冬牙
2025-08-23 15:08:27
2854文字
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スバイカ『昴』

ただ優しい世界で微睡んで。
貴方の悲しみを救える、その日まで。

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※こちらの文章はPretty Patterns様のBLUESTAR (feat. TOFIE)という曲から着想を得て制作した文章です。
作業用BGMとして聴いていたので、よろしければ聴いてみて下さい。
https://youtu.be/U6wGGv4kzGw?si=Ug_vyvTEA3c81mT6

※使用サムネイル(フリー素材)
AIPICT(https://aipict.com/)

大切なものを失くした。
私を大切に育て、愛を注いでくれた人だ。
私のせいで失くした。
幼い私は、ただ己の愚かさを嘆いた。
私を愛し、私が追いかけた背中はもういない。
ただその場に泣き崩れ、大粒の涙で顔をぐしゃぐしゃにした。
あの日を永遠に忘れない_____。

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 暖かな日差しが私の書斎に射す。昼下がりのこの瞬間は他の陰陽師たちは皆外にでていて、部屋に1人取り残された私は束の間の静寂を手に入れる。
 書類はもうすぐ片付く。そのあとはなにをしようか。窓から差し込んだ日差しに目をやると宙を舞う小さな埃が光に反射してキラキラと光る。
 私はその様を昼間の星のようだと思った。微睡むような心地でただぼうっと窓のほうを眺めていた。

お師匠様。私は陰陽師になりました。
貴方と同じ、たくさんの式神を従えて。
幕府のため、国のため、日々研鑽を重ねております。
私はまだ、貴方の背中を追い続けています。
いつかきっと、貴方の仇を討つその時まで。
私はまだ、貴方への後悔に囚われています。
こんな私を、まだ未熟であると貴方は笑うでしょうか。

 窓越しに見える遠い空を見つめながら、ただそんなことを考えていた。

____いけませんね。早く書類を片付けてしまわなくては。

 私は暖かな日差しにあてられ微睡みながらも書類をさっさと片付けると、少しの自由な時間が生まれた。
 今のうちに呪符の補充でもしておこうか、そう思いながらもう一度先ほどの窓のほうへ目をやった。
 まだ昼間の星はそこに輝いていた。きらきら、きらきらと光り続ける。その眩しさに思わず目を細め、次第に瞼が重たくなっていくのを感じた____。

_______

 なにもない場所に浮かんでいた。
 ただ壮大な宙に浮いているようだった。気が付くとそこには、無限の闇と無数の星々が広がっている。
 微睡む意識の中で、私はただ星々の輝きに魅了されながらそのまま宙を漂った。
 まるで自分が漂流物になったようだ。無我夢中で師の背中を追い、必死に突き進んできた私には不思議な感覚でならなかった。
 ここには都のような薄暗く淀んだ思想も、陰謀もない。ただ私という存在だけがそこに存在しているようだった。
 心地いい。自然とその無重力に体を預けるように私はしばらく宙を漂った。

 心地よさに目を細めていると、遠くに一際輝く星を見つける。
 あれはなんだろう。近づいてみるとそれは小さな星が無数に集まっているものだった。
 なんと美しい。私は息を呑んだ。
 その星を掴もうと無意識に手を伸ばす。指先に光が触れようとした、その時。
 無数の星々が私の前に集まり、1つの大きな輝きになった。輝きは形を成し、見慣れぬ形を形成する。
 やがて目の前に光に包まれた人の形をした輝きが現れた。見えるのは姿かたちのみで、その表情は光に包まれている。

貴方は、何者なのですか?

 私の問いかけに光はただ笑ったように見えた。
 そうして私の手を引いて大空へはばたき始める。
 私たちは手を繋いで大宙を舞った。ただ悲しいことを忘れ、目の前に広がる星々に魅了されるために。

 きらきらと光る星たちは、師を失った悲しみを慰めるように輝いている。
 星たちの間をすり抜けていく私たちは時を旅する旅人のようだった。
 視界を通り過ぎていく星たちが、蝋燭の炎のように揺れる。
 今にでも消えてしまいそうな光が、儚くも美しい。
 まるで、私と師の思い出のようだ。
 いつか色褪せていく。それでも私の中でいつまでも輝き続ける。
 星そのものがなくなったとしても、私たちの元へはその光が届き続けるように。
 師の優しさも、思い出も、残り続ける。
 たとえ師がいなくなったとしても。

あぁ、そうか__。そうだったのですね。

 私は気づいた。

お師匠様は、この世界に『私』という光を残したのですね。

 私たちは流星のように宙を旅した。
 私の瞳から溢れ落ちた涙がきらきらと宙に流れていく。
 私を連れた光はそれを見て、頬に伝う涙をそっと手で掬ってみせた。
 師のようなあたたかい手。私は頬に触れた手をとって自身の頬にすりよせた。
 私を愛おしそうに見つめる光と目が合ったような気がした。

ありがとう、私を救ってくれた光よ。
貴方は、数多もの星の集まり_まるで、『昴』のようですね。

 私は光にそう告げると、満足げに笑って泡のように消えてしまった。
 集まっていた光が宙に帰っていく。
 その光景すらも美しい。
 いつか私の悲しみも、師への後悔も、宙に運んでいってくれるのだろうか。
 そんな日が来ることを、私はずっと待ち続けている___。

______________

 はっと目が覚めると昼下がりの書斎に座ったままの私がいた。
 どうやら眠ってしまっていたらしい。積み重なった疲労が出てしまったようだ。
 先ほど見た夢がまだ頭の中に鮮明に残っている。
 窓を見るともう日が落ちかけ光は入らなくなっていた。
 遠くからばたばたと忙しない足音が聞こえる。
 もうこんな時間か。私は少し軽くなった体を持ち上げて書斎を後にした。

______________

 あれから随分と時が経った。
 長い月日を経て、あの日見た夢の記憶もだんだんと薄れ、忘れていった。
 私は師の仇を探すため、幕府の用事を口実にケガレに満ちた禁足地、アズマを訪れていた。
 幕府からの命であった供儀の宣誓札の件が落ち着き、いよいよ師の仇打ちに専念できるようになった頃。
 今後のために、私は一度刃を交えたはずの大地の舞手と協力関係を結ぼうとしていた。

そういえば、まだお名前を聞いていませんでしたね。

 そう呟きながら夜の冬の里を歩いていると、舞手のほうから私を見つけるなり嬉しそうな顔で走り寄ってきた。

舞手、ちょうどよかった。貴方を探していたのです。

 私の言葉に舞手は少し息を切らしながらはにかんだ。

よかった!オレも、ちゃんとお話ししてみたいと思っていたんです。

まだ名乗っていませんでしたね。
改めまして、私は幕府直轄陰陽寮陣笠衆頭目、天文司郎イカルガです。

 私の自己紹介に舞手は困ったように苦笑した。

な、なが!?えっと。

イカルガでいいですよ。貴方は?

 私も少し笑いながら返すと、舞手は笑顔で答えた。

スバルです。どうぞよろしくお願いします。

 『昴』_素敵な名前だと思った。
 なぜかはわからないが、他のものよりは幾分か頭に入ってきやすいような気がした。
 そう思いながら私は舞手に差し出された手をとる。
 舞手と握手を交わしたとき、私はいつかの夢で見た温もりを仄かに思い出した気がした。

ええ、よろしくお願いします。

 笑い合う私たちの頭上には、数多の星々が輝いていた。
 これは、私とスバルが結ばれるまでの、出会いの物語。

END