望月 鏡翠
2025-08-22 22:33:14
845文字
Public 日課
 

#1819 「まじまじ」「出居」「重荷」

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 旅の終わりは、あっさりとしていた。山を踏み分けて進むと、やがて下草がない歩きやすい場所に出た。どこかの庭だ。
 自然を模しているが、本物の自然なこんな風に歩きやすくない。見栄えも良くない。山から離れて生きることができるようになった人間特有の傲慢で、自然らしく見えるような草木や岩や川を、庭に取り込んでいるに過ぎない。極めて人工的な景観だ。
 寝殿作りの建築物の出居に庭から招き入れられた。来訪はわかっていたようで、桶の中に足を拭うためのぬるめの湯が用意してあった。
 久しぶりにまともな住居にやってきたような気がする。
 火鉢の上でやかんが蒸気を吐き出している。上等な緑茶は甘みを感じて、口当たりがまろやかなような気がした。
「この子が例の?」
 茶を啜っている最中に声をかけられて、慌てて居住まいを正す。
 まじまじと見つめられると居心地が悪かった。例のという言い方は、今までずっとされてきた。それが理由で付け狙われてきたし、これからも命を狙われ続けるのだろう。しかし、権力者の庇護者に入るから、今までよりは落ち着いて生活していくことができるようになる。そんなことを言われても、はいそうですかと安心できない逃亡生活を今までしていた。
 しかしそれでも、ここまで自分を連れてきてくれた男は、もう私の身の安全について気にはしていなかった。
 よろしくお願いいたしますと頭を下げて、もう用意してくれた寝室に引き上げようとしていた。今までは安全のために、必ず同じ部屋に眠るようにしていたのにだ。
 もうとっくに自分の庇護化を離れたものとして扱っているのだ。
 この男は、実はずっと前から自分という重荷を下ろす機会を求めていたのだとようやく気がついた。旅を共にしてきた仲間として情を抱いていた心は、少なからず傷ついた。しかし、それを責められるような立場ではなかった。むしろ、ずっと疎ましく思っていたのに、役目だという義務感だけで命をかけてここまで守ってくれたことに感謝するべきなのだろう。