コタジ
2025-08-24 00:01:00
5752文字
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よくあるはなし

□怪談が終わったあとの話。
組頭+伊作、他保健委員+食満

□怪談Webオンリー開催おめでとうございます!

□24日だけリク受け付けました!リクありがとうございます!ベッターと支部に後日投下します、Twitterにてご確認ください。

 くるしい、いたい、つらい。
 終わりが見えない苦しみに、無我夢中で手を伸ばす。何も掴めない。
 楽にしてくれと叫ぼうにも喉がない。
 縋ろうにも助けを求める手の先が無い。
 音のない呻きを漏らし、誰気付かれることなく這うように彷徨う。
 ひとの視界に映らない寂しさ、応えてくれることのない虚しさ、朽ちることも出来ない責め苦。
 永劫の時をひとり味わう地獄。
 眼もないので何も見えない。
 明けのない視界、一面をどろりとした暗闇が覆っていた。
 ただ沈殿していた意識がなにかに反応する。
 無意識にそちらに吸い寄せられた。
「大丈夫ですか?」
 声が、音がした。
 歓喜に震える。
 誰かが呼び掛けてくれた、視認してくれた。
 欠けた体躯の痛みなど忘れる程に、心地よかった。
「いま、治療しますから。しっかり」
 醜い傷を気にもせず清め、手を伸ばしてくれる。
 白衣を纏う姿が光のようだった。
 消え失せた眼球が無いのに何故見える。
 そんなひととしての思考など、最早消え失せていたが、ありがとうと、呟いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 よくあるはなし
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「雑渡さんは、なにかありますか?」
「ん?私?」
 きゃあきゃあと楽しんでいる忍たま達を眺めていた男──雑渡昆奈門は、青年の意図することに暫し間を置いた。
 今、彼等がいるのは忍術学園の保健室である。
 最近暑い日が続いていたからか、怪談をしようとなったらしい。
 少しでも暑さを和らげたい気持ちは分からないでもない。
 だが太陽が高く昇っている昼間にやる意味は、雑渡には分からない。
(雰囲気よりも、気分の問題なのかな)
 彼等が楽しんでいるので雑渡も指摘はしない。
 保健室へと入れ替わり立ち替わりやってくる忍たまに教師陣、忍び込んできたプロの忍者にまで、何か怖い話はないかと尋ねている。
 手当をして貰っている間は暇なのか、ねだられた彼等も、それなりに有名な話から聴いたことのない話までしてくれる。
 忍たま達が話すのは微笑ましい長屋での出来事だったりするが、保健委員の面々は楽しんでいるようだった。
 忍術学園の教師陣の話は人に教えているだけあって話すことが上手く、話に惹き込まれるので中々面白い。
 薬を分けて貰いにやってきただけだが、流れで怪談話に耳を傾けていた雑渡に、善法寺伊作が話を向けた。
「まぁ、あるにはあるけど、本当に聴きたい?」
「聴きたいです~、昆奈門さんの怪談。とってもスリル~」
 うきうきとしながら鶴町伏木蔵が眼を輝かす。
 相変わらず暗い雰囲気なのに、怖いもの知らずである。
 伏木蔵の小さな頭を撫でてやりながら「別にいいけど怖くないかもよ」と前置きしてから雑渡は話し始めた。
「さっき伊作くんが話してくれた怪談で、手当してくれたことに感謝していたってひと、いたでしょ」
「あ、はい」
 先程まで語り手をしていた伊作は、首を傾げながら頷いた。
 伊作が話した怪談は、結果的に妖怪や幽霊よりも恐ろしいのは人であるというような類もので「怪談というよりも本当にあった怖い話じゃないか」と保健委員を手伝いに来ていた同室に突っ込まれていた。
 因みに戦場で手当した者を最近度々見かけるので、歩けるほど元気になったようで良かったという笑えない話だった。
「あれね、ひとじゃないよ」
「?」
「ひとではない、よく似たなにか、だね」
 室内に沈黙が落ちた。
 雑渡の声音は落ち着いており、声を張り上げなくとも自然と耳を傾けたくなる求心力がある。低いのによく耳朶に馴染み、余韻が残る。
 その声が、しんと静まり返った室内に雨音のように淡々と落ちる。
 怪談を長くしていた為か、いつの間にか陽は落ち、夕刻を過ぎつつあった。
 生温いのに寒気を誘う風が吹き、庭先に生えたススキの花穂がさやさやとさざめいた。
 ごくりと誰かの喉が鳴る。
「また会っても眼を合わせたり、何かあっても声掛けにはこたえちゃだめだよ」
「ど、どうしてですか」
 猪名寺乱太郎の震える様子に、雑渡は目を瞬く。
「え、そりゃあ、知らないひとには付いていっちゃだめだからでしょ。先生方や親御さん、先輩達からそう習わなかった?」
「だぁっ」
「だから!付き纏いや犯罪の前触れの類の話を怪談に混ぜて話すな!」
 雑渡の気の抜けた注意に、保健委員の面々はつんのめったようにずっこけ、食満留三郎が突っ込んだ。
 先程までの怪しげな雰囲気が霧散する。
 今はただ、やや気温の下がった涼し気な空気があるだけだ。
「ほら、もう薄暗くなってきたし、怪談も終わりにした方がいいんじゃない」
「普通は逆ですけどね」
「確かに」
 乱太郎が苦笑し、三反田数馬が怪談は昼間にやるものではないと頷く。
 他の面々も雑渡の言う事に片付けを始めた。曲者の癖にといいつつも、食満も保健委員を手伝う。
「そもそも何故伊作は付き纏いの話をしたんだ」
「え?ただ回復して良かったなぁと」
……それは怪談の最中に話すことか?」
「はは、それもそうか。すまない、留三郎」
「いやまぁ、久々知兵助のように豆腐の話をしたやつもいるしな」
「山本陣内さんのお話も面白かったです~」
「いやあれは体験談であってやっぱり人間は恐ろしい類のものでは」
 
 忍たま達は和気あいあいと話している。
 だからだろうか。
 ちらと外に眼をやった雑渡が、すぅと眼を眇めたことには誰も気付いていないようだった。
 
 
 
 
 
 
 * * *
 

 
 
 
 夜半。
 曲者の癖に何で当たり前の顔をして奴は居座るのかと憤慨している食満を宥めながら、昼間に終わらなかった調合をしていた伊作は、ふと振り返った。
「どうした伊作」
……うん、」
 曖昧に応える伊作に、煎じる手伝いをしてやっていた食満が眉を寄せる。
「またか」
「うん、やっぱり誰かに見られている気がするんだ」
 煮え切らないような不思議そうな顔をする伊作に、忌々しそうに食満が言う。
「仮にも俺達は忍だ。これ程頻繁に気配を感じるなぞ絶対に何かあるには違いない。ただ、同室である俺が何も感じないのが解せない」
「うん、僕が気付いて留三郎が気付かない訳ないし」
「何にせよ姿を現さずに中途半端に気配だけ発するなぞ、気に食わん」
「何かして欲しいことでもあるのかな」
 なにか違うことを気にする伊作に、ガクリと脱力した食満は、ふと夕刻に聴いた雑渡の言ったことを思い出した。
『何かあっても声掛けにはこたえちゃだめだよ』
……ふん」
「留三郎?」
「何でもない、気にするな伊作」
 曲者である雑渡の言葉を気にするなど馬鹿馬鹿しい。
 食満は思考から追い払うように頭を振った。
「よし。これで大体の調合は済んだか」
「助かったよ留三郎」
「同室だろう」
「ふふ、ありがとう」
 嬉しそうに笑った伊作が伸びをする。
 手早く道具を片付けた食満も欠伸を噛み殺した。
 丑の刻も近い、流石に眠気が来たようだった。
「そろそろ寝るか」
「うん。僕は水を飲んでから寝るよ」
「一緒に行くか?」
「乱太郎達じゃないんだから、大丈夫だよ」
 後輩達に対するような声掛けに、伊作が苦笑する。
 それもそうかと食満も笑って返した。

 
 
 
 
 
 * * *
 
 
 
 
 
 
 ぎしぎしと、伊作が歩く度に床が鳴る。
 辺りは虫の音さえこそともせず、死んだように静まり返っていた。
 今なら針の落ちる音さえ響きそうだ。
 五年・六年ともなると、暗闇でも学園内ならば平気で走り回ることも出来る。
 よって伊作にも灯は不要だ。
 しかし風さえない様子に、静か過ぎると妙に感じつつも、伊作は草鞋をひっかけ井戸に向かった。
 傍に置かれた桶を投げ入れ水を汲む。
 からからと鳴る釣瓶の滑車音が妙に耳に障った。
……
 ふと、また感じた視線に伊作は手を止めた。
 滑車の音が止む。
 無音の世界で、伊作は今日は月明かりもない事に今更気付いた。
 完全なる闇に包まれていた。
 忍にとって暗闇は敵ではなく、味方に近い。
 しかも伊作いる場所は勝手知ったる学園の中である。
 しかし、今日は何かが違った。
 嫌な予感がした。
 視線を感じる背後を振り返る気がおきない。
 微かに何かが聴こえた。
 呼んでいる。
「おーい、伊作」
 小さく聞こえたものに、ぞわりと総毛立った。
 それは聞き慣れた、同室の声に似ていた。
 でもあれは違う。
 本能のような何かが警鐘を鳴らしている。
 伊作は首筋にじとりとした汗が流れるのを感じた。
 不快な汗だった。
 直ぐ様拭き取りたいのに、身体が動かない。
 呼ぶ声が近くなる。
「おーい、聞いているのか伊作」
 呼吸が浅くなる。
 鼓動が早まる。
 何かが近付いてくる。
「伊作、なぁ伊作、伊作」
 ずるり、ずるり、となにかが来る。
 地を這っている。
 先程からしきりに伊作の名を呼ぶそれの声は、常に下方から聴こえていた。
「伊作、もう一度呼んでくれ、なぁ応えておくれよ伊作」
 それはもう、息を感じる程に近場にいた。
 繰り返し、乞うように伊作を呼ぶ。
 身体は金縛りにあったように動かないのに、膝が震える。
 気配が纒はるように、足元から伊作にひたりと絡みついた。
「なぁ、聴こえているのだろう?あんた、視えているんだろう?なぁ、頼むよもう一回だけ、なぁなぁなぁなぁ!」
 最早、それは食満を真似ようと取り繕うことさえしなくなっていた。
 捲し立てるそれの生温かな吐息を首筋に感じ、堪らず声を上げそうになった伊作の口を、何か大きなものが塞いだ。
 ひぅと喉が鳴る。
 
「黙って」
 
 心臓が跳ねた。
 夕刻に話した人が、伊作の口を手で覆っていた。
 静かにじっとしているようにと眼だけで言う男に、ぎこちなく頷く。
 暫く伊作を探す声が彷徨うように辺りを這っていたが、呻きは徐々に遠ざかる。
 ひもじいと泣く赤子のように啜り泣き、失くしたなにかを探すような声が段々と小さくなる。
 最後に「寂しい」と呟いたきり、それはふつりと消えた。
 気配が完全に消失すると、寝ぼけていたように虫が小さく鳴き始めた。
 ふっと空気が弛む。
 安心したからか、抱えられるようにしていた伊作の腰が砕け、へなへなと座り込んだ。
「大丈夫?伊作くん」
「い、生きた心地がしませんでした」
「だから応えたらダメだって言っただろ、ついて来ちゃうからね」
「ついてくるって、そういう意味だったんですか
 ぐったりとしている伊作に、雑渡は井戸から汲んだ水を手渡してやった。
 お礼を言ってから、いくらか口に含む。
 からからに乾いていた身体に水が染みた。
 引いた血の気はまだ戻らない。
 のろと伊作は雑渡を見た。
「雑渡さん、さっきのはいったい
「よくは知らないよ。でもまぁ、良くないなにかだろうね」
「なんで、雑渡さんは平気なんですか?」
「平気というか、あんまり気にならないんだよね。普段から」
 景色の一部のようにしか感じていないらしい雑渡に、伊作は深々と嘆息した。
「いつから視えていたんですか」
「さっきのあれなら夕刻からだね。いや、夜戦で伊作くんが妙なのに話しかけてるの見かけた時からならその時からか?そもそものきっかけの事なら、三途の川を見てから結構視えるようになったかな」
「笑い事じゃないですよ、雑渡さん」
「別に笑ってはいないけど」
 脱力というか、腰が抜けているらしい伊作に付き合い、雑渡も隣りに腰掛ける。
 相変わらず足を揃えて座る様子に、更に力が抜けた。
「普段、そんな様子は見られないから、てっきり視えない方なんだと」
「生死を彷徨う前からぼんやりは視えてはいたよ」
「そうなんですか」
 それは辛かったのではと労しそうな眼をする伊作に、雑渡は「別に」と興味薄げに竹筒の雑炊を啜りながら答えた。
「邪魔だなーとは思うけど」
「それはまた、魑魅魍魎かなにかの類に凄い感想ですね」
「だって視界不良になるし、任務の邪魔」
「それはまぁ、そうかもしれませんが」
 納得がいくようないかないような。
 伊作はいつもと変わらず泰然とした雑渡に苦笑した。
「伊作ー!どこだー!」
 一瞬、既視感を覚えた伊作の身体がぎくりと跳ねた。
 しかし直ぐにそれが本当の同室の心配気な声だとわかり、力無く笑って手を振る。
 気付いた食満が飛ぶようにやって来る。
「伊作!てっきり不運を発動したのかと探しに来たんだが、座り込んでどうした?怪我でもしたのか!?」
 実はかくかくしかじかで、雑渡に助けて貰ったのだと伊作が説明する。
「腰が抜けちゃったみたいだから、手を貸してやってあげてよ」
 雑渡が言うと、食満は眉を吊り上げた。
「そもそも何故貴様がこんな時刻に学園にいるんだ曲者!」
「うーん全然聞いてないな。まぁいいや、じゃーね、機会があればまた会おう」
「そんな機会はいらん!今すぐ勝負しろ!」
「留三郎、元気だなぁ
 
 
 
 
 空が白白と明け始めていた。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 了.
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「でも、どうして雑渡さんはあの人が危ないってわかったんですか?」
「明らかに狙われてたし、忍術学園に行く度あれが彷徨いているしで正直ドン引きして気になっただけだよ。伊作くんは本当に気付いてなかったの」
「視線は感じていたんですが、実害はなかったので」
いつか幽霊の類以外にも付け込まれそうだよね、お前」
「あ、まだ祠を壊したりとかはしていないですよ」
「凄いフラグ立てるようなこと言ってるんだけどこの子。神様とか洒落にならないからね、あの人達本当に祟るからね」

 お祓いとかちゃんと行きな?