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wawan78
2025-08-21 20:52:26
5825文字
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モース硬度10
ドルネドvs隊長を書きたかった。
一応 魔術師主
名前
名前
名前
名前
名前
名前
仕事中だというのにドルネドはたいそう不機嫌であった。博物館に展示中の石を狙えという依頼であったそれは、綿密な調査と調整と準備を重ねたものであったのに、クライアントが勝手に犯行声明を出したのである。おかげで余計な警備が増えた。的が増える分には構わないが、ドルネドに仕事を依頼しておいてこの仕打ち、最早思考はこの仕事のあとどうクライアントに報復するかにリソースを割いていた。
排気ダクトから博物館へ侵入し、内部の警備状況をスキャンしながら進んでいく。館内は犯行予告を受けて休館措置を取り、一般客はこの数日立入禁止、静まり返った館内ではちょっとした音も憚られた。しかしドルネドは何も気にせず邪魔な格子をへし折って進む。
名前
の秘術により、発生させるすべての音が消されているからである。
『秘術に自信があるとはいえそう派手にバキバキとやられると恐ろしいですね』
「むしろこの程度で感知できないとは当局もまだまだと言える」
『しかしあなたの名前を出されたのにこの警備の緩さは一体
……
最奥の展示室なんてひとりしか反応がありませんよ』
名前
にはオペレーターを任せていた。普段そんな者は置かないが、今回の仕事の特性と作戦の点から試してみることにした。隠すこともないし、
名前
がこちらを裏切ることはないし、秘術によるサポートは余計なリソースを割かなくて済む。案外、良いかもしれない。
「半信半疑なのかもしれん。私が犯行予告を出すことなど滅多に無いからな」
『滅多に、なんですね』
「手段として有効ならば出す」
『ああなるほど
……
あ、ワッチできます』
警備の通信に入り込んだらしい。ノイズ混じりの盗聴はBGMには悪くない。代わり映えしない、退屈なダクトの中を通りながらドルネドは聴覚を絞った。
──隊長は奥に?
──ああ、もし本当にドルネドが来るなら
……
。
──即時撤退、でしたね。
──隊長を残してな。
『
……
どうしました?』
ドルネドが突然動きを止めたからだろう、
名前
が不安そうな声を出した。
「
名前
」
『はい?』
「最奥には何人だったか?」
『ええと
……
ひとり』
「詳細は?」
『監視カメラの映像を繋ぎますね』
視界の端に意外とクリアな映像が浮かび上がった。そこに立っている人物は期待していた通りで、我ながら面白いくらいに不機嫌から上機嫌へ変わる。
クライアントへの評価は撤回しよう。良い仕事をしてくれた。犯行予告を聞きつけて飛んできたのだろう。奴はドルネドを仕留めることに文字通り、生涯を捧げている。喉の奥から笑みが溢れた。
『あの
……
ドルネド?』
「
……
うん? ああすまない、何か言っていたか?」
『様子がおかしいので
……
大丈夫ですか?』
「問題ない」
そういえば話していなかった。何よりも対峙することが楽しみな人物。そして何よりも厄介な人物。進行を再開しながらドルネドは策を練った。生半可な計画では出し抜くことすら難しい。無論、せっかく歓迎してくれるというのに、素通りでは奴も残念だろう。
* * *
挨拶代わりに一発鉛球を撃ち込むと、愛用の刺突剣で見事に弾き返された。途端に張り詰める空気が久々の邂逅を教えてくれる。ターゲットのブラウンダイヤモンドは奴の背後にあった。さて。
「貴様らしくもない派手な演出だったな」
「あの犯行声明はクライアントが勝手にやったものだ。おかげでお前と遭えた訳だが」
しばらく向かい合った。背後のターゲット、依頼にあった「石」には傷を付けてはならない。つまり動きに制限が出る。
そしてどちらともなく動いた。
わかっている。互いの命にしか興味がない。いや、奴はできれば逮捕したいと思っているだろう。以前もそういうことがあった。ただし、殺すより生きて捕まえる方がずっと難しいということも含めて、わかっている。
ドルネドは奴を殺せれば良かった。いや、殺すこと自体が目的ではない。よくいる小虫を潰すのとは勝手が違う。ほんの少しでも緩めれば、極限までに狭い隙をその刺突剣の先端が狙うのだ。ごく僅かな生身の肌の一点、あるいは装甲の隙間。何故やつがこんなに細く繊細な得物を好むのか? それはあまりにも小さい「点」を確実に貫くためである。銃を操り距離を保ちたいドルネドに対し、同じ距離では勝てないと懐に飛び込むことを選んだのだ。間合いを保とうとしてもしつこくしつこく追い掛けて来る、いつも通りだ。少しでも遊べば終わる、この世の興奮のすべてを集めたひと時がたまらない。
互いに細かく被弾していった。ドルネドの弾は奴の頬を掠め、奴の刺突剣はドルネドの腹を掠め、最奥展示室の壁を破壊して保管室に飛び出る。恐らくは歴史的価値の非常に高い品々が、適切な温度と湿度で徹底的に守られていた。なのに、奴がドルネドの腕を掴んで投げ飛ばしたため、ガラスの箱は粉々に砕け、数千年前の誰かが書いた書簡はあっさりと紙屑になる。腹の足しにもならぬものに興味はない。が、奴は違ったようだった。
このドルネドと相対しているというのに集中しないとは。
これだから「正義」は脆い。その価値を理解しているからこそ、奴は自らが破壊を手伝った書簡に一瞬の後悔を向けたのだ。
……
長距離が好みだが別に肉弾戦が不得意なわけではない。スライディングで足を掬うと見事にガラスの破片が散らばる床へ倒れた。その程度で傷がつく体ではないだろう。だが? 尖った欠片の積もる場所に押し付けられたなら?
飛び込んで踵を腹に沈めてから、喉元に銃口を押し込んだ。無論、他の腕の全てで体を押さえ込むことも忘れない。
「
……
!」
「どうした歳か? 集中を切らすな」
そうだそれでいい。注意がドルネドに戻ってきたところで引き金を引く。これで終わりとは思わない。「引き金を引く」ということに気を向けたその瞬時を刺突剣が貫いた。右肩に鋭い穴が開く。いくつか細いケーブルが切れて動作不良を起こした。だからどうした、怯まず弾を撃ち出すと避け切れず首の脇が口径大に抉れた。すかさず硬い拳が顎を強打してくる。改造しているとはいえ脳に直接響く振動はそれなりにキツい。しかしそれで背面から倒れてやるドルネドではない。ほんの僅かな時間に、そういえば体のあちこちから体液が漏れているのに気付いた。いっそ心地よいまである。
距離を取った。残り体力はどちらも五分五分といったところであろう。奴も首の射創が効いているのか、刺突剣を構える腕に震えが見える。
踏み込めば命知らずの一撃が迎えるだろう。ドルネドもさすがに体液を流しすぎたらしく、心臓が警告していた。なにより、先程貫かれた肩に力が入らない。
どこだ。どこを撃てば良い。この瞬間も好きな時間だ。相手の動きを警戒しつつ、唯一のその場所を探し出す、一瞬とも永遠ともとれる時間。次でいよいよ決まるのだろうか、どちらが終わるのか、終わらないのか、そのひび割れた腹に撃ち込もうと弾を向け、
……
、「終わる?」
何がだ。ドルネドの命が? ここで?
相手は問題ない。そういうこともあるだろう。だがそうではない。そういう問題ではない。
「
……
」
「
……
?」
ズレた。確信した。流れもテンポもなにもかも。今撃っても当たりはしない。まさか。まさかこの極上の獲物を目の前にして、ドルネドの意識が他所へ逸れるなど。
向こうもそれを感じ取ったのだろう。明らかにいつもとは違う振る舞いを訝しんでいた。
ドルネドは、笑った。
「
……
ククク、ハハハ」
「
……
どうした」
「いや、何
……
」
まさかこの命を惜しむとは。
ドルネドは笑いながら、保管室を暗室にするべく遮光カーテンで遮られた窓に寄り、そして戸惑いのせいで行動が遅れた奴を置いて、窓ガラスを砕いて裏の茂みへ落ちていった。
* * *
林の奥へ進み、一段と茂って暗くなっている場所で腰を下ろす。簡単な医療器具で軽く処置をしながら、ドルネドの思考は上の空だった。
何よりも楽しむことを楽しみにしている人生だ。奴とのやりとりは至高の時間であったはずだ。それこそ生死を忘れて。だというのに今のドルネドときたらどうした、最高の瞬間であるはずの一撃を捨て、引き換えに失うかもしれなかった命を惜しんで、こんなところで地味に傷の手当をしている。
笑いが止まらなかった。
『──ドルネド?』
「ああ、私だ」
切断していた通話を繋げる。事の次第を説明するとすぐに「飛んで」来た。
ずっと笑っているドルネドを心配そうに(怪しみながら)、怪我の様子を確認している。体液の損失が著しいと気付くと、すぐに顔つきが変わり地面に膝をついた。
鞄から処置用の道具を探す
名前
の顔を、唐突に触る。
「お前のせいだぞ」
「はい?」
「あんなに楽しいことを中断してしまった」
変わったのだ。変わってしまった。これに出会って、何かが変わってしまったのだ。至上の楽しみであったあの邂逅、最高の終わりのはずのトドメの一撃。そう、終わり。
終わりを恐れたことなどなかったはずなのに、終わったら楽しめなくなるではないか、と考えてしまった。
「突然帰れなんて言って通信を切ったら、今度は何ですか。まったく
……
」
「そういえば、帰らなかったのか?」
「今日は一緒に仕事に来たんですから、置いて帰るわけがないでしょう」
「ハハハ!」
これは、何なのだろう。ずっとわからない。気の迷い? 耄碌? 弱ったが故の依存なのか、それとも?
ただわかっていることは、これが目の前にいる時間、生活、そのすべてを手放す気は毛頭ないということだけだ。
「大きな声を出すと見つかりますよ」
「あいつも似たような状態だ。困らない」
「私が困ります」
「その時は逃げればいい」
「あなたを持ってね」
「ハハハ、
……
そういえば」
「まだ何か?」
仕事をまだ終わらせていない。さらりと告げるとぴたりと止まった。
「はあ?」
「すまない、遊びに夢中でな」
「赤ちゃんですかあなた!」
「大きな声を出すと見つかるぞ」
怪我人をひっぱたくものではないと思う。
* * *
ターゲットのブラウンダイヤモンドは絶対に傷を付けてはならない。それ故に戦いで大破した博物に置いておくのは危険である。様々な関係者が判断し、その日のうちに組織の保管庫へ丁重に移されることになった。
「隊長、輸送準備完了しました」
「ご苦労諸君。急ぐぞ」
本来ならばドルネドのいる現場に部下を連れて来るつもりはなかった。しかし自分だけが警護にあたると交渉したところで、博物館というロケーション上、誰も承知しないことは明白であった。
結果として犠牲が出てしまっている。自分のところに到着するまで、静かに始末していたのだ。遺体の収容は完了していた。
今は目の前の役目を果たそう。傷は応急処置のおかげでなんとか動ける程には抑え込めていた。ブラウンダイヤモンドを載せた装甲車を発進させるべく、部下に指示を、
「す、すみません
……
! 連れて行っていただけますか
……
!?」
振り返ると、博物館からひとりの女性が走って来るのが見えた。線の細いひとである。ひどく怯えているようで、白衣は所々に破れ、繊細そうな髪も解れていた。
しかし今日は従業員すら全員立入禁止にしていたはずである。何故ここにこんな女性がいるのか?
「いかがなさった? 今日は通達があったはず
……
」
「そ、それがその
……
修復中の資料があったので、取りに
……
」
よく見ると彼女は、布で包んだ手のひら大の何かを大切そうに抱きかかえていた。歴史的価値のあるもので、彼女が修復と保管を担当していたという。
職務に熱心なのは良い事だが、よりにもよってドルネドの現場、戦いに巻き込まなくて本当に良かったと息を吐く。
「ここは非常に危険です。さ、我々と共に行きましょう」
「は、はい。申し訳ありません」
「太古の遺物は守るべきもの。貴殿の使命感に敬意を」
そっと促すと震えながら女性は装甲車へ乗り込んだ。この怯え方はおそらく、見てしまったのだろう。自分とドルネドの戦いを。常人であれば恐怖で身もすくむというものだ。
装甲車は走り出した。頑丈なガラスケースに守られたブラウンダイヤモンドも揺れている。
「お嬢さん、申し訳ないが我々の最優先事項は、このブラウンダイヤモンドの警護。貴殿を然るべき場所に送り届けるのはその後になるが、よろしいか?」
「ええ、構いません。自分で帰ります」
「帰、」
はらり、と女性が抱いた「それ」の布が落ちた。
ぬいぐるみだった。まるくてふわふわの。
しかしどこかで見たことがある。
いや、ついさっきまで見ていた。
見ていたどころか、
「世の中には知らないことが山ほどある。そうだな?」
理解したときには爆発していた。
犯行予告によればドルネドの狙いはブラウンダイヤモンドを「破壊すること」。このブラウンダイヤモンドには常人では対抗できない災害級の存在が封じられており、それが破壊されるということは解き放たれるということであり、つまり、今この瞬間、この世界は滅びへ一歩踏み出したことになる。
受け身を取って煙の中視覚におさめたのは、割れたブラウンダイヤモンドから溢れ出る、肥大する肉の塊。そしてそれをただ悠々と眺めるドルネドの背後と、先程の女性だった。
「相変わらず醜いですね」
「知り合いか?」
「昔ちょっと
……
」
「興味深いな。道中聞かせろ」
「大した話ではありませんよ」
部下からあった報告を思い出した。あのドルネドと親しげに談笑しながら食事をしていた人物がいると。そうか。あれが。
だからあの時、逃げたのか?
優先事項が切り替わる。目の前の肉塊を抑えなければ世界に未来はない。部下たちは立ち上がった。自分も剣を抜く。
「ドルネドォ!!」
許してなるものか。遊びと同等に世界を滅びへ導く者など。この叫びをどう受け取ったのだろうか。破壊音と共に確実に聞こえたのは、楽しそうに笑う声だった。
(それはそれとしてなんとかした)
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