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採掘すずめ
2025-08-22 10:30:04
3492文字
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SS
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【SS】平穏を蝕む闇と希望の光と
ソルダとラルジェスが会話しているだけのSS。シリアス。
ユウェラが暗所恐怖症になった“あの夜”の出来事について触れています。
美しい装飾が施されたダークオークの扉。
その目の前に立ち、ソルダは一呼吸置いてから落ち着いたリズムでノックをする。
「入って構わないよ。どうぞ」
中から聞こえてきたのは、渋みのある穏やかな声。
「
……
ソルダです。失礼致します」
ゆっくりと扉を開けて中に入ると、部屋の主である壮年のエヴォーカー、ラルジェスが机に広げた本から顔を上げ、ソルダの姿を捉えた。
「ユウェラ様から預かった資料をお持ちしました。ラルジェス様にと
……
こちらです」
ラルジェスのもとに歩み寄り、ソルダは手にしていた二冊の本と数枚の紙を差し出す。
それを受け取って軽く目を通すと、ラルジェスは再びソルダを見上げ、にこりと笑みを作った。
「ありがとう。確かに受け取ったよ。ユウェラに礼を伝えてくれ」
「はい。それでは失礼致します」
「あぁ
……
ところでソルダ」
「
……
?」
軽く一礼し踵を返したところで呼び止められ、ソルダは動きを止めて振り返る。
「ユウェラは
……
最近夜はどんな様子だ?よく眠れているだろうか」
声色も笑みも先程と変わらず穏やかではあったが、わずかに曇りを含んだ表情からラルジェスの心境を感じ取り、ソルダは少しの間黙ってから、言葉を選ぶように慎重に口を開いた。
「
……
残念ながら、睡眠はあまりしっかりとは
……
。ようやく眠られても、悪夢に苦しまれていることも多く
……
」
「そうか
……
」
肩を落としながら深く息を吐くと、ラルジェスは眉を寄せ、ぽつりと小さく呟いた。
「あの夜から、もう2年になるな
……
」
「
………………
」
あの夜。
その一言からソルダの脳裏に思い起こされるのは、忘れたくとも鮮明にこびり付いて消えることのない光景。
ユウェラが暗闇で平常心を保てなくなるほどの恐怖を感じる原因となった、忌まわしい出来事。
あの日
――――
ユウェラ率いる館の者達は、近年勢力をつけて傍若無人な振る舞いが目に余るようになっていた邪悪な村人の一派を鎮めるための大規模な戦闘に参加していた。
ようやく争いが沈静化したのは、戦が始まってから3日後の夜。皆疲れ果て、おぼつかない足取りで館への帰路についていたその時、不運にも“まるで盗賊団”と悪名高いクラフターの集団に遭遇した。
いや、恐らくは偶然などではなく、邪悪な村人の争いが起きていたことを知っていた彼らは意図的に戦の後の弱った者達を狙っていたのだろう。
十数人ほどのグループを組んだそのクラフター達は、実に手際よくユウェラ達を散り散りに孤立させていき、気付いた時にはソルダは主の姿を見失っていた。
余力を振り絞って自分に襲いかかるクラフターを倒し、闇に包まれたダークオークの深い森の中、ユウェラを探して走り回るソルダの目に飛び込んできたのは
――――
数人のクラフターに囲まれて押さえつけられ、生きているのかも分からないほど傷ついた状態で力なく地面に横たわる主の姿だった。
そこから先のことは、ソルダは朧げにしか覚えていない。
主がくれたラピスラズリのペンダントを力任せに胸元から引きちぎって輝く石を斧で砕き、膨れ上がる殺戮衝動と憎悪に身を任せたこと。
気付いた時には、血の海の中心でユウェラを抱き上げていたこと。
そのユウェラの細い肢体が不自然にぐにゃりと柔らかくて寒気を感じたこと。
仲間にすら刃を向けたい衝動を必死で押し殺しながら館へ戻り、皆を傷つけぬよう自ら牢に閉じこもったこと。
そこから約ひと月半が経った頃、酷くやつれたユウェラがレシタリアに支えられながら牢へとやってきて、「遅くなってすまない」と悲痛な面持ちで自分の首に新しいペンダントをかけてくれたこと。
その辺りは辛うじて記憶に残っている。
「あの時
……
ユウェラ様をお守りできなかったために今でも苦しい思いをさせてしまっていること、大変悔しく、申し訳なく思っております」
俯き、拳を握り締めながら絞り出すように発せられたソルダの声。
それを聞いたラルジェスが、はっと顔を上げる。
「それは違う、ソルダ。君がいたから、あの日ユウェラは助かったんだ。君がいなければ、今ユウェラは生きてここにはいない。もしくは運良く命が助かったとして、恐らく
……
正常な精神状態ではいられなかっただろう」
「
………………
」
「誤解させてしまったのならすまない
……
この話題を出したのは、私自身も自分の無力さを痛感して悔しく思っているからでね。決して君を責める意図で言ったわけではないんだ。むしろ私も他の皆も、ユウェラを守ってくれた君には本当に感謝しているんだよ」
ラルジェスは申し訳なさそうにそう口にすると、椅子から立ち上がり、窓辺へとゆっくり歩を進めた。
そして窓の外に広がる森を眺めながら話を続ける。
「いつも傍にいる君なら分かると思うが
……
あの子は、ユウェラは本当に我慢強い子でね。色々辛いこともあるだろうに、いつも一人で抱え込んで、決して周囲に弱音を零さなかった。親代わりの私にさえも、信頼こそ示してくれていたが
……
この歳になるまで、結局一度も子供らしい我が儘や甘えを見せたことはなかったよ」
「
………………
」
「だが、そんなユウェラも君といる時は笑顔が増えたり、君にだけは弱い部分も見せることができている。私は、君といる時のユウェラを見るとほっとするんだ。心からリラックスできる相手と出会えて本当に良かったと」
「
……
勿体ないお言葉です。ですが
……
俺は
……
、」
「ん?どうした?」
褒め言葉を受け入れつつも苦悩の色を消さないソルダ。
窓辺から振り返ったラルジェスに先を促されると、彼はしばらく口をつぐんだ後、決心したように心の内を吐露し始めた。
「
……
ユウェラ様が俺に対して気を張らずに自然体でいて下さることは身に余る光栄です。ですが俺は、解けぬ呪いを宿す身
……
。いつか
……
ユウェラ様の命をこの手で奪ってしまうのではないかと
……
俺はユウェラ様のお傍にいてはいけない存在なのではと、恐ろしくてたまらないのです」
その言葉を聞いたラルジェスは、ふむ、と手を顎に添えて小さく頷いた後、穏やかな笑みを見せた。
「そうだな。確かに今後、君が危惧することが起こる可能性は充分にあるだろう。しかし、そんな事はユウェラは最初から百も承知のはずだ。そしてもちろん、私達も理解している」
「
………………
」
まるで何でもないような事のようにさらりと言われ、ソルダは僅かに目を見開いた。
それを見たラルジェスが、可笑しそうに小さく笑う。
「君もそんな顔をするのだな。そんなに私の言葉が意外だったか?」
「
……
何故、ユウェラ様を危険に晒すとわかっていながら俺をここに置いて下さるのですか
……
?」
「それはユウェラが決めたことだからだ。私達は皆、ユウェラのことを慕い、信じ、全て承知の上で彼に付いていっている。彼の選んだ道であれば、例え危険が伴おうとも支えていきたいと思っているのだよ。それに
……
」
一呼吸置き、改めてソルダを正面から見つめながらラルジェスは続ける。
「君が真面目で心根が優しい男だということも、自分の意思に反する呪いの衝動にとても苦しんでいることも、皆よく知っているんだ。君も、私達にとっては失いたくない大切な仲間だから受け入れているんだよ」
「
………………
ありがとうございます
……
」
「もしもいつか、君がユウェラを手にかけるようなことがあれば
……
その時は私達が命に替えても君を止める。だから安心しなさい」
「
……
そのような事にはならぬよう全力を尽くします。俺にとっても、館の皆は大切な存在です」
「うむ、良い心がけだ」
真剣な顔で決意をあらわにするソルダに対し、明るく微笑むラルジェス。
西に傾き、オレンジ色になり始めた陽の光が彼の背後から部屋の中に差し込む。
「あぁ
……
長く引き留めてしまって悪かったね。もうすぐ日暮れだ。ユウェラのところに戻ってやってくれ」
前方に長く伸びる己の影に目をやり、ラルジェスは困ったように詫びた。
「
……
はい。では
……
」
先程と同じように一礼し、ソルダは扉へと向かう。
「ソルダ」
ドアノブに手をかけたところで再びラルジェスに呼ばれ振り向くと、優しいながらも真剣な瞳をした彼が言った。
「ユウェラにとって、君は間違いなく命の恩人であり心の支えだ。どうかこれからも
……
あの子をよろしく頼む」
「
……
はい」
しっかりとそう応え、ソルダは部屋を後にする。
残されたラルジェスはしばらくの間、扉の向こうに消えていったヴィンディケーターの足音が遠ざかっていくのを聴きながらその場に立ち尽くしていた。
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