
勝千代は、しばし頭の中を整理すると、とある、ひとつの記録の中に『川で溺れた』頁を見つける。
……たしか、弟といっしょに来た時に。その時は、父が見ていたものですから、〝わざと〟急流に飛び込みました」
『わざと……?』
「はい。父は弟を後継者にしたいと仰りました。だから弟を立てたのです。……そしたら、思ったよりも、遠くに流されてしまったみたいで…………
気づいたら、口々に祈るたくさんの僧と、泣いている弟に囲まれていて、勝千代は命を救われました。もう少し遅ければ今頃きっと、黄泉の道へと行けたでしょう」
……すると、穏やかに見ていた御名方の目つきが、夜叉のように鋭くなる。
…………そうか。して、落ちた時の記憶は無いと』
ドキッとした勝千代はしばし考え直したのち、ぶんぶんと首を横に振る。
「もし、その場で覚えていたら、あなた方を、諏訪より渡って来させはしませぬ!」
『くくっ……、そうだな。そうであろう。ぬしは、とても良い子であるな』
すると、御名方は一転、笑顔を作ってニッコリと目を細めると、ぷるぷると震える勝千代の頬を、胸のあたりに押しつける。
…………故に、喰うにはだ惜しい。
いずれ、その日が来ようとも、〝武田われ〟は、そなたの矛となる』



神に抱き上げられたまま、ざくざくと土を踏みしめながら歩いていくと、そこには領界を示す鳥居と、しめ縄のついた『穴』がある。
そこは、人々が良く知る諏訪の立派な社ではなく、概念としてはもっとも旧い、蛇の古巣のようなものだ。

……よいか、童よ。ここから先は、我が身を、決して放してはならぬ』
言われるがままに、勝千代は武者の鎧に縋り付くと、彼が目隠しに手で顔を覆ってしまう。
『聡明なるそなたであれば、これからの事を察する事が可能だろう。しかして〝何も見てはならぬ〟。ここにおわすは我らの祖とする諏方明神……否。今はあえて、御石神ミシャグジと称するべきか。……なに。少し眠れば、今にそなたは元の寝床よ』
「御名方さまは……?」
不安げに、勝千代は腕の隙間から神様のことを見上げると、御名方はうっすらと微笑みながら、その体をぎゅっと抱きしめる。
……案ずることはない。…………さあ、ここから先は、目を閉じよ』
言われた通りに、勝千代は渋々目を閉じる。ここで神意に背くことは、愚か者のすることだ。
御名方の垂れ下がる髪を一束掴んだまま眠りについた晴信は暗闇の中で、さあさあと流れる水の音を聴いていた。

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通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの 細道じゃ
天神さまの 細道じゃ
ちっと通して 下しゃんせ
御用のないもの 通しゃせぬ
この子の七つの お祝いに
お札を納めに まいります
行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも
通りゃんせ 通りゃんせ

(※童謡『通りゃんせ』より)

───────────
────────

────ポツン、ポツン、と水が滴る音を聴きながら、勝千代はふいに目を覚ます。
気づけばそこは元の寝床の上であり、まだ薄暗い山のほうから、ようやく朝日が挿し込んだところだった。

(戻って、きたのか)

ムクリと起きて敷布をどかすと、何故か衣服は乱れており、木下の霜が溶けてきたのか、びっしょりと水に濡れている。
……っさむ……!)
途端に神経が活発化して、ぶるりと全身が震えだす。
どおりで芯まで寒いはずだ。すぐにも温泉に入りたい。
近くにあった唯一乾いている衣服を掴んで重ね着つつ、バタバタと寝床を飛び出すと、ちょうど勝千代を呼びに来たらしい弟の次郎と、真正面からぶつかってしまう。

「わっ!ど、どうしました兄う……冷た!?」
「すまん、今急いでいる」
そう言って、弟を退けて駆けようとすると、ガ、と胴にしがみつかれて、勝千代は転倒してしまう。
「なっ、んだ次郎……!放してくれ!」
「嫌です!ここで放したら……っ兄上が、……兄上が〝また〟、どこかへ拐われてしまうのではないのかと……!」
「──────」

瞬間。
勝千代の脳裏で、あの時溺れた〝後の〟ことを思い出す。

……弟が言うには、あの時自分が助かるまでに〝三日〟もかかっていたらしい。
流された川は勢いが強く、更に雨まで降っていた。探すには川が鎮まることを、祠に祈るしかなかったのだ。

────「お諏訪さま、お諏訪さま、お願いです。兄上を地上に返してください」────

川の氾濫が続く甲斐の国にも、その御身は分霊を分けて座している。
────遥か昔、源氏を助けた軍神としても、同様に。

そうして、勝千代は川辺に放り出されている状態で、僧侶たちに見つかった。
当時、特に勝千代が交流していた僧の者らは一丸となって念仏を唱え、その魂がせめて救い戻されることを別の側面で祈っていた。
3日の間眠っていた勝千代の身体は冷たく、そして河童のように痩せていた。それから5日の間は業火の如き高熱に苦しみ、7日経ってようやく意識が戻ったところで、ポロポロと大粒の涙をこぼした。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

家臣や弟は〝年相応な〟兄の表情に驚きつつも安堵したようで勝千代をその場で抱きしめたが、その後、遠い知らせで勝千代の弟で次郎の兄の、〝犬千代〟が亡くなったことが館に知らされることになる。

────竹松。犬千代。
幼き日に、自分より若くして亡くなった数え年7つの兄と弟。
その顔を、今にハッキリと思い浮かべながら、背筋がぞっと寒くなる。

いかにそれが夢であれど。
いかにそれが〝神意〟であれど。
一度、目を合わせてしまった蛇の〝焔〟は、
決して、逃れられはしないのだ。


──────
────
『童よ。可愛い武田の稚児よ。
我がそなたを喰らうのだ。
そなたがいつか、この身に再び沈むその時までは、蛇神邪神の我は、そなたが愛する全てを喰らおう』


俯瞰楽土

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以下、補足(読まなくていいです)

・蛇と御名方は同一なの?
 →色々文献見た上で、祟る水神が「蛇神(龍神)/ミシャクジ」で「出雲から来ました!!(洩矢とバトって共存スローライフ)」がタケミナってイメージに固まったので、そんな感じの線引きにしてみました。いわば『諏訪明神』っていう霊基共存サーヴァントみたいな(再臨段階で変わるヤツ)

・弟はお諏訪様に会ってるの?
  →会ってるけれど「兄の為なら代わりにもなるよ」の精神で行ったら気に入られたのかナカーマ意識かつよつよバフを貰いました。よってKAWANAKA4は諏訪の呪いに含まれません。ブラコン万歳。

・ミナカタ様はなんで助けたの?
 →武田を助ける恩義側面なのと、甲斐に〝信玄〟が必要だと知っているので。だけど霊基共存した影響で「食べたい」と思ってしまうのは蛇と同じ。多分KAWANAKA4あたりからちょっとずつ(えっちな感じに)食べられている(※神晴者の都合の良い展開)

・信虎はどうなったの?
 →行方不明になったところで「オイオイオイオイ死んだわコイツ」と思ってたら帰ってきたし息子は死ぬし、挙句の果てに追い出される。なお、この世界線の場合晴信が甲斐(自分に課された呪い)から父を解放したことになるため、信虎は長生きルートに入る。

・あの……つまるところ勝頼は……
 →フフッ(御名方スマイル)