haruka037
2025-08-18 21:45:45
3177文字
Public
 

何度でもあなたに恋をする

 記憶喪失ネタでスバイカ。
 記憶を失くしたイカルガの話。
書きかけ置いておきます。

 竜神社にて、イカルガさんと共に一夜を過ごしたその翌日の事。
 同じ布団で寝ていたイカルガさんは、オレからくっ付いて離れなかた。
「イカルガさん。そろそろ起きてご飯にしましょう」
「まだ良いじゃないですか。私は眠いんですよ。もう少しこうしていましょう」
 そう言ってイカルガさんが擦り寄って来る。
 その頭を撫でながら苦笑する。
「イカルガさん、今日はやけに甘えん坊ですね」
「いけませんか?恋人に甘えるのは普通でしょう」
 イカルガさんがそう言ってオレを見つめて来る。
「それはそうですけど、珍しいですよね。何かありました?」
「別に何もありませんよ。そういう気分なだけです」
 そう言ってイカルガさんはオレの胸に顔を寄せた。
 こうしてベタベタに甘えて来ることは珍しいから嬉しくはある。
 でもそろそろお腹が空いて来た。
「あの、そろそろお腹空いたんで起きたいんですけど……
 そう言えばイカルガさんが不満げな顔をしてオレの腕に抱き付いて来た。
「駄目です。あなたは私が良いと言うまで布団を出ないでください」
 頬を膨らませてそう言われて、可愛いが勝ってしまう。
「分かりました。あなたに付き合いますよ」
 イカルガさんの頭を撫でると、彼は満足そうに目を細めた。
 本当に愛しくて、困った恋人だなぁ。
 その時は、こんなに甘えたで可愛い恋人がいなくなるだなんて、考えてすらいなかった。

 
 イカルガさんが怪我を負った。
 その知らせを受けて、オレは急いで竜神社に向かった。
 竜神社に運び込まれたイカルガさんの姿を見て愕然とする。
 イカルガさんが身に纏っている真っ白な軍服は、所々泥で汚れている。
 その頭には包帯が巻かれていて痛々しい。
 聞いた話では崖から落ちそうになっていた子供を庇ったと言う話だけれど、きっとイカルガさんでなければ死んでいただろう。
 そっとイカルガさんの手を握る。
「イカルガさん……。痛かったですよね。あなたを守れなくてすいません……
 オレがその場にいたら何か変わったかも知れない。
 自惚れかも知れないが、そう思わずにはいられなかった。
 どうか早く目を覚ましてオレを安心させて欲しい。
 オレはずっとイカルガさんの手を握っていたのだった。


 気付けばいつの間にか日が暮れていた。
 部屋に灯りを灯していると、ゆらりと空気が歪む。
 振り返るとイカルガさんが立っていた。
「イカルガさん!目が覚めたんですね!」
 嬉しくなってイカルガさんを抱き締めようとすると、不快そうに顔を顰められた。
「やめて頂けませんか。馴れ馴れしいですよ」
「えっ?」
 いつものイカルガさんなら何も言わずに抱き締めさせてくれるのに、どうしたのだろう?
 強い違和感を覚えた。
「ここは竜神社ですか。どうして私がここにいるのです?」
「あの……、イカルガさん」
「舞手。説明してください」
 舞手。
 その呼び方に愕然とする。
 それはまだ、イカルガさんとそれほど親しくなかった頃の呼び方だ。
 どうしてしまったのだろう。
「イカルガさん、どうしちゃったんですか。いきなり舞手って呼ぶだなんて。いつもみたいにスバルって呼んで下さいよ」
 引き攣った笑みでそう返すと、イカルガさんは眉を寄せた。
「何故?あなたの名前を呼ぶ程、親密な仲ではないでしょう」
 気持ち悪いと言いたげな表情をされて胸が苦しくなる。
 ああ、これは間違いない。
 イカルガさんは記憶を失くしてしまったのだ。
 オレたちが付き合っていた頃の記憶を……
 それでもなんとか思い出して欲しくて、口を開く。
「イカルガさんは忘れてしまったかも知れませんが、オレたち付き合ってるんですよ」
「は?」
 イカルガさんが信じられないと言いたげな顔をする。
「馬鹿な事を言わないで下さい。気持ち悪い。私に男色の気はないのですよ」
 帰ります。
 そう言ってイカルガさんが帰ろうとする。
 思わずその腕を掴んでいた。
「待ってください!お願いです。オレの話を聞いてください!」
 イカルガさんは冷たい目でオレを見つめると、腕を振り払った。
「触らないで頂けますか。不愉快です」
 そう吐き捨ててイカルガさんは去って行った。
 残されたオレは呆然とその場に立ち尽くすより他になかったのだった。


 翌日、イカルガさんに会いに行くと、普段と変わらない様子だった。
 だからつい、期待してしまう。
「イカルガさん、おはようございます」
 オレが声をかけると、それまで穏やかだったイカルガさんの表情が一気に険しくなる。
「舞手。私に何か用ですか?」
 険のある声でイカルガさんが問いかけて来る。
 それに少なからず傷付きながらも微笑んで見せた。
「イカルガさん、何してるんですか?」
「あなたにそれを教える必要がありますか?」
「里の見回りなら、オレも一緒に行きますよ」
「結構です。着いて来ないでください」
 取り付く島もないとはこの事だ。
 冷たくあしらわれても、イカルガさんを諦める事はどうしても出来なかった。
 彼が全てを忘れてしまったのなら、また最初から始めれば良い。
 そう考えていた。
「良いじゃないですか。お話しましょうよ」
「私はあなたと話す事など何もありません」
 スタスタと先を歩くイカルガさんに着いて行く。
 イカルガさんは全く歩調を緩める事なく歩いて行くので、着いて行くのは一苦労だった。
「何故着いて来るんですか?」
「あなたと一緒にいたいからですよ」
 そう言えばイカルガさんは眉間に皺を寄せた。
「あなたを見ているとイライラするんです。私の前に顔を見せないで下さい」
 そう吐き捨てて、イカルガさんは行ってしまった。
 流石に苛立った様子の彼に着いて行く事は出来ない。
 どうやらオレは嫌われてしまったようだ。
 これ以上彼の好感度を下げるような事はしたくない。
 焦らずゆっくり行くしかなさそうだ。
 オレは長期戦を覚悟するのだった。


「イカルガさん。おはようございます。イカルガさんの好物のスタミナ炒めを作って来たんですが、良かったら貰ってくれませんか?」
 それにイカルガさんは冷たい視線を寄越す。
「あなたからの品を受け取る気はありません。何が入っているか分かったものではありませんからね」
「何も入ってませんよ。本当です」
「信用出来ませんね。それはご自分で食べたら如何です?」
……分かりました。これは持って帰ります……
 シュンと肩を落とすと、イカルガさんが問い掛けてくる。
「あなた、どうしてそんなに私を気にかけるのですか?」
「だってあなたはオレの恋人ですから、気にかけるのは当然ですよ」
「またそれですか。私はあなたの恋人ではありません。夢でも見たんじゃありませんか?」
「そうですね。そうかもしれません」
 こうなってしまっては、あの頃のイカルガさんがオレが見た夢だったようにも思える。
 でも、あれは紛れもない現実だ。
 触れ合った肌の温かさも、身近に感じた甘い吐息も、オレに縋ったその腕も、何もかも覚えている。
 覚えているから、諦められない。
「でも、オレにとっては紛れもない現実なんです。だから、またあなたに好きになって貰えるように努力するつもりですから、覚悟してくださいね」
 微笑んだオレに、イカルガさんは戸惑ったような顔をする。
「あなたは本当に迷惑な方だ……
 そう言ってイカルガさんは、ふいっと視線を逸らした。
 踵を返すイカルガさんを真っ直ぐに見つめる。
 オレはあなたから逃げません。
 いつかまたあなたがオレを好きになってくれるまで、頑張りますから。
 そう、心の中で呟いた。