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RINGO
2025-08-20 14:51:51
2109文字
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境界の灯
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境界の灯2-6
初稿です
『正解だ。
――
ただ、一つ疑問がある。どうしてお前の身体に影響が出ているか、だ。』
フェンリルはそう言うと、エリオットの手のひらをくるりと回し、指を曲げて爪を見た。
ロウェルから指摘を受けた時から変わらず、爪は黒に染まり、先は鋭い。
『今の状況が特殊すぎて比較のしようもない。だが、仕切りがなくなって、もし俺が俺で、お前がお前だと認識できなくなったら、普通、体の変化より内面
—
―
たとえば、身体の主導権の時間がおかしくなったりするのが先な気がするんだが。』
「それは
……
、こちら側の事情かもしれない。」
エリオットは、爪から視線を外し、正面の姿見に目を据えた。
「フェンリルにも確認するけど、魔術師って、どんな人間を想像する?」
今度は、エリオットの方からフェンリルに疑問を投げかけた。
フェンリルは、『
……
そうだな。』と呟いた。しばらく沈黙が流れる。
『
……
まぁ、俺たちが戦うには面倒くさい奴らってところだな。
――
お前の中に入って初めて知ったが、お前ら人間は俺たちと違って、魔力を集めないで体に貯蔵しているんだな。だから最初から集める俺たちより、魔法の発動が早い。』
その言葉に、エリオットは感心したように声を上げた。
「よく分かったね、その通り。僕ら人間の魔術師は、世界樹から循環している魔力を自分の身体に貯めて、その魔力で魔法を使っているんだ。この『貯蔵する場所』があるか、ないかが、一般の人と魔術師の違いってところかな。
……
ただ」
エリオットは、徐に腕を組み、困ったように笑った。
「知っての通り、僕の場合、貯蔵量はおそらく一級品なんだろうけど、魔法の出力はできない。逆に魔法の使い手だけど、貯蔵量が少ない場合もあるだろうね。
――
つまり、魔術師といわれる人間の質はバラバラで、フェンリルが『面倒くさい』って言っている魔術師の人たちは、貯蔵量も出力も申し分のない精鋭部隊だろうね。」
『なるほど。それでさっき言っていた、「こちら側の事情」っていうのは?』
フェンリルは、そう言って続きを促した。
エリオットは「そうだな
……
」と呟くと、まだお茶が僅かに残っているコップに手を伸ばした。
コップをフェンリルに見せる様に手元に持ってくると、中で少しだけ波打つお茶が、ゆらゆら揺れた。
「魔力の貯蔵量は、生涯変わらないとされているんだけど
……
、お茶が魔力、このコップが魔力を貯める貯蔵庫だとして
……
フェンリルは、ここから魔力が溢れたらどうなると思う?」
『溢れることがあるのか?』
魔力は使う分集める。という感覚のフェンリルには、今一つ感覚が理解できないようだった。
「普通は生き物の体にも魔力は循環しているから、入って出ていくものだけど。例えばお年寄りが排出不全を起こしたり、稀に事故や病気が原因で起こることがあるんだ。」
『それなら
……
そうだな、体の調子が悪くなる、とかか?』
「
……
実際に見てみれば分かるかな。」
そう言うと、エリオットは立ち上がり、ポットがある机の前まで行った。
持っていたコップを置いて、お茶を注ぎ足していく。
トットットット
……
と静かにコップの中のお茶がかさを増していく。
既にコップの7割まで注がれているにもかかわらず、エリオットの手は傾いたままだ。
『おい
……
。』
勢いが止まらない様子に、フェンリルは声を掛けた。
少しずつ、少しずつ増えていくお茶。
もう漏れるといったところで、フェンリルは叫んだ。
『エリオット!』
その瞬間、エリオットの手首はフェンリルによって勝手に動かされ、ポットを持ち上げた。
コップには溢れんばかりのお茶がなみなみと注がれ、あと一瞬でも遅ければこぼれていただろう。
『何やってんだ、お前!こぼすぞ!』
「何が?」
当たり前のことを聞かれ、「は?」とフェンリルは言葉を漏らした
『
……
お茶が、だろ?』
フェンリルが困惑しながら、そう答える。
「
—
―
そう、魔術師の魔力も同じ。今はコップを貯蔵庫に例えたけど、生き物の身体を巡る魔力と同じように、貯蔵庫内の古い魔力は少しずつ外へ流れて、新しい魔力が溜まっていく。
……
でも、その排出口が何かの原因で塞がれると、今みたいに水位が上がって溢れる。身体から、魔力が溢れてしまうんだ。」
『それは、どういう
……
』
「溢れた魔力は、魔石に変わって体の表面に出てくるんだよ。」
エリオットは、他人事のように淡々と告げた。
フェンリルは言葉を失ってしまった。
「その魔石の形っていうのが、動物の特徴を持っているんだ。例えば、鹿の角の形の魔石が、おでこに生えたりね。」
そう言いながら、エリオットは自分のおでこを、トントンと指で軽く触れた。
『
……
その、魔力が溢れた人間は生きているのか?』
「生きていると言われれば、生きている
……
かな。僕がこの
――
魔石化症候群って呼んでいるんだけど。教科書には、「体は生きているが、感情や意思はなくなった。」と載っていたから。
……
もし、人間の魂っていうものが魔族みたいに魔力だったら
……
――
魂が溢れ出てしまった。という事なのかもしれない。」
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