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ふじしろ
2025-08-21 06:20:16
1639文字
Public
浄皇
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ぼやき男の抱えるもの
浄皇。バンドイベスト3話アフター。真実はひとつだけかもしれないが、それにまつわる側面があるよねというはなし。
「まったく。本当にみんな海羽に甘いんだから」
閉店後に厨房の片付けをしているとグラス片手に浄がやって来てボヤき始めた。
宗雲に頼み事があった静流がエージェントの入れ知恵で共にウィズダムに来店し、結果頼み事を押し通した。
その時も浄は一人でキーキー騒いでいたがどうにもそのことが気に入らないらしい。
浄にしろ静流にしろ互いに互いを好いてはいないのだから仕方のないことなのだろうが、それは俺には関係のない話だ。
「片付けが終わったならさっさと帰れ」
あまりの鬱陶しさに浄の顔を睨みつけてやるが、彼が動じる様子はなかった。
聞こえるようにわざと派手に舌打ちし、作業に戻る。
そういえばさっきは元同期の絆を取るのかとえらく睨みつけられたな、ふとそんなことを思い出す。
あの時はあまりの剣幕にそんなに騒ぐような話でもないのにと浄の様子に呆れもしたが、今考えると同期生がいないことに何か思うところがあったのかもしれない。
浄はアカデミーの出身ではない。
だから彼にとって同期生と呼べるような人物はいない。
彼は高塔の力でライダーになったから彼らに義理は感じてはいたようだが、だからと言って高塔たちと特別仲間意識があるというようにも見えない。
その事実を暴いたのは俺だった。
そのことを誰かに何か言われるような筋合いはないが、だからと言って何も考えないというわけでもない。
あの時暴いたのは浄のライダーとしての出自だけではない、彼の孤独をも曝け出したのではないか、後からそんなことを思うことがあった。
何となくだが浄はそういう部分を人に見せたがらない気がする。
戴天辺りから情報は得ていただろうが、事実アカデミーのことを大して知らないながら彼は俺たちにライダーとしての出自を年単位で深く疑わせることなく過ごしていた。
自身で抱えているものを表に出さないのは人を謀るような浄の言動を支えるために必要なことでもあるのだろうが、それだけだとは俺には思えなかった。
そんなヤツだからこそ逆に元同期なんて言葉に過剰に反応を示すのではないか、それはない話ではないなと思う。
図太いんだか繊細なんだかよく分からないヤツだな、そんなことを考えながら手を動かすがそのうち待てよと思考にストップが掛かる。
そもそも浄と静流の仲に問題があるのはそれ以前からだったか。
それに静流は何かと直ぐに同期のよしみと持ち出してくる、これも前からだ。
何だ、この話は単なる俺の考え過ぎなのか、そう思ったら急に馬鹿馬鹿しくなった。
しかしこんなこと久しぶりに思い出したな、そんな風に思いながら辺りを見回して厨房の片付けもあらかた終わったと息を吐く。
浄はまだカウンターに寄り掛かって、一人ぶつぶつと文句を垂れていた。
「おい、そろそろ帰り支度をしろ」
浄の元へと近寄ると、彼は不貞腐れたような顔で俺のことを睨んだ。
「海羽の肩を持つやつにとやかく言われたくはないね」
「黙らねえとその口無理矢理塞ぐぞ」
拗ねる浄にそう言うと、彼はふーんと口を尖らす。
面倒くせえな、そう思いながら浄の顎をぐっと掴み、そのまま唇を重ねた。
息継ぎの間に開いた浄の口に舌を捩じ込むと、すかさずに彼も舌を絡めてくる。
しばらくそうやって浄の舌と戯れたあと、ゆっくりと顔を離すと浄は目をぱちくりとさせた。
「何だ?」
「いや、本当に言葉通りで逆に驚いたよ」
そう答えると彼はくつくつと小さく笑った。
「いいから早くしろ。一杯くらいなら付き合ってやる」
「珍しいこともあるものだ。なら行かない手はないな」
ようやく姿勢を正した浄の手からグラスを奪い、それを洗うために流しへと向かう。
浄はそのままそそくさとロッカーへと向かった。
今日の話は考え過ぎだとしても俺が暴いた浄の真実は高塔との関係だけではなかった、そのことは間違いないのだろう。
だからたまには愚痴に付き合ってやるか、そんなことを思う。
それがただの自己満足な罪滅ぼしであったとしても。
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