バラ肉
2025-08-22 10:45:17
5803文字
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アイス事変(マリヘイ)

「地球のアイスは美味しいぞ」とマリポーサからお中元をもらったヘイルマン。
カップから棒アイス、シャーベットなどの詰め合わせに大興奮。(オメガは味無しかき氷一択)
なので六槍客用の休憩所に置いて、ちびちび食べていたところ、最後の一本が見当たらない…!?
から始まるマリヘイです。
ぼんやり設定注意。

六槍客専用の休憩所にて。
自分で構えた氷の箱こと冷凍庫の中を睨んでいたヘイルマンは、訓練の疲れを癒そうとやってきたギヤマスターに対し、彼の顔も見ずに声をかけた。

「おい、ギヤマスター。ここに入れてたアイス知らねえか?」

その声はいつもより幾分低く。特に何かをしたわけでも無いのにギヤマスターはギクリと巨体を揺らした。
しかし、ここで戸惑った空気を出せば謂れのない罪を被ってしまう。彼は勤めて冷静にベンチに腰をかけた。

……ギシュッ。どうして、いの一番に俺に聞くんだよ。一番可能性が無いだろうに」

ギヤマスターは機械超人だ。
酒に見立ててオイルを飲むことはあっても、アイスなんて体に悪そうな物は絶対に摂取しない。頼まれて開けることはあっても、それ以外で冷凍庫に触れる機会はないのだ。
つまり、ヘイルマンの疑念は全くもって見当違いも甚だしい
ギシューッと歯車が軋む音は、明らかに本人の不機嫌さを表していた。
対して、ヘイルマンも己の短慮に気付いたのか。調子悪そうに後頭部を掻くと、彼はようやくギヤマスターへ体を向けた。

「あー……確かにそうだな。わりぃ。探しても探しても見つかんなくてよ。つい、“六鎗客のウッカリでやらかしそうな奴・1位”のお前を疑っちまった。この前も、転けそうになった拍子にパイレートマンの胸を握って説教されてただろ?」
「ギシュゥ〜、なぜその話を!? ……というか、何だ、そのランキングは!? 謝ってもらってる気が全然せんぞ」
「はいはい。つーか声がデケェよ。そんな些細なこと根に持ってると一生モテねぇぞ」
「ギシュギシュ!? 余計なお世話だ!!!」

謝っているのか、はたまた見つからない苛立ちをぶつけているのか。相変わらず捻くれた物言いをするヘイルマンに、ギヤマスターは堪らずその場に立ち上がった。
いくらアリステラに『短慮がすぎる』と注意されても、これが彼の性分なのだろう。金属体ゆえに、熱の通りが早いのは仕方ない。

しかし、肝心のヘイルマンはもう話は終わった気でいるのか。プンプンと蒸気を噴き出す相手を無視し、彼は再度お手製冷凍庫の中に顔を突っ込んでいた。
いくら見ても結果は同じ。
そう分かっていても諦めきれないのだろう。

「ん〜〜しっかし、どこに行ったんだぁ?」

頭を捻りつつ探す姿は珍しく焦りがあった。臨戦態勢になりかけたギヤマスターはすっかり置き去りである。「おい!」と怒鳴る声に反応はない。

そんな二人の一方通行のやり取りに、入口の方から呆れた風な声がかかった。

「なんだ、ヘイルマンにギヤマスター。揃って似合もしない難しい顔をして。景気が悪いからアリステラの前には出るなよ」
「「マリキータ!」」

颯爽と現れたマリキータマンへ、二人の視線が反射的に向かう。
アリステラの右腕である彼は、年長者であるパイレーツマン同様、仲間内でも存在感が強いのだ。腕を組んで立つ姿は威風堂々勇ましい。

だが、流れるような毒舌は聞き捨てならない。

……つーか、サラリと毒を吐きやがって」

流石に出会い頭に『景気が悪い』と言われるのは気分が悪い。ヘイルマンは立ち上がると、腰に手を当ててマリキータを睨んだ。
また、不満を抱いたのはギヤマスターも同様らしく。

「そうだぞマリキータ! 景気が悪いのはヘイルマンだけだぞ!」

拳を握って反論するも、それは自分のことだけで。

「おうおう、言うじゃねえかギヤマスター。やるか?ああ??」

ただでさえ見つからない苛立ちを抱えていたヘイルマンは、先ほどは無視した癖に、今回は応戦するように自らの冷気を高める。
今度こそ一触即発するか……となる二人に対し、元凶であるマリキータにやれやれと頭を振るだけだ。

……お前ら、このクソ暑い中でよくやるな。折角の美味いアイスを食ったのに意味がな──」
「って、おい!!!おまっ!?マリキータ! テメェなに持ってんだ!」

苦言を呈すマリキータの言葉を遮り、ヘイルマンは彼が手に握っている物に声を荒げた。それは見覚えのある包装紙と木片で。

「キャミ。そうだったのか? まあ、オメガの世界は弱肉強食。アリステラの名前以外が書かれた物は早い者勝ちなのだ。ちなみに俺の物はアリステラの物である」

一切悪気ない返答に、ヘイルマンの血圧が急上昇する。

「だぁーっ、それ!オレの!オレが!マリポーサから送ってもらったやつ!!!」

なんと今マリキータが持っている物こそ、本人が必死に探していたアイス——の、残骸に他ならず。
ワナワナと震えるヘイルマンは怒りと絶望がないまぜになっていた。
彼とて、場所が場所なだけに、身内が犯人とは思っていた。そもそも一般人が”六槍客”の休憩所で盗みを働くなんて真似、まず出来ない。
けれど、まさかこんなに堂々とされるのは計算違いにもほどがある。

「オメガの民が過ぎたことを気にするなど笑止千万! 諦めろ!」

キャミ!!と、アイスの棒を持ったまま勝利ポーズを掲げるマリキータに、ヘイルマンは悔しさに震えるしかなかった。
確かに「ヘイルマン専用 食うなよ!」と大きく書いておいたはずなのに、何という勝手な解釈だろうか。

「テッメェ! ふざけんなよーーー!!」

その後、休憩所から野太い咆哮と氷の軋む甲高い音が上がったのは言うまでもなかった。



*****



その夜、ヘイルマンは自室でマリポーサに電話をかけていた。

「だから、美味かったから楽しみに食ってたのによぉ」
「それはまた……

昼間の出来事を語る顔は苛立ちで満ちていた。
あの後、ブリザードハンドで一発ぶん殴ってやろうとしたものの「キャミ! もうすぐアリステラが視察から帰る時間だ! じゃあなお前ら!」と飛んで逃げられた為、結局ろくに怒りを発散できなかったのだ。

「あの野郎……本当にアリステラ以外を労うってことを知らねえ」
「まあ、彼らしいと言えば彼らしいが、とんだ災難だったな」

答えるマリポーサの声には同情と苦笑いが混じっていた。
普段はヘイルマン自身が彼らの文句の的になっているだろうに、とは流石に思っていても言えない。
知将フェニックスではないが、このタイミングで告げたら逆鱗に触れるだけ。今は静かに相槌を打つに徹する。

「だろ! ちゃんと『食うなよ!』って書いてたのにコレだぜ!? ハァーアリステラに言ったところで、アイツが代わりに謝るだけだし。で、それを知ったマリキータの奴にまた何をされるか分からねえし……

考えても堂々巡りにしかならない。そんな葛藤に、知らずに大きな溜息が漏れる。
それに、「よしよし」とマリポーサが口先だけの慰めをするのに対し、「ガキ扱いすんなよ」と憎まれ口が飛んだ。

「しかし……その食べられたモノが一番、君が好きそうだと思っていたんだが」
「ゲェェェ! マジかよ! カキィッ……テメェもそれを先に言えよ」
「うむ、それは悪かった。だが、君は好きな物は最後に食べるタチだろう? いずれにせよ伝えたところで結果は変わるまい」
「カキッ!?」

自分の癖まで把握されていることに、ヘイルマンの胸がドキリと跳ねる。
味の好みは、これまでに幾度か食事をしたことがあるのでバレているのは分かる。けれど、食べ方の癖まで見通しているなんて。
一瞬声を詰まらせる。
だが、だからと言って素直に理由を聞き返すのも何だか違う。

………っんだよ、よく分かってるじゃねえか」

結局、可愛くないセリフを吐いてしまう。氷超人らしく、冷ややかな返しは得意なのだ。例え、それが強がりだとしても。
勿論、それはマリポーサも分かっているのだろう。

「フッ、まあな」

ニヒルに笑う彼は、敢えて追求することはしなかった。一旦、その話題は終わり。
話を別ルートへ変える。

「いや、しかし残念だ。こちらからオメガへ送るにはキン肉星の送達技術が必要なんだが……先日キン肉マンに聞いたところ、クール便の配達が急増しているらしく、今は新規の受付をしていないらしい。だが再開する頃には、アイス自体の販売期間が終わるのだが」
「じゃ、じゃあ……また送ってもらう、ってのは……
「難しいな」

バッサリと切り捨てられ、ヘイルマンはガックリと肩を落とした。
マリポーサが厳選したと言う詰め合わせのアイスは、目利きのある男が選んだだけあって、どれも自分の味覚にバッチリだった。
各種フルーツ、クッキー、ナッツ、紅茶、スイーツ……見た目も味も楽しめるフレーバーは、地球では容易に手に入るかもしれないが、辺境のオメガでは絶対にありつけない。
しかし、再度の発送は無理だと言われればそれまで。来年まで我慢するのみ。
つまり、マリキータに食べられた味は当分お預け。下手をすればラインナップの入れ替えに乗じて食べられない可能性もあるのだ。
「マジかぁ〜〜〜」
ヘイルマンはボヤきながら天井を見上げた。

「すまんな」
……いや、アンタのせいじゃねえのは分かってる。けど……ハァーーー」

見るからに落ち込む姿は、普段のおちゃらけた態度からは想像できないほど重たい空気を纏っていた。愚痴を吐きたかったのは確かだが、反面、もしかしたら再度貰えるかも。そんな期待が無かったわけではない。
だが、浅ましい願いは簡単に打ち砕かれた。
ならもう自分は素直に待つだけなのか。
年々温暖化の強くなるオメガにおいて、氷の身を持つ彼は過ごすだけでも辛い。そこに、甘味という旨味を覚えた体はそれを無意識に求めてしまう。
ううーんと使わない頭を捻って、思案する。
どうすれば、どうすれば。
………あ」

そこで、脳裏にふと一つの案が浮かんだ。

それは簡単そうで難しく、またヘイルマンにとっては中々に挑戦的な提案だ。

「カキィッ……!」

しかし背に腹はかえられない。

……なあ、マリポーサ、もしよぉ」
「うん?」
「なんつーの? オレがそっちに行ったら……案内できそうか?」

それは彼自身が直接星をわたり、マリポーサの薦める店に足を運ぶという案だった。
下等だと侮った地球へ、アイスのためだけに足を運ぶ。しかも、かつての宿敵を伴って。
それはプライドの高いヘイルマンには妙にむず痒く、恥ずかしく。おまけに、二人並んでショッピングを楽しむ状況はまるでデートのようだ。
大の超人が仲良くアイスを食べながらデートだなんて想像するだけで赤面ものである。

しかし、言われた相手は拒否するどころか。

「もちろん! 来てくれるならしっかりエスコートしよう!」

むしろ歓迎だ!とばかりに食い気味な返事がくる。
“エスコート”という単語からして、ヘイルマンの考えと齟齬はないだろう。
なのに、この態度だ。

氷の手が電話をきつく握る。

まさかこんなに熱烈に受け入れてくれるとは。

マリポーサの低く艶のある声には明らかな喜びが含まれていて、それがヘイルマンの鼓動を早めた。

形ばかりは悪ぶっているものの、彼の心はギヤマスター以上に純情なのだ。何物も混ざることのない、不純物を許さない透明な体と同じで。

だから、ヘイルマンは嬉しいと感じる心を必死に抑えて、敢えてぶっきらぼうな言葉を選ぶ。

「カキカキッ……じゃあ、早速明日にでもアリステラに相談してみるわ。また日程がわかったら連絡すっから……ちゃんと時間を空けておけよ」
「ああ。君こそ、分かり次第連絡をくれ!」
「お、おうっ」

いつにない高いテンションに押されつつ、彼は己の冷たい体がほのかに熱くなった気がした。



***



その後、他愛無い話をして電話を切ったヘイルマンは背もたれにしていたベッドに思わず顔を埋めた。

なんだか変な話になったなぁ。

勝手にアイスを食われた愚痴吐きから、久しぶりにマリポーサに会えることになるなんて。
まさかの展開に動悸が治らない。これじゃあギヤマスターのことをウブだなんだと笑えない。

「ってかアイツ、オレが最後に好きなものを食べるとか、なんで分かってんだよ」

恥ずかし紛れにつぶやくも、口にすることで余計に意識してしまい、シーツをギュッと握る。

『君のことを分かりたいんだ』
『さあ、何一つ隠さずに、全てを見せてくれ

逢瀬の度に、自分の腰を掴んで、揺すぶりながら囁く声を思い出して、ヘイルマンは目を瞑る。
低く甘い声が耳の奥で響いて、全身が溶けそうだ。

『可愛いな。ヘイルマン』

まるで本人の纏う炎のように熱い吐息が、胸元のチャームにふきかかる。
そこが一番敏感なことを知った上で。

『ワガママになってくれて良いんだぞ』

膨れた下腹を撫でる掌は、優しくも強引で。
もっと素直に強請れば良い。
なかなか素直に欲しいと言えない相手を宥めるように誘ってくる。

ヘイルマンの矜持を粉々に砕いたあの日からは想像できないほどに、優しく。



「あーもう、クソッ! あの野郎。会った時は覚えてろよ」

テメェが望むように、全力でワガママを突き通してやる!

頭を掻き毟りながら、ヘイルマンは込み上げる恥ずかしさをぶつけるように叫ぶのだった。









【余談】

『キャミキャミ……マリポーサ。これで良かったんだな?』
『ああ、君の協力には感謝する。約束のものはまた後日送っておくよ』
『アリステラに似合うバニー服を交換条件に出すとは、流石は五王子のお色気担当だな』
『それは……まあどちらのことも、“彼に”は内緒にしてくれよ』
『キャミ! もちろん。しかし、変な所でウブなアイツの腰をよく上げさせたな』
『まあ、そこは……前職で鍛えてきたからな』
……キャミキャミ。それはそっちの話だから別に良い。ただ、アリステラが悲しむようなことだけはしないでくれよ。腐っても、ヘイルマンはオメガの仲間だからな』

最後にそう忠告するマリキータにマリポーサはクスッと笑った。
何にせよ、ヘイルマンとのデートが決まったことに変わりはない。
さあ久々の逢瀬をどう楽しもう。

美しい男は、ヘイルマンが食べ損ねたアイスキャンディーを舐めながら、肉厚な唇に弧を描くのだった。