望月 鏡翠
2025-08-23 01:55:48
893文字
Public 日課
 

#1820 「緑柱石」「吉祥」「精力」

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 曰く付きの簪を買い取った。曰くがつくということは、胡乱な噂話が形成されるまでの間に、多くの人の手を介したということだ。欲しいと思わせる魅力がなければそうはならない。
 その簪も緑柱石があしらわれた、とても美しいものだった。きっと前の持ち主が手放した途端に次の持ち主が決まり、そうして持ち主が死ぬという噂を形作っていったのだろう。
 私が悪い噂を知りながら、それを手にしたことには理由があった。
 専門家の助けを得られる当てがあったのだ。
 簪に呪いがかかっているなら祓って終えばいいし、その金銭的な価値を狙う物理的な脅威が付き纏っているのなら自分で対処できる。何もなければ不運が続いただけということだ。
 手にした瞬間に呪いがかかるとまずいから、受け渡しの瞬間からついてきてもらった。
 横でじっくりと簪を見て、頷いた。手にして持って帰ってもいいという許可が出た。売り手に聞かせるような話でもないだろうから――それによって価値を釣り上げられたりしたらたまったものではない――、自分の店に戻ってから話すことにした。
「で、これは一体なんなの?」
「う〜ん、吉祥ではある。ただ人を殺す効果もある」
「触って大丈夫なの」
 それは縁起が良いものを表すことではなかったのだろうか。どうして人を殺す呪いの道具などになっているのだろうか。
「ああ、少し触るくらいでは問題がない。精力を吸う効果がある」
 力を溜め込んで必要なときに使う。あるいは、人の力を神に捧げていざというときにその権能を行使して助けてもらうものとして与えられたものなのだという。つまりは神に対するお頼みチケット。奇跡を確実に起こす力というわけだ。
 そういう意味で、それは神からの贈り物だった。
 しかし、今では精力を任意で出したり引っ込めたりすることができる人間はいない。だから生きる力を奪われる一方になってしまって、持ち主は死んでいったというわけだ。
「そもそも精力を吸うという能力を止めればいいわけだから、そうしたらただの簪だよ」
 じゃあ、それをしてと頼むと彼は手を差し出した。
 お金を払えということらしい。