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shiroyakei
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バイク
20250823 第6回オロイフワンライ
「あーもう! さいっあくなんだけど!!」
「うぉ、すまない。取り込み中だったか?」
「きょうだい、まじかよ!」
こだまの子に響くシロネンの怒声に、イファは驚いて持っていた紙袋を落としかけた。紙袋の端から転がるケネパベリーを、地面に落ちる前にカクークが器用についばんで取っていく。まあひとつぐらいならいいか、とイファは見ないふりをした。
「ん? だれ
…
ああ
…
イファか。はあ
……
」
溜息とともにシロネンが持っていた紙がぐしゃりとゆがんだ。持っている束はきっと設計図だろう、束の中から数枚が工房の床に落ちた。これだけで彼女になにがあったのか、どうしてご乱心なのか想像がつくなあ、とイファは苦笑いした。それほど、シロネンはとある御方の無理難題に答えてきたのだ。
「こんにちは、イファお兄ちゃん!」
「ニペカ。久しぶりだな、元気にしてたか?」
「元気にしてたか、きょうだい!」
これやるよ、とイファは持っていた紙袋から新鮮で大ぶりのケネパベリーをニペカに手渡した。今朝オロルンが摘んだばかりの収穫物のひとつだ。
「うわあ、おいしそう! ありがとう!」
「んで、今回はどんな難題が来たんだ?」
食い入るように集中して設計図を広げるシロネンの後ろで、邪魔をしまいとこっそりイファはケネパベリーをほおばるニペカに耳打ちをする。身長がニペカよりひとまわりもふたまわりも大きいイファは、彼女が話しやすいようにしゃがむ体制をとって。あはは、とニペカも苦笑いである。そしてニペカも小声でイファの真似事をするように耳打ちをした。
「ついさっきね、炎神様が来たの。それで、『すまないシロネン、先週部下づてで渡した設計図に漏れがあったようだ。納期は伸ばすから、至急修正に取り掛かってくれないか』って
…
」
「大部分はできてたってのに
…
!! あ~腹立つ!!」
ああ、この耳打ちは彼女には聞こえてるのかあ。とイファはもうひとつ苦笑いをした。オセロットの耳を持つ彼女は耳が非常によかった。彼女から数メートル離れた内緒話ぐらいは聞こえるのだろう。
朝一番の収穫を終え、シロネンに渡してくれ、じゃあ僕は寝る。おやすみ
…
と寝室に戻った恋人の耳を思い出した。朝日に照らされて眠そうに横這いになった大きな耳。彼もまた、聴覚には長けているのだ。
「あー、ここのパーツが追加で?
…
やっぱりね。ここの数値おかしいなって思ってたんだよ
……
」
ぶつぶつと図面を広げて唸るシロネンの邪魔はしまいと、イファはニペカに持ってきた紙袋をどこに置けばいいか聞いた。ニペカが指示した場所はたくさんのものにあふれかえっており、足の踏み場もなかった。行って帰ってくるのにもかなりの時間を要したが、毎日使用している形跡はある貯蔵庫ではあったし、とりあえず渡しはしたからいいか、とイファは深く考えないことにした。
工房へと戻ると、シロネンがもうすでに作業に取り掛かっていた。見覚えのある大型のバイクだ。炎神マーヴィカの愛車は、シロネンの数回の改造によって、ナタ
…
いやテイワット一番といっても過言ではないほど、想像もつかないぐらいのハイテクなマシーンになっている。
そんなハイテクなマシーンに、イファは釘付けになってしまった。いつもなら炎神様が乗っているバイクだ。こんなにも間近で、そして停車してパーツを付けられているところなんて、レアもレアだろう。そう、イファもひとりの男性で、そして男子だった。
そんな男子を尻目に、やれやれ、とカクークはニペカとどこかに遊びに行ってしまった。それすらも気が付かないほど、イファはシロネンから生み出される火花に釘付けになってしまった。
「ふう
……
ってえ? イファ、もしかしてずっと見てたわけ?」
「すまない、気になってな
…
」
「
…
こういうの好きだね
…
男子って
…
」
「あはは
…
って、カクークはどこだ」
やっと相棒がそばを離れていることに気が付いたイファは、あわてて周囲を見渡した。それを見てシロネンがあきれた顔で口を開く。
「さあ。ニペカもいないからどっかに遊びに行ったんでしょー
…
ふわあ
……
」
シロネンがあくびをしながらピン、といいこと思いついた、というような顔でイファの顔を見た。
「ね、イファ。こんだけ余裕でここにいるってことは、今日はもう休みってこと?」
「ん? ああ。そうだが
…
」
「じゃあさ、私の代わりに、これ。試乗してくんない?」
「え!?」
「いいじゃんいいじゃん。今日お昼寝してなくってさあ。もう眠くて眠くてたまんないの。テペカアク坂を少し走ってくるだけでいいから。あ、もっと走りたきゃ走ってもいいよ」
「ええ
…
でもこれ炎神様のバイクだろ、俺が勝手に走っていいのか
…
?」
「いつもウチが試乗してるし、ヘーキヘーキ。んじゃ、そういうことで。よろしく~」
そういうとシロネンはローラースケートでさっそうとどこかへと行ってしまった。まだやるとは言ってないのに、イファは大型バイクと取り残された。そして、これは不可抗力だ
……
と自分に言い聞かせて、バイクにまたがったのだ。
イファは炎神様のバイクの快適さに、そしてツーリングの爽快さにたいそう驚いた。こんなにも楽しいものだったのか、バイクというのは。風を切って走る感覚。身を守ってくれるバイクから上がる温かい燃素。風元素と相棒の力とで飛ぶ空も好きだが、この感覚も好きだ、とイファは思った。そしてイファはこの感覚を共有したいと、試乗だということもすっかり忘れて、通いなれたとある場所に向かってハンドルを切った。
「
……
おはよういふぁ
……
え? 炎神様のバイクに乗って
…
? 何をやらかしたんだ。イファ
…
」
寝起きのオロルンが玄関のドアを開けたまま、信じられない目でこちらを見る。
「いろいろあってな
……
どうだ、少し付き合ってくれないか? 炎神様のバイクは大きいから二人乗りできるぞ」
「イファがそういうなら
…
」
そういってオロルンは恐る恐るイファの背中へと乗った。
「確かに快適だ、風が気持ちいいな
…
空を飛ぶのとは違って、
……
水や草の匂い、土の香りを強く感じることができる。炎神様はいつもこんな景色をみているんだな
…
僕たちには全部は見えないけれど、あの方の景色の一部を見れたのはうれしいな」
「そうだなあ」
「それで、イファがこの景色を僕と共有したいと思ってくれたのもうれしい」
イファの腰に手を回すオロルンの手が、ぎゅ、とひときわ強くなった。
「
…
コイビトだからな」
そういうとイファは集中しなければ、と一層強くハンドルを握る。
「ありがとうイファ、好きだ」
「はいはい、俺も好きだよ」
集中からか軽く受け流されたと思ったオロルンが、イファの背中にべったりと体重をかけてきた。その体重を受けたイファがあわてて空に向かって叫ぶ。
「絶対安全運転しなきゃだから!! ちょっと待ってくれって!!」
「いやだ!! 何度でも言ってやるぞ!! 好きだイファ!!」
「うわー!! 声でかいって!!」
オセロットの丸耳が、木陰の中で不快そうに揺れる。そしてふああ、と伸びをして眉を曲げた。
「ちょっと
……
ここまで絶叫聞こえてるんですけど。ウチの大事な昼寝の邪魔しないでよね
…
これだから男子って
…
ていうか、オロルンとイファって
…
はあぁ
…
」
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