moto
2025-08-22 21:33:38
1277文字
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捌く男、切る男

さまささワンドロワンライお題「魚釣り」「スイカ」


駐車場に着いたらしい左馬刻から、手伝え、と一言ヘルプが入る。今日、左馬刻は早朝から寂雷と釣りに行っていた。わざわざ呼び出すなんて、簓が手伝わなければ運べないほどの大物を釣ってきたということだろうか。スマホを片手に地下の駐車場へ向かう。同じく早朝から仕事に出ていた簓のスマホには、寂雷から定期報告のように左馬刻が釣りを楽しんでいる様子を写した写真が何枚も届いていた。午後の仕事終わりに最後に届いた動画には、左馬刻が奮闘した末に大物を釣り上げる様子を映していた。釣り上げた魚を掲げて、今日一番の笑顔をたたえた左馬刻は、どうだ簓ァ!と叫んでおり、思わず簓もニッコリと頬が緩んだ。静止画にして待ち受けにしたいほどの良い笑顔であった。それにしても、地下へと降りるエレベーターの中で写真や動画を確認してみたが、簓が手伝わなければならないほどではないような。
「簓さんを駆り出すとはどんなドデカい魚を釣ったんや〜」
 車のそばに立っている左馬刻は大きなクーラーボックスを肩から下げている。
「魚じゃねえよ」
 左馬刻の視線の先を追い、トランクを覗き込んだ簓は目を見開いた。
「スイカや!」
「センセーにもらった」
「っは〜こりゃ立派なスイカやな」
「さすがに俺様一人じゃ魚もスイカも持てねえわ」
「なるほどなるほど」
 よっこらしょと抱えたスイカはずっしりと重く、簓は慌てて腰を低くし、足を踏みしめた。
「重っっ!」
「こんなとこで落としたらやべえぞ」
 高級タワマンのエレベーターに散らばる粉々のスイカ、飛び散るスイカまみれになる男二人、想像するだけで震え上がる。
「スイカ人間になってまう」
「お前スイカ見ると毎回それだな」
 吹き出した左馬刻に、どんだけ好きなんだ、と言われても、別にスイカ人間が好きというわけでもなく。毎回っていつから言ってたっけ。
「あ〜、イケブクロおった時にスイカもらったことあったな」
「途中でクソ野良ラッパーに襲われて粉々になった」
「不吉なこと言うなや!ぐあ〜重いっやばいっ落ちるっ」
「ハッ、うるせー」
 エレベーターが止まるまでの間、ジャンケンをしつつ(スイカを抱えていると手が出せないので叫びながら)交代しながらなんとか魚もスイカも無事に部屋へ運び込んだ。
 ひと息つく間もなく、左馬刻は魚を捌く準備を始める。それならば、簓の役割はスイカを切ることである。
「おりゃー!」
「うるせえって」
 豪快にスイカへ挑む簓とは反対に、左馬刻は静かに魚と向き合っている。
「お〜真っ赤や」
 食べやすい大きさに切ったスイカにさっそくかぶりつく。これぞ最初にスイカを切った人間の特権である。
「うま!」
「もう食ってんのかよ」
 呆れる左馬刻に、種を取ったひと切れを差し出すと素直に口を開ける。
「うめえ」
「な!冷やしたらもっとうまいやろな」
「おー」
 手馴れた様子で魚を捌く左馬刻に、大したもんやねえ、と惚れ惚れしながら、もうひと切れスイカをつまみ食いしていると「食いすぎだろ」と大物を釣った時と同じように左馬刻が笑っている。