2025-08-23 00:44:40
6171文字
Public 二次創作:UTAUホラー
 

まじない / 語り部:繊月緋色

登場人物
・繊月緋色
・その他

注意事項
・本作品はUTAU音源キャラクター『繊月緋色』の二次創作作品です。キャラクター設定に一個人の解釈や捏造が多数含まれます。
・暴力的・猟奇的な描写を含みますのでご注意ください。
・オリジナルキャラクターが登場します。
・特定の地域・信仰・思想を貶める意図は一切ありません。
・本作を他者や文化を貶める目的で使用することは、固く禁じます。

 ぶっちゃけボクはさー……幽霊も妖怪も呪いも信じてないんだよね。だってボク、幽霊や妖怪に会ったことないし呪われたこともないから、見たことないうちは迷信としか思えないよ。
 ……モルテさん、あ、いや、限りなくお化けっぽい知り合いはいるけど……あのひとは例外だし……
 だから、ボクは怪談なんて語れないけど……
 "そういうの"を信じてた友達の話なら、ボクでも話せるよ。

***

 あの子は、おまじないが好きだった。
 ボクが小学校のときに同じクラスに転入してきた子で、なんとなくボクと一緒に過ごすことが多くなっていった感じかな。ボクっていわゆるグループに入ってる感じじゃなかったし、あの子も引っ込み思案な方だったから、ね。
 普段は大人しいんだけど、何かあるとすぐにおまじないの話をするんだ……「今日はラッキーアイテムの黄色いリボンをしてるから、いいことあるんだよ!」とか「夜中の二時に鏡の前でナントカって唱えると、お化けに会えるんだって!」とか……
 ……おまじないが好きなのはいいけど、ボクにもおまじないをしたほうがいいよって勧めてくるんだよね。
「この本のおまじないを試すと運が良くなるんだって。緋色ちゃんはよく転んだりして運が悪いでしょ?是非やってみてよ!」……ってさ。運が悪いんじゃなくてドジっていうか、間が悪いっていうか……
 まぁ、ちょっと困ったところはあったけど、それでも友達だったよ。授業でグループ組むときとかあの子がいれば安心したし、あの子の家でテスト勉強したりね。
 だから、ボクらが中学に上がるときにあの子が遠くに引っ越すってなったときも……「離れても友達でいようね」って、文通を始めたんだ。

 手紙の内容?普通だと思う。新しい学校のこととか、最近始めた趣味の話とかを手紙に書いてたよ。雑貨屋でかわいい便箋なんか探すのも楽しかったなぁ……ボクが音ゲーにハマり出したのもあのころだったから、音ゲーのあの曲がいいとかそういう話で丸々一通書いて送りつけて…………えぇとボクの黒歴史は置いといて……
 もちろんあの子も手紙を送ってくれたよ。ボクの手紙にはいつも返事を書いてくれたし一日で二通届いたこともあって、あれは流石に笑っちゃったな〜!相変わらずおまじないは中学に上がっても好きなままだったみたい。

 それで……あんなことが起きたのは、中学二年の夏だった。

 七月の初め。学校から帰宅してすぐボクは門扉の近くの郵便受けを確認したんだ。
 中にはまた、あの子からの手紙が入っていた——パンパンに膨れた花柄の封筒に。
 手紙と一緒に写真とかシールを入れてさ、交換することはあったけど……あんなに大きいものが入ってるのは初めてで、ボクはちょっとヘンだなって思ったけど、封を開けた。
 中には、……人形が入ってた。
 どういうのだったか……昔流行った毛糸をぐるぐる巻いたような人形……あれを手作りしたみたいなやつ。あの人形はピンク色で顔もついていて見た目は可愛かったけど、今思うとなんかちょっと不気味だったな。
 それと、いつものように手紙も入っていて……ボクはそれを読んだ。

『ヒイロちゃんへ。
 げんき?この前は誕生日おめでとう!遅くなっちゃったけど、ヒイロちゃんに誕生日プレゼントだよ。初めて手作りしたから時間かかっちゃってゴメンね……
 思いをたっぷり込めたから、気に入ってくれると嬉しいな。学校やお出かけに連れてってね!』

 ……って書いてあったな。
 確かにあの手紙もらったときはボクの誕生日の少し後で、あの子らしい誕生日プレゼントだな〜って微笑ましく思ってたよ。
 それでボクは人形を……勉強机の引き出しに仕舞ったんだ。その、ボクってば昔からドジな自覚してたから……無くしたら申し訳ないし……ってことでね。

 それで翌日。ボクは学校に行って……その通学路で事故に遭った。

 あっ、そんなに大けがじゃなかったよ!自転車乗ってた人とぶつかりそうになって……避けたときに転んで、肘とか打っちゃったの!
 でも、その日は登校してからも大変で……教科書忘れたり、傘持ってないのに雨降ってきたり……あとは帰りにゲーセン寄ったらいつもの筐体が故障中でさぁ!よりによって期間限定の解禁キャンペーン中にだよ?!ほんと……しんどかった……
 なんだかな〜……って落ち込みながら家に帰って……いつもの流れでまた家の郵便受けを開けてた。
 すると今度は、手紙だけ入った封筒が一通。

『ヒイロちゃんへ。
 前の手紙に書き忘れてた!!急いで書いたけど、なにかあったら本当にごめんなさい!!
 プレゼントのお人形、出かける時は"絶対"に連れてって!絶対だよ!!
 わたし、大事なヒイロちゃんが不運な目に合わないで楽しく過ごせますようにって思って人形を作って、おまじないをかけたんだ。でも強いおまじないだから、ヒイロちゃんのそばを離れちゃうとお人形が悲しんじゃうの。
 お人形が悲しんだら、ヒイロちゃんの不運が悪化しちゃうかも?!
 だからお願い!絶対に持ち歩いて!手放さないで!』

 "絶対"って……何度も何度も強調されて、正直ちょっと鼻についた。
 ……学校に持っていくか、迷ったけど……
 でも。
 せっかく作ってくれたし、……こんなのただの人形だし。
 そう言い聞かせながら、結局ボクはスクールバッグの中に人形を忍ばせた。

 翌日。ボクは事故に遭うことなく、忘れ物もない、雨に降られたりもしない。ホームルームが終わるまで、なにも起きなかった。
 ボクが帰り支度をしてるときに、いつも話しかけてくれる中学の友達が机まで来て「緋色〜、今日は調子いいね〜」ってわざわざ揶揄ってきてさ。ボクは「まぁね」なんて笑って見せた。
 そしたらその子がカバンの中をチラッと見て。
「あれ?この人形なに?」
 そう言って手を伸ばして——

「触んないで!!」

 ……ボクは思わず大声を出してた。その子はすぐ手を引っ込めてくれたけど、すごいびっくりしてた。

 その日の放課後はゲーセンに寄る気しなくて、郵便受けも見ないで部屋の中に篭ってた。
 …………ボクは、おまじないなんて信じてない。だから、運が良くなったのだって気のせいだって思ってるはず。
 でも、気のせいなら、ちょっと触られるくらい大丈夫なはずなのに。友達に見せることくらい平気なはずなのに。

 まさか、このボクが……おまじないを信じてしまった?

 そう思うと、足元から崩れて、世界が壊れてしまったような気持ちになった。
 ……大袈裟だって思ってる?でも、ボクにとっては大事だったんだよ。
 ボクは、この目で見たものだけを信じている。だってそうしないと、嘘や噂に惑わされて、どんどん変な風に思い込んで……おかしくなってしまいそうじゃん。
 オカルトなんて信じても、良いことなんかないって——
 ……あ、うん。それは人それぞれだよね。まぁボクってこういうのに関しては頑固だからさ。
 だから、おまじないを信じかけたあのときのボクは、まるでボクじゃないみたいだった……

***

 そうやって人形を持ち続けた日々で、あの子からの手紙は届き続けた。
 毎日一通ずつ、こんな調子で。

『ヒイロちゃんへ。
 お人形の様子はどう?もうすぐ夏休みだけど、ヒイロちゃんはどこかお出かけするのかな?
 ヒイロちゃんはお母さんと仲良さそうだったし、もしかしたら中学の友達と旅行とかしちゃうのかな!?友達だけで遠出するのって憧れるな〜。
 お人形がついてるから大丈夫だと思うけど、事故には気をつけるんだよ!わたしの代わりにお人形にたくさんいろんな風景を見せてあげてね』

『ヒイロちゃんへ。
 期末って結果どうだった?
 いや、言いたくないなら良いんだけど……わたし、あんまり良くなくてさ、買ってもらったスマホも取り上げられて……こんなときこそ占いを見て調子取り戻さないとね。
 占いってね、最後の一押しなの。努力してもどうにもならないことがあっても「今日は星座占いで○○しろって出たからそれを守っていれば大丈夫!」って思うと誰かが背中を押してくれるような気持ちになれるんだあのお人形にも『ヒイロちゃんが勉強上手くいきますように』ってたくさんお願いしたからきっと上手くいくはず上手くいかなかったならわたしに教えて
 もっとお人形を作ってあげるよ』

 ……クラスじゃ引っ込み思案なのにボクの前では明るくて、ちょっとおせっかいだけど優しくて……あの子の手紙はずっとそうだった。
 その手紙の中に、毎回毎回あの人形の話が出てくる。手紙の枚数を重ねるたびにしつこいくらいに存在を主張してきて、ボクに人形を肌身離さず持てって圧をかけてる……そんな気がした。
 ボクはもううんざりしてきて……カバンから人形を取り出して眺めていた。
 そのころにはもう、人形を持ってても不安が拭えなくてさ……。ドジったり音ゲーのスコアが落ちたりしたら、なにか人形の扱いに問題があるんじゃないかって考えがよぎって……
 これからどうしよう……なんて取り留めもなく考えながら、手の中で人形をにぎにぎいじっていた。

 そしたら。
 ぐにゃっ、て指で押し崩しちゃって、ピンクの毛糸がほつれた。
 その隙間から、黒く細い糸が数本飛び出した。

 壊しちゃった?!って焦ったボクは人形を直そうとぐっと顔を近づけて……その糸をじっくりと見てしまった。
 細くて、てかてかと黒光りして、硬くて。

 ……これ糸じゃない、髪の毛だ。

 そう気づいたのに、なぜかボクは冷静に人形のガワである毛糸を解いていった。
 心臓がドクンドクンと警告を鳴らすようで、なのにまだボクは人形を手放さずに中身を見ようとしていた。あんな状況でもこの目で確かめようとして……
 やがて、ピンクの毛糸で作られたヒトガタが崩壊して、人形の"芯"がころんと出てきた。

 黒い髪の毛を何重にも巻き付けたらしい、萎びた細長いナニカ。黒ずんだソレの先端には、よく見るとなにか硬いものがついていて……

 それが爪だと気づくのと、つんとした腐臭が鼻に抜けるのはほぼ同時だった。

***

 気づくとボクは家の外に、門扉のそばまで来ていた。
 悲鳴は出なかったけど、とても心臓がバクバクしていて、荒い深呼吸を繰り返すだけ。さっきまで冷房の効いた部屋の中にいたのに、ぬるい汗が顔や背中を伝って嫌な感じだった。
 どうしてあんなものが人形に?あれが、あれが"おまじない"?
 目を閉じても机の上の光景が焼き付いて離れない。あんなもの見なければよかったって後悔と、見ないままずっと大事にしてたんだって恐怖に挟まれて動けなくなる。
 ボクはあまりにもパニクってたもんだから……なに考えてるのか、このタイミングで郵便受けの中を確認しに行った。

 郵便受けの中には、いつも通り可愛い封筒が一通。
 そう、あのときは夕方六時くらいで、その時間なら郵便配達も来てるよねって思って……
 封筒を手に取った瞬間「え?」ってなった。

 だって、封筒にはボクやあの子の名前や住所が書いてあって、切手も貼ってあるのに……"消印"がなかったんだ。
 ……それって、配達されてここに来たわけじゃないってことだよね。

 ボクは、震える指でそっと封を破って、便箋を摘んで……恐る恐る開いた。

『ヒイロちゃんへ
 この手紙を渡すことがないといいけど、一応用意しておいてよかったかもね。
 あのね、お人形が役目を終えて中身が出てきちゃっても大丈夫だよ。まずはお疲れ様って唱えてあげるの。そして火に焚べてかみさまに還ってもらうんだ。
 そしたら今度は二人でお人形をつくろうよ!わたしはまだ九体分作れるし、ヒイロちゃんはおまじないをかけるだけでいいからさ!大丈夫!おまじないはね、生きやすくしてくれるんだ。おまじないをしてるうちはいつか良いことが起きるんだって思えるからぶたれてもいじめられても平気なんだよどうしてわたしをみとめてくれないお母さんのところに引きとられたんだろうどうしてわたしはずっとべんきょうできないままなんだろうすうねんまえまでは全部がキラキラして見えてたのにどうして今は全部から目をそむけたくなるんだろうっておもってても平気だからわたしはヒイロちゃんにもわかってほしかったんだ
ヒイロちゃん、わたしのともだち、しんゆう、はなれてもつうじあいたくて、わたしだとおもってほしくて、いますぐにでもヒイロちゃんのクラスにてんこうしたいよあなたにまいにちあいさつするのがわたしだったらよかったのにヒイロちゃんあとはあなたがわたしをわかってくれたらかんぺきなんだよヒイロちゃんヒイロちゃんヒイロちゃんヒイロちゃんヒイロひいろ緋色
繊月緋色』

「だから、ヒイロちゃん」

 数年ぶりに聴く声色に、ボクは顔を上げた。

 門扉の向こう、あの子はいた。
 見たことないセーラー服だった。大きな襟を風にはためかせて、ボサボサの髪が軋むように揺れていた。
 薄暗いオレンジ色の影の中で、黒くて大きな瞳がボクを捉えていて……その顔が、にんまりと笑顔を作った。
 ボクが何か言う前に、あの子は門扉に手をかけた。その指に巻かれた包帯と歪な長さに気を取られる間に、こちらに踏み込んで……ボクの手を取り、あの子は言った。

「ずうっとわたしを大事にしてね」

 その言葉を最後に、記憶の中のあの子は掻き消えた。

***

 後日談、というか直後の話だけど……
 気づくとボクは家の布団の上で目を覚ました。少しするとお母さんが麦茶を持ってボクのそばに来てくれて「大丈夫?!外で倒れてたから心配したんだよ?」って……
 確かに頭がぼんやりしてたから、軽い熱中症になってたかも。それでボクは麦茶のコップを受け取ろうとして……手の指がズキンって痛んだ。
「それ、どうしたの?」
 お母さんに聞かれて、ボクは痛んだところ——右手の小指を見た。
 
 ……ほら見て。ボクの指の付け根あたりに、切り傷が重なってついてるでしょ?

 多分、あの子がつけたんだろうな。

 本当のとこはわからないよ。あのとき以来あの子には会ってないから。
 ……行方不明なんだよね、今でも。あの夏の7月1日から家に帰ってこなくて、それっきりらしくて……。あの子のお母さんはおかしくなったらしいけど……ボクはあんまり事情は知らないや。
 手紙の中じゃ、あの子は『うまくやってる』としか言わなかったんだもん。そんなんでわかって欲しいなんて……ずるいよ。
 ……今はどうしているんだろう。未だおまじないを信じて、縋りついて……どこかの街で生きているのかな。

 ……ボクは、幽霊も妖怪も、呪いも。迷信なんて信じてない。
 人形だって、こっそりお焚き上げしたよ。あんな……髪と腐った指なんて置いておけないよ。
 でも……あの子からの手紙は……捨てられない。どうしても。

 "約束"した証が、まだこの指に残ってるから。