凍えるばかりの寒い夕刻になった。雪道をざくざくと音を立てながら考古学者は一人船に向かって歩いていた。雪が激しく降りつけ、彼女の頬を赤く染める。防寒はしているとは言え、寒い。そして、暗い。方向は合っているはずだ。でも、少し自信がなくなるくらい視界は悪い。
「……」
ざく、ざく。ざく、ざく。雪の音がひたすらに響く。彼女が向かう先は、一時の止まり木。だから本当は、無理して戻らなくたっていい。街や洞窟を探して、一泊したっていいくらい。もしかしたら彼らも彼女を疎んで置いて出航しているかもしれない。記録は今日の昼には溜まっているはずだから。
「……でも」
でも、そう思えないのはなぜだろう。帰りたいと思ってしまうのはなぜだろう。わからない。どうせ、裏切られてしまうのに――
「……あ」
考古学者は顔を上げた。降り積もる雪の中。羊の頭の船が見えた。そして、カンテラが外に下げてあって、そこの下で人影が揺れた。
「ロビン帰ってこねぇな。迷子か?」
「聡明なロビンちゃんをマリモと一緒にすんなバカ」
「うるせぇぞぐるぐる。あんな女ほっといたって戻ってくるだろ。こんな中待つ必要あるか」
「……ここまで外で待っといてツッコミ待ちか?」
「ゾロは素直じゃねぇからなー、ししし」
「……うるせぇ」
船長、料理人、剣士の三人がカンテラの下に座り、そんなことをしゃべるのが聞こえた。
「流石にもうそろそろ帰ってくるかしら。お風呂温め直す?」
「そりゃこぉんな寒ィ中帰ってきたら入りてぇだろうけどさ、さっき温めなおしたばっかだぜ?なぁチョッパー」
「うん、寒い日は少し温めがいいから、まだいいと思うよ」
「もう、お風呂冷たくなる前に帰ってこないかしら」
「そろそろ帰ってくるってー。ほら、チョッパー鼻動かしてみろ。匂いとかしねぇか?」
「うーん……あっ」
「えっ、するのか!?」
そんな声も聞こえてきて、考古学者は焦った。ざくざくと、雪をかき分け、船の前に立つ。はしごを登る前に。
「ロビン!」
ビヨンと伸びてきたゴムの腕。
「おかえりー!!!」
船長が弾けるような笑顔で考古学者を抱え上げた。
「ロビンちゅわん!おかえり!寒かっただろ!あったまる飲み物もご飯もあるよっ!!」
「……おせぇよ。おかえり」
料理人が嬉しそうに両手を上げて出迎え、剣士は頭の後ろに腕を回して、たまった雪を落としながらキッチンに向かう。
「ロビン!おかえり!お風呂先に入って!着替えも準備してるし、ご飯その間に温めてもらうから!」
「おかえりー!今丁度温めの温度だぞ!ウソップ様のお湯のスキルは完璧だー!」
「おかえり、ロビン。震えてるぞ……早く暖まろう!」
航海士はお風呂の方に彼女を促し、狙撃手もくいくいと指を向け、船医は心配そうに甲板に降ろされた考古学者に近づく。
「ロビン?」
彼女はぽかんとしていた。
さっきまで一人寒々とした中にいたのに。
みんないて、温かいところに引き揚げられた上、彼女におかえりと言った。
「……おかえり?」
居場所がないはずの彼女に、ここをあくまで一時の止まり木と考える彼女にみんな口々に「おかえり」と言った。
「……おかえ、り」
明らかに感情が追いついていかない。
どうしてだろう。
「ロビンがかたまったし、ただいまじゃなくておかえりって言ったぞ!?」
「おいクソゴム何してんだてめぇ!」
「ぎゃー!おれおかえりしただけだぞ!」
「寒かったのか!?だから幻見てるのか!??」
「もう!!お風呂一緒に入ってあげるから!!すぐ行きましょ!!」
ギャーギャー慌てふためき騒ぐ一味。まだぽかんとしたままの考古学者は揉みくちゃにされながら、航海士にお風呂に連れて行かれる。
「いや……」
剣士が、一人呆れた顔で呟いた。
あの顔は、何か隠している。
けれど、悪い何かではない。彼らにとっても、元来は彼女にとっても。
「まぁ、いいか」
きっと温かなお風呂やら食事やらで、いつも通りに戻るだろう。そう考え、彼女を温める、いやいや他の一味もみんなを温める毛布を取りに向かうのだった。
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