柩木
2025-08-21 18:57:52
4929文字
Public 崩壊:スターレイル
 

丹穹|俺のうさぎ

依頼の報酬とは別に試供品と称してプレゼントを貰った穹。中身はなんと逆バニーの衣装だった。この衣装により一悶着起こる話。

※勢いだけの小説です。頭の中空っぽにして読んでください。

簡単な依頼を一つ終えた穹は、報酬を受け取って星穹列車に戻ってきていた。片付けた依頼以外には予定がないので、たまにはゆったりと列車で過ごすのも良いかと寄り道もしなかった。しかし、自室のベッドに広げた品をまじまじと眺めながら、穹は一人悩んでいた。

――……? いや下着か?

ベッドの上に並べたのは服のようでいて下着のような。兎に角どちらともつかないような、形容しがたい衣装だった。どことなくバニーをテーマとしているのか、うさ耳を模したカチューシャが一式の中で異様に目を引く。だが、これを贈られた意図が分からない。そんな用途がよく分からないものをマジマジと眺めて生まれたのが冒頭の疑問である。
まずこの衣装の入手経路だが、穹が自分で購入したものではない。普段通り依頼をこなし、得た報酬の一部だ。
受け取った報酬は信用ポイントと幾つかの素材。そこにおまけとして持たされた紙袋。依頼人曰く、これは自社ブランドの品だという。白い紙に黒字の筆記体で単語が書かれているその中身は開けてからのお楽しみだと依頼者はウインク付きで答え、まるでスキップでもしそうな勢いで去っていった。
そういう経緯で手に入れた中身をワクワクしながら開けたのがついさっき。だが、袋を逆さまにして出てきたそれらに穹は困惑していた。
バニーモチーフは確定として、ゲームや漫画等の創作物で時々目にするようなバニー衣装とは異なる装いのそれ。布がある部分が反転している、という表現で合っているのだろうか。胸や胴を隠す箇所が見当たらないのだ。
腕や肩だけを不自然に覆うボレロ風ジャケット。もはやそういうデザインのチョーカーなのだろうなと思った方が理解できる立ち襟風の装飾。そしてより穹を混乱に陥れたのが男性には不要と思われるハイソックスと、細いベルト。ハイソックスに関しては目の前で掲げてみると向こう側が透けて見えるほどに薄い。

――どういうことなの。

そんな混乱を極める穹の元へ、無情にも訪問者が一人。彼は普段から穹の部屋をよく訪れており、もはや隠すことなど何もない程に気心も知れていたので、ノックの類いは省略で良いと許可を出していた。――が、今回はそれが仇となった。

「穹、少しい――
「わぁぁぁぁ!!」
「っ、!?」

穹が叫びながら衣装を抱き寄せ、訪問者の視界から一先ず隠すまで数秒。これで隠せたとは思っていないが、もしかしたら隠し切れた可能性もある。正直言って振り返るのが怖い。しかし、振り返らない訳にもいかない。
ゆっくりと振り返り、訪問者――丹恒の反応をうかがう。そこには普段通りの丹恒が立っていたが、表情は若干気まずそうだ。これは隠しきれなかった可能性が八割程と思った方がよさそうだ。

……見た?」
「俺はお前がどんな服を着ようが構わない。お前が飲月としての俺も受け入れてくれたように、俺もお前の趣味趣向を受け入れ――
「待って待ってそんな重い話じゃないし俺の趣味じゃない! 報酬のおまけでもらったんだ!」
「は?」

言動からも混乱が見て取れた丹恒は動揺と焦りと羞恥が混ざったような複雑な表情をしていたが、報酬のおまけと聞いた瞬間に普段の冷徹さを取り戻した。眼光は鋭く、声のトーンも二、三下がったような気がして穹は失言に気付く。冷徹さだけでなく怒りも呼び起こしてしまったようだ。
ここは名誉を傷付けてでも自分で買ったことにしておけば良かったのかも。しかし、時すでに遅し。苛立ちを隠しもしない丹恒は一度大きくため息をついた。

…………鍵をかけてくる」
「う、うん。よろしく」

極めて冷静でいようとしてくれる丹恒はありがたいが、これは言葉を間違えるととんでもないことになりそうだ。





「この服が報酬……? 一体どんな依頼をこなしてきたんだ」

丹恒の眉間に分かりやすく皺が寄った。この一瞬で何を想像したのかは分からないが、ベッドの上に並べ直したバニー衣装を睨み付けている。

「ふ、普通の依頼だったよ! モデルの!」
「モデル……?」

穹が今述べたことは真実だ。とあるデザイナーがインスピレーションを得るために理想のモデルを探しているというのを、知り合いの知り合いの、知り合いから紹介されて穹が引き受けたのである。
依頼そのものは「戦っているところが見たい」という拍子抜けするような内容で、そこらを徘徊しているエネミーと三回程戦っただけで依頼は完了となった。予想よりも少し多めの報酬を受け取り穹も満足したのだが、報酬とは別に「試供品」と言って渡されたのがこの衣装だった。なんなら、貴方なら絶対に似合うというデザイナー本人からのお墨付きまで貰っている。宇宙一の美少女であればどんな衣装だって着こなせるだろうが、今回ばかりはなんとも言えない気分だ。
そんなこんなで、実際にはモデルというより創作のインスピレーションを得る手伝いだったのだが、あまりにも不機嫌な様子の丹恒を前にして穹は冷静さを欠いていたらしい。依頼の報酬として貰ってきたのが際どい作りの衣装で、モデルをして来たとなれば――恋人である丹恒がどんな想像をするのかという配慮が足りていなかった。具体的には、モデルと言っても肌を晒すようなことはなかったのだという大切な説明が抜けていた。

「そう。去り際に試供品の感想を聞かせてって言われて」
「感想……。この衣装の……感想……?」
「着心地とかかな。ん、なんか顔色悪くない?」
「大、丈夫だ」

色々とギリギリな丹恒に気付かないまま、穹はとりあえず会話を続けようと躍起になっていた。説明をちゃんとして、この衣装を得るに至った経緯を知ってもらわなければ。
紙袋のロゴを元に検索をかけ、これが依頼人のブランドだと見せるつもりでサイトを表示させた。試供品が一応服だったのを踏まえるにファッション系のブランドなのだろうと想定していたのだが、読み込まれる画像を見て頭を抱えたくなった。

――貴方本来の魅力をより引き立てる最高の装いを。

そんな自社コンセプトの下に、扇情的なポーズで衣装をまとうモデルの画像が大きく表示された。その画像の全てが貰ったバニー衣装と変わらないくらい布面積の少ない衣装であり、美少年のモデル達が、次々と表示されていった。

「わ、わぁお」

思わず驚嘆が漏れ出た穹とは違い、一緒にスマホを覗き込んでいる丹恒は何も言わない。ただ、サイトを険しい顔で睨みつけるように眺めている。穹の中で海を割った時が想起されたが、そんな表情で見るサイトじゃないだろうに。

「こ、こんなに布面積の少ない服、着たらお腹冷やしそうだな」

冗談を言って場を和ませたかったのだが、丹恒は油が切れたロボットのようにゆっくりと穹へ視線を移した。

「着る、つもりなのか」
「えっ? いやぁ流石に……
「知り合ったばかりで素性も詳しく知らない者が差し出した服を、お前は素直に着るのか。依頼ならなんでもいいのか?」
「ちょ、丹恒怖い。どうしたんだよ」

ベッドに腰掛ける穹を押し倒す勢いで肩を掴んできた丹恒は、目がもう正気とは言えなかった。

「モデルだからと俺以外の者の前で素肌を晒して、挙句の果てにはこんな際どい衣装を着て、不特定多数が見るサイトにお前の写真が載ることがあれば俺は――
「ストップストップ! 聞き捨てならない上になんか噛み合ってない!!」

これまで説明をしてきた穹の気苦労は何だったのか。丹恒が大きな勘違いをしていそうだと察し、改めて懇切丁寧に状況の説明をした。そうでなければもっと拗れていっただろう。結局、ほとんど頭から説明することになった。
丹恒の中で際どい衣装の着用モデルの依頼を受けたことにされていたのには、申し訳ないが胸中で笑ってしまった。

「そうか……。創作のインスピレーション……
「分かってくれた? 今回の依頼、元々はモデルを探してたんだけど、実際にはエネミーを倒しただけ。戦ってる姿が見たかったんだって」
……本当に肌は晒してないんだな?」
「嘘だと思うならひん剥いてみる?」
「そこまでしなくていい。……すまなかった。話の中で混乱してしまって」
「いいよ。俺も説明不足だったみたいだし」

自己嫌悪で項垂れている丹恒には申し訳ないが、勘違いだったとは言え怒ってくれたのは不思議と嬉しかった。彼の独占欲というか、愛情の一端を見た気がしたのだ。
となると、お詫びも兼ねてなにかしてあげたくなるのが、恋人というものだろう。

「なぁ。着てみよっか、これ」
「えっ」

放置されていたうさ耳カチューシャを付けておどけて見せる。依然として戸惑っている丹恒の表情が、幾分か柔らかくなった気がした。

「着心地の感想を送るつもりはなかったんだけど、あのサイトを見てプロのモデル達と一緒に俺もここへ並ぶのかもって一瞬でも思った丹恒の感想に興味ある」
「う……
「デザイナーから直々に似合うって言われてるし、どう?」
「いや、その……お前にその気がないならそんなことは」
「ここは丹恒主体で行こうよ。興味あるかないか。見たいか見たくないか。どっち?」

たっぷり数秒かけて葛藤し、項垂れたまま丹恒は答えた。

…………興味は、ある」
「よし来た。着替えてくる」
「思い切りが良すぎる……!」

やっぱりなし等と言われる前に衣装を持ってバスルームに駆け込んだ。とは言え、普段着ることのないデザインの衣装である。勘だけで着れるとは思えないので、公式サイトの画像を参考にさせてもらうことにした。該当するだろうワードで商品を絞り込んでページを幾つか飛べば、穹の手元にある衣装と似通った品が出てくる。
早速商品ページに飛び、画像と概要を確認して――ページをスクロールしていた手が止まった。

……嘘だろ」

ただ服を着て、丹恒にみせるだけだと気楽に考えていたのだが、これは思ったよりハードな案件だと理解したのは悲しいかな着ることを了承したあとだった。





……丹恒」

ベッドに腰掛けたまま待っていた丹恒は、声を掛けられて顔をあげた。そして、穹の姿を見て口元を引き結んだ。
流石の穹であっても羞恥が勝ったのか、普段着ている上着を腹の前で抱えて下半身を隠している。しかし、それに何の意味があると言うのだろう。
何のために着ているのか分からなくなる程布の少ないボレロは穹の鎖骨までを覆っていたが、そこから下は肌だ。つまり、ほとんど全裸と言っても過言ではない。胸や腹を隠すものなど何もなく、子供らしさを感じさせるうさ耳カチューシャは蠱惑的な格好とのちぐはぐさを助長させていた。
ある程度想像できた事だが、実際に見るのとでは受ける印象が全く異なる。穹が引き受けた依頼が着用モデルでなくて本当に良かったとすら思う。

……す、凄いな」
「う、うん。……それで、一応着れたんだけど、さ……。サイトの画像でモデルが着てたのって、掲載用にコーディネートされたやつらしくて。ショートパンツは商品に含まれていませんって書いてあって……。でも俺、代わりになりそうな服持ってないし」
……それで?」
「逆バニーって名前だし。もしかしてとは思ってたんだけど、その……

言いながら穹の顔が赤くなっていく。言うか迷っているようにも見えたが、か細い声が続きを告げた。

「パンツ、履かないんだって」
……履かないのか」
…………うん」
…………履いて、ないのか」

穹は何か言う代わりに上着の裾をめくる。脇腹から足にかけて顕になった肌の色が眩しく感じられた。本来であれば下着で覆われているだろうそこには何もなく、鼠径部が晒されている。そこから流れるように太腿へ視線を移すと、ガーターベルトとニーハイソックスの軽い締め付けにより、穹の柔らかな太腿の肉感がより強調されているのが分かった。
これが暴力と言わずしてなんというのか。

…………どうしよっか」

たっぷりと数十秒葛藤した丹恒は、苦虫を噛み潰したような苦々しい顔で唸るしか出来なかった。