望月 鏡翠
2025-08-20 22:45:15
877文字
Public 日課
 

#1817 「景盤」「篠簾」「名目」

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 家の敷地の周りは、篠簾で囲われている。これがなければ、打ち水で首の骨を折っただろうし、家が流されてしまっていただろう。雨粒一滴ですら、滴り落ちてくるとヒヤリとする。
 今は夏だ。蒸し暑いが、命の危険を感じるほどではない。
 囚われの身で、贅沢は言えない。もう少し涼しくなりませんかと言ったら、家の中に入れてもらえるのだろうか。
 ここでは篠簾の一本ですら、丸太のような太さを持っている。家を囲まれてはいるが、間を抜けて外に逃げ出すことは可能だ。しかし俺はそれをする気にならなかった。
 地上に影を落としゆっくりと巡回するのは鳥だ。ここからでは姿が見えない動物もいることだろう。ここを出て、家の敷地から出るまでそれらに襲われずに無事にいられるだろうか。下手をすれば、玄関にたどり着くだけで一日がかりだろう。
 人間は爪も牙もなければ素早さもない脆弱な生き物だ。襲われたらひとたまりもない。だから強い生き物いに守って貰わなければならないのだ。
 俺は、愛玩用のペットの名目でここで飼育されている。
 彼らがなんなのかは知らない。この世界における人間のようなものだろう。俺は元々いた世界で人間だったはずだが、あんな見た目の生き物は見たことがないし、何よりあんな大きさをしているはずがない。
 もしかすると、世界で俺だけが姿を変えてしまったのかもしれない。目が覚めたらベッドの中で毒虫に変わっているように、俺だけが小人になってしまった可能性がある。
 猫でも鳥でもトンボでも、周りのもの全てが捕食者だった。すぐさま死んでしまってもおかしくない状況で、今の飼い主に拾われた。人間の手先の器用さをかわれたのだ。
 飼い主たちの間では、景盤作りが流行っているらしかった。小さい鉢の中に景色が形作る盆栽のようなものだ。それをあの大きな生き物の手でやるよりは、小人サイズの人間にやらせた方がいいというのである。
 枝を切ったり、水をやったり草木を整えたり、完成形を説明されながら手入れをしていく。
 幸福かどうかは知らないが、ともかく命はあるし、俺に向いていた。