はくう
2025-08-21 22:10:45
3626文字
Public
 

【エリソー】時間を忘れてショッピングするタイプの二人

エリジウムまで追加されるとは思っていませんでした。ありがとう〇イポップアップショップ。
全然付き合ってる要素ないけどエリソーです。受けに置いていかれる攻めはかわいいので。

「いやあ、ラッキーだったな。お得なショッピングに誘ってもらっちゃって」
「図々しいくらいに楽しんでいるな」
「だってこんな機会なかなかないでしょ?」
 エリジウムが試着室に持ち込める上限ギリギリの衣服を持って店員に声をかけるのを、ソーンズは肩をすくめて見送った。
 二人が今日この店を訪れたのはただのショッピングではなく、ロドスの広報活動の一環である。ショッピングするオペレーターの写真を撮る代わりに、この施設で使える割引券がもらえる、人気の広報活動だ。そんな人気の広報活動に今回選ばれたのはソーンズだった。最近はロドスを離れて海に出てばかりのソーンズが陸にいるのが珍しいからと抜擢されたらしい。運のいいやつだ。
 さて、今回のテーマは「ショッピング」ということで、選ばれたオペレーターは同行者を一名選ぶことができる。それを知っていたエリジウムはソーンズに「僕をショッピングデートに誘いたい気分じゃない?」とアプローチして、見事同行者の座を勝ち取ったのだ。
 他のオペレーターたちとの集合写真や、広報に使うスナップショットを撮る時間は決まっており、それ以外は自由時間だ。エリジウムとソーンズはその時間にお気に入りのファッションブランドに入り浸っていた。二人の好みは若干違っていたが、自分が普段試さないテイストの店で新しい発見をするのも楽しいものだ。ソーンズはファッションに興味がないと思われがちだが、全く興味がないわけではない。普段は汚れてもいい服(ソーンズの場合は「爆発してもいい服」と呼ぶのが正しいかもしれない)を着ているが、休日はそれなりに見なりを整えている。エリジウムがあれやこれやと試着している間に気に入った物を見つけて、いつの間にか会計を済ませているのがソーンズという男だった。
 エリジウムがあれこれ試着するのも理由がある。ファッションにこだわりがあるのもそうだが、エリジウムの体格に合う服がなかなかないのだ。ビッグシルエットのシャツをエリジウムが着ると普通のシャツになってしまったり、ズボンの裾が微妙に足りなかったりと、服単体で見た時と実際に着たときのギャップがあることが多い。だからとにかく気に入った服は購入前に全部試着するしかないのだ。
 試着は一種のスポーツだ、というのがエリジウムの持論だ。上記の理由から、エリジウムはとにかく試着する数が多い。他の客のことを考えると試着室を占領するわけにもいかないし、だからと言って妥協もしたくない。だからエリジウムは服を買いに行く時はとにかく脱ぎ着しやすい服装を選ぶ。偶然にも、今回広報で着るように用意されたのはビッグシルエットの黒いTシャツだ。エリジウムの体格でもちゃんとゆとりがあって、デザインもお気に入りだ。そのTシャツを白のワイドパンツにインして腰より高めの位置でベルトを締める。そうすることで全体的にゆとりのあるシルエットでもだらしない印象にはならないようにした。普段ならここに帽子や伊達メガネやアクセサリーを合わせるところだけど、試着に小物は邪魔になる。アクセサリーで商品を傷つける心配があるのもそうだけど、ショッピングで新しい服を買う時は、持っている服と合わせられるかを考えるのが失敗を防ぐコツだ。アクセサリーがあるとそれに誤魔化されて、そのアクセサリーに似合う服ばかり買ってしまう。自分の一番落ち着く服を集めるのも良いが、エリジウムはいろいろなファッションを楽しみたいのだ。
 そんなわけで、エリジウムが細身のパンツを試着して丈や動きやすさを試していると、ふいに試着室の外に気配を感じた。店員だろうか。いや、これは多分……
「エリジウム、まずいぞ」
「何が?」
 試着室の外に立ったのはエリジウムの予想通り、ソーンズだった。彼は「まずい」と言いながらも慌てた様子はない。変な柄のシャツでも見つけたのかな、と思いながらエリジウムは試着していたズボンを脱ぎ始める。丈感も着心地も好みだけど、似たようなシルエットのものをすでに持っている。他の色がないか、後で店員に確認しよう。集合時間まで余裕があるといいのだけど。
 そういえば、ショッピングに夢中で時間を気にするのを忘れていた。試着に集中するためにアクセサリーを控えたが、腕時計くらい着ければよかった。当然ながら試着室の中に時計はない。
「集合時間まであと少しだ」
「もっと焦りなよ!? 今何時?」
 ソーンズの答えた時刻は、集合時間まであと十分もなかった。今すぐ店を出て急げばギリギリ間に合うかもしれない。
「走ればまだ間に合うかな。ああ、でも試着した服を返さないといけないし、ギリギリアウトかも!」
「先に返しておけばいいだろう」
 ソーンズがそういうなり、試着室と店内を仕切るカーテンが揺れる。彼は試着室に手を差し入れて、エリジウムが持ち込んだ服を受け取って店員に返そうとしているらしい。それを察したエリジウムは静止の言葉を口にした。
「待って、開けないで! 今パンツだから!」
 エリジウムは今ズボンを脱いで下着姿だ。カーテンに手を差し入れた拍子に隙間からエリジウムの姿が外に見えてしまう可能性を考えると、止めざるを得ない。カーテンの揺れはおさまり、代わりにソーンズのため息が返ってきた。
「いいだろう別に、下着くらい」
「ダメだよ。これで僕が猥褻物陳列罪で訴えられたらどうするの?」
「他人のふりをする」
「薄情者!」
 叫んだ拍子に、ベルトを掴み損ねて床に落とす。いや、まだズボンも履いてないのに何故ベルトを手に取ったのだろう?
 エリジウムは自分が焦っていることを自覚して、一度深呼吸した。今回の撮影に招待されたのはソーンズだ。スタッフに迷惑はかけるだろうが、多少集合に遅れたとしても、ソーンズ抜きで撮影が始まることはないだろう。ここで焦って店に迷惑をかける方が問題だ。
「それなら、待っている」
「うん」
 ソーンズの落ち着いた声に応えるエリジウムも落ち着いていた。開き直るのは良くないが、焦りすぎても仕方ない。エリジウムは試着した服をシワにならないようにハンガーに戻す。ズボンを履いてベルトを締め、少し髪型を整えてからカーテンを開ける。
「お待たせ! ……あれ?」
 試着室の前には誰もいなかった。服を見ているのかと店内に視線を巡らせるが、ソーンズの姿はなかった。エリジウムに気づいた店員が畳んでいた服を棚に置いた。
「あー……なるほど」
 エリジウムは自分を落ち着かせるため、無意識に耳羽を撫でた。ソーンズは確かに「待っている」と言った。しかし試着室の外にはいない。それが表すのは、つまり。
「集合場所で待ってるってことかぁ……
 ソーンズもエリジウムも、どこで待つかを明確には伝えなかった。エリジウムは勝手に二人で集合場所に向かうものだと思っていたが、合理主義のソーンズは集合場所で落ち合おうと言ったのだ。別にそれ自体は何もおかしくはない。普段から二人で食事をする約束をして、食堂や店に現地集合なんてよくあるし。それにしてもこの状況で置いていかれるとは思っていなかったが。
 エリジウムが心の中でソーンズに薄情者、と文句を言っていると、寄ってきた店員がにこやかに「いかがでしたか」とお決まりのフレーズを尋ねてくる。ちょうどそこで時報が鳴った。連絡されていた集合時刻だ。それを聞き終えたエリジウムは店員にこう返した。
「このズボンと同じサイズで、もう少し明るい色はありますか?」
「在庫を確認してまいります。少々お待ちくださいませ」
 エリジウムからズボンを受け取った店員はいそいそとレジ裏へ引っ込む。それを見送りながらエリジウムは通信端末を取り出すと、撮影スタッフへ集合写真撮影に間に合わない謝罪と、エリジウム単体の撮影時間には間に合う旨のメッセージを送信した。
 少しだけ撮影を待ってもらって今すぐ急いで集合場所に向かうことも出来る。しかし今回広告モデルとして最初に選ばれたのはソーンズで、エリジウムは付き添いだ。さらに言うと今回の撮影は単体の撮影がメインで、集合写真は広告よりも記念撮影の意味合いが強い。約束を守らないのは信頼を失うことに繋がるしエリジウムのポリシーにも反するが、他の人を待たせるくらいなら潔く断ってしまった方が良いと判断した。見方を変えれば、ショッピングを楽しんだあとに撮影した写真の方が、楽しげなオーラが出て写真映りが良いかもしれないし。きっとそうに違いない。
 戻ってきた店員の手には、チャコールグレーとアイボリーのズボンが二本収まっていた。「いかがでしょうか」と差し出されたそれを「ぜひ試着させてください」と笑顔で受け取る。集合写真を撮った後はソーンズ単体の写真を撮り、その後エリジウムの撮影の予定だ。あと一時間は余裕がある。そうしてエリジウムは再び試着室に引っ込んだ。