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採掘すずめ
2025-08-22 14:27:19
8624文字
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【SS】彷徨のかがり火
ふざけていない、とにかく格好よくていい男ぶりを発揮している色男行商人が見たくて書いたSS。色男行商人が暗所恐怖症を発動したユウェラを助ける話です。
タイトルの「かがり火」は、色男行商人の隠された本名がかがり火を意味する外国語から名付けられているところから来ています。
思いもよらない事態というのは大概突然に起こるものである。
そう、まさに今現在のように。
「まさかここまでデカい洞窟になっていたとはなぁ
…
」
遥か頭上、岩に空いた穴から覗く小さな青空を見上げながら、行商人はやれやれと言いたげに苦笑しながら呟いた。
事の発端は三十分ほど前。大きな川の近くを彼が通りかかった際、たまたま外出から帰宅途中だというユウェラとその従者ソルダに出会った。
いつものように軽い調子で二人に絡み、何とも言えない微妙な顔で冷めた対応をされていると、近くの林の暗がりからゾンビやスケルトンといったモンスターがわらわらと現れ襲いかかってきた。
戦闘技術に長けている行商人やユウェラ達にとって、この程度のモンスターは大した敵ではない。三人で効率よく動き、さっさと片付けていく。
しかし、ユウェラの背後に数体のクリーパーが接近した時、事態が急変した。
武器で素早く攻撃できる行商人やソルダと違い、魔法を発動させるために若干の時間を要するユウェラは瞬時に相手を攻撃することができない。
詠唱中で反応の遅れたユウェラを護るべくソルダが駆け寄り二体のクリーパーを仕留めたが、残ったもう一体は間に合わず爆発してしまった。
咄嗟に全員で距離を取ったため爆発による大きな負傷はせずに済んだが、足元にぽっかりと大きな穴が空き三人を呑み込んだ。
地下が巨大な空洞になっており、爆発の衝撃で周囲の薄い地面が広範囲に崩れたのだった。
底が見えないほど深く、闇に包まれた穴の内部。行商人は自分のすぐ横で体勢を崩したまま落下するユウェラの腕を掴んで引き寄せると両腕で抱きかかえ、機敏に身を翻して周囲にそびえ立つ岩の柱や壁をタン、タン、とリズム良く蹴って跳び、落下の衝撃を緩和させていく。
幸いにも最下層には川から流れ込む水が張られており、二人はどうにか無事に着地することができた。
そこで遥か上を見上げて零したのが冒頭の言葉。
「とりあえず、一旦態勢を整えないとな」
行商人はモンスターに見つかりにくい岩陰を選ぶと、落下中に気を失ってしまったユウェラを横たえてから自身の持ち物を漁り、原木と棒、石炭を用いて手際良く焚き火を設置する。
「さて、どこから地上へ戻るかな
……
」
着地の際に水に濡れてしまった青色の上着が焚き火の熱で乾くよう大きな石の上に干すと、岩陰から顔を覗かせて周囲を見渡す。
漆黒の闇が広がる巨大洞窟の遠く前方に、溶岩が流れ出て少し明るくなっている場所が確認できた。その周辺が、上へと続く階段上の岩場になっているように見える。
「ひとまずあそこを目指すか
……
」
かなり深い場所に落ちてしまった以上、少しずつでも上へと登れる場所を探すほかない。そして身軽な自分だけならともかく、ユウェラも一緒となれば出来るだけなだらかな道を選ぶ必要がある。
「あとは、従者くんがどうしているかだな」
ソルダも同じように落下したはずだが、違う階層に吹き飛ばされたのか周囲にいる気配はない。
まぁ、あの逞しく頭も回るヴィンディケーターならどうにかして地上へ戻る術を見つけるだろう。そう判断して再び岩場の影に腰を下ろすと、来たる探索に向けて小腹を満たすため、持参していたりんごを噛じる。
そうして更に十数分が過ぎた頃。
「ぅ
……
ん
……
」
微動だにせず閉じられていた若きエヴォーカーの瞼がぴくりと震え、長い睫毛に縁取られたそれがゆっくりと開かれた。
「お、やっと気がついたかユウェラちゃん。おはようさん」
行商人に明るくそう声をかけられたユウェラは、何度か瞬きを繰り返した後、額に手を当てながら気怠そうにゆっくりと身体を起こす。
「
……
ここは
……
?」
「クリーパーの爆発で空いた穴の下にあった洞窟の底、だな。落ちたこと覚えてるか?」
「洞
……
窟
……
?」
「一応、俺がユウェラちゃんを抱えて上手く着地したんで怪我はないと思うんだが
……
ポーションもあるから、どこか痛むようなら
……
、ユウェラちゃん?どうした?」
いつもの調子で飄々と言葉を紡いでいた行商人は、ユウェラが周囲を見渡した途端、顔を強張らせ、全身を硬直させたのを見て話を止めた。
作り物のように整ったユウェラの顔がみるみる蒼白になっていき、喉からヒュ、と息の詰まる音が響く。
「おい、大丈夫か?しっかりしろ、ユウェラ」
上手く息が出来ないのか、ユウェラは俯いて苦しそうに浅い呼吸を繰り返しながら、自分の身体を両手で抱き締めるようにして背を丸める。
「息が苦しいのか?気分が悪いか?」
「
……
っ
……
な、何でも、な
……
」
行商人が真剣な面持ちでユウェラを支えようと肩に触れると、彼はビクッと身体を震わせ、強く警戒した様子で上半身を後退させた。
「いや、その状態で何でもないは無いだろ?」
「大丈夫
……
だ
……
、それよりソルダは
……
」
「ソルダは俺達とは別の場所に飛ばされたみたいでな。残念ながらこの辺りにはいない」
「そう、か
……
」
明らかに無理をした状態で気丈に振る舞おうとする青年を前にして、行商人は即座に思考を巡らせる。
これだけの症状が出ていながら「何でもない」とはぐらかそうとするということは、この状態はユウェラ自身が元々把握しているものなのか。
酷く怯えているようにも見えるが、今のこの環境の中に彼が恐怖を感じる要素があるということか?
何だ?洞窟の閉塞感?生息しているモンスター?水?それとも
……
。
「
……
!」
そこまで思案したところで、行商人はあることを思い出す。
そうだ、自分は以前にも一度、ユウェラのこのような状態を目にしたことがある。あれは初めて夜間に洋館へ行った時だ。
あの時も、ユウェラは立つこともままならないほど憔悴した様子でソルダに支えられながら歩いていた。普段ならば呆れつつも相手をしてくれる館の面々も取り付くしまもないほど神経を尖らせており、あの穏やかなラルジェスですら、ユウェラの身を案じる自分に「君が心配するような事は何もない。我々ももう休むのでお引き取り願いたい」と有無を言わさぬ圧をかけ追い返した。まるでユウェラの身に隠された、知られたくない何かを誤魔化すように。
“あの夜”と“この洞窟”の共通点
――――
答えがすぐそこまで出かかったその時、そういえば、と行商人は更に思い出した。
ユウェラの住む洋館は、他のエヴォーカーの拠点では目にした事がないほど明かりが煌々と焚かれており、昼夜を問わず薄暗い部分が全く無いこと。
また夕暮れ時が近付くにつれて、毎回ユウェラの様子がどことなく落ち着かず、不安気になっていくことを。
「ユウェラ、お前さん
……
暗いところが駄目なんだな。そうだろ?」
「
……
っ」
核心を突かれたユウェラは目を見開き、酷く困惑した様子で行商人を見上げた。
「
……
ち、違
……
」
掠れた声で否定を口にしかけたが、しかし。
全てを見透かすように静かに見下ろしてくる男を誤魔化すことはできないと悟ったのか、絶望を滲ませた顔で力なく視線を落とし、
「
……
頼む
……
この事は
……
誰にも言わないでくれ
……
。どうか
……
」
今にも泣き出しそうな声を絞り出しながら深く頭を下げた。
「ユウェラ
……
」
その弱々しい悲痛な訴えに、行商人はしばし言葉を失う。
懇願されるのも無理はない。同種族間でも何かと争いの絶えない邪悪な村人にとって、館主の弱点を外部に知られるという事は、館主自身や仲間の命を危険に曝すことに直結するのだから。
「ユウェラ
……
顔を上げて俺の話を聞いてくれ」
行商人は穏やかな声で語りかけると、ユウェラの両肩に手を添え、そっと上半身を起こさせる。
「
…………
」
血の気を無くし、冷や汗を滲ませた顔。不安に揺れる双眸。
この若さで、この華奢な身体で、一体どれだけの重圧を抱えながら日々を生きているのだろう。
「俺みたいなのがこんな事を言っても信憑性に欠けるだろうが
……
お前さんの弱点を誰かにバラしたところで、俺には何の得もない。そんな事をして手に入る報酬より、俺にとってはお前さん達との繋がりのほうが貴重だ。邪悪な村人と友好関係を築けるなんざ、普通じゃなかなか考えられないからな。それに
……
」
行商人は一呼吸おき、真っ直ぐにユウェラの瞳を見つめながら言葉を続ける。
「お前さんは、盗み目的で館に侵入した俺の事を殺そうともせず見逃してくれた。そんな優しいお前さんを
……
いつも世話になっている相手を敵に売るような真似はしない。暗所恐怖症のことは誰にも言わない。だから安心してくれ」
「
………………
」
普段からは想像もつかない行商人の真剣な態度に思うところがあったのか、ユウェラは話を聞き終えると少し安堵した様子で俯き、小さく応えた。
「
……
感謝する
……
」
「よし、暗闇が駄目だってんなら、こんな所は一刻も早く脱出しないとな」
行商人は明るい口調に切り替えて立ち上がると、おおかた乾いた青色の上着を手に取ってサッと羽織り、再びユウェラの近くに寄る。
「どうだ、立てそうか?」
「
……
っ、く
……
」
行商人に支えられ立ち上がろうとするも、震える手足では力が入らず、ユウェラは腰が抜けたように地にへたり込んでしまう。
「無理そうだな
……
だったらこうするか。よっと」
「
……
っ!?」
何の前触れもなしに突然横抱きで抱え上げられ、行商人と至近距離で密着する形になったユウェラは驚いて反射的に身体を離そうとする。
「お、おい、危ないって!じっとしてろ!」
慌ててバランスを取り、ユウェラを落とさないよう踏ん張る行商人。
そして瞳を泳がせ不安そうに戸惑っているユウェラを見て、困ったような顔を作ってみせる。
「あー
……
その、何だ。それこそ俺が言ったところで信憑性に欠けると思うが
……
。この緊急事態、それも弱ったお前さんに妙な真似はしない。ただ運ぶだけだ」
「
…………
」
「だから、俺に身体を預けてくれないか?」
「
…………
」
「早くしないと外も日が暮れちまう。明るいうちに帰りたいだろ?それに
……
ソルダもきっと心配してる。早く戻って安心させてやらないとな」
そうだ、ソルダのためにも早く地上へ戻らなくては
――――
ユウェラはハッとして行商人の顔を見ると、再び視線を落としてから、観念したようにそろそろと両腕を行商人の首に回す。
そして遠慮がちにしがみついて彼の肩口に頭を預けた。
「わかった
……
、頼む
……
」
その仕草を見た行商人はフッと和らいだ表情になり、穏やかな声で応える。
「ありがとうな、ユウェラ。俺を信じてくれて」
幼子をあやすようにユウェラの腕の辺りをぽんぽんと軽く叩くと、細身の身体をしっかりと抱え直し、行商人は岩陰から出て巨大な空洞の中を奥に向かって進み始めた。
「ソルダほど乗り心地が良くなくて悪いが
……
必ず館に帰してやるから少しの間、辛抱してくれよ」
焚き火から少し離れれば、すぐに周囲は深い闇に包まれる。
「
…………
っ」
ユウェラは息を呑み、目を伏せて闇から視線を逸らした。
ところどころに自生するヒカリゴケの淡い光がかろうじて地形を照らし出してはいるが、ユウェラには気休めにもならず、身体はカタカタと小さく震え、呼吸は不安定な状態が続いている。
そして当然だが、洞窟に生息するモンスター達が二人に気付かないはずはなかった。周囲から次々とゾンビやスケルトン達が現れ、距離を詰めてくる。
「
……
!」
「ん?どうした?」
ユウェラが行商人の服を咄嗟に握り締めると、男は慌てることもなく落ち着き払って口を開いた。
「すまない
……
今の私には
……
魔法を安全かつ確実に発動できる保証が、ない
……
」
「まぁこの状態じゃ、そうだろうなぁ」
「このままではモンスターが
……
」
「あぁ、沢山お出ましだ。心配するな、俺は強いからな。両腕が塞がってるくらいで負けやしないさ」
「し、しかし、どうやって
……
」
「ちょっと荒い動きになるぞ。しっかり掴まってろよ」
そう宣言した直後、行商人はひときわ強くユウェラを抱え込み、突然勢いよく走り出した。
左右に大きく蛇行しながら走り抜け、凹凸の激しい岩の上を軽々と飛び移っていく。周囲を撹乱しつつ崖の縁にいる敵を足で蹴り落とし、スケルトンの矢を誘導してゾンビに当てることで仲間割れをさせ、寄ってきたクリーパーを敵の集団へと導き爆発で一気に葬る。
気付けば、いつの間にか最初の拠点から見えた溶岩付近の階段状の地形の場所に辿り着いていた。
「な?大丈夫だっただろ?」
恐怖に心臓が踊り硬直しているユウェラをなだめるように言うと、行商人は溶岩に照らされた岩の階段を改めて見上げた。
「ここを登っていけば地上に近づける可能性が高い。行ってみるか」
長い階段状の段差を上まで登りきると、そこは洞窟の別の階層だった。相変わらず広々とした巨大な空洞ではあったが、そこで行商人は前方にある物を見つけて目を見張る。
「ユウェラ
……
見ろ、松明だ」
「
……
?」
近付いてみると、松明が洞窟の奥に向かって一定の感覚で設置されているのが分かった。周囲を見渡すと、ところどころ岩が削られ、鉱石を採掘した形跡がある。
誰かが、ここを探索するために目印として置いたのは間違いない。
「この鉱石の掘り方
……
クラフターか」
「
……
!」
行商人が何気なく呟くと、腕の中のユウェラが身体を強張らせて緊張を訴える。
「ま、待ってくれ
……
クラフターに会うのは
……
」
「ん?あぁ、そうか
……
。エヴォーカーは不死のトーテム目的で狙われやすいよな。だが、クラフターがいるってことは地上への出入り口も作られている可能性が高い。そうだな
……
こいつを使おう」
行商人は一度腰を下ろしてユウェラを座らせると、上着の内ポケットを探り、薄い灰色の液体の入った瓶を取り出した。
「透明化のポーションだ。ユウェラはこれを飲むといい。そんで俺の上着を被ってりゃ、邪悪な村人だってバレることもない。ほら
……
」
「
……………
」
瓶の蓋を取って口元へ持っていってやると、ユウェラは震える手を瓶に添え、時折むせて咳き込みながらもどうにか薬を飲み干した。
その直後、ユウェラの全身が透明になり目視が出来なくなる。
「万が一、ポーションの効果が切れてもこいつで包まれてりゃ大丈夫さ」
行商人は青色の上着を脱ぐと、姿の見えないユウェラに手探りで着せ、フードをしっかり被せてから再び抱き上げた。
「よし、行くぞ」
ユウェラが自分の首に腕を回したのを察知してから、行商人は早足に松明が導く方向へと歩を進める。
人一人が通れる程度の細い通路を奥へ入っていくと
――――
その先に少し広めの空間があり、二人の男性クラフターが座って話をしていた。
自らの纏う雰囲気をスッと変化させ、行商人は意を決してその空間に足を踏み入れる。
「いやぁ〜クラフターのお兄さん方!悪いな、ちょいと邪魔するぜ」
「あ?何だお前?
……
って行商人かよ」
「お前ら行商人って本当どこにでも現れるよな」
あまり上品とはいえない荒い口調を聞き、行商人にしがみついているユウェラの息が震え、腕に力がこもる。
「何の用だよ。しょうもないモン買う気はねぇぜ?つーか随分デカいもん運んでんな。人か?それ」
「あぁ、そうだ。道中でモンスターに襲われてる村人を助けてな
……
標的にならないように今は透明化のポーションを飲ませてる。村まで同行してやるつもりが、情けない事に途中でここの洞窟に落っこちて迷っちまってなぁ。悪いが、地上への出口を教えてもらえないか?」
「出口?そうだなぁ
……
」
クラフターの一人が、少し考えてからニヤリと笑みを作り、片手を差し出す。
「情報料。俺達も散々苦労してここまで進んで来たんでね。それ相応の報酬をくれるんなら教えてやってもいいぜ」
「なるほど、分かった。ならコレでどうだ?」
行商人は腰を下ろし、ユウェラに着せている青色の上着に手を差し込むと、あるアイテムを取り出した。
「ネザーで見つけたネザライトインゴッドだ。それとネザライト強化の鍛冶テンプレート、こいつも付けよう。ネザライト装備を作る必需品だろ?」
得意気な笑みでアイテムを差し出す行商人を見て、二人のクラフターは目を丸くした。
「ネザライトかよ!凄ぇな
……
!」
「ただの行商人じゃねぇだろ、何者だアンタ?」
クラフター達の好反応に手応えを感じた行商人は、更に畳み掛ける。
「ついでにサービスでエンダーパールも3個つける。それとここの洞窟、おたくらが付けた松明のところから更に奥に進むと階段状の岩があって、そこを降りていった先の最下層にダイヤがちらほら光ってたぜ。俺がつけた焚き火もそのままにしてあるから、使ってもらって構わない。
……
どうだ?こんなもんで情報料は足りるか?」
「あぁ、充分だぜ!こっちの通路を登っていけば地上へ出るから通りな。途中、分かれ道も何度かあるが、常に松明が右側に見えるように辿っていけば迷うこともないはずだ」
「恩に着るぜ。おたくらもいい冒険を、な。それじゃ!」
上機嫌のクラフター達を背に、行商人は素早く通路の階段を登っていく。
その途中でユウェラの飲んだ透明化のポーションの効果が切れ、消えていた姿があらわになった。
「は
……
っ
……
、はぁ
…………
」
「ユウェラ、しんどいなぁ
……
もう少しの辛抱だ。頑張れよ」
暗く危険な環境が長く続いていることに加え、クラフターに襲われるかもしれないという極度の緊張を味わい、ユウェラの精神状態は限界に近付いているようだった。
服の上からでも分かる全身の汗と乱れた浅い呼吸、眉をしかめ、震える指で縋るように行商人の服を握って耐えている様子がそれを物語っている。
ユウェラを励ましながら通路の階段をひたすら登り、時おり現れる空洞や分かれ道をクラフターの助言通りに松明が右側に来るよう進んでいくと
――――
やがて周囲の壁が土に変わり、通路の先から明るい日差しと爽やかな風が入り込んできた。
「出口だ!日暮れにも間に合ったぞ
……
!」
しばらくぶりに地上への生還を果たし、緑や花の生い茂る平原の景色を瞳に映した二人は、眩い光に目を細めながら安堵の表情を浮かべた。
洞窟内部の吸い込まれるような闇と閉塞感から解放され、ユウェラの呼吸や身体の震えも若干落ち着きを取り戻す。
「いやぁ、まさかユウェラちゃんと二人でこんな冒険をすることになるとはなぁ。穴に落ちた時はどうなるかと思ったが
……
お前さんとの仲も深まったし、俺としてはかなり有意義な時間だったぜ?」
「
…………
」
まだ自力で歩くにはおぼつかないユウェラを引き続き抱え上げたまま、行商人は洋館のある方向へと歩みを進める。
すっかりいつもの調子を取り戻した男の言葉を聞きながら何かを考え込むような顔をしていたユウェラは、話が途切れたところで小さく声を発した。
「迷惑をかけてすまなかった
……
。お前の助けに感謝している
……
。それに先程は、クラフターとの話を早く切り上げるために貴重なアイテムを多く渡したのだろう?気を遣わせてしまって悪かった
……
」
申し訳なさそうに伏し目がちになるユウェラを見下ろし、行商人は何でもないことのように応える。
「迷惑だなんて思っちゃいないさ。むしろ可愛いユウェラちゃんのヒーローになれて嬉しいくらいだ。それに、クラフターにくれてやったアイテムは確かに希少価値は高いが、俺にとってはさほど興味がない物だしな
……
気にするな。必要ならまた取りに行けばいい」
「
…………
」
それでも浮かない顔をしているユウェラに、行商人はふむ、と少し考えてから更に話を続ける。
「どうしても気がかりだっていうなら、そうだなぁ
……
今度ユウェラちゃんの手料理でも食べさせてくれよ。お前さんの作ったものなら残さず何でも食べるから」
「
……
!?わ、私は料理をしたことがないのだが
……
」
「そりゃいい!俺が試食第一号ってわけだな」
想定外の提案をされ、ユウェラは目を丸くして発言者の顔を見上げる。
いつも真面目で物静かな青年の珍しい反応を見て、行商人は可笑しそうに声を上げて笑った。
「まぁあれだ、その話は一旦置いておくとして
……
見ろ、ユウェラちゃん。従者くんだ」
「
……
!ソルダ
……
!」
「ユウェラ様!!」
行商人の視線の先を追ったユウェラが目にしたのは、こちらの存在に気付き、血相を変えて走ってくるソルダの姿だった。
どうやら一足先に地上に戻り、落下した穴の周辺で主人の安否を心配していたらしい。
「良かったな、従者くんも無事で」
「あぁ
……
」
心底安心した様子のユウェラに柔らかな笑みを向けてから、行商人はソルダのほうへと近付き、面と向かったところで腕の中の青年を引き渡す。
「ユウェラ様
……
!ご無事で何よりです」
「心配をかけてすまなかった、ソルダ
……
。彼が色々と助けてくれたんだ」
「
……
ユウェラ様を救ってくれたこと
……
感謝する」
「いいっていいって。さ、日が沈まないうちに気をつけて帰りな?」
無事の再会を喜ぶ二人を微笑ましそうにひとしきり眺め、二人が帰路につく後ろ姿を見えなくなるまで見送ったのち。
「またな、ユウェラちゃん、従者くん」
謎多き放浪の商人は、上機嫌で次なる地へと旅立っていった。
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