らぎ
2025-08-20 13:37:10
1233文字
Public FF14
 

うちは託児所じゃないんだが


ちょっと預かってください。そう言って墨色の髪の冒険者が差し出してきたのは、猿のような梟のような雀のような、なんとも珍妙な毛玉生物だった。
「何だこいつは?」
「パイッサです。」
「パイッサ」
……もうちょっと、説明した方が」
傍に立っていた夜明け色の髪の冒険者がごく真っ当な苦言を呈したが、墨色の青年は首を傾げた。しばし考えたのちに彼は何かしら得心したように背筋を伸ばし、鞄から手のひら大の缶を取り出した。パッケージに手描きのエーコンが描かれた缶は、腕利きの冒険者の骨ばった掌にはやや不釣り合いにも見える。
「マーケットに連れて行ったら踏まれかけたので……買い物の間、一時間ほどお願い致します。こちらおやつのエーコンクッキーです」
「待て、ウチはミニオン預かり所じゃないんだが」
流れるように話が進んでいる。危なかった。双剣士ギルドきっての手練れは話術も上手いのだろうか、彼にそんな印象を抱いた事は無かったが……いやそれはともかく。
流れを変えるべくジャックは眉間に皺を寄せたが、悲しいかな彼は特大の『弱み』を冒険者に握られていた。
「ビスマルクのチョコレート」
ジャックがぴしりと固まり、夜明け色の冒険者が首を傾げる。
……のお代と言うことで、ひとつ」
「喜んで!!」
夜明け色の冒険者が何かを言いかけて止めたが、手のひら返し?情けない?何とでも言ってくれ、とジャックは心中ぼやいた。サンドイッチで艦首から吊られるのだ、レストラン・ビスマルクのヴァレンティオン限定チョコレートをうっかり半分食べてしまったなどとジャ・ケビにバラされたら、ロータノ海に簀巻きで流されるか街中を逆立ちで歩かされるかだろう。かのレストランにも顔のきく彼が双剣士ギルドに居てくれて本当に助かった。
連れ立って倉庫を出て行った二人を見送り、ジャックは毛玉に向き直る。と、くりくりした瞳が顔ごとぎゅっと細められて思わず後ずさった。
「おおそんな顔するんだな、お前……
その言葉の意味が分かるのか単なる偶然か、フスンと息を吐いてまたもとの真顔に戻ったパイッサ、もとい毛玉にジャックは興味が湧いた。
「クッキー、食うか?」
その言葉を聞いたパイッサの丸い瞳が、きらりと光る。はやくはやくと急かすように、木箱の上を細い手足でぴょんぴょん跳ねる様子に思わず噴き出す。
「慌てんなって、ほら。落ち着いて食えよ?……ってうわ、変な顔だなお前
差し出されたクッキーを丸ごと詰め込んでまん丸に膨らんだ類。思わずつつくと、不満の意を示すかのようにまたむぎゅっと目が細くなる。
「わ、悪かったって」
よろしい、とでも言うかのように真顔に戻り、クッキーをもちゃもちゃ咀嚼して一頻り満足したらしい毛玉は、ジャックの膝にひょいと飛び乗った。慌てて覗き込むと、毛玉は既に丸くなっている。
「寝たのかよ気ままだな」
結局起こすこともためらわれ、その後小一時間パイッサを抱えて座り続けたジャックであった。