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雪成はす子
2025-08-23 21:53:42
5096文字
Public
💛関連
ぼくらのヒストリー
ハートのワンドロワンライ、お題:『学パロ』
🐯さん視点でニコイチが🐯さんの家で勉強会する話
ほんのりノベロ前提で🐯さん記憶アリ、🐧&🐬記憶ナシ設定です
無断転載・AI学習・コピペ・自作発言禁止Repost is prohibited
『ローさん、勉強教えて!! というか宿題がピンチすぎる!!』
というラインのメッセージが送られてきたのは、つい小一時間ほど前の事だ。
アイコンは先日皆で行った水族館で撮った鯱のアイコン、つまり送り主はシャチだ。俺ははあとため息を吐いてシャチに返信する。
『宿題教えろって、まさか夏休みの宿題じゃねえだろうな?』
という俺の返信には、『テヘペロ☆』と文字と共にイラッと来るようなふざけた表情の鯱のイラストのスタンプが送られてきた。
『お前、そういうのは夏休みの最初にやっておくべきだろ』
『そう厳しい事言うなって。俺からも頼むよ』
と図々しくもお願いしてきたのは同じ水族館で撮ったペンギンのアイコン。つまりはペンギンだ。
『バカ、お前がそうやって甘やかすからシャチが成長しねえんだろうが』
『いいじゃん甘やかしたって。あと、ついでに俺の宿題も見て貰えると助かるな~って』
『お前、まさかそれが本命か?』
『勿論タダでとは言わないよ。ヴォルフの所で収穫したスイカ持っていくからさ~頼むよ』
『それ元手かかってねえだろ』
『かかってるよ。俺たちっていう労働力が』
『倒置法やめろ。なんかこの間お前らに布教されたアニメのキャラ思い出すわ』
はあ、と再度ため息を吐く。こいつら二人とも俺より年上の筈だが、どういう訳かいつも宿題を見る羽目になってしまう。二人とも地頭は決して悪くないのに、何故俺に勉強を見て貰おうとするのかさっぱり意味が分からん。
……
まあいい、考えても仕方がない事だ。俺はスマホを操作して、明日の日時を送信したのだった。
翌日の午後一時過ぎ、「「ごめんくださーい!!」」と元気な挨拶が玄関に響いた。
「ローさんに勉強を教わりに来ました!!」
「あら、いらっしゃいペンギン君、シャチ君」
「これ、お土産です。ご家族の皆様で食べて下さい」
「ヴォルフの所で穫れた甘いスイカです!! 美味しいですよ~」
「あら、とても大きなスイカね。とっても美味しそう。ありがとうね、二人とも」
「「ハイ!!」」
母様に大きなスイカを渡し、二人は促されるままに俺の家へと入っていく。仕方なく俺は二人を手招き、俺の部屋へと案内した。
「ローさんの家、久々に来たけどやっぱり広いな~」
「あと、全体的に白で統一されててなんかオシャレだよな~」
「分かる。インテリアもちょいちょい高そうだしな」
「
……
お前ら、宿題やるんだろうが。さっさと教材出せ」
部屋の中央に置いたテーブルに促し、コンコンとペンで机を叩く。
「言っておくが、俺は甘くねえぞ」
「分かってますって! えっと、まずは読書感想文!!」
「
……
それ俺が教える意味ねえだろ」
「でも添削は必要じゃないですか⁉」
「
……
必要か?」
と言いつつもシャチが持ってきた原稿用紙を広げる。と言っても誤字脱字くらいしか俺には指摘は出来ないが。内容としてもさしあたって問題はないようだ。選んだ本も指定された本のようだし、誤字脱字だけ印をつけてシャチに返すと「ありがと!」と笑みを向けた。
次にペンギンが見せたのは自由研究だ。題材は『危険物は何故危険物なのか』
……
ってちょっと待て。
「
……
おい。この実験、ちゃんと周りに大人が居る状況でやったんだよな?」
「当たり前でしょ。ちゃんとヴォルフが監督している所でやったよ。この秋に資格取りたいからその一環でさ」
「ならいいが。
……
とはいえこういうのはあまり実験するモンじゃねえぞ」
「それ、ガキの頃にカエル解剖してた人に言われたくねえなあ」
しれっと言い放つペンギンに俺は頭を抱える。
「話をすり替えるんじゃねえ。万が一の事があったらどうするんだ」
「でも実際に実験してみねえと分からねえじゃん。お陰で油火災には水は逆効果だって知れたし」
「
……
お前、ホントにどんな実験をしたんだ」
「さあねえ」
俺の問いかけに、ペンギンはにこやかな笑みを返すばかりだった。
「マリー・アントワネットが処刑台の露と消える前、ヨーロッパでは歴史的な飢饉が起こっていた。同時期に日本もまた天明の大飢饉と言って、米がまともに穫れず数十万単位で餓死者が出ていた。
……
さて、世界的にこうなってしまったそもそもの原因は何だと思う?」
「う~ん
……
太陽に元気が無かったとか?」
「ある意味では惜しいな。実際この時期は全世界の平均気温がぐっと下がっている。作物がろくに育たなかったのはその所為だな。正解は、火山の噴火だ」
世界地図を広げ、ボールペンで地図を示しながら二人に説明していく。二人は俺が示す先を見つめながら、ふむふむとそれぞれノートに纏めていた。
「世界史とか日本史とか地理とかぜんっぜん苦手だったけど、ローさんの説明めっちゃ分かりやすいな~」
「分かる。あと休み明けのテストのヤマ張ってくれるのすげえ助かる」
「まあな、当然だろ? それに『世界史』『日本史』『地理』ってバラバラに分けるから分かりにくくなるんだ。地理的条件と気候を知れば、その場所で発展しやすい産業も見えてくる。また、その土地でどんな作物が穫れるかでもまた育つ産業は違う。何故モンゴルは日本を攻めきれなかったのか、何故日本は朝鮮半島を攻めきれなかったのか、その答えもまた地理にある。全ては繋がっているんだ。だから歴史を学びたいならこうやって地図と一緒に見た方が分かりやすいんだよな。あくまで俺のやり方ではあるけど」
「へえ
……
面白いな。俺もこの辺覚えきれなかったからこういう解説はほんと助かる」
感心したようにペンギンが呟いたのと同時に、コンコンと扉を叩く音がする。
「勉強もいいけど、そろそろ休憩にしない?」
瑞々しい三角形に切り分けられたスイカを持って、母様が入ってきた。
「あ、すみません、ご馳走になります!!」
「いいのよ、元々貴方たちが持ってきたスイカだもの。私もちょっと頂いたけど甘くて美味しかったわ~! ラミと父様が戻ったら二人にもご馳走しなきゃ!」
皿の上に一切れずつ並べられたスイカと共に、それぞれに皿には先割れスプーンもついていた。机の上に広げていた世界地図やノートを一旦どかし、真ん中に大きなお盆を乗せる。それぞれ一つずつ皿を取り、順番に塩を振って「いただきます」と手を合わせた。
「ん~!! やっぱり冷えたスイカは一番美味しいな~!!」
「ヴォルフの所も今年は豊作だったもんな。手伝うのはちょっと骨が折れるけど」
「でも労働の後に味噌を付けて齧りつく穫れたてのキュウリが美味しいんだよな~!!」
なんて口々に言いながらスイカを口に運ぶ。俺もスプーンでスイカをしゃくって一口頬張ると、シャクッと瑞々しい触感と共に爽やかな甘みと微かな塩味が口いっぱいに広がった。シャクシャクと咀嚼しながら、二人を見やる。スイカを頬張る二人の姿はとても幸せそうで、その笑顔に俺は少なからず安堵を覚えていた。
***
二人の両親が亡くなられたのは、丁度一年前の夏の事だ。
その知らせを聞いた時、俺は血の気が引いてしまったのを覚えている。
この平和な世界に転生して、再び二人に出会えたのは僥倖だった。二人には『前』の記憶は無いようだったが、少なくともこの平和な世界では以前のような不幸は起こらないだろうと思っていた。何故なら自分の両親も妹も健在で、かつての恩人だったコラさんもまた生きているのだ。
父様の病院の経営者でもあり、他にも玩具屋やシードル醸造所など幅広く経営しているドフラミンゴとコラさんが殺し合うような事もなく、全てが平和に事が過ぎていく。さして大きな事件もなく、皆がそれぞれ平々凡々と日々を過ごし、これまでもこれからも全てが恙なく平和に過ぎ去っていく
――
そう思っていた矢先の出来事だった。
二人の両親の葬儀の場には、俺も出席した。
二人が気がかりだったのともう一つ
――
また、あの時のような悲劇を繰り返させない為だ。
葬儀の場では、やはり二人の処遇についての花話し合いが行われていた。
彼らが話し合う横で、ペンギンが泣きじゃくるシャチの肩を寄せて背中を叩いている。それはかつての二人を思い起こさせる光景だった。
彼らの親戚たちはやはり、二人を引き取る事にあまり積極的ではないようだ。
ならばと俺が二人に声をかけようとした矢先
――
俺の前に、ひとりの男が現れたのだ。
「二人とも、うちに来るかの?」
そう二人に訊いたのは、『あの男』とは全く違う、初老の男だった。
初めは誰だか分からなかった。黒い喪服を着て、シルバーグレーの髪を後ろに撫でつけたその姿は、かつての姿とはかけ離れていたからだ。
彼のその問いに、二人は初めこそ警戒していた。泣きじゃくるシャチの肩を抱きながら、ペンギンはその男に問う。
「
……
いいよ。俺たちは二人で施設に行く。そうすりゃ、アンタにも他の奴にも迷惑はかからないから」
「誰が迷惑と言った? それにワシは別にタダでとは言っておらんぞ? この世は全てギブ&テイクじゃからの」
その言葉を聞いた時、俺はひとつの確信を得た。俺は初老の男の肩を叩く。
「待て
……
!! アンタ、もしかして
……
ヴォルフ、なのか?」
初老の男は、俺の方へと振り返ってニィっとかつてと同じ笑みを浮かべた。
葬儀の後、二人を訪ねた際に俺はヴォルフに問いかけた。
「ヴォルフは『前』の事を覚えているのか?」
「『前』? さて、何の話なのかさっぱりじゃな」
目の前の畑では、二人が大きなサツマイモを掘り当てて歓声を上げている。
「しかし施設に行くにしろ、他の奴に引き取られるにしろ、あの二人が離れ離れになる可能性があった。お前さんもそう思ったからこそあの場におったんじゃろ?」
「アンタ
……
やっぱり」
「勘違いするんじゃないぞ? ワシはあくまで労働力が欲しかったんじゃ。この世は全てギブ&テイクじゃからの」
「そう言う割には大した仕事させてねえじゃん」
「当り前じゃ! 子供の本文はまず勉学に励む事じゃからの。学校があるなら学校が最優先なのは当然の事じゃろう。その上でほんの少し手を貸してくれればそれで充分じゃて」
「
……
アンタはやっぱり変わらねえなァ」
サンバイザーの奥の瞳は、やはりあの頃と変わらない。
「お前さんもちっとも変わっておらんな。あの頃と同じで生意気なガキじゃわい」
「そりゃあ悪かったな」
そう軽口を叩き合っていると、遠くから大きなサツマイモを抱えたシャチが駆け寄ってくる。シャチの後を追って、「転ぶなよ」と叫ぶペンギンの頬には泥が付いていた。
「これ、今日のおやつね! みんなでこれから焼き芋パーティーしよ!!」
「焼き芋はいいけどまず芋も手も洗わねえとだろ。ほら、水道のトコ行くぞ」
泥だらけの軍手の中に同じようにサツマイモを持ちながら、ペンギンはシャチを促す。
「ペンギン」
「何? ローさん」
「ついてるぞ。泥」
ペンギンを呼び止め、頬をつつきながらそう伝えると、ペンギンは帽子の下でかあっと頬を染めた。
***
あれから一年、二人はヴォルフの元へと引き取られ、たまに畑を手伝いながら今日まで元気に過ごしている。
初めは警戒していたペンギンも、ヴォルフが善人だと分かってからはすっかり打ち解けて、今や農機やフォークリフトの運転もヴォルフに習っているのだという。こうして畑で収穫した野菜や果物をうちにおすそ分けするようになった頃には、すっかり二人の顔には笑顔が戻っていた。
ほとんど白い部分ばかりになったスイカの最後の一口を頬張り、俺は皿をお盆に移す。同じように食べ終えた二人もまた、お盆に皿を戻した。
「ご馳走様。スイカ、美味しかったぜ」
「ホント⁉ 良かった、ヴォルフにも後で伝えておこう!!」
「言うんじゃねえよ。さて、程よく糖分も水分もミネラルも摂れた所で勉強再開するぞ。次は数学だったか?」
「ゲーッ! 俺数学苦手!!」
「俺も!! 数字とかサインコサインタンジェントとかさっぱりわかんねー!!」
「何で単語だけはスラスラ出るんだ」
やれやれと肩を竦めながらテキストを広げる。ここまで解いてみろ、と問題集を示して俺はお盆を下げた。代わりに麦茶の容器とコップをお盆に乗せて部屋へと戻る。
問題集と向き合う二人が全く同じようなポーズで米神に手を当てて唸っていて、俺は思わずふはっと笑ってしまったのだった。
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