shiroyakei
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愛のかたち

オロイフプロット交換 

『来ないで!! 来ないでってば!!』
『助けてください、助けてください』
『なんで援護が来ない! 伝達使は何をしている!!』
『許して、お願い!! 許してぇっ!!』
『お母さん!! ──お母さんっ!!』


「『─……最後の歌を、聞かせよう』」
 どろどろとした苦痛の叫びの中心に、オロルンは居た。どろりとした重く暗い洞窟の中で、彼の夜魂の光と、黒曜の古名から出る光だけが彷徨う魂を照らしている。

此度、自分の身近な人を悲しませ、混乱させてしまった。自分のやった行為には後ろめたさもなかったし、隊長に協力したことに全く悔いてはいない。しかし、悲しませ混乱を招き、それでも自分が死にかけた時に救ってくれた人たちには、何か行動で恩義を見せなければならない。
そう思ったオロルンは、ナタの各地を回って彷徨った魂を地脈に返すことにした。行動に移したはいいものの、その成果は芳しいものではなかった。

黒曜石から献身の光が洞窟の暗闇を照らした。光と彷徨う魂の境目がぶつかりあったと思ったら、ばち、と拒否され跳ね返されるように光が四方に飛んでいく。瞳をつぶされそうなぐらいの閃光だった。オロルンは眉間にしわを寄せ、腕で閃光を浴びないように防御姿勢をとった。
やはりここの魂も返してやれそうにないな……くそ
祈るようにオロルンは手を合わせ、その場にしゃがみこんだ。
「ごめん。君たちを見捨てたくない。本当は見送ってやりたいんだ。」

『助けて、助けて帰りたい、帰りたいよ
『なんで、どうして、たすけてよぉ

……






「よ、きょうだい。久しぶりだな。」
「よう、きょうだい!」
 オロルンは迷煙の主にある自宅ではなく、花翼の集いにあるイファの診療所にふらふらと向かっていた。イファとカクークのからりとしたさわやかな挨拶に、オロルンのどろりとしたものが照らされる。
「きょうだい、クッキーにつられたのか? 今なら焼きたてだ」
「やきたてだ、きょうだい!」
「食べるか?」
 差し出されたいつものちび竜ビスケット。いつもと変わらないイファの穏やかな笑顔。それを見てオロルンは感覚で察知した。己がいつもと違う精神状態であると、イファは気が付いたようだった。

 イファはオロルンと違い、魂を感じたり見ることはできないはずなのに、彼は時折魂が見えているのではないかとオロルンは思うことがあった。ふわふわと香る焼きたてのビスケットに、すがるように手を伸ばした。
「飲み物はいるか? なにがいい?」
「コーヒー。サウリアンサキュレント入りの」
「はいはい。いつものやつだな」
 イファがポットをもって台所へと立つ。その背中を見送ったのち、オロルンはリビングの椅子に座った。カクークはオロルンの膝の上にぱたぱたと着地し、くるる、と小さく鳴いた。きっとカクークにもオロルンの心情がばれてしまっているのだろう。この竜医たちはたいしたものだ、とオロルンはカクークの羽を指でといた。

 イファは何も言わない。オロルンに何かがあったことを察知していながら、今日も何も言わないのだろう。
オロルンがファデュイに協力したことも、身体を乗っ取られ死にかけたことも、そして普通でいいと言ってくれた彼の優しい言葉さえも届かなかったことも。戦争で英雄として前線で戦ったことも。
そして今彷徨い地脈に帰れない魂の前で、何もできない自分自身の無力さに苦しんでいることも。
彼はきっとすべてを知っていて、何も言わない。人づてに聞いたのだろうか。それとも察しているのだろうか。

 オロルンが各地を回るために畑を留守にするといった時も、フィールドワークついでに見といてやるよ、と。それだけ言って、何のために留守にするのかなども問うことはなかったのだ。
そして今も、何も言わずに台所で湯を沸かしている。
それが彼の性格で、やさしさで、彼なりの──

「オロルン、はい。コーヒー淹れたぞ」
「イファ、僕って魂だけじゃなくて愛も見ることが出来たのかもしれない。」
……今度は何をいってんだ?」
 イファはマグカップを持ったまま、あきれたようにからりと微笑んだ。マグカップから出る湯気が、ふわふわと二人と一匹を包むようにあがっていく。
「だって君って愛の形をしている」

 もしかしたら、問われる日が来るのかもしれない。しかし、今日は彼のやさしさに、愛に、コーヒーに沈むサウリアンサキュレントのように、おぼれてみようと思った。