バラ肉
2025-08-19 22:03:00
1785文字
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あなたが盗んだもの【マリヘイ】

マリポ様は昔盗人ジョージだったなぁ。
🧊さんに盗人のことを知られたら揶揄われそうだなーと思いつつも、某怪盗映画の名シーンの『とんでもないものを盗んでいきました』『あなたの心です』をやったら面白いな…という話。

※事後から始まります。

「お前さ、ガキの頃は随分と荒れてたらしいじゃん?」
……その話、誰から聞いた?」

sexも終わり、事後特有の気怠げな空気が漂う中。
マリポーサは前振りもなしに投げられた言葉に眉を顰めた。声を主を睨めば……顔の作りのせいで表情はわからないが、雰囲気からしてニヤニヤ笑っているのが感じられた。
寝ていた体をわざわざ起こし、仰向けのマリポーサを見下ろすヘイルマンは、相手の反応がさぞや気になるのか。
いつもクールで大人びた恋人が、過去の黒歴史に触れられどう動揺してくれるだろう。三対の目の中には悪戯な期待が混じっていた。

一方で、マリポーサはマリポーサで、どう反応べきか考えあぐねていた。
相手の言う【ガキの頃】とは、きっと盗人ジョージだった頃の話をしているに違いない。
今やすっかり封印していた話題を、一体誰がほじくり返したのやら。忠誠心高い飛翔チームの面々が言うとは思わない。であれば、オメガと関わりがあるゼブラあたりか。

(いらない事を言ってくれる)

過去のことを無かったことにする気はない。あの厳しい日々があってこそ、今の“マリポーサ”があるのだ。
──とは言え、流石に恋人に告げるタイミングくらいはこちらで測りたかったのが本音だ。
ましてや相手は、賢く、したたかで、かつ面白いことに目のない男である。

……もう随分前のことだ。今はいいだろう」

いつか話すことはあっても、こんな、事後の気の抜けた状況で語るのは違う。
だから、またの機会に。
暗にそう告げると、マリポーサはこの話はもうおしまいとばかりに体を起こした。
まだ、互いに汗と体液に汚れたままだ。色っぽいピロートークならしても良いが、そうでないならシャワーを浴びたい。
そう、勝手に切り上げようとベッドから降りようとした彼に、ヘイルマンは小さく鼻を鳴らした。

うそつき」

ボソリと呟いたセリフは本当に小さなもので。だが、静かな室内に響くには十分だった。

……なんだと?」

反射的に振り返った顔は、やや険しい。
事にかいて、『嘘つき』だと?
いくら恋人の戯言とはいえ、栄光なる五王子の一人として聞き捨てられなかったのか。ギラギラ輝く青い目は、彼の灼熱の炎と同じ揺らめきを纏っていた。

かつてヘイルマンを体を溶かした、あの日の炎と同じ。

だからか、その眼差しを間近で受けたヘイルマンは身震いする体を誤魔化すように、おざなりに掛けられていたシーツを剥ぎ取った。

「だってよお。お前さ、最近も盗ったものがあんだろ?」
「はあ?……何を言って」
「テメェに自覚はねえかもしんねえけど」

言いながら大袈裟に肩を竦ませると、彼はそのまま這いつくばうように腕だけでベッドの端のマリポーサへにじり寄る。

「ったく、良い子ちゃんぶりやがって……

嫌がる姿を見下すように喉の奥で笑い、その唇を指でなどる。
話は最後まで聞けよ。言葉ではなく態度で告げる。
間接照明に照らされる彼の氷の体は、普段の清涼な青の中に怪しいオレンジが混ざり、声音の艶やかさを余計に高める。
ゴクリッ。喉が上下に動くのを合図に、ヘイルマンは普段のがなり声を抑えて、麗しい男の耳元に囁いた。



「オレの心を盗んだくせに」



まるで睦言を吐くように。
隠した本性を暴くように。


信じられないと大きくなるマリポーサの瞳を無視して、彼はしなだれるかかるように相手の体に腕を絡めた。

「カキカキッ! ……通りで、こんなに簡単に堕ちるわけだ。なあ、……“ジョージ”?」

なんて。

マリポーサが奪ったものは、あの日の勝利だけじゃない。この魂ごと、全てを掻っ攫われてしまった。

さも楽しげに笑うヘイルマンに、マリポーサは大きな息を吐き、そしてうっそりと笑った。

(この男には、逆に何もかもを溶かされてしまう)

氷の体をもつくせに、凍らせるどころか、反対にこの心を溶かして曝け出させるとは。
本当に厄介な相手である。

己の腹に回る腕に、彼は手を添えるとギュッと掴んだ。

「つまり……お前の全ては、私のものだと言うわけだ」

なら、もう離さないぞ。
掴んだ手に力を込める。

「カキッ!?」

その強さに相手の口元から笑みが消えたのを確認する顔には、美しい蝶からは想像できない、飢えた素顔が滲んでいた。