みつる
2025-08-23 07:58:48
7716文字
Public
 

もう出久の邪魔はしねぇと決めたが、外堀を埋めねぇとは決めとらんからな、俺は

 ※プロヒ勝×先生プロヒデ
 ※キャラ崩壊
 ※勝デなら大体オッケーな人向け

「それでねぇ、峰田くんがねぇ」
 出久が蕩けそうな顔をしている。何度目かの宅飲み、俺の家。この表情を見るのも、初めてではない。
「もう、かっちゃん聞いてる?」
「きーとるわ」
 かわいい表情をして、すっかり気が緩んで。仕事帰りにそのまま俺の家に直行して。スーツのまま酒を飲んだらシワになるだろと言えば、素直に俺の部屋着を着たりして。
「つーかおまえ、時間大丈夫なのかよ」
「え、あ、本当だ。あっという間だなぁ」
「間に合うんか、終電」
「んー、がんばれば?」
「このまま泊まった方が楽なんじゃねぇの」
「いっつもそうなっちゃうんだよね。毎回だと、さすがに迷惑だし」
「俺ァ別に、どっちでも」
「んー……
「そのかわり、おまえはいつも通り、ソファーで寝ろ」
「それはもちろん!」
 ぽんやりと頬を染めた出久が言う。
「じゃあ、お言葉に甘えて、今日も泊めさせてもらおうかな」
「ん」
「いつもありがとう、かっちゃん」
 こんなん、フツーなら、下心があるって気付くモンだろうに。
 本当に出久の帰りを気にかけて、終電の時間を気にしてるなら、もうあと三十分は早く声をかける。切島や上鳴や瀬呂がスーツで来たって、部屋着なんか貸さねえし。ギリギリ終電に間に合わないタイミングで声をかけて、出久におうかがいを立てる。
 出久は酒を飲むとぽやっぽやになっから、俺ンちに泊まるように誘導するのは、正直チョロい。こんなにチョロくて大丈夫なんかとは思うが、俺だけにチョロいようなので、利用させてもらうまでだ。
「さすがにもう、新品の下着のストックはないよね?」
「ある」
「さすがかっちゃん……お金払うね」
「別にいいわ。次の宅飲みで、ちょっといいつまみ持って来いや」
「うん!」
 こうやって、次の宅飲みの予定もふんわり立てたりして。全部、俺の算段通り。
 これは、出久とラブラブハッピー生活を送るまでの、俺の物語だ。
 
 *もう出久の邪魔はしねぇと決めたが、外堀を埋めねぇとは決めとらんからな、俺は。*

「え、まだ緑谷に告ってねぇの?」
「怖……あれだけ俺らに牽制しておいて……
「なんか理由でもあんのか?」
 今日は出久と予定を合わせられなかったので、瀬呂と上鳴と切島という、いつものメンバーで飯に来た。
 話の流れで出久の話をして、まだ出久と付き合ってないことを言ってしまったのは失敗だった。今はラブラブハッピー生活へのプロローグである。
「俺からは告らねえ」
「なぜ?」
「ベタ惚れのくせに?」
「緑谷ってモテんだぞ。おめぇだって知ってんだろ」
「そーだよ! 誰かに横から掻っ攫われることだってあり得るだろ! 緑谷だぞ!」
 三人は好きなように言ってくる。そんなことはわかっている。出久が人気者なのは、本当に、よくわかっている。
 あんな先生がいたら、絶対初恋泥棒だろ。高校の教師でよかった。今時のガキはマセてやがるので、高校生にもなれば初恋の一つや二つ、こなしてきているはずだ。出久が小学校の先生なんかやろうもんなら、全校生徒の初恋を奪ってしまうところだった。危なかった。俺は知らない間にアイツに奪われとったけど。初恋。
「俺から告っちまったら、ダメなんだよ」
「だから、なんで」
「俺が『付き合え』なんて言ったら、アイツ、拒否できねぇだろ」
「そんなことねぇと思うけどな」
「そうそう。緑谷、超強ぇし」
「嫌だったら、おまえと殴り合いになってでも拒否すんじゃねぇの?」
……ま、今のデクならな」
 俺の言葉に、切島たちは首を傾げる。そうだ。これは出久のためだけではない。俺のためでもある。
 出久が、俺に怯えて、俺に配慮して、イエスと言ったのではないという、予防線。俺は、出久と対等な立場で、ラブラブハッピー生活を送りたい。そのためのプロローグなのだ。
 とはいえ、出久がクソほどモテるというのも事実だ。世界に緑谷出久が見つかってしまった。世界は、アイツを放ってはおかない。なので、俺は、なんやかんやと出久と会う予定を立て、せっせと宅飲みに誘って、出久が俺の家に泊まるよう仕向け、俺への警戒心をゆっくりゆっくり解きほぐしているのだ。
 脈はある。手応えはある。出久がクソ鈍感恋愛偏差値落第のナードでなければ、今頃『かっちゃん大好き! 結婚して!』と言ってきているはずである。
 おはよう、かっちゃん。朝一番にそう言って微笑む出久を見たくて、俺んちに泊まらせてるという節も、あるけど。毎朝言ってほしい。毎晩おやすみを言いたい。同棲してぇ。同棲、持ちかけちまうか。
「あれ、爆豪、意外と酔ってる?」
「全部口から出てるぞ、爆豪」
「出久ぅ……
「もー、これ動画に撮って、緑谷に送った方が早くね?」
「人の恋路に手ぇ出すべからずだぞ、上鳴」
 上鳴を嗜めながら、瀬呂が俺に飲み物を差し出してきた。よく冷えていておいしい。たぶん水だ。俺はそんなに酔ってねぇ。
「酔っ払いって、みんなそう言うんだよなあ。なぜか」
 切島がそう言って笑った。
 出久に会いてえな。

 ◆◆◆
 
「かっちゃん、大丈夫? 歩ける?」
……いずく?」
「うん、僕が来た!」
 顔を上げると、出久がそこにいた。嬉しくて、出久の頬を撫でる。
「会いたかった。嬉しい」
「う、うん。そっか……
 ぽっと出久の頬が色付く。かわいい。
「緑谷、悪ィな。忙しいのに」
 切島の声がする。振り返ると、瀬呂がまとめて会計をしようとしていた。俺は財布から札を出して、瀬呂に差し出す。瀬呂は苦笑した。
「なんだよ、さっきまで出久出久って暴れてたくせに」
「緑谷が来てくれたもんな。よかったな、爆豪!」
「ん」
 出久に会えたことが嬉しくて、出久の腰に抱きつく。出久は何も言わない。ピロンと音がしたような気がしたが、出久がここにいることの方が重要だった。
「ほら爆豪、緑谷も来てくれたし、ちゃんと帰れよ」
「んー」
「そうだね。かっちゃん、立てる? 帰ろ」
「俺んちに?」
「そ。かっちゃんち」
「今日も泊まってくか?」
「え、それは……
 出久は困った様子だったが、嫌そうではなかった。これは、いつもの“いける”やつでは。
「こんな酔っ払った俺を一人にする気かよ」
「怖」
「さっきまで『酔ってねえ』って言い張ってたのに」
「自分の財布から飲み代出せるくせに」
 三バカがコソコソ言っているが、無視だ。出久は顔を赤くして、目を潤ませている。なんなんだ、本当にかわいいなコイツ。あんまカワイイと、頭から口に含んじまうぞコラ!
「なあ、泊まっていくだろ?」
 少しだけ眉を下げて、窺うように出久のことを見る。俺のこの表情に、出久は弱い。最近気づいたことだった。前の俺だったらこんな表情は絶対にしなかったが、今の俺は違う。使えるもんは何でも使う。さあ、言え。かっちゃんちに泊まると言え。
「もう、しょうがないなぁ」
 へにょりと出久が微笑んだ。勝った。そうと決まれば、一刻も早く家に帰るだけだ。出久が手を貸してくれるので、その手を離さないように握りしめる。
「帰る」
「おう、気をつけてな」
「特に緑谷、本当に気をつけてな」
「そうだぞ緑谷、嫌だったら殴ってでも抵抗するんだぞ」
「え? うん? みんなも気をつけてね」
 出久は何もわかっていない様子で手を振った。かわいい。食べてしまおうか。
 
 夜、人通りもまばらにある道で、出久と二人、手を繋いだまま歩く。道中、俺たちのことを見る視線も感じるが、今は気分がいいので放置をする。出久も手を離そうとしない。いい夜だ。
「かっちゃん、お泊まり用に色々買って帰っていい?」
「あー……うん」
「あれ? ダメだった?」
「そうじゃなくてよぉ」
「?」
 俺の歯切れの悪い返事に、出久は不思議そうに小首を傾げている。ああ、もう言っちまいてぇな。出久の邪魔はしたくねぇけど、俺以外の誰かは選ばないでほしい。
「もうさ、泊まるの前提で、おまえのモン置いていけばいいだろ」
「へ?」
「部屋もおまえ用に一部屋空けとるし。そのまま住めよ」
「ええ……?」
 ぽぽぽと出久が色付く。ヒーローやっとる時はあんなにカッコいいのに、緑谷出久に戻ったらカワイイの、反則だろ。こんなの、世界中の人間が出久のことを好きになっちまう。
 もう、言っちまいてぇな。出久の邪魔になんねぇかな。
 出久のことを見る。出久は仕事帰りで、シャツがちょっとヨレていて、髪の毛もボサッとしている。
 それなのに。
 街の明かりに、照らされているだけなのに。
 ただ、俺と手を繋いで、夜道を歩いているだけなのに。
「好きなんだよ、出久のこと」
「え」
「出久にも、俺のこと、好きになってほしい」
「かっちゃん」
「でも、俺からは、付き合ってくれって、言っちゃいけねぇの」
……なんで?」
「どのツラ下げて、言うんだよ」
 出久のことが一等煌めいて見えるのは、なぜか。昔の俺は、そんなことも理解できなかった。その眩しさを否定した。出久のことを、恐ろしく理解しがたい人間だと感じていた。何を考えているかわからなかった。
 出久のことを誰よりも大切にしたいと願った時にはもう遅く。俺は、許されないくらいに出久のことを傷つけた。
 出久に選ばれたいと渇望しながらも、一歩踏み出すことはできない。それでも、出久が誰かと幸せになるのは耐えられない。なんて厄介な。
「出久はさ、どういうヤツが好きなんだよ」
「え、ええ? ええと」
「優しいヤツだろ」
……うん。そうだよ」
「俺、がんばるから」
……? なにを?」
「出久に『かっちゃんって優しい一面もあるんだな』って思ってもらって、好きなヤツ候補になれるように」
 出久が逃げていかないよう、ぎゅうと手を握り直す。出久は一瞬体を震わせたが、それでも俺の手を握り返してくれた。
「見てろや、出久。俺ァ、ぜってぇ……
「あ、ちょっと! かっちゃん、寝ないで!」
 出久の声が聞こえた気がしたが、俺は重い瞼に抗えず、そのまま目を閉じた。
 
 ◆◆◆
 
 ここは……
 っは!
 意識が浮上した瞬間、飛び起きる。当然の如く、俺は自分の家のベッドの上にいて、なんと部屋着も着ていた。あの出久が、酔っ払って寝落ちした俺を見捨てて行くはずもない。出久は、きちんと俺を家まで送り届けて、着替えまでさせてくれたらしい。
 そう、俺は全て覚えている。酒を飲みすぎてしまうというプロヒーローとしての失態も、爆豪勝己としての失敗も。
 変な汗と動悸が止まらない。俺は昨日、出久に何を言った? いや、しっかり覚えている。覚えているが、酔った上での幻だと思いたい。
 というか、出久は? 怒って帰ってしまったのだろうか。
 どんな敵が目の前にいようとも、俺は震えない。だけど、今。俺の手は確かに震えていた。
 
「あ、かっちゃん。起きた?」
 遠慮なく開けられた寝室の扉、顔を出したのは出久だった。
「おはよう。体調、大丈夫?」
 出久の“おはよう”が聴ける生活。出久は昨夜泊まっていってくれたらしい。俺の部屋着を勝手に着ている。夢かもしれない。
 夢かどうか確認するべく、俺は右手をあげた。
「ちょっと、爆破はダメ」
 さっきまでふにゃふにゃ微笑んでいた男が、瞬きをしている間に俺の右手を掴んで、俺の動きを制圧した。ヒーローデクの顔……いや、先生の顔をしている。
 こんなの、全校生徒が好きになっちまう! かわいいとかっこいいを併せ持つ先生なんて反則だろ!
 
 それに。
 
……
「あれ? かっちゃん?」
 静かに拘束されたままでいる俺を不審に思ったのか、出久が俺の顔を覗き込んだ。
「え、ちょ、かっちゃん、大丈夫?」
 顔が真っ赤だ! もしかして、熱が出てるんじゃ……⁉︎
 出久が大慌てで俺のデコに手をあてる。熱なんてない。出久が俺に臆することなく触れてくれるのが嬉しくて。俺が爆破の素振りをみせたのに、怯えることなく俺の手を制圧してきたことも、嬉しくて。
 俺の体温を確認している手を握りしめると、出久はきょとんとした顔で俺のことを見つめ返した。
「もう、俺のこと、怖くねぇの」
「え?」
「俺の手。怖くねぇの」
「怖いわけないよ」
 出久が微笑む。
「かっちゃんが優しいこと、僕、もう知ってるから」
 数秒、間が空いた。
 昨日のことをしっかりと覚えている俺。昨日のことを、たぶん忘れていない出久。出久の言った言葉の意味が心に届くまで、少し時間がかかった。
 言葉の意味が心に届いた時、俺たちは同時に顔を真っ赤にする。でも、出久は俺の手を振り払わなかった。もう片方の手を添えて、俺たちは手を握り合う。
「あ、あのね、かっちゃんが言えないなら、僕に言わせてほしいんだけど」
……出久」
「ぼっぼぼぼ僕と、おつきあいしてくらはい!」
 盛大に噛んだあと、出久は何かを思い出したように息をのむ。
「好きですって言うの忘れた!」
 ムードもなにもあったものではない。出久にとって、この告白は勝ち戦。出久が言葉にした時点で、この告白は勝利が確定しているのに。
 なんでコイツは赤くなったり青くなったり、祈るように俺のことを見たり、忙しいんだろう。おまえの心が欲しいと祈り続けたのは、俺の方なのに。
「俺も、好き」
……えへへ、よかった。僕も、大好き」
 とろけるような笑顔で出久が言う。安心したのか、少し泣いているらしい。目元をなるべく優しく拭ってやると、出久はもっと幸せそうに笑った。
「大事にする」
 心の底から、そう思った。大事にしよう。
 外堀を埋めないとは言わないが、もう二度と出久の邪魔をしないのも本心だ。だから、内堀を埋めることはできなかった。出久から出てきてくれるのを、待つしかなかった。
 それが、今だ。
「僕も、かっちゃんは優しい人だよってこと、かっちゃんに教えられるようにがんばるね」
「は? 何言ってんだ?」
「そのまんまの意味だよ!」
 出久がそう言って抱きついてきてくれたので、万感の思いを込めて抱きしめ返した。
 どうだ見たか。これからが、俺と出久とラブラブハッピー生活の本編だ。
 
 ◆◆◆
 
 休憩中、事務所に戻ってテレビをつける。そこにはヒーローデクが映っていた。ヒーロー活動を終えて、インタビューを受けるところらしい。
 事務所のソファーに座り、軽食をとる。軽食といっても、バランス栄養食のバーであるが。機械的にそれを頬張りながら、視線はテレビに釘付けだ。
「デク、ご結婚おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「ダイナマイトとの新婚生活はいかがですか?」
「はい、大・爆・殺・神ダイナマイトはとても優しいので、毎日幸せです!」
「優しいんですね、ダイナマイト!」
「はい! とっても!」
 ぴかぴかの笑顔でそう受け答えするデクに、インタビュアーもにっこり笑顔になる。当事者のデクが言うのなら、そうなんだろうと顔に書いてある。それに、惚気は笑顔で聞くものだ。
「幸せのお裾分けをありがとうございますデク! さて、今日の敵確保ですが」
 結婚を発表してからここ数日の間に、ヒーローデクのおのろけがインタビュー前の定番になりつつある。俺には来ないのに。なんでだ。俺だってのろけたいのに。出久がおはようって言ってくれる生活を送っていると、全世界に自慢したいのに。
 イライラした気持ちで画面を見ていると、無遠慮に事務所の扉が開いた。
「あ、かっちゃんも休憩だっけ? お疲れ様!」
「おつかれ」
「もうご飯食べた?」
 俺の気など知らず、のほほんとした顔で出久が入ってくる。今日もヒーローデクは敵を即確保。ケガもしてない。ヨシ。
「うわぁ、僕のインタビューだ。恥ずかしいなぁ」
 どこに行っても結婚のこと言われるんだよねぇと出久ははにかむ。
「俺のとこには来ねぇ」
「そりゃ、かっちゃんはちょっと怖いからじゃない?」
「怖くねぇわ!」
「うんうん、ソウダネェ」
 なんだその適当な返事はと思いつつも、当たり前のように俺の隣に腰掛けたので全てを許してしまう。
「僕はさ、公私共にかっちゃんといるから、かっちゃんのことわかるけどさ。世間はそうじゃないんだから。インタビュー受ける時のかっちゃんはやっぱりちょっと怖いよ。若い頃と違って、今やかっちゃんの実力を疑う人いないし。かっちゃんますますかっこよくなったし。顔が整ってる人に凄まれるってだけで怖いのにさ、顔が整ってる実力者に怒鳴られたら、やっぱり怖いと思う。もったいないよ、かっちゃんの魅力を、もっとこう」
「長ェ」
「え? そう?」
 俺の軽食を勝手に摘んで、出久は首を捻る。おい、それでメシを済ます気じゃねぇだろうな。やはり弁当を持たせるべきだっただろうか。
「かっちゃんの良さは僕がちゃんと広めるから!」
 サムズアップして、俺の伴侶兼サイドキックがなんか言っとる。俺の冷たい視線をどう受け止めたのか、出久はむぅとむくれた。
「僕がただ惚気てるだけだと思ってた?」
「思っとった」
「まあ、半分くらいは、ただの惚気かもしれないけどさ」
 ブツブツと出久が何か言っている。そういや、出久のブツブツに鳥肌が立たなくなったのはいつだったか。もう遠い昔の気もするし、つい最近の気もする。俺は何も変わっていないつもりだったが、やはり少しずつ変化はあるようだ。
 変わらないものも、もちろん、ある。
「まァ、別になんでもいいけどよ」
 出久の髪をくしゃりと撫でて立ち上がる。俺の休憩時間はそんなに長くない。ヒーローデクのインタビューも終わって、見るものもなくなったテレビを消す。
「俺、出久が“わかって”くれてれば、それでいいから」
 そう。出久とのラブラブハッピー生活はまだまだ続くが、それは出久と俺の相互努力がなければ成り立たない。出久に惚れてるからって、出久のことを全肯定するわけにもいかない場面だってある。殴り合ってでも向き合わないといけない時だって、ある。
 俺は自分自身のイメージアップに注力している場合ではない。こちとら、緑谷出久と手を繋ぎ続けていたいのだ。俺は絶対離さないので。絶対、離されたくないので。
 出久がわかってくれてるなら、それでいい。
……やっぱり、みんながかっちゃんのこと好きになっちゃうから、ダメかも」
「おまえ限定だから、これ」
「ダメかも!」
 出久が顔を真っ赤にしてジタバタしている。かわいいな。もう俺たち、そこそこいい歳なのに。
「んじゃ、行ってくるわ」
 かわいいついでに、出久の額にキスをして、そのまま事務所を出る。扉の向こうで大きな音とともに「ダメかも!」という伴侶の叫びが聞こえた。
 もう出久の邪魔はしねぇ。しねぇけど、外堀を埋め終わっても、出久に対して手を抜くとは言っとらんからな、俺は。